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それがオレの 大切な順番だ
その大切な事は 絶対に手離さない……


#097 終わりなき厄災 その③





●今回のトビラ絵は、常敏&『スピード・キング』。堂々たる立ち姿。その眼差しは鋭く、家族に仇なす怨敵を迎え撃たんとしています。
彼の漆黒の殺意と家族愛が「熱」となって、あらゆる「禍い」をも焼き払ってしまいそうですね。一族の跡目となる長男、さすがに頼もしいぜッ!


●ベッドのシーツの中に潜り込み、迫り来る院長!すかさず常敏が、『スピード・キング』のラッシュを叩き込みました。密葉さんは止めようとしますが、それも叶わず。
シーツをめくると、そこに院長の姿は無く、ヘアスプレーの缶が転がるだけ。しかし、スプレー缶は『スピード・キング』の能力によって熱せられている模様。うわ、これはヤバそうな予感……。と思いきや、そんな読者の想像など軽く予測済みの常敏、缶の爆発をマクラであっさりガードしちゃいます。隙の無い立ち居振る舞いがカッコイイ。
未だに院長の姿が見えない常敏。ただ、密葉さんはようやく気付きました。院長の「厄災」の能力は、「新ロカカカ」の存在場所を探すために続いていた、という事に。思い返せば、密葉さんが病院内のラボに入った時点から続いていた。ラボに侵入した密葉さん・康穂・定助・礼さん、この4人が、同じ「厄災」を受けていたのです。院長は、4人を自爆させながら、「新ロカカカ」の場所を炙り出そうとしていたのです。……なるほど、あの時からすでに始まっていたのか。意外だったけど納得も出来る答えです。
院長にとって直接的に不都合・不利益な行動(ラボへの侵入や、追跡、攻撃など)をすると取り憑き、発動するスタンド能力……と考えれば良いのかな。で、発動すると、その人自身が歩んできた人生という「時間の積み重ね」「因果の繋がり」を利用して、「運命」が流れる方向を次第次第に歪めて「悪い方向」へ変えてしまうんです。それが続けばいずれ、避けようのない「不運」、起こるべくして起こる「厄災」が生み出されるワケです。とんでもない能力ではありますが、あくまでその人の「因果」を使うだけだから、院長自身が消耗するエネルギーはわずかで済むのでしょう。


●このシーンで密葉さんは、康穂だけは今も「康穂さん」と呼んでいますが、定助と礼さんは「東方定助」「豆銑礼」とそっけなくフルネームで呼んでいますね。
定助と礼さんは、もはや彼女にとっても「敵」認定。でも、康穂に対してはまだ「友達」「恩人」としての情が残ってそう。割り切れていない気持ちがありそう。とは言え、彼女が「友達」よりも「家族」を選んだ事は事実。仮に、康穂をあとで助けたいと思っていたとしても、夫と息子を守る事を最優先にした事は確かです。何かを選び取るという事は、代わりに何かを失うという事。今まさに、そういう残酷な分かれ道に立たされる東方家の人々。その1人1人の選択と行動にも、今後は要注目です。


●常敏が「新ロカカカ」を持っている限り、東方家の「厄災」は止まらない。つるぎちゃんの時間はもう限界でした。ここから「厄災」の届かないどこかまで逃げ出さなければ。でも、一体どうすれば?……密葉さんは怯え、すっかり混乱し切っています。
そんな妻に、常敏は静かに語り始めました。それは、普段はあまり口にはしない、妻:密葉さんへの感謝と愛情の言葉。―― いつもそばにいてくれて感謝している。今もそばにいてくれて、ありがとう。おまえがオレを存在させている。そして、おまえがいるから、つるぎもこの東方家にいる。―― と。「ジョジョ展」で展示されていた密葉さんの身上調査書から想像するに、彼女は自分を「東方家のよそ者」と思って、いつも疎外感・孤独感を抱いていたはず。だからこそ、自分に振り向いてほしい、かまってほしいと、願っていたのです。夫:常敏の言葉は、どれほど彼女の救いになった事でしょうか。瞳から溢れそうな涙からも、その想いを想像する事は難しくありません。
「それがオレの大切な順番だ」 「その大切な事は絶対に手離さない……」。やっぱり常敏、好きだなぁ~。目的のために手段は選ばない悪ではあるものの、その心は本当に純粋。母親共々、すでに「殺人」という罪を背負っているけれど、生きていてほしいなぁ~。しかし、唐突なこんなセリフはどうしても死亡フラグっぽく感じられてしまう。不吉極まりないよ。


●「新ロカカカ」の存在がバレた以上、敵本体も屋敷の近くに来ているはず。常敏は妻と息子を部屋に残し、1人で防犯カメラの映像を確認に。ガレージ前の映像では、康穂が倒れていました。そして、門のそばの映像には……、なんと何者かの姿!木々に紛れて、康穂と屋敷を眺めていたのです。まぁ、服やシルエットから、読者的には透龍くんだって丸分かりなんですがね!(笑)
常敏は何故か、軽く咳込み始めました。すると、口を押さえた手には真っ赤な血がッ!呼吸も苦しくなり、足元もフラフラとおぼつかず、立っていられません。自分の体に異変を感じ、よく見てみると、下半身が血塗れになっています。左胸から大量に出血していたのです。その原因は、さきほどのスプレー缶。爆発の時、細いノズルが吹き飛び、胸に突き刺さっていたのです!そのノズルを通して、血がずっと噴き出し続けていたのでした。スプレー缶でこんな発想が出来る荒木先生もスゴイ。
さらに、床に出来た血だまりで足を滑らせ、転倒。その拍子に、「新ロカカカ」の鉢が胸にモロ直撃!ノズルをより体内深く突き刺す結果になってしまったのです。もしかすると、心臓にまで達した?常敏は妻と息子の名を叫びながら、出血多量で意識を失いました。「新ロカカカ」の鉢は常敏の手を離れて転がり、ガレージに続く倉庫部屋のドアの前へ。常敏の声を聞き付けたのか、鳩ねーちゃん・常秀・大弥ちゃんの3人も戻って来た様子。ちょっといなくなった間に、憲助さんに続いて常敏まで瀕死になってんだからビビりますよね。些細な不運の連続が巻き起こす、因果応報という「厄災」。無敵すぎる。
ここまでの事態になっちゃうと、「新ロカカカ」収穫直前の和やかな日常風景に辿り着くためには、やっぱ「記憶」や「認識」にまつわる能力でも使わないと無理な気がしますよ。『カリフォルニア・キング・ベッド』ちゃんでも『ペーパー・ムーン』でもいいし、掲示板でさとうさんが書かれていたように「透龍くんがそういうスタンドを持っていた」って話でもいい。いずれにせよ、状況(というか気分)が完全リセットされる一手が必要です。


●東方邸を見張っていた人物は、見たまんま透龍くんでした。愛しの康穂を急いで助けに行っ……たりもせず、のんきにイヤホンを付けて、優雅に音楽なんか聴いてやがる!曲はオジー・オズボーンの「Crazy Train」や、エルヴィスの「THE WONDER OF YOU」。おおっ、ここでこんな形で来たかー。口パクで歌まで歌って、めっちゃノリノリ。そして、その向こうでは、助けを求め続ける康穂の痛々しい姿。
これはちょっと、今までにない怖さや異様さがありますね……。死にかけの康穂の事など気にも留めず、この異常状況下で日常を謳歌ッ!こいつヤベー。クレイジーにも程がある。これはもう決定的、と言っちゃって良いでしょう。透龍くん、敵だわ。あからさまにクロだわ。しかも、相当なレベルの邪悪でクズじゃね?一発でそう思わせてくれる荒木先生の描写も見事です。
もし透龍くんと院長がそれぞれ別のスタンドを持っていたとしたら、その名前が『クレイジー・トレイン』と『ザ・ワンダー・オブ・ユー』だったりするんでしょか?歌詞から考えても、院長の「厄災」のスタンドは『クレイジー・トレイン』っぽい。能力的にも『ラブトレイン』に近いし、名前も似ててもおかしくはありません。とすると、透龍くんのスタンドが『ザ・ワンダー・オブ・ユー』かな。こいつに今さら「奇跡」だの「愛」だのほざいてほしくないけど、だからこその名前になりそうです。


●さて、場面は変わり、TG大病院。あの「バイクハイ!」のおっさんが、バイクにも乗らずに歩いています。記念堂では、院長の講演会の垂れ幕が片付けられている最中。
おっさんは、講演会の取材に来たらしい雑誌の記者に、定助からの荷物を届けました。この記者のビジュアルもまた濃ゆいッ!アゴヒゲを蓄え、メガネをかけた、ゴツめのおっちゃん。鼻や頬にはニキビがあり、パッツン短髪に加えてちょっぴりツインテールです。後程分かりますが、この濃厚な記者のおっちゃんは、科学情報誌「パンゲア・ランド」(通称「パンラー」)の田岡さん。定助の事なんて知らないようで、まったく心当たりのない謎の荷物に不思議がっています。
田岡さん、講演を終えた院長の控え室に入ってきました。丁寧な挨拶をするも、院長は部屋の角っこで後ろ姿で黙って突っ立ってるだけ。不審に思って近付くと……、院長は急に振り返る!透龍くんが持ってた写メと同じ片眼鏡を付けてます。奇妙なもので、院長の顔って見るたびに印象が微妙に違うんだけど、今回は例の写メに近いイメージだなぁ。院長は田岡さんに名刺を差し出し、田岡さんもここでようやく名乗りました。院長が「個人」に対して話すシーンはこれが初めて。こうして見ると、院長には院長の意志がちゃんとありそう。ただのスタンドってワケでもなさげです。
田岡さんは世間話もそこそこに本題に入ります。定助から届いた荷物とは、とある画像が映っているSDカードでした。それは、ベッドに横たわるホリーさんの写真!撮影自体、ほんの40分ほど前らしいのに、田岡さんはもうホリーさんの素性を調べたみたい。う~む、有能だ。定助がピンポイントで狙って送ったぐらいだから、けっこう有名で信頼されてる雑誌なのかな。
荷物にはさらに、「ロカカカ」の破片の実物と、「ロカカカ」が栽培されていたラボの写真まで入っていました。「LOCACACA 6251」の原材料がこのフルーツで、臨床試験にマウスだけじゃなくホリーさんが利用されていたのなら……、これは大問題になる。そのものズバリの真実を言い当て、院長を問い詰める田岡さん。院長を徹底的に追跡して、この問題を明るみに出そうとしています。


●追及される院長は、それでもまったく動揺を見せる事なく、淡々と話し続けます。「ロカカカ」はビンに入っていて、見た目だけでは野菜かキノコのようにも見える。なのに、どうして君はフルーツと分かったのか?そう訊ねてきました。君はビンの蓋を開けて、匂いを嗅いだ。甘酸っぱい匂いがしたから、これがフルーツと分かった。そう続けます。
その時、蓋から指に果汁が付いてしまったかもしれない。あるいは、その指をうっかり舐めてしまったかもしれない。指の爪や皮膚の傷から果汁が染み込んだかもしれない。それは、運の悪い「因果」。確かに、新型コロナウイルスの感染にしたって、そういうちょっとしたキッカケが原因になり得るワケですからね。どんなに注意してたって感染してしまう事はあるし、それを考えたら、田岡さんが果汁に接触してしまった可能性は非常に高そうです。彼は「ロカカカ」の危険性をしっかり認識できていないんですから。
「ロカカカ」を信頼できる研究所で分析してもらう事になっている、と息巻く田岡さん。仕事早ぇーなぁ~。ところが、院長は彼を置いて、さっさと部屋を出て行こうとします。彼に荷物を送った人物が誰なのか分かったようなのです。院長を呼び止めようとする田岡さんですが、院長は気だるそうに「誰だろうと…」「わたしを追わなければ良いのになあ~~~」と吐き捨て、去っていきました。田岡さんはふと、自分のニキビがキレイに消え去っている事に気付きます。そう、これは「ロカカカ」!そして、「石化」部位が首の後ろに集まっていき、そのまま首がボッキリ折れてしまったのでした。有能記者:田岡さん、死す!
ホリーさんのように「石化」部位がどんどん移動するっていう症状ではなくて、院長の「厄災」パワーによって「ロカカカ」成分が引っ張られ、首の「脆い箇所」に運悪く集まったんでしょう。だから「石化」が移動したのです。125g以上食べないと「等価交換」は起きないはずなのに起きてしまった事も、不運の一環としておきましょうか。「厄災」と「等価交換」のコンボはかなりエグいですね。


●院長はそのまま歩を進め、記念堂から病院へと移動。そこにちょうど礼さん登場!院長の「背後からの接近」に気付き、院長もまた自分と同じく、定助のいる所に向かっている事を確信します。
2人のお目当てである定助は、今もまだ動かずに、時が来るのを1人待ち続けていたのでした。相変わらずのカッコ良さ!ただ、ホリーさんの件もあって尚更、定助は自分1人だけの問題と捉え、自分だけで全てのケリを付けようとしてるんじゃないかって気もします。仲間を助け、仲間を頼り、共に乗り超えてほしいものです。
あと、さりげに心配なのが、ラボの扉まで思いっきりブチ壊しちゃってる事。羽先生がバラ撒いたいろんなウイルスは大丈夫なのかね?漏れたりしない?ちゃんとあれから院長が殺菌消毒してくれてたんなら良いけど、まさか「厄災」でウイルス攻撃されて感染爆発……なんて、今の現実世界を反映した展開になっちゃったりはしないよね?まぁ、礼さんが根こそぎ破壊したはずの「ロカカカ」も元に戻ってるようなので、院長が1人で大掃除や復旧作業に明け暮れていたんでしょう(笑)。
―― そして、場面は再びサイレント熱唱中の透龍くんへ。定助が院長を追わずに誘って来た事を理解し、「面白い」などとぬかしていますよ。院長の感覚や情報を共有しているのだとしたら、院長は透龍くんのスタンドなんでしょうか?まだまだ謎は深まりますが、少なくとも、透龍くんは間違いなく敵ッ!「新ロカカカ」収穫まで、あと0日 ― と2時間11分 ―


●院長と透龍くんの感覚共有によって分かった事。それは、病院サイドと東方邸サイドが同時進行しているという事!
作中の時系列を追った年表・タイムラインを作っている私にとって、これはマジにデカイ。今までは両サイドに1日のズレが生じているもの(病院サイドは東方邸サイドの前日)と考えていましたが、そうではなくなったワケです。確かに同時進行の方が漫画展開上しっくり来るとは言え、ある程度の時系列の辻褄合わせはしとかないと。……問題は、院長の講演が行われる日。「新ロカカカ」収穫まで残り48時間の時点で、「講演は明日」と言っていましたが、現在の東方邸サイドは残り2~3時間程。同時進行していた場合、昨日のうちに講演は終わっている事になります。なのに、現在の病院サイドは講演終了直後として描かれています。どう受け取れば良いのでしょうか?
しかし、ここは荒業で解決しときました。新聞記事では、「講演会が明日」なんて一言も書かれていないんです。ならば、コミックスで修正されたけどウルジャンであった「本日より 2日間」という記述を、アイディアとして拝借しちゃいましょう。……結論!収穫まで48時間の時点から見て、講演は明日と明後日の2日間行われる予定だった!つまり、定助が雨に撃たれて入院した後、丸1日以上、意識不明だったワケです。その空白の1日に、初日の講演が行われました。たぶん再生医療の一般的な話を中心にして、「LOCACACA 6251」の発表は翌日のお楽しみにしたんでしょう。そして、翌日の10時52分に、ようやっと定助が意識を取り戻したのです。
そう考えておけば、とりあえず大丈夫っしょ。というワケで、修正した年表がこちらです。


★今月は45ページ!つくづく面白いな。メンツも揃って、盛り上がる一方です。特に透龍くんのナチュラル外道っぷりにはたまげました。この事実、康穂が知ったらショックだろうなぁ。かわいそうに。せめて腕だけでも治せたらいいんですが。なんか右腕もボロボロバラバラに崩壊・消滅しちゃったかもだし、『ナット・キング・コール』の「ネジ」じゃくっ付けられない可能性は大ですよね。やっぱし「新ロカカカ」しか無いのかな?父と兄が倒れ、つるぎちゃんも「病気」。今や、東方邸でマトモに動ける男は常秀のみ。ここらで男を上げて、透龍くんから康穂を守ってやってほしいもんです。定助と合流したら、最初で最後の共闘!なんてのも燃える。……でも、そういうありきたりな展開にはならないか(笑)。
作者コメントは「コツコツ描いてますので、私に関してはご心配なく。皆さんも引き続きお気をつけて。」との事。作品の進行や出来に関しちゃ心配無用なのかもしれませんが、それより何より荒木先生の健康が一番心配です。まだまだ気を緩めて良い時ではありません。先生もどうか無理はなさらず、お気を付けください。減ページや休載になったって構いませんから、とにかく先生がご無事であってほしいですね。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 6月号(2020年)
138ページ


今月は、田岡さんに淡々と説明を続ける、もの静かな院長の立ち姿。この老紳士っぽい佇まいも素敵だし、いつも無言で「後ろ姿」なのに、普通に正面を向いて話しているってところも逆に異様さが感じられます。
そして何より、その顔よ!目元は帽子の影に覆われているにも関わらず、両眼は真ん丸く真っ白く描かれているのです。右眼の片眼鏡だけならともかく、両眼ともですからね。あたかも、暗闇から眼を光らせて獲物を狙う獣のよう。それともこれは、感情さえも感じさせないロボットの如き、底知れぬ虚無なのか?そんな院長のヤバみ溢れる1コマでした。




(2020年5月19日)




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