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強くて「生き残るもの」と弱くて「滅びるもの」
この2つ


#085 TG大学病院の院長 その②





●今回は、ついに平成最後の「ジョジョリオン」となります。トビラ絵は常敏のドアップ。ウルジャン移籍後の荒木先生の絵はやはり、陰影が美しいですね。ちょっぴりだけ舌をチロリと出してる口も大層セクシーでございます。
肩には、彼が大切に育てているヘラクレス・オオカブトも。ヘラクレスは世界最大のカブトムシですから、「強さ」にこだわる常敏にとっても愛着がありそうです。彼が求める「王者」の象徴みたいな存在なのかもしれませんね。


●誰もいない東方邸。シーンと静まり返っています。邸内を密葉さんが歩いていると、いきなり彼女の体を捕える男がッ!それは密葉さんの夫:常敏でした。
常敏は密葉さんのについて尋問。「その鼻にいくら使った?」「整形したろ?」と、問い詰めてきます。羽先生による「ロカカカ」治療に2億円も支払っている事がバレてしまったのかと、密葉さんはビックビク。いや、バレないと思う方がおかしいけどさ(笑)。ところが、常敏はそんな事などお構いなく、彼女の鼻をベタ褒め!カッコ良くてセクシーで、ヘラクレス・オオカブトみたいだと大ハシャギです。辛抱たまらず、常敏は密葉さんをお姫様だっこし、そのままベッド・イン!みんなが帰って来る前にイチャつき始めました。「その鼻でオレの色んな所つっついてくれ」って、何言い出してんだ(笑)。
実はこれが作中における、常敏と密葉さん夫婦の初会話シーン。それぞれに事情や思惑はあっても、お互いにちゃんと好き合ってるのが分かってホッとしました。鼻に対するリアクションは「毎日が夏休み」の常敏らしくて笑いましたが……、密葉さんからすれば、「等価交換」によって「失って」しまった部分。そんな彼女の「醜い」はずのところを、怒ったり嫌ったりするでもなく、見て見ぬフリをするでもなく、変な気を遣うでもなく、まるごと肯定して自然体で愛せるってのは素直にカッコイイ男だな。ただ、密葉さんは未だに妊娠の事実を家族には告げていないっぽいですね。治療の件で後ろめたさもあるだけに、言うタイミングがなかなか無かったんでしょうか?


●2人の話題は、息子のつるぎちゃんに関する話に。密葉さんは、つるぎちゃんが何か隠し事をしているように感じている模様。一緒に「新ロカカカ」を隠している常敏にとっては聞き捨てならない話ですが、密葉さんが言ってるのは昨日のミナちゃん事件の方でした。
つるぎちゃんを犯人呼ばわりする学校の連中に、密葉さんの怒りは収まりません。「悪役と生け贄が欲しくて 何でも雰囲気(ムード)だけで決めつけたがっている」「クソなヤツらよ」と、相変わらず辛辣(笑)。でも、実に的確な言葉ですね。そういうヤツらは今の世のみならず、いつの世にもいるんでしょうしね。……とは言え、ミナちゃん達が花都さんの事件を持ち出してつるぎちゃんを侮辱したってのが本当なら、つるぎちゃんには「動機」がある。「まさか」「ひょっとして」、密葉さんはそんな不安を抱いているようです。
それを聞いた常敏、切々と語り出しました。この世には「運」と「不運」、「善」と「悪」、「合法」と「違法」、そういったものが在る……と言われている。しかし、それらは錯覚に過ぎない。人間が集まって生活する事によって出来上がった社会の「勘違い」だ。全ての余計なものが取り払われ、人間単体の一対一になった時、そこに存在するのは「強さ」「弱さ」だけ。強くて生き残るものと、弱くて滅びるもの。この2つだけだ。―― そう語ります。
そして、つるぎちゃんはその事を理解している。しかも、もうすぐ「新ロカカカ」をゲットし、東方家はさらに強くなっていく。その「強さ」を手に入れるために……、気候や時代が変わろうと、社会のルールや法律が変わろうと、どんなに残酷な敵がやって来ようと、決して容赦はしない。だから、つるぎちゃんはくだらない動機で行動したりはしないし、そんなヒマも無い。ザックリ言うと、こういう事のようです。強い者がさらなる「強さ」を得ようという時に、弱い者の弱い言動なんぞにいちいち構ってられっかい。そういう事なんでしょう。
実に常敏らしい価値観です。その上、真実味も説得力もあって、何より凄みがある。彼の語る「錯覚」や「勘違い」もまた、我々人間を縛り付ける「呪い」の1つなのかもしれません。ただし、今までの「ジョジョ」で言うなら、この価値観は間違いなく「悪」。何を犠牲にしようが、とにかく強けりゃイイって考え方なんですから。もっとも、常敏は善悪すら超えた部分の話をしているワケで。しかし、それでも「善」である事を求め続けるのが「ジョジョ」でもあるワケで。この価値観を持つ常敏・花都さん・つるぎちゃんが、この物語でどのように扱われ、どんな結末を迎えるのか注目したいですね。


●結局、イチャイチャもそこそこに、常敏はベッドを後にします。すると、窓から外を見る密葉さんの目に、ある人物が映りました。それは……、TG大病院の院長:明負悟!一本松の根本に佇む院長の後ろ姿が見えたのです。もっとよく見るために窓を開けようとしますが、うっかり窓枠に指を引っ掛けてケガしちゃいました。気付くと、院長の姿はどこにも無い。一体、あそこで何をしていたのか?
バンソーコーをもらいに常敏専用の飼育室に入る密葉さん。常敏はヘラクレスをケースに戻しているところでしたが、その棚の中に「新ロカカカ」らしき鉢植えがあるじゃないですか!礼さんが枝に入れた虫の効能ゆえか、ほんの数日でエグい成長スピード。まだ果実こそ成ってはいませんけど、枝がめっちゃ育ってますよ。これがフェイクでもない限り、「新ロカカカ」は常敏の部屋か~。あまりに普通すぎて、逆にビックリ。疑ってた「杜王スタジアム」って線は薄そうだな。
バンソーコーを妻に渡す常敏、意味深に彼女を見つめています。密葉さんの鼻が整形じゃなく、「ロカカカ」による「等価交換」の結果である事に気付いているんでしょう。ってか、さすがに気付かなきゃウソだろって話(笑)。自分の知らぬところで「ロカカカ」や「岩人間」との因縁に巻き込まれてるであろう妻に、常敏は何を思い、どう接していくんでしょうか?また、密葉さんは密葉さんで、「新ロカカカ」の存在に気付きそう。その時、彼女は夫と息子の敵となるのか、味方となるのか?


●さて、場面は変わり、TG大病院へ。謎の院長を追う定助達!院長の後ろ姿に呼び掛けるも、何の反応も無し……。定助は近付こうとして走り出すのですが、両者を隔てるガラスドアがあり、それにモロぶつかってしまいました。すぐさま『ペイズリー・パーク』でロックを解除し、追跡を再開!ところが、今度は礼さんがロビーのイスにぶつかって転倒。何故か、まったく追い付けません。
待ち伏せしていたかと思えば、また逃げようとしている不可解な院長。しかし、礼さんは院長が黒幕と(勝手に)断定!院長であるなら、この病院の影の部分も仕切っているに違いない。羽先生、アーバン・ゲリラ、プアー・トムの「岩人間」3人を仕切り、「ロカカカ」の栽培を独占している。そして、ダモカンや夜露もこの組織構成の一部だ、と。まぁ、この院長がボスなのかどうかはともあれ、概ね礼さんが言ってる通りなんだろうとは思います。特に夜露は、定助が仗世文と吉良の融合体であるという事実を知りながら、ダモカンにはそれを伝えていなかったので……、院長サイドがダモカンチームに差し向けたスパイっていうか、見張り役だったんじゃないか、とも思うしね。それなりに大きく、細かいコミュニティなのかも。
定助達はロビーを回り込んで、院長を挟み撃ちにする作戦に出ました。でも、いつの間にか定助は指を負傷。さっきのドアかどっかで、小指をケガしちゃったようです。指のケガ、密葉さんとの共通点に何やら不吉な予感……。


●礼さんが左側から、定助&康穂が右側から回り込みます。期せずして2人きりになったからか、康穂は透龍くんとの関係について話してきます。前回、定助は透龍くんに対し、「わざと邪魔した」みたいな難癖を付けてしまったワケですが、「無関係だったね」と康穂に窘められちゃいました。さらに、「当時は大好きだったけど 今はもう何も想ってない」と断言。それより今は、「新ロカカカ」を見付け出し、自分自身のためにもホリーさんの役に立つ事こそが大切なのです。
定助も浅はかな自分の行動を恥じたのか、素直に「康穂ちゃんの事は何も疑ってないよ…」と答えます。そして、共に「新ロカカカ」を見付けるという目的を確認し合いました。まだお互いに微妙なしこりは残ってそうだけど、まずまずといったところです。うん、やっぱり話し合わなきゃね。
―― なんて事をやってたら、なんと礼さんと鉢合わせ!当の院長は、礼さんの後ろのエントランスから外に出ようとしていました。慌てて追い駆けるものの、今度は傘立てに激突!さっきから明らかに異様で異常です。不自然にぶつかり過ぎ。89歳の歩きなのに追い付けないのは、どうやらこの異常が原因っぽい。見失った院長を追跡すべく、エントランスの監視カメラに『ペイズリー・パーク』を侵入させます。そして、康穂は自分のスマホを定助に預け、そこに送った監視カメラの映像を確認するよう指示。テキパキしててカッコイイ。すっかりプロのスタンド使いの風格です。


●礼さんの後方をフラフラ歩いて去っていく院長の映像が映し出されました。「オレをマヌケみたいに言うな」と悔しがる礼さんにちょっと笑った。ただ、カメラの映像でもやっぱり院長の顔は見えず。別角度のカメラでも同様でした。
その時、康穂のスマホに着信が。それは透龍くんからの電話。康穂に伝えても、「後でかけ直す」とそっけない。電話は切れたけど伝言が入っており、どうしても気になるらしい定助は、こっそりそれを聞いてしまうのでした。「山の神々」も激怒確実のマナー違反!どうせ後々面倒な事になるだけなんだから、やめときゃいいのに……。透龍くんは、康穂への想いを告白していました。1年前に康穂から離れてしまった後悔、昔より強くなっている「好き」という気持ち、そして、出逢った時と同じに戻りたいという決心と誓い。純粋な想いを真っ直ぐに伝える透龍くん。思い出の写真を送るから、そこで会おうと言い残し、伝言は切れます。その写真とは、海辺のパラソルの下、透龍くんをひざ枕してあげてる康穂の写真。水着姿(?)の親密そうな2人。ネーミング的に「恋人岬」の可能性大?
なんか定助……、康穂にも知らせずに、1人で透龍くんに会いに行きそうですね~。ジェラシーに狂って、今度は何をしでかす事やら。康穂にバレちゃったら、絶対にタダじゃ済まないよ。盗み見なんて汚れたマネをしたからには自業自得ですが、ヒヤヒヤハラハラしてしまいます。


●定助の心に宿る仄暗い嫉妬の炎は、ひとまず置いといて……。『ペイズリー・パーク』でいくら調べても、カメラには院長は映っていませんでした。確かに外に出たはずなのに、どこにもいない。それだけに留まらず、礼さんにも異常発生です。なんと、いつの間にか両脚を大怪我!院長を追跡しながら、担架やらイスやら傘立てやらに次々とぶつかってしまった脚。ズタズタの血まみれになって、折れてる骨までチラ見えしちゃってるじゃないですか!今にも千切れそう。
もっとも、礼さんの場合、『ドギー・スタイル』で負傷部位を帯状にほどいて結び付ければ、応急手当は可能のはず。だから、あのケガ自体がスタンド能力で汚染されてたりしない限りは、そんなに心配はいらないと思います。とは言っても、めっちゃヤバい事態に変わりはありません。礼さんが言う通り、定助が目撃したスタンドによる「ぶつかる攻撃」なのでしょうか?―― 気になるところで、次号に続く。
院長の存在は、まるで生ける都市伝説ですね。正体不明でスッゲー不気味なのに、どこかワクワクさせられる。小説「岸辺露伴は叫ばない」に収録されてる短編「Blackstar.」のスパゲッティ・マンを思い出しましたよ。もしかすると、つるぎちゃんも野外活動中に院長の姿を度々目撃していたのかもしれません。で、帰って来てからも校門のそばで見掛けてしまい、身を隠そうとしたか追い駆けようとしたところ、鉄門に「ぶつかって」しまったとか。それがミナちゃんが挟まれるキッカケになってしまった、と。自分の意志じゃないけど、自分が原因の一端ではあるから、ごまかしも謝りもせずに黙っているんです。


●「明負 (あけふ)」=「AKEF」で、「FAKE (偽)」のアナグラム。「透龍 (とおる)」=「トゥルー」で、「TRUE (真)」のもじり。加えて、「とおるるるるるる」っていうドッピオの電話コール音も掛けてる……と仮定しときます。この2人の名前から、彼らが同一人物の別人格って説も考えられそうです。
89歳とは、実は透龍くんの年齢。「岩人間」としての89歳の姿が透龍くんで、「人間」としての89歳の姿が明負院長なのです。「岩人間」は推定寿命240歳なので、人間の3~4倍は長寿。だから89歳と言っても、「岩人間」的にはまだ20代そこらに相当するヤングマンです。(羽先生は実年齢は70歳くらいで、公的な人間年齢は33歳でしたが、戸籍を乗っ取った人間の年齢に合わせているのでしょう。たぶん、肉体そのものは20代レベルのはず。) 彼は「岩人間」と「人間」、両方の人生を歩む二重人格者。
彼のスタンド能力は、その時、裏に引っ込んでいる方の人格の「虚像」を創り出すのです。つまり、透龍くん人格が表に出ている時は院長の「虚像」が、院長人格が表に出ている時は透龍くんの「虚像」が出現する、という事。そんな身代わりを生み出す事で、自分の正体を守っているワケですね。同時に2人が存在しているなら、誰も同一人物などとは思いませんから。ひょっとすると睡眠期には、2人の「虚像」が一度に出て来たりするのかもしれません。人間社会に溶け込み、自分の存在を怪しまれないための能力。
通常、「虚像」は他人とごく普通に接する事が出来ますが、あくまで実在しない「影」に過ぎません。その姿は記録できないし、「虚像」と接した時の記憶も曖昧。ただし、敵意・害意好奇心・追求心を持って「虚像」を追跡する者は、決して「虚像」と接する事が出来なくなります。まるで警告のように、「虚像」の後ろ姿を見続けるだけ。向き合って顔を見る事すらも不可能。どんなに追跡しても、様々なトラブルに見舞われ、ひたすら拒絶・排除されるのみ。追跡を続ければ続けるほど、トラブルは大きくなって厄災となるのです。やがては大怪我、しまいには死さえあり得るでしょう。
―― というスタンド能力予想でした。正体を守る事に特化し、そのために認識や運命をも歪めているのかも。『バイツァ・ダスト』とか『チャリオッツ・レクイエム』とかにもイメージが重なりますね。


★今月は45ページ!それぞれのキャラクターがそれぞれの想いを持って関わり合う事でこそ、それぞれの個性も魅力も引き立つし、ドラマも生まれていきます。そういう意味で、今回もすんごい面白かった!羽先生戦でやっとこさ東方家も全員ちゃんと登場したワケで、しかも、定助の恋敵:透龍くんも出現したワケで……、今後はまさにその「関わり合い」がより深く描かれていくはずです。面白さがどんどん増していく中で、「ジョジョリオン」にはもう期待しかありません。次回も楽しみです。
作者コメントは「新元号おめでとうございます。荒木家も新しい墓石にします。」との事。「平成」という時代も残りあと僅か。新たな時代「令和」の幕開けです!昭和・平成・令和と、3つの時代をまたぐ作品となった「ジョジョ」。令和になっても、みんなでガンガン盛り上げていきましょう!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 5月号(2019年)
253ページ


今月は「弱肉強食」の理念を語る常敏の横顔。彼の覚悟と決意の「強さ」が描かれた1コマです。暗闇の中を進みながらも、一条の光が「道」を照らし出してくれる事を確信している表情に見えました。迷いの無さがビンビン伝わる、最高にカッコイイ絵です。ついさっきまで嫁の鼻に興奮して、ベッドでイチャコラしてた男とはとても思えません(笑)。




(2019年4月19日)




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