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第7部 ジョニィ・ジョースター

「STEEL BALL RUN」





「週刊少年ジャンプ」2004年8号より連載スタート。途中、連載誌を月刊「ウルトラジャンプ」(以下「ウルジャン」)に移籍。「ウルジャン」2005年4月号〜2011年5月号まで連載されました。
第6部「ストーンオーシャン」のラストで誕生した新たな世界。新しい「ジョジョ」の物語は、この新世界で紡がれます。舞台は1890年、西部開拓時代のアメリカ大陸。主人公は、ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターの2人。「ツェペリ」と「ジョースター」のコンビが描かれるのは2部以来!時代や舞台、人物の設定からも分かるように、原点回帰が強く意識されています。「ジョジョ」の原点、「武装ポーカー」や「アウトロー・マン」といった荒木作品そのものの原点、そして、生きる事の原点へと帰る物語。西部劇大陸横断大冒険お宝探しという、男のロマンに溢れた熱い内容を通じて、「生」の悲しみと喜びが見事に描き出されていました。個人的には、5部に匹敵する勢いでツボな部です。
とにかくこの「STEEL BALL RUN」(以下「SBR」)は、いろんな意味で特殊な作品でした。6部終了からおよそ10ヶ月後、ついに連載がスタート!開始当初は「週刊少年ジャンプ」にて、増大31ページの集中連載でした(普通の作品は19ページ)。何話か掲載したら数週休みという、かなり変則的なスタイル。そもそも6部の頃から、荒木先生は「もっと絵を大きく描きたい」「1話分のページ数が少なくて表現しきれない」といった想いを抱いていたらしく、そんな先生の要望を受けて、このような連載形式になったのです。ところが、今度は謎の長期休載に。何の情報もないまま、ファン達は大いにヤキモキさせられました。待ちに待った数ヶ月後、「SBR」が再び姿を現したのは、なんと「ウルジャン」誌上!ページ数の問題や連載を続ける体力の問題、青年誌だからこそ深く描ける表現の問題といった理由で、荒木先生は活躍の場を移したのです。そして「SBR」は、合計7年にも及ぶ連載期間を経て、全24巻の長き旅を完走!「ジョジョ」シリーズで最長の部となったのです。
この「SBR」という作品の位置付けに関しても、紆余曲折ありました。初めは、実質的には「ジョジョ」第7部だけど、それを強調しないという姿勢でした。実際、タイトルにも「ジョジョ」の名はどこにもありませんでした。しかし、ウルジャン移籍を契機に、正式に「ジョジョ」第7部となったのです。ただ、メインタイトルはあくまでも「SBR」。私的には「ジョジョの奇妙な冒険 Part7 〜STEEL BALL RUN〜」というよりも、「STEEL BALL RUN 〜ジョジョの奇妙な冒険 Part7〜」って扱いにしています。だから、普段も「7部」ではなく「SBR」と表記する事が多いです。



<ストーリー>
莫大な賞金と栄光を賭けての、世界が見守る世紀のお祭り。4ヶ月に渡る、過酷なアメリカ大陸横断乗馬レース。その裏に隠された、大統領の陰謀。「聖なる遺体」を巡る、激しい争奪戦。――その中で描かれたものは、ひたすらジャイロとジョニィの生き様であり、2人の友情でした。レースや「遺体」の設定は、ジャイロとジョニィを突き動かし、自分の心と向き合わせるためのガジェットでありマクガフィンであって、それ自体が物語にとっての主題だったワケではありません。2人がいかにして出会い、心を通わせ、共に歩み、そして別れていくのか。これこそが、「SBR」の中核なのでしょう。
作中でジョニィが言うように、この物語は「再生の物語」であり、「祈りの旅」。父から愛されず、自暴自棄に陥った挙句、下半身不随になるという、あまりに辛い過去を背負ったジョニィ。先祖から受け継いだ死刑執行人の任務に疑問を抱き、死刑宣告された少年を救うため、そして「納得」を求めるため、遠い異国までやって来たジャイロ。この2人が「回転」の力をキッカケに出会い、時にはジャイロがジョニィを導き、時にはジョニィがジャイロを諭し、互いに支え合い刺激し合って、強く生長し、生き抜いていくのです。自分の「祈り」が届くように、信じる「道」を走り続けていくのです。ジョナサンとツェペリさんの師弟関係、ジョセフとシーザーのライバル関係とも異なる、親友や兄弟のような関係がジャイロとジョニィにはありました。

私としては、この物語最大のキーワードは「敬意」なのかな、と思っております。レースの優勝者も「遺体」の所有者も、多くの人々の尊敬を得られます。しかし、真に重要なのは「尊敬」を得る事ではなく、「尊敬できる心」を得る事なのです。
文明から離れ、自然と闘い、自然から学ぶ。そんな物語を描きたいがために、荒木先生は「ジョジョ」の世界を一旦リセットまでしました。実際、レースを通じて、砂漠や山、森、河、草原、湖、雪原、海……と、あらゆる自然を描いています。そして、自然は命を生み、育みます。「黄金の回転」の技術は、まさしく自然と生命の恵み。生命は、ただ存在するだけで美しい。それを自然から学び、無限へと向かう力に変える技。「騎兵の回転」は、それをさらに進めた、生命の躍動・脈動の美しさを無限の力に変換する技。自分を取り囲む大きな存在を知り、自分の小ささを知り、すべての生命に感謝と祈りを捧げる。これぞ「敬意」が生み出す奇跡。こんなに素晴らしい技術は他にありませんよ!
そして、その「敬意」を忘れない事こそ、「正しい道」への道標となるのではないでしょうか。ジョニィとディエゴの結末が、それを如実に物語っています。まず、ジョニィは大統領との死闘に打ち勝ちますが、そこには達成感や満足感などなく、友を永遠に失った哀切だけがありました。そして、続け様に異次元のディエゴとの戦いへ。ディエゴに「遺体」を奪われ、レースにも敗北したジョニィが、ジャイロとの想い出に心を満たして、誇り高く生き続けていく。一方で、「遺体」もレース優勝も手にしたはずのディエゴはあっさり殺され、死んだ後も優勝の栄光すら剥奪される。どちらが本当の勝利なのかは、言うまでもないでしょう。目先の勝敗や損得、利害だけに囚われる事などありません。本当の勝利は、もっと大きな流れの中にあるのです。
銃を撃つのが早いヤツが勝つのではなく、「敬意」や「祈り」という「聖なるもの」「清らかなもの」を心に宿す者が真の全てを手に入れられる。ただし、ジョニィ自身もジャイロがいたからこそ、「正しい道」を見付け、歩む事が出来ました。自分の欲望や野心のために他人を踏み台にするのではなく、自分以外の誰かのために祈り、行動する事が「正しい道」に繋がるのでしょう。そして、その「道」は本当の勝利へと続く、そして、自分の帰る場所へと続く「道」になるのでしょう。
「SBR」は、それぞれの人物達がもがき苦しみながら、自分の「道」を探し求める旅路でもあったのです。その「道」を歩む事こそが、自分の幸福と信じて。


<キャラクター>
切実なる想いを胸に世界中から集った強者レーサー共は、さすがに見た目も中身も強烈なキャラばっかです。全金歯+セクハラベルト+2コ玉装備の変態さんに、下半身不随の生意気小僧、さらには熱血漢のインディアン、陽気な黒人、爽やかイケメンカウボーイ、白馬に乗った黒い王子様、ラクダに乗った黒いおっさん、2つのヘソを持つじいさん……などなど、枚挙に暇がありません。もちろん、主催者サイドもとんでもないヤツらが大集合。カリメロなおっさんと魔性の女(14歳)の夫婦に、劇的ビフォーアフターを遂げた大統領、圧迫祭りなファースト・レディー。釣り大好きなガキンチョに、大地大好きな学者、決闘大好きなヒゲ、雨大好きなお面、風船大好きな大道芸人……などなど、こちらも負けてはおりません。ただ、その誰もが印象に残っています。誰もが自分の欲望や願いに忠実に生き、その命を燃やしていました。その姿は、善悪を超えて美しいものでした。もっともっと深く描いてほしかったキャラがいっぱいで、もったいないくらいです。
レースの優勝も「遺体」も、誰か1人しか手に入れる事が出来ません。だからこそ、「SBR」は今までの部とは違い、「仲間」という概念が基本的にありません。自分の願いや祈りを叶えるためには、他人の願いや祈りを1つ残らず打ち砕かなければならないのです。甘えのない、厳しい現実。頼れるのは、常に自分だけ。そんな孤独な戦い。その中で協力関係を結び、やがては何者にも断ち切れない絆を生み出したジャイロとジョニィこそ真の友です。ジャイロはレース、ジョニィは「遺体」と、目指す場所が異なっていたって側面もあるだろうけど。

お気に入りのキャラは大勢いますが、とりあえずメインキャラを中心に語ってみようと思います。(イケメンについては、イケメンコーナーで語っております。)
まず、やっぱしジャイロは欠かせないでしょ。無骨なアウトローかと思いきや、実はいいとこの坊ちゃんだったり、クマちゃんのぬいぐるみを大事にしてたり、不意打ちでギャグやら歌やらをかましてきたりと、とにかく予想の付かない男(笑)。しかし、心の奥で燃える炎はほとばしるほど熱く、命そのものと向き合うツェペリ一族として、ひたむきに「納得」を追い求める姿には共感を覚えました。初めは結果だけを求めるあまり、近道ばかり選んでいたけれど、ジョニィの飢えた生き様を見、リンゴォの「男の世界」に触れる事で大きく生長。自分の目的とは無関係だった「遺体」集めも、生長の糧であり、必要な過程と受け取り、あえて戦いに飛び込んでいきます。「正しい過程」を歩む事が「正しい結果」へと繋がり、それが「正しい道」となる事を学んだのでしょう。「近道は遠回り」。最後は、大統領に味方した僅かの偶然で命を落としてしまったけれど、やれる限りの事をやった。「正しい道」を歩んで生き抜く事が出来た。その「道」の先にある結果は神のみぞ知る。弾かれたボールが落ちる先は、女神の気まぐれ。ジャイロは後悔もなく、すべてを受け入れ、納得して消えていきました。悲しい結末ですが、「たとえ死んでも、美しい心のために死んでいくのはハッピー・エンド」と荒木先生も言っています。きっとジャイロは幸福だったはず。
もう1人の主人公、ジョニィ。こんなに泣きまくってた主人公は他に例がありません(笑)。たぶん、全荒木キャラ中で一番泣いたキャラだと思う。何もかも失い、幾度となく絶望のドン底を這い回りながら、血や泥や涙にまみれて懸命に進もうとする姿。何をしてでも、もう一度立ち上がりたい。ただ、それだけのために。今までのジョジョ達と違い、自分のためだけに戦うのがジョニィ。しかし、その飾らない必死さが誰よりも人間臭く、読む者の胸に鋭く迫るのです。ただ、あまりになりふり構わないせいで、目的のためならば手段は問わないという危うい部分も持ち合わせていました。殺人も厭わず、自分自身の人間性すら捨てる事に躊躇いはありません。リンゴォにも「漆黒の意志」を持つと評されたほど。それはヘタをすれば、「ドス黒い悪」にもなりかねない。それでも、ジャイロとの旅の中で、ジョニィは少しずつ生長し、過去を克服し、心の闇を払拭していくのです。決して正義の味方なんて立派なもんじゃないけど、1人の人間として立ち上がり、再び歩き出すジョニィは、本当にカッコ良かったですよ。ジャイロと過ごした日々を「心の中の地図」としたジョニィは、もう「道」を迷う事はないでしょう。やっぱジャイロとジョニィのコンビは最高です。ラストシーンの切なさはヤバイ……。
そして、我らがヴァレンタイン大統領。自然から無限の力を引き出すジャイロ達とは対照的に、権力・財力という人間社会・文明社会における最強の力を持った人物。初登場時はただの憎たらしい顔した小デブだったのに、どんどん変形し、ついにはマッチョなカリスマ伊達男と化しました。大統領は父親から学んだ愛国心を絶対の行動原理とし、アメリカを永遠の王国にするため、「遺体」を求めます。すべての人々が公平に幸福になる事が出来ないのなら、せめて自国の国民だけは幸福にする。その強力な意志は、最期の瞬間まで揺らぎませんでした。敵ながら、筋が通っていてシビれます。圧巻なのは、自分の死が確定しても尚、信念を貫き通した事。異次元のディエゴに意志を託してまで、アメリカの平和を願っていたのです。その想いだけは本物だったと思います。実際、国民にも慕われ、信頼されてるからなあ。ただ、何を犠牲にしても、他人を踏み躙っても……という姿勢は紛れもなく悪なのです。ある意味、大統領は巨大な「歪んだ正義」。それに立ち向かうジャイロ達は、ちっぽけな「気高い悪」と言えるでしょう。5部や6部以上に、正義と悪の境が見えにくくなり、より現実感を増した表現になりました。


<バトル>
スタンドは「SBR」でも登場!ただし、「そばに現れ立つもの」から「立ち向かうもの」へと再解釈され、スタンド使いが引かれ合う法則も「禍いを呼ぶ呪い」と捉えられていました。スタンド発現のキッカケも、「矢」ではなく、「悪魔の手のひら」「聖なる遺体」へと変わりました。その影響で、複数人で1つの能力を使ったり、「遺体」を抜き取る事でスタンドも消えたり……と、スタンドの扱い方も微妙に変化。スタンド・ヴィジョンも才能さえあれば見えるっぽいです。
スタンド能力は、複雑化しすぎた6部の反省も踏まえ、シンプルな能力が多くなっています。特に、肉体を変化させるタイプの原始的な能力が多いのが特徴。爪を回転させる『タスク』や肉をスプレー状にする『クリーム・スターター』、ロープを伝って肉体を切り離せる『オー!ロンサム・ミー』、肉体を恐竜化させる『スケアリー・モンスター(ズ)』、雨を使って肉体をバラバラにする『キャッチ・ザ・レインボー』……などなど。ビジュアル的にも面白いし、「バオー来訪者」の作者コメントで語っていた「変身能力への憧れ」にも戻っているのかも。そういった意味でも、原点回帰と言えそうです。
また、ジョニィのスタンドが段階的に生長していくのに対し、ジャイロが技術のみで戦い続けるのも興味深い。一度は「遺体」でスタンドを発現させたにも関わらず、あっさりと手放しちゃうし。まあ、「回転」がすでにスタンド以上に応用力ありすぎってのもあるんだけど。ただ、変身能力が多く、ヴィジョン自体に攻撃力がないスタンドがほとんどだったため、鉄球でも拳銃でも充分に張り合えたのは事実です。西部劇的な舞台も相まって、拳銃の存在感と有効性は最後まで薄れる事はありませんでしたね。一瞬の決闘シーンもよく見られ、今までのスタンドバトルとは異なるリズムを生み出していました。スタンド使いであっても、圧倒的強者ではない。ルーシーのような非力な一般人でも倒しうる。このバランスが絶妙で、バトルの緊張感が保たれていたと思います。驚くほどあっけなくキャラが死んでいったりするのも、無常で無情な現実を実感させられます。絵柄や善悪観も含め、よりリアリティと重厚感を増したハードボイルドな部でしたね。

お気に入りのバトルとしましては、何と言ってもジャイロ VS リンゴォですね!「SBR」のみならず、「ジョジョ」全編を通しても、かなりの名勝負なのではないかと。スタンドバトルそのものというより、2人の異なる価値観が真っ向からぶつかり合い、上昇気流が発生したかのような凄まじさがたまらない。ビリビリと張り詰めた空気が流れ込んできて、マジでドキドキしながら読み進めたものです。リンゴォは狂人ではあるけど、悲しくも美しい男のサガに心打たれました。そして、散り際のあの言葉。「ようこそ……… 『男の世界』へ……………」。これに震え上がり、燃え上がらなかった男は存在しないでしょう。今後のジャイロにも大きな影響を与えた、1つのターニング・ポイントとなる歴史的バトルでした。
11人の男達との戦いも好きです。泉の試練と同時に襲い掛かる、多すぎる敵達。まあ、やってる事は単純な銃撃戦なんですが、あれだけの数を一気に相手するってのは珍しい。数の脅威、実に壮絶でした。それに、11人の男達のデザインが好みなんですよ。特に英字新聞の髪がシブい。試練を逆に利用した解決方法も分かりやすく見事だったし、何よりその後の展開がね。一度はジャイロを見捨てて「遺体」を選択するも、すぐに「遺体」を手放すジョニィ。雪の中、たった1人で去っていく男。そして、ジャイロとジョニィの乾杯。あの静かなシーンはとても神聖な雰囲気で、何とも言えません。名シーンすぎます。
大統領との戦いは、全24巻中7〜8巻分(全体の1/3ほど)も費やしただけあって、イヤでも心に残ります。『D4C』の能力は設定もとんでもないけど、魅せ方もスゴかったですね。パラレル・ワールドへの移動なんて能力で、よくぞあそこまで演出したり戦わせたりする事が出来るもんです。フィラデルフィアでの視点チェンジ展開も謎めいていて引き込まれたし、列車でのディエゴ&ホット・パンツ戦も短いながら熾烈でした。さらには『ラブトレイン』発動で、ジャイロ&ジョニィ戦へ。5部の『レクイエム』や6部の『メイド・イン・ヘブン』のような、この世が変革していく感じが最終決戦っぽくて最高。そして、ジャイロの死も、ジョニィの「騎兵の回転」発動も盛り上がりましたが、やはり大統領の取り引きにはビックリした。その後の異次元ディエゴ召喚もそうだけど、『D4C』の能力をフルに利用し尽くしていて感服いたしました。
――なんというか、バトルの駆け引きとか以上に、絵的なインパクトや感動的な名シーンの方が印象深いですね。ブラックモアなんかも幻想的だったし、マイク・Oの『チューブラー・ベルズ』も発想に驚かされたし、サンドマン戦での「黄金長方形」発見やウェカピポ戦での雪の結晶もドラマチックだったなあ。




(2011年4月19日)




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