● パラレル・ワールドについての考察 ●
「ジョジョの奇妙な冒険P（パラレル）ワールドに突入した。そして
ジョジョでなくなったっていう事でSBR＜飛呂彦＞」
「SBR」第1話での荒木先生のコメントです。これは一体、何を意味しているのでしょうか？
「SBR」は1890年のアメリカが舞台となっています。「ジョジョ」第１部は（大体）1881〜1889年の物語。つまり、ジョナサンの死から約1年半後が「SBR」となるはずなのです。
ところが、「SBR」にはディエゴ・ブランドー（通称ディオ）なる人物が存在し、ジョニー・ジョースターなる少年までいる事が判明。「ジョジョ」１部と結び付けるには、ちと無理のある設定です。
さて、「ジョジョ」第６部「ストーンオーシャン」終盤にて、プッチ神父は時間加速能力『メイド・イン・ヘブン』を身に付けました。時の加速の果てに、なんと宇宙は一巡。かつての地球とよく似た歴史を刻んだ星に、生物は到着します。運命は同じように繰り返されるらしく、時間加速の中で運命をその精神で体験してきた人々は、これから起こる未来を知っているのです。そして、全人類が運命を覚悟する事が出来る。これこそがプッチ神父が求めた『天国』の正体でした。
しかし、徐倫達が命を懸けて守り抜いた希望・エンポリオ少年が、プッチ神父の野望を打ち砕きます。それにより再び世界は変化し、徐倫はアイリンに、アナスイはアナキスに変わった訳です。
この辺については諸説ありますが、ここでは私の個人的な解釈を述べさせていただきます。
『天国』で、プッチはただ独り運命に縛られない存在になっていました。その特権を逆に利用されてエンポリオに敗北した彼は、運命の外側にいる状態で死んだが故に、運命の中から排除されてしまいます。そして世界は、プッチが存在しない歴史へと再構築。プッチによって戦いの運命に巻き込まれていた徐倫達は、それから解放され、新しい幸せな人生を歩んでいます。プッチを殺し、歴史を変化させた張本人であるエンポリオだけは、以前のまま新世界に来れ、引力に引かれてアイリン達と出会い、６部は感動のフィナーレを迎えました。
「SBR」は、この新世界での1890年の出来事だと思うのです。プッチの存在が抹消されたため、彼の親友DIOの運命も大きく変わります。DIOは多くの人々の人生を狂わせた男。DIOの運命が変われば、彼らの運命もまったく別のものになるでしょう。同時に、DIOの人生が変わるためには、彼が生まれる以前の歴史も変化する必要があります。あらゆるものとの繋がり合いで成り立っている世界の歴史は、プッチ一人が消えただけで、根本から微妙に変化してしまったのです。なにせアリ一匹でさえ、運命の中にしっかり組み込まれているのですから。それでも、魂の引力は運命をも超え、出会うべき人に出会います。まあ、それら全てを含めての「運命」なのかもしれないけど。
現にクリミア戦争は1853年に勃発したはずが、「SBR」の世界では1851年には起こっているようです。コモド大トカゲも1911年に発見されるはずなのに、1890年にはすでに世間に知られているようでした。競走馬ドミノにしても、本当は1891年に生まれてるのに、その年に優勝しちゃってるし。（誰ですか？「作者のミスだろ」なんて言ってる人は？）
そういうのとは無関係のパラレル・ワールドとも考えられますが、「Pワールドに突入した」という表現や、６部終了後のインタビューでの「連続していく先の部分、今までの作品の延長線上にしか興味がない」との荒木先生のお言葉からすると、６部ラストの新世界と考える方が自然だと思われます。パラレル・ワールドという設定が普通に受け入れられるのも、６部あってこそでしょうし。
さすがの荒木先生も2012年以降の未来は描きたくなかったようです。血統や名前も思い付かないと仰っていました。ジョースター家とDIOの因縁も、限界に来ていたように思います。そういった問題全てを、世界そのものをリセットするという荒業で解消しちゃったのです。６部は６部でしっかり完結させつつ、今後の前フリにもなっていたってのは驚愕ですね。
じゃあ１〜６部まではなかった事になったのか？エンポリオ以外の存在からすれば、そう言っても過言ではないでしょう。しかし、１〜６部までの出来事があったからこその新世界です。あの世界は、１〜６部のすべての結晶。ジョースターの意志や黄金の精神が生み出した世界。エンポリオが言ったように、「正義の道」を歩んだ先に誕生した世界ですから、かつての「ジョジョ」シリーズでの悪役も、もう悪ではなくなっているかもしれません。ジョースターであるジョニーがあんなにガラが悪い男になっているくらいだし、ディエゴは実はいいヤツ？
ちなみに、「ジョジョ」４部REMIX版最終巻での荒木先生のコメントに「マニアックな読者には深読みしないでほしい。（SBRは）これまでとは別の話。これから始まる話。」との一文がありました。まったく別の話にしたいなら、初めから完全新作にしてほしいなと思いました。あんなの見せられて深読みしないファンはいないですよ。結局、このコメントについても、あれこれ深読みされるという本末転倒な事になってしまっている訳ですが……。
まあ、これは「今までのシリーズと絡めて描かれるような事はないよ。新しい世界の物語だから、「ジョジョ」での世界の過去話（１部と２部の間の物語）ではないんだよ。」という、あくまでパラレル・ワールドが舞台だって事の説明に過ぎないと解釈しておきます。
結論としては、６部ラストで生み出された新世界と考えても、まったく違うパラレル・ワールドと考えても、どっちでも良いんでしょうけどね。長々と語りましたが、要は自分の納得しやすい読み方をすれば良いだけなんで。そんな訳で、このサイトでは一応、前者を前提にしています。作品を素直に楽しめなくなる程にまで深くこだわる気はありませんが。
（2004年2月10日）