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『長旅をしている者が 最も事故に遭いやすいのは
帰宅直前』だ


#098 終わりなき厄災 その④





●今回のトビラ絵は、大弥ちゃんも持っていたレッド・ツェッペリンのアルバム「CODA」のジャケット風。独特のフォントでタイトルが描かれ、定助や康穂、礼さんが配置されています。透龍くんもしっかり定助の隣をゲット!最初はモブみたいな登場だったけど、ずいぶんと出世したなぁ……などとしみじみ。
とにかく、映画のポスターみたいでイカした絵です。コミックス24巻のカバーイラストはこれの連作でもいいな。


●TG大学病院にて。明負院長の後方からの接近に気付いた礼さん。院長はもはや、「オレって人間じゃないんだぜ」アピールを前面に押し出すスタイルに変化しており、障害物にぶつかってもそのまま通り抜けて歩き続けます。ガラスにぶつかったと思ったら透過!柱にぶつかったと思ったら、柱に反射するエスカレーターに映り込み、振り向くと実物のエスカレーターにいつの間にか移動!この縦横無尽・神出鬼没っぷり、実にトリッキーで面白い。4次元的な移動が騙し絵っぽくもあって、見てるだけでもワクワクしちゃいます。
礼さんは階段を駆け上がって、定助のいる3階へ。しかし、エスカレーターで3階に到着していた院長は、今度は廊下の壁に溶け込んで移動を始めました。その顔は老人のものではなく、背後に現れた「あのスタンド」のものになっています。これまでずっと顔を隠して後ろ姿だけだった院長が、顔を見せて歩いている。たったこれだけの事でも、事態が新たなフェーズに突入した事が実感できますね。
院長に先を越されてしまえば、院長と同じ場所にいる定助とも合流できなくなってしまうかもしれない。礼さんは大急ぎで走り、定助のいる診察室にようやく到着ッ!定助は依然変わらず、1人、イスに座って悠然と待ち受けていました。


●一方、東方邸では、窮地に苦しむ康穂。そんな彼女をただ眺めて、静かに独りごちるのは透龍くん

「「正しい道筋」を……」 「たとえ聖人が間違わずに歩んでいようとも…」 「悪事は時に起こり 避けられない」
「それが『厄災』だ」

「厄災」とは、どんな者にも、どんな時にも、どんな場所でも、起こり得る事。自分が今生きているという事実や、自分がいつか死ぬという事実と同じように、誰にとっても平等な宿命なのかもしれません。「平等さ」の前には、強さも優しさも正しさも美しさも富も名誉も、何の力も持ちません。震災やコロナ禍を体験してきた我々は、透龍くんの言葉にリアルを感じずにはいられないはず。
……そして、当たり前のように「新ロカカカ」を手に入れようとする彼。院長を通して、定助達の様子を知り、「新ロカカカ」の現在位置までも把握している模様。一切の言い訳の余地も無く、完ッ璧に透龍くんは敵ですね。単純に透龍くんのスタンドが院長なのか、スタンド化した院長が透龍くんと繋がっているのか。詳細は謎ですが、感覚的にはほぼほぼ同一人物と言って良いでしょう。


●定助と合流した礼さん。定助の態度から、院長の能力を理解した上で、院長がここに来るよう仕掛けた事を察します。そして、先ほどの院長の様子から、院長がスタンドそのものである事も確信。
また……、瀕死だった定助が今生きているという事は、ホリーさんが定助を助けたという事だと院長にもバレているはず。邪魔者となったホリーさんも直ちに始末される事になる以上、どのみち、今ここで院長を殺る以外に無い。その方法はある、と定助が語ります。
壁をすり抜け、姿を現す院長。戦いの時は近い。しかし、もし定助がイスから動こうものなら、この世の中の天と地の下のあらゆる事柄が、あらゆる物質の繋がりが、「禍い」の力となって総攻撃して来る。戦う術など本当にあるのか?すると定助は、指先から「しゃぼん玉」を発現!

「この天と地の下に存在している『S&W(ソフト・アンド・ウェット)』!」
「……柔らかくて 濡れていて 回転している……」

そうクールに言い放ち、無数の「しゃぼん玉」を部屋中に漂わせました。まるで地雷原のようだし、ワムウ戦でのシーザーのようにも思えます。その上、「回転」というワードまで登場しましたよ。「しゃぼん玉」の本質が「振動・回転する紐」である事を自覚していたんですね。これは当然、ジャイロを彷彿とさせます。レッド・ツェッペリン元ネタのトビラ絵といい、なんか今回は「ツェペリ」が強く意識された構成になっている気がします。仗世文が実はツェペリ家の血を継ぐ者だったりしたら、今の定助はジョースターとツェペリの融合でもあるって事になりますね。
そして、ツェペリだからってワケじゃないでしょうけど、自分の仲間を大切に想う心もしっかりと語られていました。自分には、ここまで来てくれた礼さんという味方がいる。ここにはいなくても、どこかに康穂もいる。孤独に涙した定助は、もうどこにもいません。ここにいるのは、自分と仲間の繋がりを信じる定助!う~ん、主人公に相応しいカッコ良さです。


●とうとう院長が、さらに壁をすり抜けて診察室に侵入。緊張が走ります。ところが院長、部屋に漂う「しゃぼん玉」を見てか、定助達2人の気配からか、どこか妙な雰囲気を感じ取りました。そしてそれは、東方邸にいる透龍くんにも伝わります。透龍くんはそのままどこかに姿を隠してしまいました。「新ロカカカ」も放って院長の元に向かったとでも言うのでしょうか?
林の藪の中に誰かがいた、と感じた康穂でしたが、ここでまた状況は一変!なんと、「新ロカカカ」を持った常秀が登場です。しかし、兄:常敏の惨状も目の当たりにしたのでしょう、家族に起こった「厄災」に号泣しています。こんなシリアスな涙って、常秀は初めてだよなぁ。寂しいけど、もうおバカに笑える状況じゃなくなってしまった。それでも常秀は、傷付いた康穂を助ける事を選んだようです。家族じゃなくて康穂を選ぶとは、ちょっと見直したよ。康穂が好きだからってのももちろんでしょうが、自分の家族のゴタゴタに巻き込んでしまった罪滅ぼし的な気持ちも大きそう。相手が康穂じゃなくても、今の常秀なら助ける事を選んだんじゃないかな。
ただ……、こうなって来ると、俄然、常秀の身に危険が降り掛かりそうな予感。敵として牙を剥く透龍くんにドテっ腹ブチ抜かれたりとかさぁ……。透龍くんの正体を明かすタイミングと相手って意味では最高じゃん?


●部屋に踏み込む事を躊躇い、スタンドフェイスからジジイフェイスに戻った院長が話し掛けてきました。

「『長旅をしている者が 最も事故に遭いやすいのは帰宅直前』だ」
「ずっと続けていた旅が終わり… 「新ロカカカ」も手に入り
君たちもわたしももう直ぐ家に帰る…」

目的を果たせそうだっていうまさにその瞬間こそ、一番危険なのです。でも、院長には油断はありません。用心深く振る舞い、ポケットからハンカチくらいの大きさの何かを取り出しました。細長い棒状の板をいくつも結び付けた、木簡・竹簡にも似た形状の物体。それを部屋の床に広げます。すると、板は床面と同化して見えなくなりました。しかし、その一瞬、板の端っこから小さな昆虫の脚のようなものが複数見えたのです。院長が何らかの「生き物」を放った!
定助達に接近した謎の「生き物」は、おもむろに板を組み替えて形を変化させます。まるでクレーンのような形状になったかと思うと、昆虫の脚部分がウインチとなって糸を巻き上げ、板を吊るし始めました。挙げ句、勢い良くクレーンを振って、板を定助に投げ付けたのです。……えっ?何言ってるのか分からないって?大丈夫、私もです!
オラオララッシュで「しゃぼん爆弾」の防御壁を作り出し、そこに接触した板は爆破!一歩も動かず、イスに座ったままの攻防がシビれる。しかし、定助は腕にかすり傷を負ってしまいます。これが致命傷にならなきゃいいけど……。謎の「生き物」は再び床面に消えていきました。院長曰く、この「生き物」は複数匹いるように見えて実は1匹、人間にとって未発見の「岩昆虫」!その名も「ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー」!ポリスの曲名が元ネタですね。「ドレミファソラティ・ド」もそうですが、「岩生物」はみんなクセのスゴすぎるネーミングです。名付け親、絶対同じヤツだ。院長は「肉食」とも言っているので、まさか定助の腕の傷も噛み傷?あのいかにも虫っぽい部分だけじゃなく、板や糸も含めてこいつの肉体なのかな?全身を岩石化させて、床面に溶け込んで移動してるのか。それとも保護色か。
院長ってば、いろんな生態や特性を持つ「岩昆虫」「岩生物」を駆使して攻撃して来るつもりなんでしょうか?「未知の生物」ネタは大好きだし、そういう戦闘スタイルも面白そうですが、何でもアリになりすぎないようにしてほしいところ。もっとも、13歳の康穂に取り憑いた「髪留め虫」とも関係深そう。その頃からすでに、院長(=透龍くん)と康穂の因縁は始まっていた?


●院長的には、さっきのオラオララッシュですら「追撃」=「追跡」に該当する行為らしい。そのため、「ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー」が定助に命中して傷を負っちゃったって事ね。……つーか、「ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー」とかって長すぎだな~。めんどいんで、当面は「D7 (ディー・セブン)」とでも勝手に略しときましょうか。
ともあれ、この厳しい「追跡」判定。それでも院長に勝ち得る定助の策とは一体、何なんでしょうね?とりあえず、ダメージを警戒している以上、ダメージを与える事自体は不可能ではない。「厄災」の間隙さえ突ければ、倒す事が出来そうです。
よくよく振り返って考えてみると、「厄災」は近くにいる者に対してとばっちりや巻き添えが起こり得ます。それこそ、首を折って死んだ患者や通り魔犯人なんかもそうでした。ならば、院長自身に「厄災」をぶつける事も可能なんじゃない?「しゃぼん玉」の振動・回転によって、「厄災」のエネルギーが向かう方向をほんの少しずつズラしていく、とか。あわよくば院長にだけぶつけ、最悪でも道連れに出来るのでは?「しゃぼん玉」に満ちたあの部屋は、ある意味、独立したもう1つの別の世界。因果が巡り巡る、回転する小宇宙。その回転・循環を支配するのは、「しゃぼん玉」を生み出す定助なんです。意味不明と言われたらそれまでですが、なんか、やってやれなくもなさそうな気もする……(笑)。
さらに、いくら院長が「厄災」の能力を持っているからと言って、悪い事しか起こらないってワケでもありません。事実、礼さんは定助の元にまで辿り着けました。礼さんが「院長の追跡」ではなく、「定助との合流」を目的に動いていたからでもあります。ちょっとした意識の違いだけでも、たとえ一時的であろうと、「厄災」から逃れる事が出来るのです。礼さんが「院長を倒すため」ではなく「定助を助けるため」にサポートに加われば、きっと、より確実に院長を自滅させる事が出来るはず!


●院長はずっと「厄災」の能力で、「新ロカカカ」をつけ狙う定助達をあぶり出していた。であれば、やはり「新ロカカカ」を持っているのは院長。そういう事でいいんだな?定助の問い……でもない、念押し確認みたいな言葉に、院長は黙ってしまいました。おやっ、意外な反応。バカ正直なリアクションだなと思いつつ、ここで「ああ、そうだとも」と答えたところでメリットは無いよな。かと言って、「東方邸にあるよ」とわざわざ教えてやる必要も当然無い。むしろ、疑心暗鬼にさせて行動に迷いを生じさせるためにも、黙っておく方がかえって効果的なのかもしれませんね。
実際、けっこう礼さんは動揺しているものと思われます。あんなに自信満々に康穂を否定したのに、康穂の方が正しかったとなれば、彼の立つ瀬が無いってもの(笑)。ただ、院長が「新ロカカカ」を持っていない事にさえ気付けば、自ずと次なる目的地は東方邸になるでしょう。定助と康穂の再会、そして透龍くんとの邂逅。いよいよ全てが1つの場所に集う事に!?


★今月は45ページ!「コツコツ描いてる」とおっしゃるだけあって、ページ数もクオリティもまったく落ちていません。さすがはプロフェッショナル!マエストロ!さて、今回でコミックス24巻分も終了。合計180ページ強になるので、ホッとひと安心。発売はたぶん8月かな。
作者コメントは「忘れないようエコバッグとマスクを仕事場と自宅に置いてるけど毎回忘れて取りに戻る。」との事。やっぱり今までと違う生活ですから、習慣付くまで時間掛かりますよね。まだまだ油断は禁物なので、今後もみんなで気を付けていきましょう!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 7月号(2020年)
191ページ


今月は、スタンドと化した院長をドドン!と描いた1コマ。院長は描かれれば描かれるほど、不可解で異様になっていくなぁ。
このコマはもう、院長が人ならざる者である事実が一目瞭然です。でも、院長の服を着ていて、完全にスタンドってワケでもない。絶妙なアンバランスさが素晴らしいのです。そして、背景や立ち位置も、ヤベーのが近付いて来たぞっていうリアルな怖さを引き立てていますよね。心に焼き付いてしまう映像。インパクト大です。




(2020年6月19日)




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