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岸辺露伴 ルーヴルへ行く





2009年1月22日〜4月13日、フランス・パリのルーヴル美術館の特別企画展にて大事件が起こっていました。ルーヴルが展開する「バンド・デシネ プロジェクト」第5弾作品を手掛けてほしいと、ルーヴル直々に依頼され、荒木先生はそれを快諾!その制作の発表のため、作品冒頭の数ページやイメージボードが展示されたのです!もちろん日本の漫画家の絵がルーヴルに展示されるなんて前代未聞の史上初!素晴らしい栄誉です。私自身もその記念すべき大事件を目撃すべく、2009年の3月、ルーヴルへ行って来ました。(そのレポートはこちらから)
そして、展示終了から約1年。作品はついに完成ッ!なんと荒木先生にとって初のフルカラー作品で、123ページもの超大作ですッ!!4月のフランスでのアルバム(フルカラー単行本)刊行に合わせ、ウルジャン本誌での掲載も実現。4月号(2010年)から3号連続でのモノクロ掲載の後、日本でもフルカラーで単行本が出版される運びとなっています。


(前  編)




見開きのトビラ絵と冒頭2ページが、ルーヴル美術館に展示されていたものです。こうして印刷されたものを見るのも、なんか不思議な気分。
まあ、とりあえず最初は露伴の自己紹介から。彼の名付け親が両親である事が判明。この時点で27歳という事なので、「六壁坂」の時と同じですね。『ヘブンズ・ドアー』も「六壁坂」バージョンです。
例によって、露伴がナレーターでもあり、我々読者に色々と語ってくれます。この世で最も『黒い色』この世で最も『邪悪な絵』。この物語は、露伴がその『黒い絵』を追跡し、目撃する物語。ただし、その追跡する旅で4人も行方不明になっているという、やっぱり恐ろしげな物語。ストーリーのプロットだけですでに荒木先生らしく、「よくそんなの思い付くな〜」って奇妙さを孕んでいますね。


そもそもの発端は、10年前の日本・杜王町から。母方の祖母が経営していた旅館が廃業し、賃貸アパートとして部屋を貸していたらしく、17歳の露伴少年はそこで投稿用のマンガを描くために2ヶ月ほど泊まりに来ていたようです。この頃からギザギザヘアバンドを付けてた事とか、彼のバアさんとか、新事実もたっぷりですね。ただ、バアさんが出した入居者の条件が超厳しいため、空き部屋だらけって切ない事実も……。そんな折り、入居してきたのが藤倉奈々瀬という21歳の美人若妻!彼女が全ての始まり。でもこの奈々瀬さん、ディ・モールト色っぽいです。正直、萌えました。うっかり彼女の着替えを目撃しちゃう、な〜んてありがちなお約束もかましてくれた露伴少年グッジョブ!
ある意味、最悪の出会いだった2人ですが、言葉を交わすキッカケとなる出来事が起こります。鳥をスケッチしていた露伴少年。ふとベランダに視線を移すと、洗濯物を干す奈々瀬さんの姿を発見。汗ばむ細い首。その艶めかしい姿に魅せられ、一心不乱に彼女をスケッチしまくります。担当編集に「女の子がカワイくない」と貶されたため、その研究という事みたい。しかし、その隙に背後に回り込まれ、のぞき呼ばわりされるわスケッチブックも見られるわ、えらい目に。年相応にウブな露伴少年がなんか新鮮だなあ。あと、この頃から「ピンクダークの少年」の原型が描かれていた模様。
ある夜、廊下でバッタリ出くわした2人。奈々瀬さんに(半ば強引に)原稿を読まれるハメになり、ためらいながらも彼女の部屋に上がる露伴少年。浴衣姿の奈々瀬さんもヤバイっス!なめらかな体のラインといい、うなじといい、竹久夢二の絵のような儚さといい、女の色気ムンムンです。「伊豆の踊子」の時とは違い、これならば誰も文句は言うまい!荒木先生のリベンジ達成?
さすがにこのシチュエーションには気マズさを感じたのか、露伴少年も部屋を出ようとするも、彼女に引き止められてしまいました。



さて、ここからが本題。奈々瀬さんが何故、そこまで露伴の作品を見ようとしたのか?それは、人が一生懸命描いている途中の、何か特別な感じのする状態の作品が見たいから。彼女はかつて、そんな絵を一度だけ見た事があると言います。それこそが、この世で最も『邪悪な絵』。この世で最も美しい絵であろう「モナリザ」と逆の絵。フキダシ内の絵までご丁寧に「モナリザ」が裏返しになって、黒く塗られてます(笑)。
彼女が子供の頃、生まれ故郷の地主が蔵の奥から見付けた絵。それをルーヴル美術館のキュレーターが買い求めていったとか。言い伝えによれば、300年ほど昔、山村仁左右衛門なる人物が描いた絵であるそうです。樹齢千年以上の老木(神木と言うべきか)を切り倒し、その幹の中から採取したものが、この世で最も黒い「漆黒の色」。どんな黒よりも輝くような黒で、それを顔料に彼は絵を描いたというのです。しかし、神木を切り倒した罪で処刑され、彼の作品も全て焼き捨てられてしまった。たった1枚を除いては……。彼は生前、その1枚を隠していたのです。つまり、彼にとっても最高の傑作だったって事なんでしょうね。子供の頃、奈々瀬さんはその絵を遠くからチラッと見ただけだったけど、人間が必死に描いた「何か特別なもの」を感じたらしいのです。露伴少年の作品にも同じものが宿っていると感じ、「うらやましい」と言う奈々瀬さん。彼女には心から懸命に挑み、打ち込んだものがなかったって事?彼女は何を求めているのか?謎だらけです。
それにしても、「邪悪」とはどういう事なのか?何がどう邪悪なのか?露伴少年の問いに、彼女が答えようとしたその時……。急に彼女の態度が一変。話を打ち切って、露伴少年を帰らせようとしてきます。どうやら誰かから電話が来た様子。つーか、ケータイだ。普通にケータイ使ってるよ。1996〜1997年頃だろうから、まあ、決して変でもないのか。でも、あまりに和風で古風なムードだったから、ちょっと違和感を覚えちゃいました。黒電話とかの方が似合うな。
……で、廊下で突っ立って待ってる露伴少年。彼女の事が気になるのか、「邪悪な絵」の話が気になるのか……?すると、彼女の悲しい泣き声が聞こえてくるじゃありませんか。どうやら離婚する事になっているダンナさんからの電話らしい。彼女の方は別れたくないようで、必死に彼を繋ぎ止めようとしているかのよう。心配になった露伴少年、彼女に声を掛けると、「今度は盗み聞き!?」と感情的な言葉をぶつけられちゃいました。まあ、ご意見ごもっとも。他人が踏み込むべきじゃない領域ってのもあるからね。彼女は泣きながら外に飛び出し、電話の向こうになおも哀願し続けます。


彼女が戻って来たのは、それから1週間後……。その間、露伴少年は彼女の事を考え続けながら、作品を執筆していました。帰ってきた奈々瀬さんに会いに行くと、彼女はいきなり抱き付いて泣き出します。そのあまりに無防備な涙。露伴少年にとって、それは今まで見たどんなものより美しく感じたのでした。そして、彼女に愛の告白っつーかプロポーズっつーか、イケメンも真っ青な言葉を口にし出します。
「あなたの力になりたい」
「あなたはもう どこへいく必要もない」
「全ての恐れから それが何であろうと あなたを守ってあげたい」

う〜む、こんなに純粋に人を想える少年が、どこをどう間違ってほんの数年で、あんなひねくれた性格になっちゃったんだろうか?(笑)

しかし、そんな事よりもっとビックリな事が!なんと露伴少年、奈々瀬さんの顔を本にしてる!彼女の涙の理由を、彼女の心の中を、そんな方法でのぞくなんてしたくないと止めた事はいいんですが……。なんで17歳の露伴少年が『ヘブンズ・ドアー』を持っているんだ?1999年の2月頃、彼が20歳の時、形兆に「矢」で射抜かれてスタンド能力を得たはずなのに?あの話はウソだったのか?
その謎はひとまず置いといて、露伴少年の完成したての原稿に彼女は気付きます。そこには、奈々瀬さんに似た面影のかわいい少女が描かれていました。この作品は、露伴少年が彼女のために描いた作品。……ところが次の瞬間、またも彼女は豹変。自分をストーリーに描かれた事に怒り、重くてくだらなすぎて安っぽい行為だと、原稿をハサミでメッタ刺し!ひでえ。「ピンクダークの少年」と「少女」との間にハサミが走るコマは、そのまま「露伴少年」と「奈々瀬さん」の心が決して交わり合えない事を示しているかのよう。そして、またも泣きまくりながら、露伴少年に許しを乞いながら、彼女はどこかへ消えていってしまったのでした。何があったのかは想像の域を出ないけど、あまりに情緒不安定になってますね。まさか、これすら「黒い絵」の呪い?
こうして、ほのかで淡い露伴の恋は、夏と共に去り行く。彼女は二度と露伴の前に姿を現す事はありませんでした。彼は描き直した原稿で、漫画家としてデビューしたみたい。……ん?露伴のデビューって16歳だったはずなんだけど。



仕事に夢中になり、あっという間に10年が過ぎ……。そんなある日、彼は突然、「あの絵」の事を思い出したのです。
「ドゥ・マゴ」でしょうか?どこかのカフェで、仗助・億泰・康一くんと語らってます。珍しい取り合わせです。しかし、仗助達はお馴染みのガクラン姿。ありゃりゃ?これまた変な話です。1979年生まれの露伴が27歳って事は、2006〜2007年のはず。仗助達もとっくに高校は卒業し、社会人になっているはずなのに。なんか、設定的にいろいろと不可解な点が多いな。設定変更・設定無視は荒木作品じゃよくある事だし、フランス向けの読み切り作品にそこまでツッコむのも野暮なんでしょうけど、どうにもスッキリしない。「ジョジョ」と結び付けるのであれば、これはもはやパラレル・ワールドと解釈した方がいいのかも。プッチ神父の死によって生まれた新世界の杜王町で、その世界では人物の生まれる年や辿る人生もちょっとズレたりしてるんでしょう。あるいは、「隣りの世界」よりももっと遠い世界の話とか。まあ、そんな感じに捉えておきます。
「露伴はモナリザに似てる」と、どっかで聞いたような事を億泰が言い出します。そんな他愛のないモナリザ話がキッカケとなり、不意に10年前の出来事を思い出したのでした。仗助達を置いて、さっさと帰る露伴。10年経ったら、すっかり露伴だな(笑)。仗助達の登場は読者サービス的なものなんでしょうけど、「The Book」でも見た通り、やっぱ絵柄変わりましたね〜。仮に4部の続編を描いたとしたら、良くも悪くも、ずいぶん雰囲気が違ってきそうですね。仗助だけ顔が描かれず、セリフすらないってのも、荒木先生なりの考慮だったりするのかな?
そして!好奇心なのか、それとも青春の慕情なのか?露伴はかつて奈々瀬さんから聞いたこの世で最も『邪悪な絵』を探しに、フランス・パリへ飛んだのでした!ラストの数コマ、エッフェル塔のあたりからは、流れるようで実に映像チック。いいですねえ〜!そういや、パリにはこういうおみやげ屋があちこちにあったっけなあ。エッフェル塔の絵ハガキを手に、露伴がクルッと後ろを振り向くと……、その視線の先には……、ルーヴル美術館ッ!!見事なポージングを決め、ついに物語の舞台へと降り立ったところで、続きは次号!3回に分けて雑誌に掲載される事さえ計算づくであるかのようなページ配分ですね。早く続きが読みてえ〜〜ッ!




そんなワケで、前編は物語の発端である日本編でした。荒木先生には珍しく純和風なテイストで描かれていたので、これはフランス人のために、あえて日本の日本らしい風景を描いてるんだろうな〜と思います。実際、本編の後のレポートによると、「日本とパリ、ひいてはルーヴルをつなぐ話を描きたい」と荒木先生がコメントしています。旅館に温泉、庭園に和室。そして、浴衣の美女に、侍チックな風貌の男性(仁左右衛門さん)。我々日本人には懐かしくノスタルジックに、フランス人には奇妙でエキゾチックに映る事でしょう。そして個人的には、実際に行って来た場所や観て来た絵が、こうして1つの作品として改めて読める事が感慨深い。
物語はようやく始まったばかり。これからどのような展開になっていくのか、想像もつきません。しかし、穏やかな旅にならない事だけは確かです。「黒い絵」が、どんな邪悪っぷりを発揮するのか楽しみに待ちましょう!ただ、4人も行方不明になったとは言え、ハッキリ死んだと書かれてはいないのだから、血みどろのバトルにはならなそうですね。むしろ不可思議で不気味で、どこか不条理な出来事がドロドロと襲って来そう。世界最高峰の美術館から、荒木先生がどんな着想を得、どのように形にしたのか?今からドキドキワクワクです。




(2010年3月19日)




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