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岸辺露伴 ルーヴルへ行く





さてさて、3号連続で掲載された今作も、いよいよ今回で完結です!暗黒の物語が迎える結末、心して見よッ!……というワケで、さっそく本編に入っていきまっしょい。


(後  編)




地下倉庫での惨劇。車に踏み潰されたかのような跡を残し、ゴーシェ氏は謎の死を遂げました。彼の死体は天井の暗闇へと吸い込まれ、消えてしまいます。誰もいないはずの地下倉庫に現れたヤツらは、絵画目的の強盗なのか!?露伴はその可能性を即座に否定します。強盗ならまだ安心だが、この異常すぎる異様さはそんなものじゃない。
全員が大パニック。野口さんは悲鳴を上げながら、階段へ走る!すると、階段の上から誰かが下りて来るではありませんか。その誰かに助けを求めると……、姿を現したのは、どこかで見た事のある和服の老婆。老婆だけでなく、あどけない表情の少年も。いや、その他にも数人いる様子。少年の姿を認めた野口さんは、衝撃を受けたように息を荒げます。一方、消防士の男性も見知った人を発見したようです。それは、ここにいるはずもない人物。彼の態度から察しても、「ルーヴルに」というだけでなく「この世に」いるはずもないといった意味に感じられますね。いるはずもない人物と彼が触れ合うと、その瞬間、彼の肉体には無数の弾丸に撃たれた傷がッ!そして、やはり天井の暗闇へと飲み込まれてしまいました。

階上からゾロゾロと下りて来る謎の人物達。野口さんはその中の少年を「ピエール」と呼びます。露伴も、和服の老婆が自分のおばあちゃんである事に気付きます。しかし、おばあちゃんは去年、すでに死んでいたのです。それだけではなく、12年も前に死んだはずのおじいちゃんの姿まで。よく見れば、日本人も何人もおり、戦国時代の鎧を着たような男の姿さえあります。『ヘブンズ・ドアー』で彼らの記憶を読もうとしても、書き込まれている文字は「死」のみ。やはり彼らは、もはや心も持たぬ死人なのです。ならば彼らは幽霊なのか!?
その時、壁際まで追い詰められた露伴は、ついに「この世で最も邪悪な絵」と呼ばれる「月下」を目撃!そこに描かれていたのは、和服姿の美しい女性の姿。絵は黒一色で塗られ、その黒はどこまでも深く暗い。
野口さんは「ピエール」と呼んだ少年へと近付いていきます。ピエールとは彼女の子どもの名前。どうやら野口さんの不注意で、池で溺れ死んでしまった子どもらしく、彼女は泣いて懺悔しています。野口さんはフランス人男性と結婚したけど、ピエールくんの死が原因で離婚したのかな?「その子に触るな!」という露伴の叫びも虚しく、彼女は愛しい息子に触れると、水風船のように膨張して破裂!それでも彼女は、死んだ息子に会えた喜びを感じながら死んでいきました。無論、彼女の死体も天井の暗闇へ。


とうとう残るは露伴ただ1人。死者達は露伴を取り囲み、迫って来ます。すると!「月下」に描かれた女性の手が、絵から抜け出しているッ!手や腕どころではなく、女性の全身が絵から抜け出て、実体として現れた!その女性を見て、露伴は驚愕!なんとそれは、初恋の相手である奈々瀬さんではありませんか。あまりに奇妙な再会に、露伴も思わず涙ぐんでますよ。
しかし、さすがに多くのスタンドバトルを生き抜いてきただけあって、露伴も簡単には屈しない。これは心の中の出来事であり、全てはウソ。彼女らの存在を認めたりはしません。おばあちゃん達に触れられ、ついに彼の肉体も切り裂かれていく!それでも、彼は冷静に状況を把握し、推理していきます。ここに現れた死人達は、全て「血縁」!露伴の先祖達であり、ゴーシェ氏や野口さん達の死んだ肉親。彼らに触れると、その血縁者と同じ死に方か、もしくは先祖が犯した罪と同じ死に方をしてしまう。人は存在する限り、血の繋がりからは決して逃げられない。その血の繋がりを利用して、相手を死に導いていくのがこの絵。これこそ「この世で最も邪悪な絵」と呼ばれる所以ッ!
露伴はとっさに絵の顔料を指で削り取り、それを使って、『ヘブンズ・ドアー』で自分に記憶を書き込みます。「自分の記憶を全て消す」。自分自身に書き込めたのかとか、わざわざ顔料を使う必要あるのかとか、ちょいと疑問はあるものの効果は覿面!彼の記憶と共に、先祖の亡霊達も真っ白に消えていきます。後に残ったのは、露伴と「月下」だけ。そして、倉庫内には無数の蜘蛛の巣が張り巡らされています。あの亡霊達は、この蜘蛛の巣は、一体何なのか?
階段を這いずって、ようやく上りきった露伴。手には「顔の文字をこすれ」という命令が書き込まれており、それを見た露伴は命令通り、自らの顔をこすります。こうして、消された記憶も取り戻し、無事に生還ッ!恐ろしい冒険でした。


そして、いよいよ明かされる全ての謎の秘密。山村仁左右衛門が樹齢二千年の老木から発見した「黒い顔料」の正体とは、老木の中にだけ潜む生物の色だったのです。それは、太古より木の中の静かな暗闇でのみ生き続ける、蜘蛛のようなドス黒い生物。この「黒蜘蛛」(仮称)が、絵の中に蠢いているのです。なんとグロい絵なんだ。
人が絵を見ようと近付くと、その息や体温、地面や空気の微妙な振動等の刺激を感じ取って、「黒蜘蛛」は眠りから覚めるのでしょう。そして「黒蜘蛛」は、近付いた者の体に知らぬ間に纏わりつき、噛み付いて特異な毒を注入しているものと思われます。その作用によって、脳や神経のどっかが刺激でもされ、恐ろしい幻覚を見せられてしまうのでしょう。「肉親の記憶」が呼び覚まされ、それを心の中に見てしまうのです。自身の肉体や血、細胞やDNAに刻まれた「祖先の記憶」さえも。(自分以外の人間の先祖の姿も見えていたのは、蜘蛛の巣の糸で脳や記憶の一部がリンクされていたからなのかもしれませんね。)つまり、あの「謎の死」と「死体の消滅」は、強烈な思い込みの力で死んでしまい、その死体は「黒蜘蛛」に食べられてしまったって事なんかな?それら「黒蜘蛛」の異常な生態が、「仁左右衛門の怨念」を演出していたのです。
亡霊や呪いのような怪奇現象が、未知の生物によって引き起こされていた事だった!衝撃的だし、実に面白いオチでした。「六壁坂」もそうでしたが、露伴は未知の生物と縁があるなあ。そういう意味で、この「黒蜘蛛」も「妖怪」と言えるかもしれませんね。あるいは、『アヌビス神』や『ノトーリアス・B・I・G』のように、「黒蜘蛛」と同化した仁左右衛門のスタンド能力だったって可能性もありますが。いやいや、もしかしたら仁左右衛門じゃなく、味見までされて殺された蜘蛛の怨念だったりして(笑)。



――エピローグ。露伴は杜王町に帰ると、山村仁左右衛門について調査を始めました。そこで分かったのは、彼に子どもはいなかったが、結婚したばかりの妻がいたという事。仁左右衛門の処刑の悲しみで病に倒れ、そのまま死んでしまった事。そして、その妻の名を「奈々瀬」といい、結婚前の旧姓が「岸辺」であるという事。なんと、奈々瀬さんは露伴の先祖だったのです!いや……、子どもがいないまま死んでしまったのならば、直系の先祖ではなく、ご先祖様の姉妹に当たる人なのかな。
とにかく、「月下」に描かれた女性は奈々瀬さんであり、彼女は夫の呪いを止めたかったようなのです。きっと、夫と同じ絵描きでもあり、不思議な力を持つ血縁者・露伴を通じて。それに気付いた時、10年前の彼女の涙の理由が分かりました。露伴の原稿を切り裂いたのは、彼の恋心を傷付け汚すため。もし美しい想い出だけの恋だったのならば、露伴は決して地下倉庫から生還できなかったでしょう。初恋の慕情を捨て切れず、奈々瀬さんに触れてしまったはず。奈々瀬さんは露伴を利用し、露伴の心をあえて踏み躙らなければならなかった事に涙し、謝罪を繰り返していたのです。もし露伴が奈々瀬さんの記憶を勝手に読めてしまうような人間なら、あの時点で話は途切れてしまっていたんですね。
しかし、呪いが「黒蜘蛛」によって引き起こされた物理現象だったにも関わらず、10年前の奈々瀬さんは幽霊という超常現象だったとは。二重にビックリでした。ケータイ持ちの幽霊なんて、奈々瀬さんってば新しい物好きなのかな(笑)。波長の合う若い人妻に取り憑いて、ちょっと体を借りていた……と考える事も出来るかも。血縁者である露伴やバアさんには、奈々瀬さんの姿として見えていた、とかね。
「月下」に込められていたものは、仁左右衛門の怨念だけではないと思います。絵のモデルとなった妻・奈々瀬さんへのもたっぷり込められていたはず。だからこそ、この絵だけは大切に保管されていたんでしょうし。そんな仁左右衛門の愛憎が、三百年もの呪いを作り出し、同時に奈々瀬さんの魂をこの世に留まらせたのかもしれません。世の中を呪いたい。でも、自分を止めてほしい。その相反する想いが、この悲しい物語を描き出したのかもしれません。しかし、露伴によって全てが光の下に晒された今、仁左右衛門と奈々瀬さんの魂は深き闇から解放されたのです。



そして最後に。後記として、後日談が書き記されています。今回の地下倉庫で消えたゴーシェ氏達4名と、1989年に日本から「月下」を買い取った当時のルーヴル美術館学芸部長は、現在も行方不明。捜索が続けられているが、誰も見付けられないでいるとの事。彼らはあの絵の暗闇に永遠に消え去ってしまったのです。
「月下」はどうなったのか?科学分析調査の後、焼却処分されたという報告があったようです。しかし、本当に焼却されたのか?その真実もまた、永遠に闇の中。何故なら、ルーヴル美術館所有の絵であるのだから……。




まず、感想としては「面白かった」!これに尽きます。サスペンス的なシーンもおぞましく恐ろしいし、タネ明かしも割と納得だし、何より、作品全体に流れるしっとりとした情緒が日本人のハートに響いちゃいますね。まさか露伴の甘酸っぱい初恋の想い出が語られるとは思いませんでしたから。露伴の性格自体、ルーヴル用のキャラとして描かれたために、「ジョジョ」用の時とは異なる印象がありました。まあ、荒木先生曰く、「描かれてないとこで、変な事もしてたのかも(笑)」との事ですけど!
血の繋がりをメインに据えた展開は、まさしく荒木先生ならではの物語の描き方。会った事もない先祖の因縁のために襲われる事が最も恐ろしい、と先生は以前、語っていました。それが承太郎にとってのDIOだったりするワケです。今作は、また違った角度から攻めて来たなって感じですね。決して逃れられない血の繋がり。先祖や肉親が犯した罪によって殺される。これは確かに怖い。でも、ただ怖いだけじゃなく、血の繋がりゆえの悲哀も漂い、なんとも味わい深い物語に仕上がっていると思いました。露伴の読み切りって、余韻がイイんだよなあ〜。
ルーヴル美術館と荒木先生を、ひいてはフランスと日本を繋ぐ今作「岸部露伴 ルーヴルへ行く」。素晴らしい作品でした。早く日本語版のフルカラー単行本が発売しないかな〜!カラーで読むと、さらに魅力が倍増ですよ。その日を楽しみに待つとします。




(2010年5月19日)




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