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ジョジョの奇妙な冒険
ダイヤモンドは砕けない 第一章 (映画)





2017年は「ジョジョ」連載30周年の記念すべき年!そんなアニバーサリー・イヤーをより一層盛り上げるべく、世に生み出されたのがこの「ジョジョ」初の実写映画作品です。2017年8月4日より、全国各地の劇場で公開されました。
そもそも、実写化のウワサ自体は何年も前からありました。「3部を実写化」だの「松本潤さんが承太郎をやる」だの「荒木先生がダメ出しした」だの何だの……と、真偽の程も定かじゃない情報にいちいち釣られる人も多数。いい加減もう飽きたよって思ってたそんな頃……、2016年9月28日、都内で行われた記者会見でなんとガチの実写映画化が発表されたのでありました。原作4部の映画化!監督は三池崇史氏!東宝株式会社とワーナーブラザーズジャパン合同会社による、初めての共同製作&配給!主役の東方仗助を演じるは、山﨑賢人さん!驚愕の事実が次々明らかにッ!

しかしながら、やはり漫画やアニメの実写化にアレルギーを持つ人は多い模様。そりゃあ否定的な意見ももちろんあるでしょうし、文句を1人垂れ流すだけなら理解もするんですが……、文句を通り超して罵詈雑言・脅迫の域に達した汚い言葉で、わざわざ公式や俳優さんファンに攻撃を仕掛ける無礼な輩も現れ、正直言って心底ウンザリ&ガッカリさせられました。そういった連中は、「ジョジョ」を読んどいて、一体何を受け取ったんだろうか、と。山﨑さんのファンの方々には特に、申し訳なさしかないよ。「弱さ」を攻撃に変える者の恐ろしさって意味では、実に4部的だけどもさ。
私にとっては、荒木先生が描かれる原作のみが唯一絶対の「ジョジョ」。そしてそれは、何物にも汚す事も傷付ける事も出来ない無敵の存在になっています。なので、たかが実写化程度で揺らぐようなチャチなもんじゃない。むしろ、いろんな人が、いろんな立場で、いろんな手法で、いろんな想いで、「ジョジョ」を表現してくれる事が有り難い。単純に「二次創作物」「ファンアート」の1つとして、それに触れる事が嬉しい。常にそういう気持ちでいますから、今回の実写化も楽しみにしてました。
そんなワケで、公開初日の1発目を観に行って来ましたよ。「J」列の真ん中の席で。館内には20人程度のお客さん。「ジョジョ」ファンも、俳優さんファンも、普通の映画ファンもいたんだろうな。




……で、まず観た率直な感想を言いますと、「思っていた以上に面白かった」です。まぁ、ツッコミどころや不満点も多くありますけど、物語のはしっかり通っていたと思います。その芯とは何かと言えば、「出会いは重力」「引力、即ち愛(ラブ)」です。仗助が、いろんな人達やいろんな出来事と出会い、繋がっていきながら成長する物語。ここは明確だったので、読後感(っていうか視聴後感?)は爽やかでした。仗助・億泰・康一くんの3人が友達になって終わる、なんとも気持ちのいいエンディングです。
逆に残念な部分は、結局のところ、メイン・ターゲットが不明瞭な点。「リーゼント部」発足の様子を見て、この映画は俳優さんファンがメインの客層なのだと感じたんですが……、いざ見てみると、原作を読んでないと通じにくい箇所も多かったんですよね。「ジョジョ」に初めて触れる人に向けているのなら、もっと基本設定を理解しやすく作るべきだし、原作ファンに向けているのなら、もっとディープに作り込むべきだろうし。その辺、どっち付かずな印象を受けました。1部アニメの映画でも思ったけど、どうせならどっちかに振り切ったスタンスで作ってほしかったです。
ざっくりした感想はこんなもんにして、以下、箇条書きで細かい感想も書いていきましょう!



ビジュアル面の話。「登場人物」で現実にあり得そうなのは康一くんと由花子さん、あとはせいぜいアンジェロくらいのもの。仗助も承太郎も虹村兄弟も、どんなに頑張っても、やはりコスプレ感は否めません。「舞台」となる杜王町も、スペインのシッチェスという街で撮影しただけあって、ヨーロッパのクセがすごい(笑)。どう見たって、現代日本ではありません。
でも、「登場人物」と「舞台」がダブルでファンタジーなもんだから、かえってしっくり来てる気もするという謎のリアリティ現象が起きてました。アメリカの田舎町とかで撮った方がもっと杜王町らしくなりそうなんですが、「原作再現」が目的ではないんでしょうし、これはこれで良し。インパクトは充分です。ただ全体的に、画面がやたら暗いのは気になったなぁ。路地裏とか夜とか雨天とか屋敷内とかが多かったせいなのか、そもそも暗めの画面作りを目指していたのか。個人的には、もうちょい明るくしても良かったですね。


「ジョジョ」のオリジナリティーやアイデンティティーの1つでもあるスタンドという概念。原作ファンにとっては常識でも、今まで「ジョジョ」を見た事がない人にはちょいと分かりにくかったように思います。せっかく承太郎が仗助に説明するシーンがあるんだから、その時にもっと詳しく教えてあげても良かったのに。「スタンド」の正体、「スタンド」という言葉の由来、スタンドが傷付けば本体も傷付く事、そして、『クレイジー・D』は仗助自身のケガは治せないという能力的制限。これらがまったく解説されなかったり、唐突に出て来たりするんで、原作を知らない人には不親切そのもの。仗助と観客が一緒に理解を深めていくような構成にすべきだったのでは?
これに絡む問題で、ジョースター家とDIOの因縁についての話も一切無し。「DIO」というワード自体、一度も出てなかったはず。アンジェロの写真も、ジョセフの「念写」って説明がないので、誰がどうやって撮ったのか分からない。虹村兄弟の親父さんが変貌してしまった理由も、「バチが当たった」ぐらいにしか言われてない。さらっと言われたところで理解は難しいでしょうが、スルーしちゃうってのも大胆だな(汗)。
でも、仗助が戸惑いつつ敵スタンドと接触するとこや、承太郎がジョセフと英語で電話してるとこはけっこう新鮮でした。


スタンドのCGはなかなか良かったですね。特に『アクア・ネックレス』と『バッド・カンパニー』は、リアルで迫力があって派手で、かなりカッコイイ。「卵」から孵化した『エコーズ ACT1』もキュート。「オラオララッシュ」や「ドララララッシュ」もサマになってました。一見の価値ありですよ。
惜しむらくは、スタンドの見せ方。『クレイジー・D』や『スタープラチナ』あたりは、もっとスタンドだけをバンッとアップで見せてくれても良かったと思います。実を言うと、『クレイジー・D』の顔をちゃんと観た気がしないので、その辺はやっぱもったいない。また、『ザ・ハンド』で空間を削り取ったシーンなんかも、もっと画としてじっくり見せてほしかったです。


良平じいちゃんは、今作の「影の主役」でもありました。仗助がじいちゃんの意志を知り、受け取り、それを引き継ぐ物語だったので。じいちゃんの、町と家族を愛する心人を信じる心。その「優しさ」ゆえの「強さ」。原作においても非常に重要な要素ですが、今作ではさらにもっと深く掘り下げてくれています。警察として働くシーンや、家族の団欒のシーンも多く、その死が余計にショッキング。
なんと、じいちゃんは鈴美さんとも知り合いだったようで、彼女を守れなかった事を悔い、必ず犯人を捕まえると決意していたそう。アンジェロとの因縁は薄くなった反面、吉良との因縁が追加されました。物語のラストでは、「仗助」の名付け親である事も判明。じいちゃんがくれた名前の意味を噛み締め、血統と意志を受け継ぎ、自分が代わりに町を守ると誓う仗助。その腕には、じいちゃんの形見の腕時計。うむ、胸が熱くなるいいシーンだった。
……ただ、じいちゃんの死が描かれるシーンのタイミングに違和感がありました。『アクア・ネックレス』をゴム手袋に捕えてから、アンジェロの元に移動するまでの間に挿入されていたけど、何故??別に普通の流れで支障ないと思うんだけど。


アンジェロはさすがに原作ほどヤバくは描けなかったみたいです。しかし、最初に殺した相手が父親という設定になっていました。もっとも、アンジェロは父を憎んでいたから殺した。父親を憎みきれず、父親だからこそ殺してやりたいと願う形兆とは、決して相容れません。また、父親をまったく知らない仗助もいます。
父親との関係は、原作でもそれぞれのキャラにとって大切なポイント。この映画なりのアンジェロを垣間見る事の出来た設定でした。


『バッド・カンパニー』に、「一度出した命令は取り消せない」という特徴が追加されていました。『バッド・カンパニー』のミサイルを直し、形兆自身に返す戦法で勝利した仗助。原作では、形兆がミサイルを撃ち落とすのが間に合わなかった事になってますが、今作ではスタンド能力のルール的に不可能だったという事になっています。これだけでも知的な印象がちょびっと増しました。
どうせなら、せっかくここで発現した『ACT1』の能力も上手く使って倒してほしかったところですが。康一くんの頑張りも、ただの時間稼ぎにしかならなかったのは残念。


形兆を殺したのが『チリ・ペッパー』ではなく、『シアーハートアタック』だったのには意表を突かれました。売店に『シアーハートアタック』のグッズが売ってたのを見てたのに、そこまで予想できなかったなぁ。いや~、かなりビックリ。でも、爆発の効果が青かった気がするんで、ここは普通に赤系の方がイメージしやすかったんじゃないかと思います。あるいは、あえて分かりにくくしたのかな?
その上、スタッフロールの最中にも、吉良の家が映っていましたよ。3位の賞状やトロフィー、爪を集めたビン、「サンジェルマン」の紙袋、そこから顔を覗かせる女性の手首、そして、その手に覆われる『矢』。吉良は形兆を始末すると同時に、『矢』も奪って行ったようですね。ここまで露骨に続編を匂わすとは、これまた大胆不敵(笑)。……つーか吉良を除いたとしても、「ピンクダークの少年」のコミックスやら、仗助の4歳時の高熱の話やら、由花子さんの存在やら、かなり続編を意識した構成になってますけど。


仗助達の学年設定、康一くんの転校生設定、由花子さんの世話係設定。これらの原作からの設定変更には、ほとんど意味を見出せませんでした。ちゃんとストーリー上で必要になるのなら設定変更も全然OKだと思ってますが、ぶっちゃけ「わざわざそうする必要あった?」って感じ。
例えば、転校生という設定にするんなら、康一くんと観客が同じ目線になって杜王町という町を少しずつ知っていく……的な流れにすべきだし、彼が「よそ者」から「杜王町の住人」になっていく過程を描くべきだと思うワケです。でも実際は、別に康一くん目線でストーリーが大きく動く事もなく、あくまで仗助が中心。原作からガラッと変えた以上、それらの設定もキッチリ活かしてほしかったですね。


この映画全体を通して、あちこちに場面や視点が切り替わるもんだから、どうにも散漫かつ唐突な印象を受けてしまいました。最初に「物語の芯は通っていた」と書きましたが、それでも細かい部分ではやっぱ過不足が多かったっつーか。もっと1つの大きな流れを追って、その中の出来事を集中的に見せていく方が盛り上がったような気がします。
ハッキリ言って、由花子さんは不要です。小松菜奈さんの演技がどうこうって事じゃなく、この第一章のストーリー的な役割として不要。「野郎ばっかじゃムサいんで女の子もいないとね」って感じで安易に登場させたのかもしれませんけど、結局、特に何をするでもなかったので。康一くんの「日常」と「非日常」を対比させるにしても、由花子さんじゃ「非日常」にしかならず、焦点がボヤケちゃうし(笑)。
あと、最初の仗助登場のシーンでも、もっと仗助の穏やかで腰が低い言動を見せた上で、一気に激昂・豹変させてほしかったです。ちょっとしたセリフやシーンの積み重ねと取捨選択によって、印象はだいぶ変わってきますから。


俳優さんの演技では、形兆役の岡田将生さんが個人的に特に良かったです。ご本人も昔からの原作ファンというだけあって、形兆の胸の奥に隠れた愛憎絡み合う複雑な心理を巧く表現してくれていたと感じました。親父さん関係の話ではホント切なくなりましたよ。「出会いは重力」。荒木先生もこだわったこのセリフ、確かに、今作では形兆にしか言えない重みがあります。
アンジェロ役の山田孝之さんも、原作よりクールで物静かな殺人鬼を演じ切ってくれました。人を傷付け殺す事が「日常」っていう、どこか淡々とした雰囲気があってグッド。食事シーンでは、あたかも人体を解体するかのような仕草も交えて、ヤツの狂気が外にまで滲んでくるかのようでした。
そして、主人公:仗助役の山﨑賢人さん。原作よりスカしてるっぽく見えて、フラつく演技もちとオーバーに感じられたりもしましたが、彼なりの「東方仗助」を作ってくれました。若さゆえの未熟さも純粋さも熱さも持ち併せ、「正しい道」を歩こうとする仗助の姿を、懸命に全力で見せてくれました。第二章とかが実現して、康一くんや億泰とツルむようになれば、さらに感情や表情も豊かになってきそうなので、そういう意味でも山﨑さんと仗助には伸びしろが大いにあって楽しみです。


BGMに関しては、本音を言っちゃうとイマイチ印象が薄い……(汗)。予告編でも使われているテーマ曲っぽい曲ぐらいしか、聞いたぞっていう記憶が残ってません。でも、まぁ、BGMだけが目立っても良くないし、裏方としてシーンを盛り上げてくれてたって事なのかも。




―― 恐らく、今後も世間の評価は賛否分かれるでしょう。果たして商業的に成功を収める事が出来るのか、それも今は分かりません。でも、少なくとも私は、この作品に関わった方々の「ジョジョへの敬意」「自分の仕事に対する覚悟」を感じました。作品に真剣に向き合ってくれたと思いました。感謝いたします。なので、他の誰が何と言おうと、私は「この作品を観られて良かった」「楽しかった」と言いますよ。
第二章・第三章と続いて、4部が完結できるよう、あの「仗助」達と再会できるよう祈っています。そして、この映画をキッカケに、原作を初めて手に取ってくれる人が1人でも多く現れてくれる事を願っています。ちなみに、最低でももう1回は観に行く予定なんで、また何か思う事があれば追記したいですね。



(追記)
というワケで、さっそく2回目の鑑賞に行って来ました。欠点もあるけど、やっぱ面白いよ!なのに、興行成績は今のところ、まるで振るっていない様子……。
メディアミックスなんだから、それぞれのメディアでしか出来ない表現を楽しまなきゃもったいない。もともと、小説でもアニメでもゲームでも、本当に「ジョジョ」を完全再現したものなんて1つも存在しないんだし。頑なに拒絶・嫌悪するより、「ジョジョ」の長い歴史の中でのちょっとしたイベント・お祭りの一環として気楽に味わっとくぐらいの気持ちでいいんじゃないかと思います。

さて、改めて観てみると、新たな発見もありまして。
まず、ようやくBGMを意識的に聴く事が出来、美しい曲や力強い曲でシーンを盛り上げてくれていた事に気付けました。サントラも注文済みです。
そして、主役の山﨑賢人さんの演技。確かにまだ拙い部分もありますが、いいところもいっぱいあります。特に、じいちゃんを殺したアンジェロ絡みのシーン。仗助の激しい怒りがビンビンに伝わってきて、かなりグッと来る。家族との会話シーンも、原作とは違ってちょっとぶっきらぼうだけど、家族をすごく大事にしている優しい想いが滲んでいました。私は、彼の演じる仗助をもっと見てみたいと思ってます。
あとは、テンポの悪さも初回より感じられました。似たようなシーンを繰り返したり、間延びした部分があったりするんで、その分を設定の説明に割いた方がより作品世界に没入できたかもしれません。


今の調子だと第二章どころじゃなさそうですが、今作ラストの吉良についても少し。吉良の性格上、形兆を自ら殺しに来るはずがないっていうツッコミもちょくちょく見ます。でも、果たしてそうでしょうか?もし形兆に自分の殺人を目撃されていたら、しかも、吉良をスタンド使いにしたのが形兆であったなら……、口封じに現れる事も充分あり得ると思います。
まぁ、そもそも実写版の吉良が原作と同じ性格してるとは限りませんし、もっと言えば、『シアーハートアタック』の本体が吉良であるとも限りません。もしかしたら、本体は由花子さんだったりするかもしれないんです。本当にそうなったら今以上に叩かれるでしょうけど、とにかく、可能性はいくらでも考えられるという事。その真実を知る意味でも、なんとか続編を作ってほしいものです。まだの人には、ぜひ直接観に行ってみてほしいなあ。




(2017年8月4日)
(2017年8月8日:追記)




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