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魔老紳士ビーティー






そばかすの不気味老害事件の巻



荒木先生の初連載作品「魔少年ビーティー」。1983年から実に38年もの歳月を経て、ついに復活ッ!それがこの「魔老紳士ビーティー」です。今回、公表されたエピソード名は「そばかすの不気味老害事件」!……おやっ?どこかで聞いたような??
今作は「ウルトラジャンプ」11月号(2021年)に読み切りとして掲載されました。原作は西尾維新氏、作画は出水ぽすか氏。荒木先生はあくまで原案に名を連ねるだけで、ほぼ関わっていないものと思われます。今までアニメや小説、ゲーム、実写映画、TVドラマと、様々なメディアで荒木先生以外の方々が荒木作品を表現してきました。しかし、「漫画」というメディアだけは聖域で、これまで誰も挑戦した者はいません。今作が史上初の試み。
私個人の意見としては、どんどんやっちゃってイイんじゃないかなって思ってます。無論、荒木作品を描けるのは荒木先生ただ1人という大前提はあるものの、いろんな人がいろんな物語を描けるだけの懐深い舞台は用意されているんですから。「荒木飛呂彦」という1つのジャンルになって、その世界をみんなで共有して広げていくってのもまた一興です。ある意味、「ガンダム」の領域に近付いていくのかも。



さて、この「魔老紳士ビーティー」、面白かったです。面白かったんですが……、正直、荒木先生へのリスペクトやオマージュがくど過ぎ。そういうのは、さりげなくちょっと添えるくらいでちょうど良いのであって、延々と見せ付けられると胸焼けしますね。結局、過去の荒木作品のパッチワークに終始しちゃったと言いますか、「荒木飛呂彦」に縛られ過ぎだと感じました。これは西尾氏による小説「OVER HEAVEN」でも感じた事。変な気を遣わず、もっともっと堂々と自分の色を出せば良いのになぁ。
「約束のネバーランド」でもお馴染みのぽすか氏の絵は、さすがの上手さ・美麗さでした。今の荒木先生にビーティーを描いてもらっても、絶対に完璧に別物になってしまうでしょう。でも、ぽすか氏の絵は、もし荒木先生の絵が「ジョジョ」とは違う方向性に進化していたとしたら、こんな風な絵柄になっていたのかもしれないと思わせるものがあります。ちゃんと当時のビーティーらしさも残しつつ、ぽすか氏の個性もしっかりあって、私は好きですね。
まぁ、そんなこんなで、今作は正統続編というより、良くも悪くもファンが描いた公式同人誌ってノリです。いや……、誰が描いてもそうなっちゃうのかな?


タイトルが示す通り、今作はなんとビーティー達が老人になっています。公一くんはチャーミングなおじいちゃんで、ビーティーはイケ爺。原作から60年後という設定なのです。これにはビックリさせられましたが、単にインパクトを狙っただけではなく、60年後にする必然性もあって好印象。スマホやネット動画、かつて盗んだ宝石なんかも使ったり、最後の仕掛けに近未来的なAIカーを用いたりしているので、そのぐらいの時間が流れていないと説得力が出ませんよね。そして何より、すっかり見た目も時代も変わってしまったけれど、「変わらぬ友情」 「変わらぬ2人」が見られたのですから。あの小気味良いやりとりに、旧い友達と再会できたような懐かしさと嬉しさを覚えました。
敵はやっぱり、そばかすの不気味少年「マナブ」。老害と化した彼が、再びビーティーと対峙します。ビーティーのライバルと言えばコイツだし、荒木先生にとっても想い出深い特別なキャラなワケで、登場は当然でした。60年経っても揺るぎないクズで安心しました(笑)。若き日の2人が描かれたコマはグッと来るものがあったな。公一くんも相変わらずのお人好しだけど、伊達に60年もビーティーの親友やってません。いざとなったら見事な演技で乗り切っちゃうクソ度胸も身に付けていました。ビーティーのおばあちゃんも健在のようで、ホントに謎の人物だ。
ちなみに、ビーティーも公一くんも結婚していました。ビーティーの嫁さんになった女性って、もしかして、「恐竜化石泥棒事件」に出て来たお姉さんだったりしない?ビーティーは年上好きだし、案外お似合いかもよ?

あと、冒頭の導入部分の公一くんの語りは昔同様、抜群の安定感と安心感。しかも、背景の家具が差し押さえられてて、不穏さも同時に漂っています。そのままシームレスに本編に繋がっていくのも、無駄のない構成でした。ただ、そうなると、まだ起きてもいない事件を紹介している事になるので、それはそれで矛盾があるんですがね。語り部は過去を語ってこそ、ですからね。
ビーティーが普通のタバコを吸っているのも、ちょっと違和感がありました。個人的には、パイプをふかしてるってイメージだったもんで。シャーロック・ホームズが彼の元ネタっていうか原点ですから、そこはこだわってほしかった。……って思ってたら、最後の最後にパイプふかしてるー!


―― まぁ、あれこれツッコミ入れちゃいましたが、私は「ビーティー」がめっちゃ好きなので楽しかったです。もうちょいオマージュを抑えて、オリジナリティーを出してくれれば、連載で読みたいくらい。
またいつの日かビーティーと公一くんに会いたいので、期待してますよ!なんなら空白の60年の間に起こった事件の数々も紹介してほしいですね。




(2021年10月19日)






「婆シニアによろしく」事件



前回の読み切りからおよそ2年。2023年12月19日に発売された「JOJO magazine」2023 WINTERにて、新たなエピソードが掲載されました。その名も「婆(バア)シニアによろしく」事件!……おやっ?どこかで聞いたような??
この調子で、今後もたまに読み切りを発表していくのかなと思いきや、もうこれで完結としか言いようのないキレイなエンディングを迎えちゃってました(笑)。まぁ、時間軸的にはこれが彼らのラストの姿としても、公表していないエピソードは山ほどあるでしょうから、それをちょいちょい見せてくれても構いませんよ!


なんと、今回の時代は2060年!前回の「そばかすの不気味老害事件」から、さらに20年くらい経ってるみたいです。ビーティーと公一くんも齢90歳。ビーティーは足腰が悪いのか車椅子になり、公一くんもだいぶほっそりしちゃってます。いつポックリ逝っちゃうか分からんジジイな2人ですが、それでも関係性は変わらず、やってる事も変わらず。相も変わらず公一くんはビーティーに振り回され、2人で宇宙に飛び出してました!今回の舞台は、宇宙船「クールショック号」ッ!
タイトルから想像できる通り、「バージニアによろしく」よろしく、宇宙船という密室で繰り広げられる爆弾解除サスペンスでした。詰将棋をテンキーに見立ててのパスコード推理や、死を目前にしての2人の和やかな想い出トーク、そしてダイナマイト消火による起死回生・危機一髪・一発逆転劇なんかは、スッゴく面白かったです。また……、タイトルに引っ張られたせいで、てっきりこの事件自体が、ビーティーがボケ防止のために用意した刺激的なイベントなんじゃね?とか予想してたんですけど、それを逆手に取られた老害「マナブ」の再登場!驚かされました。

ただ、やっぱり今回も荒木先生へのリスペクトやオマージュがくど過ぎなんですよ。全ページにネタを詰め込まなきゃ気が済まんのかって勢いで、次から次へと出て来るもんだから、もはやノイズ。さすがにウンザリしてしまう(笑)。
いや、もちろんそーゆーのが大好きな人もいるんでしょうけどね。でも私は、わざわざそんなネタに頼らなくても面白いもの描けてるのにもったいないな~、って思っちゃうのよ。ビーティーと公一くんの小洒落た会話も好きだし、ビーティーの表情や振る舞いもクールでカッチョ良いし、80年来の親友だからこそ滲み出る2人の絶対的な友情と信頼もグッと来る。ビーティーにはもうちょいマジックやトリックを使ってほしいな、って希望もあるにはありますが……、「ビーティー」ならではの魅力は十分に描けているんだから、そこに余計なものを加えない方がより楽しめると思います。


ラストはなんと、不老不死を求めて宇宙の彼方へ旅立ってしまいました。いつだって好奇心旺盛・大胆不敵の、永遠の魔少年!そして、その隣には永遠の親友!2人の友情は決して色褪せず。
この終わり方はロマンがあって、個人的にめっちゃ好みですね。2人らしくって、とても爽やかな読後感でした。宇宙を旅しても、ビーティーはいろんな事件を巻き起こし、公一くんは身も心も凍り付きながらも付き合ってくれるんでしょう。そのエピソードがいつか語られる時を待ってます。




(2024年3月5日)




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