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羽伴毅
わたしは失敗しない


#080 等価交換と大学病院 その④





●今月号は「ジョジョリオン」が表紙ッ!コミックス19巻のカバーイラストと連作になっていますが、どっちもイイですね。定助・康穂・礼さんの3人パーティーが各々のスタンドと共に、広大な水場を行く。そんな絵です。ハシゴから下りて来る『ペイズリー・パーク』を見るに、どこか地下の洞窟とか地底湖みたいなシチュエーションを想像しちゃいますね。膝まで水に浸かりながら、周囲を確認し警戒しながら、先へと歩を進めております。とにかく定助がハチャメチャにSEXYです。体や腕の角度も、表情も、目付きも、色気たっぷり!
カラー的には、全体のブルーの中で定助の紫が一際美しい。もちろんみんなそれぞれにキレイなんだけど、やっぱし定助は絵になる男だなぁ~。


●今回のトビラ絵は、密葉さんと康穂の後ろにドドンッと佇む密葉さんのスタンド!宙に浮かんで下を見下ろしているからか、随分と猫背。纏っているローブはフワッと広がっていて、お寺の鐘みたい。シンプルでありつつも、本当に洗練され完成されたデザインです。カッケーな~!ローブを取ったデザインも見てみたいけど、それは多分描かれる事は無いでしょうねえ。


「等価交換」という康穂の言葉を聞き、自分の身に起きた出来事を確かめようと思い始める密葉さん。少しずつ、少しずつ、過去の記憶を辿っていきます。
―― 羽先生と密葉さんの2人は診察室にいました。時間的にはどうやら、密葉さんが2億円払って完璧な治療をするって決めた直後っぽい。密葉さんを車椅子に乗せ、羽先生はまたもや海苔とケイ素水をパリパリゴクゴク摂取(笑)。そして、エレベーターに乗り、向かう先は別フロアの産婦人科。そこの診察室にいた若い美人ナースを外に出し、2人っきりに……。
「羽先生は整形外科医なのに産婦人科も診るの?」という密葉さんの不安と疑問に対し、「わたし、失敗しませんから」とどっかのドクターXさんみたいなセリフを返す羽先生。彼は今まで一度も「失敗」という体験をした事が無いらしく、それは高い能力と、危険を察知・回避する用心深さゆえのようです。さっきの若い美人ナースにしても……、彼女の充血した眼や、うっ血した手首と指先を見て、毎日ロープで体を縛っているから(しかも自分からおねだり)と見抜いていた模様。そーゆー個人的な夜の趣味は尊重するけど、もし彼女がその趣味に自分を誘って来たら「トラブル」「マイナス」でしかない。だから彼女を遠ざけ、追い出したのです。予測できる失敗には近付かない。
そして彼は、引き受けた患者は100%治しているらしい。頭皮も胸も下アゴも、身体の全てと繋がっている。だから、失敗するかも知れない他人には決して任せず、自分で患者の全てを診るというスタンスを貫いているのです。整形外科と言いながらも、実際はオールマイティーなスーパードクターだったワケですね。自分の優秀さを客観的に捉えているっていうか、「自信」はあっても「自惚れ」は無いっていうか、なんか強敵なオーラがビンビン!


●そんなスーパードクター・ウーが診たところによると、密葉さんは現在、妊娠13週目との事。突然の報告に衝撃を受ける密葉さん。「つわり」とか無かったのかな?そんな体調不良も全部まとめて、アレルギー症状のせいだと思い込んでたんでしょうかね?
その後、婦人科のさらに奥の部屋に連れて行かれ、そこで彼女が見たものは……、なんと鉢植えで大量に栽培されている「ロカカカ」の樹!まぁ、羽先生が「ロカカカ」を巡る陰謀の中枢にいるのなら、彼のすぐそばで栽培されていても何ら不思議じゃありませんけどね。杜王町には他にもいくつか、こういう秘密の栽培場所が存在しているんでしょう。杜王スタジアムもきっと、そのうちの1つだったのかな。
しかし、密葉さんの記憶はここから曖昧になってしまったようです。診察室を出た所で康穂に会った事は思い出したみたいですが、その前にどんな治療を行ったのかはまったく記憶に無い。ただ、密葉さんと康穂が会ったのは整形外科の診察室。つまり、産婦人科で「等価交換」を行い、頭皮や耳を治す代わりに両脚が石化し、車椅子で整形外科に戻っていた途中で康穂に目撃された……ってトコでしょうね。


●そもそも、最初から車椅子で来たって事は、密葉さんの両脚が石化するであろう事が分かっていたから。また、胎児を犠牲にして、密葉さんを完治させようとしていたのも間違いありません。つまり、「この果実はこの部位を石化させる」と把握できているか、もしくは「この部位を石化させるようにしよう」と操作できているか。いずれにせよ、「ロカカカ」のデータ解析がかなり進んでいる証拠です。
今までの治療は、「ロカカカ」のデータから開発された新薬の実験台として飲ませて「等価交換」を繰り返していたのでしょう。それは比較的安価だけど、どこが交換されて石化するかはまだ不安定。それでも、実験のおかげで精度が上がってきたため、今回は狙い通り両脚の石化に成功したのです。こうして一旦、脚を奪って逃げられなくしたところで、いよいよ本番。整形外科に戻り、本物の「ロカカカ」を食べさせ、頭皮を治しました。果実の方は制御できているので、予定通り胎児を石化させて治療完了。―― そんな感じなのかな。
密葉さんから治療の記憶がすっぽり抜け落ちているのは、これも新薬や「ロカカカ」による「等価交換」で一緒に失わせてしまったのかも。脳の一部をも石化させ、都合の悪い記憶を消す。思い返せば、同じ病院内のホリーさんの脳も人為的な形で失われていました。「石化病」の治療や研究がてら、彼女も実験台として利用されてしまったのかもしれません。あるいは、羽先生達の陰謀に気付き、阻止しようとして、逆に記憶を消されてしまったのかもしれません。
余談ではありますが……、夜露からプアー・トムまでの「岩人間」が「7つの大罪」をモチーフにしているという説を、度々書いてきました。で、この「7つの大罪」には、2008年にローマ教皇庁が発表したニュー・バージョンもあるらしいのです。wikiによれば、「遺伝子改造」・「人体実験」・「環境汚染」・「社会的不公正」・「貧困」・「過度な裕福さ」・「麻薬中毒」が「新・7つの大罪」。羽先生は「人体実験」が当てはまりそうな予感。だとしたら、「新・7つの大罪」をモチーフにした7人の「岩人間」も登場するのかも。羽先生と救急車の運転手以外に、あと5人?


●診察室から逃げ出した康穂&密葉さん。しかし、風に舞った羽先生の「破片」が襲う!待合室の奥に定助と礼さんの姿を発見し、助けを求めようとするも、いきなり他の患者さん達の頭突きや体当たりを食らってブッ倒れてしまいました。
何事かと思ったら、彼らもみな、「破片」を吸い込んでしまって苦しんでいる様子。これはアレルギー反応でした。「破片」は人体にとって明らかな異物と見なされ、拒否反応を起こしていたのです。涙や鼻水が出たり、クシャミが出たり、皮膚に発疹が出たり、筋肉が痙攣したり……。そして、放っておけば、そのうちショック症状(アナフィラキシー・ショック)まで起こしてしまう。医者らしい能力になってきましたね。
康穂達もアレルギー反応に苦しみ、結局、逃げるどころか診察室のそばまで逆戻り。定助達の姿も見失ってしまいました。羽先生は語ります。密葉さんは「カネ」にも「情報」にもなっていて、必要だから戻って来てもらう、と。なんと、羽先生はすでに密葉さんに取り憑いて東方家に出入りしているようで、つるぎちゃんのスタンド能力まで知っていました。果樹園火災の時のつるぎちゃんの行動を怪しんでいます。これはもう、どのみち激突は避けられませんな。


●「破片」はどんどん降り積もる。羽先生はさらに、睡眠薬を砕いた粉末をも「破片」と一緒に舞い散らせて、確実に密葉さんを取り戻そうとします。この絶体絶命の窮地で、ついに密葉さんもスタンド発動ッ!
忍者が使う「くない」みたいな平べったい「矢印」を手からドキャアンっと出現させると、それを床に設置。さらにもう1個の「矢印」をブギョっと出現させ、同じく床に設置します。2個の「矢印」の先端をそれぞれ、彼女の前方と左側に向けて。すると、何らかのパワーが働き、フィールドが展開されました。無数の「破片」が、まるで壁に遮られたかのように「矢印」の内側への侵入が出来なくなっています。内側にあった「破片」も外側へと追い出されたのか、内側には「破片」がほとんど舞っていません。
そして、3個目の「矢印」をフオキョンンっと出し、上に向けて持つと、フィールドはさらに拡大!何も無い安全な空間を軽やかに跳び、羽先生に華麗な蹴りをお見舞いです。今度は「矢印」を羽先生に貼り付けると、やはり先端より内側には入り込めず弾かれるらしく、羽先生の体は破壊されていきます。


●スタンド名は『アウェイキング・Ⅲ(スリー)リーブス』!やっぱり「キング」は付くのか~。その能力は、簡単にまとめるなら、「矢印」の方向へエネルギーや物質を「強制移動」させる能力!(名前も能力も『オータム・リーブス』に似てるけど、単なる偶然か、ジョニィ伝説と何か関係があるのか?)
その名からして、恐らく「矢印」は最大3個まで出現可能。「矢印」の周囲には、「矢印」の指し示すベクトルに向かってスタンドパワーが常時流れているのでしょう。そのスタンドパワーのベクトルに乗せて、任意のエネルギーや物質のみを移動させてしまうワケです。密葉さん本体が「矢印」を持って発動すれば、その方向に体が「移動」。だから上向きにした時は、体が上に浮き始め、軽やかにジャンプできました。そして、ベクトルが創り出すフィールドは、「矢印」同士で相乗効果を生み、数が多いほどに範囲やパワーも増します。言ってしまえば、ベクトルを操作する能力でもあり、敵や害悪が入り込めない安全地帯・結界を作る能力でもあるのです。多分、このようなスタンドかなと推測。
これは予想以上に面白い能力でした。例えば、火とか有毒ガスとかも「移動」させて被害を食い止められるだろうし……、逆に自分に「矢印」を向ければ、遠くの物を引き寄せる事も出来るはず。また、3個の「矢印」を同じ方向に縦1列に並べて置けば、より遠距離まで、一気に加速して「移動」させられるでしょう。組み合わせや使い方次第でめっちゃ応用が利きそう。見た目だけじゃなく、能力もスゴく好みです。


●「矢印」によって羽先生を退けた密葉さん。失った記憶のカギは、上階の産婦人科にあるはず。康穂と共にエレベーターに乗り込み、3階へ!
羽先生にずっと利用されていたのなら、まだ体内に「破片」が残っているはず。「矢印」1個を手の甲に貼り、体内の「破片」を集め、指先から体外へと排出!『アウェイキング・Ⅲリーブス』があればもう、毒系は一切効きませんね。とは言え、まだ少量の「破片」は舞っているし、空調から入って来れるかもしれない。全て追い出さなければ安心は出来ません。
一方、康穂は先ほど密葉さんが排出した「破片」を見て、戦慄していました。密葉さんも視線を下に向けると……、そこには小さな腕の形をした「破片」がピクピク蠢いていたのです。「等価交換」で石化した胎児。うわ……、エグい。妊娠13週だと、胎児はリップクリーム程度の大きさにはなっているみたいですし、こりゃリアルにエグいよ。そして、かすかな隙間からは微細な「破片」も侵入。集まって、羽先生の顔になっていきます。康穂の絶叫が響く!エレベーター内はまさに地獄絵図!果たして、2人はこの地獄をいかにして脱するのでしょうか!?


★今月は39ページ!ページ数はやや少なめです。しかし、補って余りある情報量と展開ッ!今回も面白かった!羽先生の個性が出て来たし、密葉さんのスタンドも魅力的だし、終わり方はショッキングだし、たまらんです。この極上のサスペンスを毎月追って味わえる幸福よ。
作者コメントは「長野の山の中に行ったら、お互い「おっ」って感じでカモシカと出会った。「じゃっ」って感じで。」との事。シュールな4コマ漫画みたいな話で、文字のテンポだけでなんか笑えてくる。それにしても先生、えらいアクティブだなぁ。こういった経験も作品作りに活かされるのかもしれませんが、とにかく怪我や病気には十分気を付けてください。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 11月号(2018年)
36ページ


今月は、密葉さんが『アウェイキング・Ⅲリーブス』を発動させた瞬間の1コマ。能力は具体的にはまだ分からないけど、起こっている事だけは一目瞭然。
「矢印」の外側の「破片」と集中線の密集具合が、内側の空白を引き立たせていますよね。完全に空間が二分されると同時に、「危険」と「安全」もハッキリクッキリ分かれています。迫り来るヤバい状況はとりあえず脱せた事が、絵だけで表現されていました。




(追記)
『アウェイキング・Ⅲリーブス』のネーミングの元ネタがさっぱり分からなかったんですが……、他の方々の感想等を読んで「なるほど!」と思った事がありました。
「Ⅲリーブス」とは、「3枚の葉っぱ」。「三つ葉」=「密葉」なんですね。つまり、「目醒めし密葉」的な意味合いのネーミング?だとすると、洋楽由来ってワケではなく、純粋に荒木先生が命名したオリジナルのスタンド名なのかもしれませんな。でも、「いやいや、これが元ネタだよ!」っていうのをご存知の方がいらっしゃったら、是非とも教えてください。


●羽先生のスタンドについてあれこれ考えていて、ふと思い至った事がありました。もしかしたら、羽先生=「髪留め虫」なのかも……という説です。
羽先生は自分の肉体を「破片」にして、どこまでも小さく細かくなる事が出来ます。その姿は、かつて中学生の康穂を襲った、「髪留め」に擬態した「岩動物」(勝手に「髪留め虫」と呼んでます)がフケを作り出す様にもよく似ています。実際、今回の羽先生絡みのエピソードでは、康穂がやたらと「髪留め虫」を連想していましたし。
……で、肉体を「破片」にしてるんじゃなく、実は逆なんじゃないかと思ったんです。「破片」を寄せ集めて肉体にしているんじゃないか、と。「髪留め虫」は取り憑いた人間の体をどんどん乾燥させていき、カサカサカラカラの状態にしていきます。康穂もあのままだったら、フケどころか、死んでしまっていたはず。そして、全身が乾き切って崩壊し、「破片」と化していた事でしょう。最終的に「髪留め虫」は、その「破片」を大量に身に纏い、元の人物の肉体も記憶も知能も乗っ取って、その人物になりすましてしまうのです。そういうスタンド能力。康穂の記憶を読み取って、フケから父親の姿を作り出したのも、その能力の片鱗。
もしマジでそうだったとしたら……、吉良に踏み潰された「髪留め虫」は密かに生き長らえており、康穂の部屋からいつの間にか抜け出し(部屋にあるのは脱皮した「抜け殻」)、羽先生の原型となった人物に取り憑いていたのかも。つまり、康穂は「髪留め虫」の死骸を分析するために自宅に戻ったワケですが、その「本体」を発見できないまま生理で体調を崩し、大学病院を訪れたって事。そして奇しくも、羽先生=「髪留め虫」と再会。いや、それも含めて『ペイズリー・パーク』の導きなのかもしれません。どうあれ、康穂にとってこの戦いは、過去の因縁に決着を付けるチャンスでもあるのです。




(2018年10月19日)
(2018年10月21日:追記)




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