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それだけが オレの『存在の証明』だ…


#090 危険な追跡 その②





●今回のトビラ絵は、『ソフト&ウェット』でオラオララッシュをかます定助。まるで作中の1コマのような絵になっていますね。
思えば、少年漫画だった3~6部の頃とは違い、今は「ラッシュでとどめ!」なんてバトルはとんと描かれなくなりました。それも良し悪しだし、好き嫌いもあるでしょうけど……、わざわざトビラ絵で描くって事は、やっぱ本編ではあんまり描くつもりはないって事なのかもしれません。


院長のスタンド能力が再発動し、降り注ぐ雨粒が「激突」する事態に!ゲリラ豪雨などが続くこの頃なだけに、雨が凶器ってシチュエーションはリアルで恐ろしい。たまらずパトカー内に逃げ込む定助&礼さん。一度、このスタンドのターゲットに設定されてしまうと、どこまで遠くに行こうがどれだけ時間が過ぎようが、院長への「追跡の意志」を持ってしまえば即時発動ッ!恐るべき持続力を誇る能力です。院長を追う事も、近付く事も、そうしようと思う事さえも許されなくなる無敵の能力です。逃れるには、全てを諦める以外に無い……?
すぐにパトカーから降りるよう、警官達が2人に迫ります。礼さんはいつもの調子で冷淡に拒否するものの、警官達は余計にヒートアップ!……すると、おもむろに定助が礼さんに語り始めました。自分の名前は「東方定助」だが、これは憲助さんが一時的に付けてくれただけのもの。誰の記憶の中にも、この世のあらゆる場所を調べ回っても、「東方定助」の記録はどこにも無い。自分の半身「空条仗世文」にしても、誰も捜してはいないし、もし母親と出会ったとしても気付けもしない。どこまでいってもオレはあいまいで消えた存在。なんとも切ない言葉です。
しかし、これは自分を卑下する発言ではありませんでした。何も無い自分だから……、もう1人の半身「吉良吉影」のために、その母親:ホリーさんのために、「新ロカカカ」を手に入れる。それだけが自分の「存在の証明」だという、決意表明だったのです。かつての自分が空条仗世文であり、吉良吉影であった証し。東方定助として、その2人の命と意志を受け継いでいる証し。自分とこの世界を結ぶ、たった1つの「証し」。この悲壮なる覚悟が美しく、また哀しいなぁ。


●定助は「院長を追うのはオレだけ」「あんたは追わない」「援護は頼む」と言い残し、1人、パトカーから降りてしまいました。雨粒が定助の脚を貫くッ!礼さんの必死の制止やガードも虚しく、定助は進みながら胴体も顔面も貫かれ、重傷を負ってついにダウン。何故か急にブッ倒れた定助に、警官達も混乱しきり。大慌ての礼さん、救急車を呼ぶよう叫ぶ!それにしても、あのクールな礼さんをここまで焦らせるとは、定助もなかなかやるな……(笑)。それだけ仲間としての関係も深まったって事なんでしょうしね。
定助の救援を優先した結果、院長への「追跡の意志」は消え、礼さんに対する「激突」も収まった模様。雨に打たれても平気になっています。やはり「意志」を持つ事そのものが、このスタンドのスイッチである事は間違いない。
―― かくして礼さんは逮捕され、留置所送り。定助は救急車でTG大学病院に運ばれ、治療を受ける事に。そう、これこそが定助の狙い。あえて攻撃を受けて負傷する事で、まんまと院長に近付く事に成功したのです。気を失ってしまえば、当然「追跡の意志」も何も無い。安全に、自動的に、病院まで自分を運んでもらえるって寸法です。どこを調べても過去の情報など出て来ない定助ならば、時間稼ぎも可能。……にしたって、もし脳天に雨粒が直撃しようもんなら即死ですからね。危険すぎる賭けでした。1人っきりですべてを背負い、決着をつけるために身を挺して戦う定助の姿は、まさしく孤独なヒーロー!


●ここでちょいと気になったのが、院長の講演についての新聞記事。ついさっき、定助も「明日!講演があるという…」って言ってたにも関わらず、新たに描かれた記事の内容を読むと「本日より 2日間」って書いてるじゃないですか。
単純なミスか、それとも設定変更なのか?あるいは、これすらも実は意図がある描写とでも言うんでしょうか?もしも院長か、他の何者かのスタンド能力に関わる描写であるとしたなら……、様々な「事実」が同時に混在する世界に変える能力、世界を「混沌(カオス)」と化す能力、世界を「編集」「合成」する能力……とかだったりするかも。いろんな意味で反則的ですが、一見ツジツマが合わないように感じたシーンなども、この能力でどうとでもなっちゃいますね。


●場面は替わり、時間もやや戻って、康穂と透龍くん。康穂の家の前と思われる階段に2人腰掛け、透龍くんは何やら昔の想い出語り。以前、ペルセウス座の方角の空に月と水星が並んだ時、2人はこの階段で同じように座っていたらしい。するとその時、康穂が空を見ながらこう話したと言うのです。
「電気ってはみ出して空を飛べるんだよ」 「電線に穴が開いてなくてもね」 ……と。「あそこの電柱から隣の家まで行けるんだよ」と。
康穂自身もまったく憶えていないこの発言を聞き、透龍くんはアイディアを閃いたようなのです。それは、ワイヤレスのスマホ充電器のアイディア。APPLe(アップル)にもHuawei(ファーウェイ)にもSoftBANK(ソフトバンク)にも話を持ち掛け、特許の申請もしたようなのですが、残念ながらひと足遅かった。世界中には同時に同じ事を考えている人がたくさんいたらしく、透龍くんはせっかくのチャンスを逃してしまったのでした。当時の彼は、将来への「不安」と自分への「怒り」でいっぱいになり、何も考えられなくなって康穂の前からも消えてしまったのだと。
どこまで本当か分かりませんけど、不思議なエピソードですね。もしかしたら、この話をヒントに、『ペイズリー・パーク』がより自由自在にあちこちを移動できるようになるのかもしれません。今は物体・導体を伝って「物質世界」内を移動してるっぽい感じですが、ゆくゆくは電磁波なんかに乗っかって空間を高速移動できるように成長するのかもしれません。むしろ、『ペイズリー・パーク』が自分の能力を有効に使える社会に発展してもらえるよう、いろんな人に閃きとアイディアを与え、導いている可能性さえあります。何気ない康穂の発言も、彼女の中に宿る『ペイズリー・パーク』自身が、康穂に無意識的に言わせたものだったりして。だとしたら、『ペイズリー・パーク』はもう神様に近いな(汗)。


●透龍くんは康穂を「女神」だと思っていたはずなのに、それも忘れて、彼女の前から去ってしまった。その事を彼女に謝り、以前の幸せだった頃の関係に戻りたいと、跪いて求愛。チャンスの女神に後ろ髪は無い、と言われています。かつてチャンスを逃してしまった透龍くんは、今度こそ女神の前髪を掴もうとするかの如く、康穂に真っ正面から向き合って語っていました。自分達の関係を月と水星に例えたり、とにかく透龍くんってばロマンティックだな。こりゃあ、ヨリを戻しちゃってもおかしくない。
とは言え、今の康穂はそれどころじゃないのです。数分前にコンビニで買い物する礼さんを発見したという、『ペイズリー・パーク』からの報告ありッ!買い物の後、礼さんの姿が見えなくなった事から、カメラよりも高い位置を移動しているであろう事に気付き、樹の上に隠れているのではと推測。相変わらず鋭いな。「あたしに自分たちを探せといっておきながら… 身を隠すにも程がある」って、ちょっとムッとしてるのも可愛らしいです(笑)。


●透龍くんは康穂と定助の事を心配し、全力で手伝いたいと言ってくれます。そして、康穂達が院長を捜しているのなら、会えるように出来るかもと言うのです。一緒に撮った写真も持っているらしく、見せてくれるとか!マジかよ!病院でバイトする透龍くんにとっては雇い主なので、接点もあった模様。
透龍くんと一緒の写真は失くしちゃったようで、康穂も一瞬ガッカリしますが、本当にちゃんとありました!それを見てビックリ。院長の顔がしっかりと写っているじゃありませんか。顔中に刻まれた細かいシワ、トゲトゲしいヒゲとモミアゲ、片眼鏡を装着した右目、鋭い目付き、不敵な笑みを浮かべる口もと。あの謎のスタンドのように、闇を纏う姿。何とも形容し難い不気味な空気を纏った男です。直感が警鐘を鳴らすヤバさがあるな。もっとも、この人物が本当に院長である証拠はどこにもありませんが……。さらに衝撃なのは、その院長と一緒に写っている人物。それはなんと、東方密葉さん!彼女は車椅子に乗っているので、恐らく羽先生に「ラボ」に連れて行かれる前後に撮られたものでしょう。ただし、密葉さん自身は、院長について「遠くからのお見かけだった」と話していた以上、この時の記憶は混濁して曖昧になっているはず。
そもそも、どうして透龍くんがこんな写真を持っているのでしょうか?たまたま院長と密葉さんに出くわして撮ってあげた?あり得なくはないけど、やっぱ怪しさMAXです。彼も「岩人間」の一味なのか?彼自身が明負院長と同一人物だったりするのか?もし院長サイドの敵だったなら、そして時系列的に矛盾がないのなら、ホリーさんから「ラボ」を奪ったのも透龍くんかもしれません。かつての苦い経験から、チャンスは奪い取ってでも掴み取るという姿勢に変わったのかも。
―― ともあれ、この写真の存在に驚愕する康穂。その時、空からは雨粒が降ってきました。「新ロカカカ」収穫まで、あと48時間 ―


●唐突ですが、透龍くんの奇妙なファッションについて深読みしてみました。思うに、彼のファッションは「生命」「エデンの園」がモチーフになっているのではないでしょうか。
植物柄のパンツはそのまんま「植物」を、両肩のクマさんっぽいぬいぐるみは「動物」もしくは「アダムとイヴ」を意味しています。右胸部分の「S」字+丸にギザギザは、イヴをそそのかしたとされる「蛇」と禁断の果実「知恵の実」。ちなみに、「蛇」は医療のシンボルでもありますね。で、彼のモコモコのヘアースタイルは「樹木」。髪にある2本のグルグルは、「生命の樹」「知恵の樹」という2本の樹を暗示しているのかもしれません。
カラーリングを見てみると、全身っぽくて、白基調の定助とは対照的。透龍くんという存在が、康穂=イヴにとって、「アダム」となるのか「蛇」となるのか要注目です。


★今月も35ページ!先月に続いて減ページでした。それは残念ではありますが、話はけっこう進展しました。康穂がいよいよ本格的に動いてくれそうです。
さて、私なりに院長のスタンド攻略法を考えてみたところ、大弥ちゃんの協力が欲しいという結果に。「院長に関する記憶」を、『カリフォルニア・キング・ベッド』で奪ってもらえば良いのです!そうすりゃ、院長への「追跡の意志」なんて持ちようもなくなる。大弥ちゃんにはあらかじめ、「オレからTG大学病院についての一切の記憶を奪ってくれ」「その後、記念堂まで連れて行ってくれ」「講演が始まったら記憶を戻してくれ」とだけ頼んでおくワケです。壇上脇のどっかに隠れて待ち続け、記憶が戻った時には、もう院長は目の前。素顔くらいは生で拝めるはず。うまく行きゃ、そのまま彼本体をブッ倒せるかも!院内を見張る警官や医者から「定助に関する記憶」を奪ってしまえば、追っ手もそうそう来ないでしょうし。ただ、大弥ちゃんを巻き込んじゃうのはよろしくないか。
作者コメントは「今年はブヨにとにかくやられた。短パンで山行っちゃったから…。」との事。ブヨって痒みや腫れがスゴいみたいなので心配ですね~。荒木先生にはずっと健康でいてほしいものです。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 10月号(2019年)
309ページ


今月は、定助&礼さんをパトカーから降ろそうと群がる警官達のコマ。一目瞭然ですが、俯瞰で描かれた絵です。上から見下ろすと、いかに定助達が追い詰められちゃっているのかがよ~く分かる。
そして、このコマに限った事ではないんですが、降りしきる雨自体が効果線の役割も果たしてくれている点にも注目です。いや、効果線が同時に雨そのものとしても描かれている、と言った方が正確なんでしょうか?まぁ、とにかく、雨の勢いがそのままストーリーの勢いにも繋がってるという意味でも、このコマは好きですね。雨のジトジト陰鬱なムードも加味され、不吉さやサスペンスに満ちてます。




(2019年9月19日)




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