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魔少年ビーティー





「週刊少年ジャンプ」1983年42号〜51号まで掲載された、記念すべき荒木先生初の連載作品です。また、短編集「ゴージャス☆アイリン」には、「フレッシュジャンプ」1982年3号に掲載されたパイロット版も収録されています。
この作品は社会的ダイナマイト一触即発的良心罪悪感ゼロ的猛毒セリフ的悪魔的計算頭脳的今世紀最大的犯罪少年であるビーティーと、その親友の麦刈公一君の、心温まる友情の物語。いや……、身も心も凍りつく少年犯罪ストーリーです。

私はこの作品がお気に入りでして、「ジョジョ」シリーズ以外で言えば、一番好きな作品かもしれません。
何が好きなのかと言えば、ダークな遊び心に満ちている所でしょうか。全編に渡って、犯罪スレスレや犯罪そのものの事件を巻き起こしていくビーティーですが、手品やハッタリを駆使して困難を乗り越え、完全犯罪を成功させるという点にクール・ショックを受けた訳です。筋骨隆々でもなければ、超能力者でも何でもない彼が、その悪魔的頭脳をフル回転させて、相手を肉体的・心理的・社会的に追い詰めていく様は、実に痛快で新鮮でした。
公一君は物語の語り部役(「世にも奇妙な物語」のタモリのような存在)としても機能しており、それが作品全体を引き締め、不思議なムードを漂わせています。一般人の視点でビーティーの恐ろしさが客観的に語られるからなんでしょう。
トリックの図解やマジック解説は、ついつい本当に試してみたくなります。つーか、実際にやってみたけど、あまりうまくいかずに断念した記憶があります。手品好きの荒木先生も、楽しんで描いていたんだろうなあと感じますね。


そして、ビーティーと公一君のコンビが良いです。犯罪行為を胸躍らせて楽しむ大胆不敵なビーティー。気弱で臆病な公一君。まったく正反対の2人が、さりげなく友情で結ばれているのが面白いですね。自称・精神的貴族のビーティーが一方的に公一君を事件に巻き込んでいくのですが、なんだかんだで公一君も振り回されつつ付いて行ってしまっている辺り、彼の優しく誠実な人柄が窺えます。
とんでもない事を考え、余裕かつ冷静沈着に実行するビーティーにシビれますね。私は公一君的な性格なんで、こういうキャラには弱いんです。だから、ディオやジョルノも大好き。完全なる悪への憧れってヤツでしょうか?公一君も自分の知らない世界を垣間見せてくれるビーティーに、心惹かれるものがあったんでしょうね。
きっと2人はお互いに欠けているものを持っていたからこそ、親友になれたのでしょう。ビーティーは信頼でき安心できる相手をどこかで求め(年上の女性に恋しやすいのもそれが理由?)、公一君もドキドキハラハラする冒険をどこかで求めていたのだと思います。そういう意味では、ビーティーは刺激に満ち溢れる非日常の象徴であり、公一君は安らぎに包まれた日常の象徴なのです。そんな黒と白が混じり合った灰色が、この作品の魅力なのです。



話は変わりますが、2004年2月22日現在、私は「アウトロー・マン」以外の全荒木作品を読んでいます。そんな私が全荒木作品中で最も恐怖と嫌悪と怒りを感じたエピソードが、この作品に収録されています。それは……、「そばかすの不気味少年事件」
巧妙かつ強引な手口で他人の家に寄生する家族に、麦刈家が乗っ取られるという話。帰る場所を奪われ、自分がじわじわと侵略されていく恐怖がありました。そばかす少年・マナブやその家族が変にニコニコしてやがるので、本当に不気味です。特にわざと頭をぶつけて倒れる父親のいやらしい笑顔には、ヘド吐きそうなほど生理的嫌悪感を抱きました。腹黒さがバリバリ伝わります。
その分、ビーティーの復讐には心底スカッとしましたね。マジでフグを喰わせてやりたかったくらいでしたが。まあ、読者をこんな感情にさせるキャラを生み出した荒木先生の筆力は只ならないって事で。特別な力など持っていない人間でも、ここまで恐ろしくなれるのです。




(2004年2月22日)




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