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「因果」のつながりなんだよ
永遠に続くんだ


#096 終わりなき厄災 その②





●今月は「ジョジョリオン」がウルジャンの表紙を飾ってくれました。例によって、同日発売のコミックス23巻カバーイラストの連作です。
画面の中央に立つ定助。服のあちこちに、『ソフト&ウェット』の頭部のチャームが何個も付けられていますね。そして、指先には「しゃぼん玉」。そんな定助が見据えるのは、背景に浮かぶ無数の院長の後ろ姿!「わたしを捕まえてみろ。出来るものならな。」と言わんばかり。マグリットの作品「ゴルコンダ」を思わせる、なんとも奇妙な光景です。
定助のピンクと背景の水色は、荒木先生の必殺技とも言える組み合わせ。桜の季節にピッタリなカラーリングですね。緊迫する場面でありながらも、日本人の心にほっこり来る1枚に仕上がりました。


●今回のトビラ絵は、今月のウルジャン表紙や23巻カバーの連作に位置し、背景のみが描かれています。杜王町の空中に浮かぶ無数の院長。
この町を埋め尽くし、この世を覆い尽くさんとする「禍い」。場所がどこであろうと、時がいつであろうと、当たり前に存在する「危険」。そう考えると、世界中が新型コロナウイルスの厄災に包まれている今、ことさらにリアルに感じられてしまいます。まさかこんな事になるなんてなぁ……。


●冒頭は、見慣れぬ建物から。誰もいない無機質な廊下には、いくつもドアが並んでおり、そのドアの向こうにいた人物は……、豆銑礼さんッ!ここは留置場でした。ここにブチ込まれた経緯を、相部屋の青年に説明しているみたいですが、青年は神経質なのかイライラしまくり。しかも、何やら咳込んで震えていて、体調は良くなさそう。
院長の能力によって起こる「禍い」に礼さんが襲われるのなら、彼のそばにいる以上、この青年も巻き込まれて影響を受けてしまう。だからなのか、この「禍い」についても、懇切丁寧に解説。証拠品保管所から盗んできたスマホと包丁を取り出し、鉄格子の窓の外へと視線を向けます。礼さんの目には院長の後ろ姿が見えますが、青年には見えていない様子。礼さんの言葉を要約すると、院長の姿は「厄災のエネルギー」であり、後悔しようと反省しようと、どんな努力をしようと、院長を追う限りはずっと憑いて回る……との事。実際、礼さんが院長の顔を見ようと立ち上がるだけで、コップは倒れて水が飛び散り、照明が割れて、その破片が礼さんに降り注ぎました。
そして、この「禍い」とは「因果応報」。他人や社会と関わってきた事、自分が今までしてきた事全てが、「厄災のエネルギー」になるらしい。礼さん、今度はスマホで誰かに院長の事を伝えようとすると、給食の魚フライがバリバリ裂け、中から生きたネズミとウジ虫が登場!こんな物を食おうもんなら、確実に病気になって数年もしたら死んでしまうでしょう。見えない「因果」が巡り巡って、「禍い」となって自分に激突して来る。犯した「罪」が重ければ重いほど、「罰」もまた重くなる。他者とのあらゆる「繋がり」が「呪い」になる。……だとしたら、誰もが無関係ではないし、これほど厄介なスタンド能力も無いですね。


●スマホで院長の姿を写メってみる礼さん。すると、青年にも院長が見え始めた模様。このスマホは彼の物らしく、これで院長と彼の「繋がり」が強くなってしまったため、見えるようになったって事なのかな。
さらに、スマホから別の写真も見付かりました。それは血塗れのバス停と包丁、そして、倒れてうずくまる人達の凄惨な写真。それを見た青年は突然、包丁を持って絶叫ッ!スクールバス待ちの小学生達を包丁で死傷させた事件があり、その犯人こそが青年だったのです!「写真はもっと続くぞ」 「「因果」のつながりなんだよ」 「永遠に続くんだ」という礼さんのセリフからして、青年が自分の犯行を撮影した写真ってワケでもなさげ。院長の能力による影響で、過去の「罪」が今の「罰」となって返って来て、映像として見せ付けられている……とかか?
恐らく、誰にも見られたくない、誰にもほじくり返されたくない部分を思いっきり抉られたせいで、青年はキレちゃったんでしょう。こんなとんでもない罪を犯しといて、「自分は悪くない」「自分は何もしていない」って必死に思い込もうとしてそうだもんな。興奮し激昂した彼は礼さんに襲い掛かりますが、次の瞬間、なんと自分自身の首をメッタ刺し!包丁が彼に「激突」したってところかな。院長の姿が見えた時点で、彼も「禍い」の対象になっちゃってるんでしょうしね。瀕死となった彼は、すぐに救急車で病院行き。そして、礼さんはこれを待っていたのです。全身を「紐」状に解体して、青年の服の中に潜り込む。全身「糸」化でエルメェスの体内に避難した徐倫よろしく、礼さんはまんまと留置場を脱出!見事、TG大病院に到着!こんなエグい手を狙っていたとは。自分が認めた相手以外にはトコトン冷酷な人だな(笑)。
さあ、このまま無事に定助と合流なるか?未だ院長の姿は見え続け、攻撃も続いている。あの院長の姿はスタンド。この自動追尾のエネルギーには本体がいる。きっと、ロボットみたいなヴィジョンがスタンドそのもので、院長の姿はスタンド能力が見せる「厄災」のイメージ的映像ってとこなんでしょうね。ミニチュア・ハウスがスタンドで、不気味なヴィジョンはただの映像だった『オゾン・ベイビー』に似てます。この恐るべきスタンドの本体とは、一体何者なのか?どこに隠れて潜んでいるのか?


●場面は変わり、東方邸の外にいる満身創痍の康穂。見え続ける院長の姿は、ガレージの車の影へと移動するものの、「厄災」が収まる事はありません。『ペイズリー・パーク』ですら、定助のところへ行けず、礼さんを探し出す事も出来なかったのです。きっと院長の「禍い」によって阻害されているんでしょう。「因果」が邪魔をして、情報を伝える事も出来ない。
そんな中、唯一連絡が付いた相手は……、透龍くんでした!康穂は必死に、透龍くんに助けを求めます。彼女の声にしばし沈黙する透龍くんの、感情がまるで読み取れない瞳。う~ん、やっぱり露骨に怪しいヤツなんだよなぁ~。元カノがピンチだっつーのに、やけに冷静で、のんきにハンバーガー食ってるしさ。「岩人間」の追っ手を警戒してか、康穂は救急車を断固拒否。それよりも、負傷を治せる方法があるから手に入れたい、と懇願します。「新ロカカカ」を狙うつもりなんでしょうね。この「治せる」というワードにも透龍くんは反応。いよいよ院長の本体であり「岩人間」の一味……という線が濃厚になってきた。ただ、講演を行った院長はみんなに目撃されているのだから、実在してるんですよね。透龍くんの別人格か、透龍くんがなりすましているだけか、はたまた、本当は存在しないのに実在するように認識が狂わされているのか。謎だ。
透龍くんも直ちに東方邸へと向かいます。病院と東方邸、役者はそこに集いつつあるッ!これが最終決戦とは思ってませんが、大きな節目・転換期となる1つのクライマックスが近付いている感じはビンビンしますね。


●お次は、東方邸内の常敏達。康穂に逃げられた怒りで、スマホを踏み付けまくって破壊してます。いや、まぁ……、ただ怒り狂ってるんじゃなく、『ペイズリー・パーク』の媒介を減らすという、意味ある行動でもあるんだろうけど。常敏は家族に宣言します。康穂に逃げられた以上、「新ロカカカ」の情報が漏洩し、これから何者かが奪いに来る。定助も康穂も含め、あらゆる敵から「新ロカカカ」を守る、と。
しかし、みんなは父:憲助さんが倒れた事で、それどころじゃありません。ところが、ここで常敏から意外な発言が。てっきり殺意を持って父を攻撃したものと思いきや、「父さんも死なせたりはしない」と言うのです。なぬっ!?憲助さん、まだ生きてるの!?その割に顔面までシーツで包んじゃってるけど。あと3時間で収穫できる「新ロカカカ」で助ける気なんでしょうか?複数の「果実」が収穫できる予定だから、1つはつるぎちゃんに、1つは憲助さんに使おうというのかな。家族にだけは非情になり切れない、愛と業が深い男。弟妹に協力させるためについた嘘じゃない事を祈りますよ、マジ。
憲助さんは2階に移動させ、「新ロカカカ」も別の場所に隠す事に。その時、つるぎちゃんが全身の「折り紙」化から元に戻った……と思ったのも束の間、体中がヒビ割れて血が噴き出します。あと3時間も命が持つのかも分からない、いろんなタイムリミットが迫る危機的状況!


●つるぎちゃんを看病する密葉さんに、この部屋の前の廊下を院長が通り過ぎていく姿が見えました。ついに家の中にまで入って来た!ペン入れがパタンと倒れたと思ったら、そのそばにあるパソコンのディスプレイに院長が映り込む。さらに、本棚のガラス戸の映り込みにまで移動し、そのままトイレへ続く廊下に現れます。この一連の院長移動シーンは、いかにも「ジョジョ」らしい奇妙な画面でたまりませんね!
院長はなおもグルッと部屋の外を回り込み、移動し続けます。靴音だけが不気味に響く。この院長のスタンド攻撃は、存在不明だった「新ロカカカ」の位置をあぶり出すために続いていたワケです。そして、関わる者全員を自爆・自滅させるために。……院長の姿が窓の外に見えたかと思えば、ベッド脇の写真立てが倒れ、そこに院長が映り込みます。で、今度はベッドのシーツの中に潜り込み、こちらにどんどん近付いて来る。相変わらず常敏には見えていないようですが、すかさず『スピード・キング』のラッシュをベッドに叩き込みました!「メラァリャリャアアアア」って掛け声がなんとも言えない(笑)。
このラッシュも当然、効果は無いんでしょうね。院長に向かって行く行為自体がNGですから、これで常敏にも院長が見えるようになり、返り討ちにされてしまいかねません。次回は早々に常敏の大ピンチとなっちゃうのか!?……という事で、以下次号。


●それにしても、とうとう「因果」「因果応報」という言葉が使われ出しましたね。これは「運命」や「等価交換」と言い換えても良い言葉。非常に大スケールで、かつ「ジョジョリオン」のテーマとも合致する、そういう能力って事です。ラスボスかどうかは未知数ですが、相当重要な位置付けをされているはず。
この能力、最初の最初は、物が「激突」してくる程度と捉えていました。でも、だんだんとその効果は拡大・深化していき、今では「厄災」と化しています。これをさらにもっと突き詰めていけば、「運命」の改変だとか、「因果」の逆転だとか、「歴史」の誤認だとか、そういった四次元的な「厄災」にまで発展するかもしれません。前回も同じような事を書きましたけど……、これまでのツジツマが合わないとされる描写も全て、この能力によって歪められ捻じ曲げられた過去を見せられていただけなのかも。例えば、ある出来事の「原因」と「結果」が「交換」された事で、「結果」(=未来)じゃなく「原因」(=過去)が不確定となり、関わる人の数だけそれぞれの「原因」が生まれる。で、どんなに「結果」とは噛み合わない「原因」であっても、「結果」はもう変わらない……とかね。つまり我々は、本来とは異なる過去を見せられていた……?
もしそうだとしたら院長の能力は、過去から未来、人と人、それらの正しい「繋がり」「関わり」を穢す力とも言えるでしょう。透龍くんが康穂の元カレというのも、ひょっとすると、そうやって「作られた過去」なのかもしれませんよね。


★今月は45ページ!今はページ数に関係なく、「ジョジョ」の最新話が読めるというこの現実にただ感謝するのみです(笑)。いや……、笑い事じゃないんですけどね。
作者コメントは「こんな状況ですが、漫画家はいつも通り描いています。皆さん、お気をつけてお過ごしください。」との事。コロナウイルスのせいで、本当に大変な事態になっちゃいました。金沢展も延期になっちゃうし。荒木先生は「いつも通り」とおっしゃるけど、少年ジャンプは臨時合併号になり、ゆでたまご先生も休載に入っています。私としては、自分の身はもちろん、荒木先生の事も本気で心配。たとえ休載したって何ヶ月でも待てるんで、とにかく先生の健康第一でお願いしたいですね。みなさんもどうかお気を付けて!
―― こういう事を書くと不謹慎かもしれませんが……、東日本大震災に続いて、今度はコロナウイルスのパンデミック。リアル厄災の真っ只中で「ジョジョリオン」を読むと、また違った感覚がありますね。「ジョジョリオン」は「呪い」を解く物語ですが、この世界は、今まさに呪われてしまっているように思えてなりません。ウイルスという、言葉も理屈も通じない敵。いつ終わるとも知れない、いつ感染するかも知れない、日々の生活での不安。感染者への偏見と差別。人類の生命や健康よりも、自分の利益を優先する者達への不満や憤り。死への恐怖。失ったものに対する悲しみ。……等々。日常を取り戻せるのがいつになるかは誰にも分かりませんけれども、「ジョジョリオン」には、こんな暗い世の中を光で照らしてくれるような「救い」を見せてほしいな。ってか、絶対そうなると信じています。


●せっかくなので、ちょびっと延長戦。
「呪い」を解く。震災に、厄災に、打ち勝つ。……言葉で言うのは簡単ですが、実際にはそう単純なものではありません。地震も津波も放射線もウイルスも、殴って勝てる相手じゃないですから。過去からの因縁を克服するのだって、自分自身に誇りを持てるようになるのだって、結局は同じ事。決して暴力や腕力では解決できない問題なのです。「ジョジョリオン」でスタンド同士のガチンコ殴り合いが頑なに描かれない理由も、こいつをやっつければ万事OKというラスボスが登場しない理由も、多分そこにあると思っています。むしろ重要なのは、シチュエーションの方。苦難と相対した時の、その人の心・感情の動き。自分が置かれた孤独な状況の中で、それぞれがどう考え、何を選ぶのか?そこがキモなんだと思います。
「ジョジョリオン」の敵が、人間とは理解し合えない別種族「岩人間」である事や、ルールにハマッたらヤバい自動操縦型スタンドがやたら多い事も、やはり徹底的に「シチュエーション」を作る事を重視しているからなんでしょう。世界中を巻き込む現在のコロナ禍を見れば分かる通り、非常時というシチュエーションの中でこそ人の本性は剥き出しにされます。本当に信頼に足る人物か否かが、最も大切に思って優先するものが何かが、その言動から浮き彫りになります。そういう意味で、院長の「厄災」の能力はまさしく象徴的。自分を曝け出さざるを得ないシチュエーションや人間関係のサスペンスを描きたいのであって、敵そのものとのバトルや勝利のカタルシスを描きたいのではない。「少年漫画」という枠組みからは、とっくに脱却しているのです。好みは大きく分かれそうですが、そういう風に受け取れば、ここんとこの「ジョジョリオン」は特に極上の面白さを醸してくれてますよ。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 5月号(2020年)
337ページ


今月は、ディスプレイやガラス戸に映り込みながら移動する院長のコマ。
『ジェイル・ハウス・ロック』を彷彿とさせる平面化ですが、手前のディスプレイと奥のガラス戸を合わせて見ると、物質や空間を隔てた画面構成になっている事が分かります。この立体的で奇妙な移動、「おおっ!」って思わされちゃいました。しかも、今までは外で本物の人間のように振る舞っていたのが、ついに部屋の中にまで侵入し、明らかに人間ではない動きをし始めたワケですよ。そういう、一線を超えてきた恐怖も相まって、ものすごいインパクトのある絵になっています。




(2020年4月17日)




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