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大切な事が
そのうち見えるといいわね


#071 いつか見ていたもの





●今回のトビラ絵は、林に佇む康穂の姿。背後には『ペイズリー・パーク』も。彼女の強い眼差しの奥には、確かな決意さえ感じ取れます。
……そんなワケで、今回はまさしく康穂の決意の回と言っても良いエピソードでしたよ。


●猛追して来た「岩人間」アーバン・ゲリラと「岩動物」ドレミファソラティ・ドを返り討ちにし、ようやく危機を乗り切った定助一行。「新ロカカカ」の収穫のため、これより鼻炉山から東方邸へと向かいます。しかし、恐らくこの「岩」のような謎の敵は、東方邸で待ち伏せしているはず。
そんな状況下で、礼さんは康穂にとっとと帰るよう促します。彼女をもう足手まといとは思わないし、定助を「正しい方向」へ導いてくれた事も理解したものの……、これからの戦いで彼女は優先順位から外れているのです。憲助さんの指令が優先1位で、それを守らなければ敗北は必至。たかがフルーツの収穫とは言えども、激しい戦いになる事をすでに確信しているようですね。もう誰も、康穂を守る余裕などないかもしれない。だから、「ロカカカ」を巡る戦いとは本来、無関係である康穂は、黙って家に帰るべき。礼さんはそう言いたいのでしょう。
ところが、康穂は遠い目をしながら、唐突に自身の思い出話をし始めました。―― 2005年の秋の出来事。彼女が13歳、中学1年生だった頃の話。日曜日の朝、勾当台公園のフリーマーケットから始まっていた因縁。この鼻炉山に来て、彼女はそれを思い出したのです。


●中学1年生の康穂は、フリーマーケットで1つの「髪留め」を買いました。桃の花の形のデザインで、ただ可愛いだけでなく、伝統や大人のムードが感じられるところが気に入った様子。なんでもこの「髪留め」、清の西大后の時代に作られた物で、それから戦争があって台湾の女性が持っていたらしい。百数十年前のアンティークって事ね。
それを母:鈴世さんに自慢して見せたところ、「いくら?」とつれない態度。しかも、康穂が父親に会いに行く時に付けるためにお小遣いをためて買ったって事に気付き、皮肉っぽく「いいよ カワイイね」とあしらう始末。てっきり康穂は父親を知らないものとばかり思ってたけど、実際は、彼女が10歳の時に離婚したみたいです。父親は山形の人らしく、それからは康穂と鈴世さんの2人で杜王町に住んでいるとの事。鈴世さんは決して「彼」の事を話題に出そうとしなかったようですが、康穂は父親とそれなりにうまくやっていたんですね。意外だな。
……その翌日。学校では、クラスメイトの美心(「みここ」ではなく「みこ」)ちゃんの誕生日をみんながお祝い。しかし、「髪留め」に気を取られて、康穂はすっかり忘れちゃっていたのでした。深夜0時のオメデトウメールも、誕生日プレゼントも、何もかもド忘れ。そのせいで、当の美心ちゃんや取り巻きの女子達からなのか、康穂を非難するイヤガラセメールが大量に送られて来てます。「恩知らず」だの「居なくていーよ」だの「死ねバーカ」だの、ひどい言葉が延々と。孤立する康穂。女子コミュニティー、怖いキツいエグい……。


●大切な「髪留め」を泣く泣く美心ちゃんにプレゼント……的な展開かと思いきや、特にそんな事もなく、また別のシーンへ。どういうワケか、康穂の頭のフケがスゴい。ポロポロパラパラと大量のフケが落ちてきます。髪だけじゃなく、眉毛からもフケ。それどころか、指もヒジも乾燥しまくって、肌がカッサカサのボッロボロ。うわぁ、生理的にイヤだわ。
たまらず薬局で薬をもらって来たけれど、数日経ってもまるで効果無し。明日1日だけでいいから何とかしてほしいと訴えた結果、ハーブ入りアルカリウォーターをもらい、それをミストにして顔に吹きかけて就寝。まだあどけない顔立ちの康穂が、必死こいてミストを浴びる姿、なんか可愛らしい(笑)。
ミストが効いたのか、翌朝には肌の乾燥もほぼ治っていました。しかし、ベッドのサイドテーブルに置いたはずの「髪留め」が何故か消えている。慌てて家中を探す康穂。この日は父親と水族館に行く約束をしていて、せっかく父親に「可愛い」って言ってほしくて買った「髪留め」だったのに、それを探してるうちにもう約束にも遅れる時間。大泣きする康穂を鈴世さんもなだめるものの、康穂の焦りと悲しみは止まらない。
父親に会いに行く康穂にやきもちを妬いて、鈴世さんが「髪留め」をどこかに隠したか捨てたかしたに違いない……と、すっかり疑心暗鬼。身に覚えがないらしい鈴世さん、さすがにこれには傷付いた。母娘で涙しながら言い争う2人。離婚がキッカケだったのか、この頃から2人の心にはすでに大きな隔たりとわだかまりがありますね。


●外に飛び出そうとする娘を止めようと、鈴世さんが康穂の手を掴む!すると、彼女の手がまたも乾燥し切っており、そのせいで手が滑ってすっぽ抜けた!勢い余って、康穂は手すりに頭を強打ッ!そのまま気を失ってしまうのでした。
その時、康穂の頭から転がり落ちてきたのは……、なくなったと思っていた「髪留め」。しかし、驚くのはまだ早い。なんと、この「髪留め」がトランスフォームし、虫のような形態になっちゃったじゃありませんか!自身の足で動き、倒れる康穂の頭皮部分に潜り込むと、長~い舌をその頭皮に突き刺します。舌がストロー状にでもなってて、水分を吸い取ったりしているのか何なのか、とにかく康穂の頭皮はどんどん乾燥。フケも出まくりです。
康穂が目を醒ますと、そこには1人の中年男性の姿。そう、康穂の父親です。想像以上に老けてるけど、性格は穏やかな印象。鈴世さんから聞いて、康穂達の家まで駆け付けてくれた模様です。「髪留め」も「可愛い」と言ってくれて、康穂は大喜び。……ところが、父親は康穂にとって残酷な言葉を告げるのでした。実は父親には恋人がいて、日曜日も康穂ではなく彼女と過ごしたい、と。しかも、新しい赤ちゃんも生まれるそう。あまりのショックで気分が悪くなった康穂は、頼りない足取りでバスルームへ。
そんな娘に声を掛ける父親の表情は、薄ら笑いを浮かべているかのようです。何なんだ、コイツ……?すると、父親の姿がポロポロと崩れていく!?その傍らでは、あの「髪留め虫」「GYGYGYGYYYYY (ギイギイギイギイイイイイ)」と奇声を上げてやがります。まるで康穂を嘲笑うかのように。これは、康穂から出て来たフケが集まって父親の姿になっていた、って事なのかな。もしかすると、あの舌は脳にまで影響を及ぼし、その者の心を壊すために力を発揮するのかも。「最愛の者」の姿を見せ、「最悪の言葉」を聞かせて、心を壊し、孤独にする。そんな忌まわしくゲスな能力なのかもしれません。


●医者を呼びに出掛けていた鈴世さんが家に戻ると、康穂はバスルームでリストカットして意識を失っていました。これはなかなかショッキング。早人やマックイイーンなんかは置いといて、本当に生きる事に絶望して自殺未遂した人物なんて、長い「ジョジョ」の歴史の中でも初めてじゃない?父親との関係も誤解のままで終わっちゃってる気がするし。
結局、一命は取り留め、入院する事となった康穂。女医さんが言うには、3日ほどの入院でOKで、傷も残らずに済むっぽい。そして、女医さんは康穂にそっと語り掛けます。

「自明の下では 見過ごされて良い事などひとつとして無いの」
「大切で… 意味があるのよ……」
「自分の事だけを見つめていると それは見えない」
「大切な事が そのうち見えるといいわね」


ここで言う「自明の下では」とは、恐らく「あなたに見えている全ての物事には」みたいな意味合いなんでしょうね。すごく優しくて暖かで、強い言葉。この時の傷付いた康穂にはまだピンと来ないようですが、それでも心のどこかに引っ掛かってくれたはず。
しかし、女医さんは康穂がその言葉に応える前に、振り向く前に、部屋を立ち去ってしまいます。


●その女医さんと入れ違いに病室に現れたのは、セーラー服姿の青年。さっきの女医さんの息子らしい。そう……、さっきの女医さんこそホリーさんであり、この青年こそ吉良吉影
吉良曰く、ホリーさんは医者として素晴らしいけど、ワケあって今日から医者では無くなるんだとか。もしかすると、2005年の秋時点で、ホリーさんは「石化病」が発病し出していたって事なのでしょうか?語る吉良の目も、何やら哀しげです。一応、経歴上は2008年までTH医大病院に勤務していた事になってますが、ちゃんと医者として働けていたのはこの頃までだったのかな。
さらに、吉良は「髪留め虫」も踏み潰してブッ殺してくれていました。恐らく、くだらないヤツが使ってるしょーもないスタンドぐらいの認識だったんだろな。もちろん、康穂には真実は告げず、間違って踏んじゃったから弁償してもいいよ的な感じで事を収めてます。やっぱ吉良、優しいなぁ(桜二郎には厳しいけど)。


● ―― これが、康穂が思い出した記憶。かつて、ほんの一瞬だけ、康穂はホリーさんと吉良吉影と出逢っていた。そして康穂は、あの時、ホリーさんが話してくれた「大切な事」を見たくて、あれからずっと過ごしてきた。だから、初めて定助と出逢った時、手を差し出し、彼の手首を掴んで引っ張った。
きっとあの時の定助の姿は、康穂にとって自分自身でもあったのでしょう。暗くて深くて狭い穴に閉じ込められて、外に出ようとしても出られなくて、誰かの助けが欲しくて、孤独で。だからこそ、康穂は思わず定助に手を伸ばし、引き上げたのです。見える物、聞こえる音、出逢う人、巡る縁……。全て、大切で意味がある。自分の孤独な人生の意味を見付けたくて、康穂は今も戦っているのです。
そして、康穂は宣言しました。「あたしも「定助」と同じ動機」「ロカカカを… あたしも手に入れたい」、と。命だけじゃなく、壊れた自分の心をも救ってくれたホリーさんを助けたい。自分が生まれた意味・存在する意味を知りたい。定助と康穂の心は1つ!
……でも、こんな感動的なシーンなのに、礼さんのドライっぷりは相変わらずだな(笑)。まぁ、彼なりに康穂の決意と心意気は汲んでくれたと思うけど。それよりも、あの「髪留め」も実は「岩動物」の一種で、ずっと昔から誰かの頭に取り憑いてきた生き物かもしれないって方に興味津々になってますよ。この世界のあちこちに、いろんな形で、ヤツらは紛れ込んでいる。気付かぬうちに、人間から「何か」を奪い取っている。おぞましくってゾッとしますな。


★今月は47ページ!静かに心に染み入る康穂の過去と決意表明、素晴らしかったです。康穂も部外者なんかじゃなく、当事者なんです。その動機付けをここでハッキリさせてくれて嬉しかった。常識を超える形状をした「岩動物」が現れた事。ゲリラ&ドレミから逃げる際、定助と康穂が最初の出会いと同じように手を繋ぎ合った事。それらが今回の回想に自然に結び付いていて、彼女が昔の出来事を思い出したって言うのも説得力あったしね。
さあ、いよいよ次回は『オゾン・ベイビー』戦でしょうか。東方家では、果樹園にミニチュアハウスを埋める常敏の姿も描かれていました。敵も味方も準備万端!覚悟完了!どんな熾烈なバトルが繰り広げられるのか、大いに楽しみであります。
作者コメントは「今年一の重大事件はサザエさんのCMを東芝がやめる事かなぁ。重い?」との事。確かに衝撃的な話でしたけど、ジョジョ30周年である今年の一番がサザエさんとは……。さすが荒木先生だぜ!




(2017年11月17日)




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