TOP  <<#077 戻る #079>>



幸福は見つかってはならない
数の多さは敵であり悪だ


#078 等価交換と大学病院 その②





●今回のトビラ絵は、康穂と密葉さん。背景には大学病院が描かれ、2人はそこへ向かいながらも、顔はこちらを向けています。その表情はまるで危機感もなく、何気ないものです。避けようのない事態に、自覚なく否応なく、飲み込まれていくかのよう。麗しの女性陣、果たして無事でいられるのでしょうか?


●車椅子に乗る密葉さんの姿を、病院で目撃する康穂。密葉さんは、医者と共に整形外科外来の診察室へ入っていきます。彼女の両脚の皮膚は石のように固く、潤いなくカッサカサに見えました。それを見た康穂の脳裏には、「髪留め」の時の記憶が過ぎります。……??? ひょっとしてあの「髪留め虫」、ずっと身に付けていたら、フケどころじゃ済まずに全身が乾き切って「石化」しちゃってたのか?『ペイズリー・パーク』による「髪留め虫」の調査結果が知りたい。
嫌な予感が走り、定助に電話。定助は今、礼さんと一緒に一本松消防署を訪れていました。もともと「二本松」だったのが、震災や「壁の目」隆起の影響で別れて「一本松」と呼ばれるようになっただけなので、たぶん本当の地名・消防署名ではないはず。分かりやすくそう呼んでるだけかな?とにかく、2人はナンバー「3-11」の救急車を捜索中。ところが……、果樹園火災の時に出動しているという記録はどこにも無く、それどころか、そもそもそんなナンバーの救急車は存在しないとの事。
どこからか突然やって来た救急車。得体が知れなさすぎですが、定助は果樹園の監視カメラからの画像を康穂に送信。そこには、枝を手にした救急隊員の姿。運転手の存在も伝えます。情報の共有は大切。情報収集に特化した『ペイズリー・パーク』なら、発見できる可能性は十分ありそう。


●定助は逆に、康穂の用件を訊ねます。密葉さんの事を伝える康穂。定助からすれば、密葉さんとはほとんど会話もした事がなく、名前を聞いてもピンと来なかったほど。しかし、両脚の話を聞いて、定助と礼さんの警戒度・緊張度は急上昇!すぐさま2人も大学病院へ向かいます。5分10分で着くから、直ちに病院から出るようにと康穂に指示。あの病院は一般の診察や治療を受けるのは良いけれど、深入りすると危険な場所!
電話を切り、康穂も周囲を見回して警戒します。そして、深入りまでせずとも、せめて何らかの情報は得ようと単独行動。密葉さんが入った診察室には、担当医の名が書かれていました。その名は「羽 伴毅 (うー ともき)」。いやいや、「うー」って(笑)。エキセントリックが過ぎるだろ。中国人的な姓なのか、ダモカンみたいに元ネタがあるのか、すごい気になる名前です。そんな羽先生を『ペイズリー・パーク』 in スマホでリサーチ!1978年生まれ(現33歳)。TG大学医学部卒整形外科と美容皮膚科の専門医。見付けた顔写真は、言わずもがな前回のドクターでした。人間社会で公にしている情報は、こんなところ。
しかし、康穂は気付きました。羽先生の顔が、さっき定助から送信された画像の救急隊員とそっくりだという事にッ!……正直、荒木先生の描くイケメン顔は大体こういう顔だよねって思っちゃうので、もうちょっと特徴のある顔立ちにした方が良かった気もしますけど(笑)。超タレ目とか、鼻がデカいとか、傷があるとかね。


●その時!いきなり診察室のドアが開き、密葉さんが姿を現しました!バッド・タイミングで鉢合わせ。しかし、見れば密葉さんの両脚は何ともなく、普通に立って歩いています。戸惑う康穂。診察室を覗くも、羽先生の存在は確認できず。幸い密葉さんも診察室の方を向いていたため、気付かれないよう康穂も顔を背けます。ところが、思いっきりバレバレで、向こうから挨拶されちゃった(笑)。
危険なムードかと思いきや、当の密葉さんの態度は極めて普通。社交辞令の世間話をするだけです。それがまた不気味で、ここから早く立ち去るべきだと康穂自身も分かってはいるんですが……、再び閉じそうになるドアをすかさず押さえ、密葉さんに羽先生の居場所を訊ねてしまうのでした。危険を覚悟で「核心」に踏み込む勇気、それが康穂の性格ですからね。「今」「ここ」を逃したら、羽先生の重大な情報は二度と得られないかもしれない。なら、行くっきゃない。
何も包み隠さず、両脚についても質問。でも、密葉さんは「何を言ってるのか分からない」といった感じで、スカートをたくし上げ、自分の柔らかな脚をプニプニしてみせます。う、なんかエロカワ。それどころか、石化していたはずの右耳周囲の皮膚もまるっきり健康体に。こいつはもう、明らかに異様です。


●診察室には、密葉さんが乗っていた車椅子も無く、その在り処を訊ねます。しかし、やっぱり密葉さんは「知らない」と一点張り。彼女はおもむろに自分のおっぱいを康穂に触らせ、豊胸のために病院に来ている事を説明します。車椅子に乗る理由が無い、と。今度は逆に康穂のおっぱいを揉もうとするも、康穂は身をよじってガード。由花子さんと辻彩さんのやり取りを思い起こさせますね。
密葉さんはベッドに腰を下ろすと、さらに自分語り。彼女は学生の時、「ミスさくらんぼ」だったらしい。そういうコンテストの優勝クイーンに輝き、日本のフルーツのために中国やヨーロッパを旅行する機会もあったんだとか。(密葉さんの出身は山形なのかな?) そんな事から常敏とも知り合い、結婚したんだそうです。それにしても……、「さくらんぼ」といい、「レロ(はぁと)」ってセリフといい、連想させられますよね。前々から、密葉さんの旧姓は「花京院」なんじゃないかと予想してましたけど(こちら)、マジでそうかもしれない。
東方フルーツパーラーの広告モデルもやっていて、若い時よりつるぎちゃんを産んだ後の方が、ファミリー層の支持もあって売り上げが伸びたとの事。広告に写ってる黒髪・和服の密葉さんも美人です。つまり、年齢を重ねても、常に美しく在り続けないといけない。東方家のお嫁に来たからには、母としても、みんなから振り向いてもらえなければならない。密葉さんが背負う重圧も、なかなかにヘビーなものですね。「美」への強いこだわり。前回の様々な言動も、それゆえだったのかと腑に落ちる部分が多々あります。彼女の内面がだんだんと見えてきました。


●とは言え、康穂にとっては、密葉さんの身の上話に興味なんかありません。羽先生の居場所を問います。しかし、密葉さんは相変わらずのトボケ具合。ただ、都合の悪い事をごまかそうというよりは、本当に思い出そうとしているような雰囲気。
康穂は、この診察室自体にも異変を感じ始めました。診察室の丸椅子の上には、何かの「破片」があります。そして、かすかに開いた机の引き出しの奥にも何らかの物体。一気に引き出しを開けると……!そこには、なんとバラバラになってペチャンコにひしゃげた車椅子が!まったくもって意味が分かりません。だからこそヤバい!そして、さらにもっとヤバい事態が密葉さんの肉体に起こっていました。
密葉さんが前回の羽先生のように、ケイ素水をガブ飲みし、海苔をパリパリ食べ出したのです。海苔を持つその両手は不自然な形に歪み、ある指は太く大きくなったりもしている。これって、もしかして……。自ずとおぞましくえげつない想像をしてしまいますね。


●あまりにも異常な状況!康穂は診察室から出て、定助に電話で助けを求め……ようとしたのですが、突如、室内に鳴り響く異音。ギュリギュリという、なんとも耳障りな音。耳をつんざくこの大音響に、康穂もたまらず顔を歪めます。密葉さんも耳を押さえて苦しんでいる。よく見ると、康穂のスマホに纏わり付くかのように、謎の物体が浮遊していました。それは、丸椅子の上にあった「破片」。小石みたいな2つの「破片」同士が勝手に動き、強烈に擦れ合って、この異音を発していたのです。
その上、「破片」は康穂の耳の穴に侵入すると、そのまま康穂の体内にダメージを与えました。意識を失って倒れる康穂!彼女を案じる定助の声がスマホから聞こえてきますが、康穂は応える事も出来ません。そして、倒れる彼女の背後に迫る密葉さんが独りごちます。


「…わたしは…」 「生の領域から死へと向かう事柄については」
「誰よりも詳しい…」
「だが 詳しい事柄は「幸福」の為に生かされるべきだろう」
「幸福は見つかってはならない」 「数の多さは敵であり悪だ」
「見つかったら「幸福」ではない」


口調から雰囲気から、まるで別人のよう。やはりこれって、羽先生の言葉ですよね。医者だからこそ、「生」と「死」にも詳しい。誰にも見付からず、ひっそりと大きな目的を達成しようという意志が感じ取れます。つまり、羽先生=密葉さん。そんな彼(彼女?)は、康穂を再び診察室に引きずり込み、スマホも奪い取ってしまいました。そして、閉ざされるドア。ホラー映画さながらの恐ろしい終わり方です。


●密葉さんの身に何が起こっているのか?さっそく考察・予想してみたいと思います。
一言で言えば、密葉さんは羽先生と融合しちゃっています。それも、吉良と仗世文のように半分半分ではなく、丸々2人が融合。2つの肉体がせめぎ合い溶け合って、「1人」になっている状態です。そのため、石化の患部も、もう1つの肉体で覆い隠せるって事。密葉さんではなく羽先生の肉体を表に出そうとする時、肉体に大きな変化が生じ、あの手や指みたいに歪んでしまう。そんな感じでしょうか。ある意味、ドッピオとディアボロの変形版。
ちなみに、ベッドに腰掛ける密葉さんの絵が意味深に描かれていましたが、これは要するに、2人分の体重でベッドが異様に深くズブズブ沈んでいるっていう描写なのです。車椅子も2人分のパワーでもって破壊したのかもしれません。

……で、それを実現させたのが、「ロカカカ」の効力「岩人間」の体質でしょう。
恐らく、羽先生は密葉さんの治療に際し、本物の「ロカカカ」の果実ではなく、データ化した「ロカカカ」の技術を使ったものと思われます。今回もそれは同じで、それによって「右耳」と「周囲の皮膚」の石化を治し、代わりに「両脚」が石化。忘れられがちですけど、「岩人間」は岩石と同化したり、あるいは通過したり出来る体質を持っています。という事は、石化した人体にも潜り込めるはず。なるべく体内に侵入やすいように、患部を一度「両脚」に移動させたのです。
そして今回は、本物の「ロカカカ」の果実も使用しました。ただし、使ったのはなんと羽先生自身。いくら石化した人体にも潜り込めるといっても、そのまんまじゃ限度があります。「ロカカカ」を食べる事で、羽先生の肉体を変質させ、より潜り込みやすくしたワケです。何せ「ロカカカ」と「岩人間」は相性が良いらしいですから、そのぐらいは十分可能でしょう。こうして世にもおぞましい融合が完了!つまり、「等価交換」による融合ではなく、けっこう強引な手段での融合なのです。当然、密葉さんの肉体には負担も大きく、そのせいで記憶も曖昧。
羽先生がここまでする目的はもちろん、東方家に家族として潜入し、「新ロカカカ」の枝の在り処を突き止めるためですね。


●では、謎の「破片」は一体全体、何なんでしょうか?やはり羽先生のスタンド能力と関係していると思われます。
あれはきっと、羽先生自身の体や皮膚の一部。彼は整形外科と美容皮膚科の専門医ですから、その辺から考えてみました。彼のスタンドのヴィジョンは恐らく、メスか何かを持っているでしょう。指そのものがメスになっているかもしれない。ともあれ、そんな自分のスタンドによって切り捨てた「自分の肉体の一部」を自由に操作できる能力なんです。切り捨てられて生命を失っちゃっているため石化しており、それがあの「破片」って事。
『ストーン・フリー』よりも我が身を擦り減らして戦う、かなり痛い能力です。しきりにケイ素水飲んだり海苔食ったりするのも、そうすると「岩人間」は傷の回復・再生が促進されるから。プアー・トム殺害も、この能力で撃ち抜いた可能性がありますね。


★今月は43ページ!いや、めちゃくちゃ面白かったです。いつも以上にサスペンス濃厚で、読んでてドキドキハラハラでした。昨日、Yahoo!トップニュースにもなった荒木先生のインタビュー(こちら)に掲載されていたのが、今回の原稿の執筆風景。執筆途中と完成形とを見比べて、「おお~!」と感動できるのもお得ですな。
そのインタビューには、「ジョジョリオン」は終盤に差し掛かっているとか、クライマックスに突入しそうとか書かれていました。荒木先生も「舞台は病院に移っていく。いよいよ物語が収れんしていくと思う。」とおっしゃっていました。私の感覚でも、序盤・中盤・終盤で言ったら「中盤が終わりそうなあたり」かなって思っていたので、間違いではなかった模様。今の病院編は、(あえて他の部で例えるなら)4部の「靴のムカデ屋」、5部のマジョーレ教会、6部の脱獄直前くらいのエピソードに相当しそうな予感です。少なくとも、このまま最終決戦に雪崩れ込む事は無いし、まだまだ3~5年は続くと私は見てます。でも、散らばった多くの要素がついに1つに収束していくのかと思うと、興奮が禁じ得ません。大いに期待ッ!
作者コメントは「最近好きなのは『アメリカン ヴィンテージ』というBSの番組。人間と文明って良いなぁとか思う。」との事。アメリカで修理屋を営む職人さんが、様々な物を修理・リサイクルする番組みたい。なるほど、確かに荒木先生はこういうの好きそうですよね。私も見てみたいな。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 9月号(2018年)
300ページ


今月は何と言ってもこのコマですね。キレイに引き出しに収まったペチャンコの車椅子。「なんじゃそりゃ」感満載で、最高にシュールな絵です。引き出し以外は、ごくごく当たり前の光景なのに。誰でも大事な物や見られたくない物を引き出しに隠すように、「ドラえもん」のタイムマシンの入り口が引き出しであったように……、「引き出し」とは非日常への扉であり、秘密の領域でもあるのかもしれません。引き出しの中は、まさしく異界
しかもコレ、「どうやったのか」も不思議ですが、何より「何のためにやったのか」が理解不能で怖い。物理的に不可能な現象ってワケでもなさそうなだけに、リアルに想像できちゃう不気味さがあります。サイコホラーですなぁ。




(2018年8月18日)




TOP  <<#077 戻る #079>>

inserted by FC2 system