TOP  <<#093 戻る #095>>



連続して ぶつかって来るみたいに…
これは「厄災」…


#094 危険な追跡 その⑥





●今回のトビラ絵は、『ペイズリー・パーク』のドアップ。顔はコミックス冒頭の杜王町マップになってますね。この小さな町の中に、それぞれの立場で、それぞれの過去や想いを抱え、それぞれの願いのために人々が生きている。そんな孤独な人々が紡ぎ出す物語は、いよいよ佳境に近付き、1つの答えに向かって結実しようとしていますッ!その行き先に希望はあるか ――
単純に絵として見ると、『ペイズリー・パーク』の左目が気になりました。いつも「P」の記号になっているけど、ここまでちゃんと眼球っぽく描かれるのって初めてかも。「あぁ、目が「P」に変化してるんだ」と、なんかしみじみ感じちゃいました(笑)。それだけ。


●常敏により、潜んでいるスマホごとトイレに沈められた『ペイズリー・パーク』!康穂、大ピンチ!当の常敏は、もはや康穂など眼中にも無く、つるぎちゃんに向かって静かに語り始めます。
「新ロカカカ」収穫は、今日の日没前。東方家は輝き続け、さらに繁栄していく。一本松の木の下にあった祠の穴の場所、「壁の目」でも特別な場所……、憲助さんはその場所でつるぎちゃんの「病気」を自分に「交換」する決心をしているけれど、もうそんな事をする必要はない。これからもずっと、この家の誰も犠牲になる必要はない。そう語ります。常敏の願いはやっぱり、家族の誰も犠牲にせずに「石化病」を克服する事にあったんですね。意見が対立する父さえも含めて。全ては、家族のみんなを大切に想うがゆえの行動。常敏自身の口からハッキリ明確にこの目的が語られたのは、これが初めてですよね。
ただ……、「新ロカカカ」にそこまでのパワーがあるのかどうかはちょっと疑問です。以前も書いたけど、「新ロカカカ」と「壁の目」の効力って、実質同じですからね。自分と他者との間での「等価交換」。だったら、家族以外の他人を犠牲にすりゃあ、今まで通り「壁の目」を使えば済む話。常敏の「石化病」を治すため、花都さんがエロガキを犠牲にした時のように。だから現状、「新ロカカカ」が無くたって大した違いもないはずなんですよ。にも関わらず、あれほど求めているって事は、「新ロカカカ」に「壁の目」を超える可能性を感じているって事なんでしょうか?「新ロカカカ」収穫は単なる足掛かりで、それを研究・分析して、もっと強いパワーを持つ果実に改良しようとしてるのかな?それこそ、ラボで羽先生が言ってた「ウイルスそのものをも退治できる力」を持つ果実を作り、東方家から「石化病」を根絶しようとしている?そこらへんの考えや見通しもぜひ語ってほしいところ。


●自分達には宿命があるだけ。康穂の事はただの事故。つるぎちゃんは何も悪くないし、全ては夏休みのように幸福で輝いている。「オレ達が勝つんだ」。康穂を救いたがっているつるぎちゃんに言い聞かせるように、常敏はそう宣言!王たる者が、つまらない善悪になど縛られていてはいけないし、罪を感じる必要も無い。多分、そういう事なんでしょう。深い家族愛ゆえのドス黒いエゴとプライド、実に常敏らしいよな。そこが好きよ。
一方、トイレに水没する『ペイズリー・パーク』は必死に手を伸ばすも、どこにも届きません。虚しく水滴が飛び散るのみ。このままスマホの内部まで完全に水没したら、康穂は溺れ死ぬ。かと言って、電波が遮断された今、スマホから脱出したら『ペイズリー・パーク』は存在が保てず、バラバラに崩壊して消滅。どっちにしても、待っているのはもはや死だけです。東方邸の防犯カメラに自分を映して必死に助けを乞い、東方家の誰かに気付いてもらう事を祈るほかありません。
……すると、カメラ映像の前をちょうど通り掛かったのが密葉さん!「病気」で苦しむつるぎちゃんのために康穂が来てくれたものと思い、彼女の危機を救う決断ッ!実際は「新ロカカカ」探索が目的で、発病したつるぎちゃんは偶然見付けただけなんだけど、結果オーライ。ピンチの時に誰かが助けに来る展開であっても、都合良く唐突にではなく、ちゃんと助けが来る必然性や脈絡を描くのが荒木先生流ですね。


●つるぎちゃんのために康穂が追い詰められているのだとすれば、つるぎちゃんに会えば理由が分かるはず。そう判断したのか、密葉さんは迷わず息子の元へ!そこには、ただならぬ様子の息子と、冷酷な表情を浮かべる夫の姿。そして、トイレからは助けを求める『ペイズリー・パーク』=康穂の声!
スマホをトイレから拾い上げようとすると、常敏がそれを淡々と諫めます。「おまえはドアを閉めて………」「部屋から外へ出ていろ」、と。さらに、クワガタ虫の部屋にあるあれのために起こった事なのかと問い質す密葉さんに、常敏は「それを声にするな…」と警告。クワガタ虫の部屋にあるあれ……、即ち「新ロカカカ」。ここで密葉さんが声に出した事で、これから事態は急変していくのです。康穂にも聞こえた、というだけではなく。もっとヤバい事態が……。
それは一旦さて置いて、密葉さんは常敏に嘆願します。康穂は病院で自分を助けてくれた恩人で友達だから、助けてあげてほしいと。東方家の味方なんだと。「新ロカカカ」の件も含め、夫に秘密にしておきたい事までぶっちゃけての懇願!しかし、常敏は聞く耳持たず、決して許可しません。彼はすでに後戻りなど出来ない道を歩いているのです。なにせ、「新ロカカカ」のために殺人まで犯してるワケですからね。常敏の覚悟もハンパない。


●夫の命令か、康穂の生命か、密葉さんに迫られる選択。う~ん、ドキドキするなぁ。その時、トイレの窓からチラリと見えたものは……、なんと明負院長ッ!塀の上に立って佇む院長の姿!同時に、康穂も院長に気付きました。うおお……、ここで来やがったか。恐らく、密葉さんがさっき「新ロカカカ」の在り処を声に出してしまったから、院長が現れたんだろうと思います。しかし、病院で待ち受ける定助と戦う事なく現れたのだとしたら、さすがに定助の立場がないだろ。やっぱ院長は「実在の人物」というよりかは、「現象の擬人化」みたいな存在なのかな?だから、いつだろうとどこだろうと現れる?
角度の問題か、条件の問題なのか、常敏には院長の姿が確認できていない様子。妻が何を見ているのか不思議がっています。すると、密葉さんは突然、夫と息子に「愛してるわ」と告げ、トイレのフタを閉めてしまいました!何ーッ!?こんな流れなら、てっきり康穂を救う方を選ぶと思ったのに。院長による害が愛する家族に及ばぬよう、康穂を切り捨てるとは。でも、確固たる絆で結ばれた仲間やチームではなく、それぞれが孤独だからこそ描けるリアルな「裏切り」と言えるかもしれません。こういう人間模様こそ「ジョジョリオン」ならではの魅力。
密葉さんに見捨てられた康穂。ずっと後ろ姿だった院長が、無言のまま康穂の方に振り向きます。 次の瞬間、康穂は足を滑らせ、塀から転がり落ちてしまいました。なんと、落下の際に強打した右腕が切断されてしまったじゃありませんか!『ペイズリー・パーク』と共に康穂自身の肉体も崩壊しかけて脆くなっていたんでしょうが、これにはさすがに私も読んでてビックリして「えっ!?」って声を出しちゃいましたよ。辺りに響く、康穂の悲痛な絶叫!消え入りそうな、定助の名を呼ぶ声。正真正銘、康穂最大の危機です。どうすんだ?


●院長の姿は、塀から焼失した果樹園の方へと飛び降りるかのように消えてしまいます。常敏が窓を覗いても、すでに誰もいない。状況が理解できない夫に、密葉さんが院長について話し始めます。印象的なのが、「あれは「災い」なのよ」という言葉。あの院長の姿は「厄災」であり、「悪事」であり、「不幸」である。なんと言うか……、「震災」を扱うこの作品に、「災害」そのものとも呼べる存在が現れたって事実が意味深ですよ。やっぱ「現象の擬人化」ってのは、あながち間違いじゃないのかもしれません。
そして密葉さんは、『アウェイキング・Ⅲリーブス』の「矢印」をトイレ内の『ペイズリー・パーク』に向ける!家族にぶつかって来るモノは全て、下水から外に流し出す!冷徹な眼で「流れて消えろッ!」と言い放つ密葉さんですが……、ここはちょっと、裏切ったフリして康穂を助けようとしてくれてる風にも見えますよね。トイレから追い出せば『ペイズリー・パーク』は元に戻るし、康穂の傷付いた体も一緒に治るかも。ただ、今は密葉さんの真意は謎のまま。
「矢印」発動直前、さっき『ペイズリー・パーク』が飛び散らせた水滴が密葉さんの手に落下。水滴は「激突」し、彼女の手を貫通ッ!さらに、「激突」に「矢印」のパワーも加わって、もの凄い勢いで水滴が壁に飛ばされる!これ、「矢印」自体が飛ばされたと最初は思ってたけど……、「矢印」は2個しか出してないっぽいし、他の描写やセリフからも判断するに、水滴が「矢」のように飛んで行ったって解釈でイイんでしょうか?ともあれ、「何か」がぶつかった衝撃で壁は破壊されました!院長の能力はまだまだ終わらない。


●大きな破壊音に驚いた常秀・鳩ねーちゃん・大弥ちゃん、そして憲助さんが、常敏の部屋へ集合。壊された壁の向こうには……、倒れた鉢植えが1つ。そう、それは「新ロカカカ」!恐らく、院長が能力を操作して、壁をブッ壊したんでしょう。「新ロカカカ」の在り処が分かったんだから、そりゃあこうなりますよね。その結果、ついに白日の下に晒されました。家族に存在を知られ、事態はいよいよ風雲急を告げる!これで全員が当事者。東方家にとって、かつてない重大な岐路ですね。
「新ロカカカ」はすでにいくつか果実を付けていますが、その形は今までの「ロカカカ」とはまるで異なるものでした。仗世文が吉良に食わせた果実ともまったく違うので、ひょっとするとその効力も違ったりするんでしょうか?まさか、サボテンに接ぎ木したために、偶発的に「ウイルスそのものをも退治できる力」を持つ果実に生長している可能性もあるのか?だとしたら、ますます争奪戦は激化!状況は混乱の一途を辿りかねません。
虹村さんカレラなんかも全然出て来ないし、ここらで再登場して、場を荒らしちゃっても面白いかも。いや、虹村さんは吉良の妹なんだから、むしろ病院にいる定助サイドに現れるかな?定助のピンチを、スタンドのバイクに乗って助けてくれたらカッコ良さそう。


★今月は41ページ!先月よりは増えたものの、やや少なめのページ数。しかし、内容はマジ最高でした。東方家が濃密に描かれてて、めっちゃ面白いな!誰がどんな反応・行動を取るのか、先の読めない感じがワクワクします。
作者コメントは「謹賀新年。オリパラの前にJOJO展長崎と金沢があります。皆さま宜しくお願い致します。そして「ジョジョリオン」ね。」との事。今年2020年もいろんなイベント目白押し!ご存じ、東京オリンピック&パラリンピックの開催に先駆けて、荒木先生がパラリンピックの公式ポスターイラストを描き下ろしてくださいました。その名も「神奈川沖浪裏上空」!日本とパラリンピック、双方へのリスペクトに溢れた素晴らしい絵でした。長崎と金沢での原画展も間近に迫っています。きっとまた、(私も含め)多くの人達が先生の絵に魅了され、幸せな気持ちに満たされる事でしょう。
そして、忘れちゃいけない「ジョジョリオン」!漫画家:荒木飛呂彦先生にとっての本業です。かなりクライマックスを迎えつつある展開で、今年はどんどんますます盛り上がっていく事間違い無し。ホント楽しみ……なんですが、なんと来月は休載ッ!何かとお忙しい中でしょうから仕方ないとは言え、やはり残念です。まぁ、私の勝手な予測だと、完結までもう3~5年くらい掛かると見てますんで。どんなに早くても2年ってトコかな。結果を急ぎすぎず、ゆったりどっしり構えて待ちましょう。もしかすると、2020年にちなんだテーマの、「岸辺露伴は動かない」新作とか何らかの読み切りを執筆されているのかもしれませんしね。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 2月号(2020年)
262ページ


今月は、右腕が切断された康穂のコマ。右腕がけっこうな距離を置かれて描かれてて、切り離されたっていう事実が視覚的にも伝わるショッキングな絵です。集中線とかで強調されているワケでもなく、ただありのままに俯瞰で……というのがまたリアリティがあって痛々しい。定助でも透龍くんでも常秀でもいいから、早く彼女を助けてやってほしい。そんな気持ちになりました。




(2020年1月18日)




TOP  <<#093 戻る #095>>

inserted by FC2 system