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君たちが 所有していいものなんて何も無い……
「梨園」だろうと……
『新ロカカカ』ひとつだろうとな……!!


#099 終わりなき厄災 その⑤





●今回のトビラ絵は、愁いを帯びたかのような表情で佇む透龍くん。その背後には、スタンド化してる院長の姿。
よく見ると、透龍くんの下半身に「ロカカカ」柄の何かがありますね。何だろ?そういうズボンなのか、それともタオルか何か?いずれにせよ、うさんくさい「疑惑のモブ」から今や完全有罪の真っ黒な「ラスボス候補」にまで昇格した透龍くん。今回は果たして、彼のどんな面が描かれるのでしょう?


●まずは、唐突に始まった、新たに明かされる「岩人間」のさらなる生態
「岩人間」のメスは、見た目では「ヒト(ホモサピエンス)」の女性と区別が付かず、「ヒト」の男性と「岩人間」のメスの間でなら受精・繁殖は可能であるとの事。第46話の解説によれば、「遺伝学上、人間との間に子供はできない」と断言してたけど、どうやら例外はある模様。まぁ、受精・繁殖が可能というだけで、その確率は相当低いんじゃないかと思いますが。そもそも、まったく別の種族なんですしね。逆に、「ヒト」の女性と「岩人間」のオスの間で子どもが出来た例は無いみたいです。
それにしても、このコマではいろんな女性の例を載せてるけど……、土偶や「ミロのヴィーナス」、ニカブを被ったイスラムの女性、芸者さん、歴史上の人物や女優・アーティストなどに交じって、レスリングの伊調馨さんに貞子なんかまで!そして、「ジョジョ」からはエルメェスとエンヤ婆が参戦!クセが強すぎですが、とにかく女性のビジュアルの幅広さは十分に伝わりました(笑)。「ヒト」も「岩人間」もこのくらいの幅があるから区別不可能って事です。


●妊娠した「岩人間」は、6ヶ月の妊娠期間を経て、春と夏の季節に出産。ただ、出産した子どもに愛情や親子関係はほぼ持たず、森の奥の枯れた樹木の根元に我が子を丸裸で放置して去って行く。「えっ!?」って感じですが、それが我が子に示す唯一の愛情と母性なんだとか。その場所なら、最初に子どもに近付いて来るのは、動物達ではなく昆虫達。なんと、驚くべき事に、産まれたばかりの「岩人間」の赤ちゃんは平均28mm15gという超ミニマムボディーらしいのです。
肉食で獰猛なスズメ蜂がすぐさま現れ、毒針かアゴで襲い掛かって来るものの、「岩人間」はそれを本能で知っていて、むしろ待ち望んでいる。赤ちゃんは母親に抱き付くように蜂の体表の死角にしがみ付き、どうする事も出来なくなった蜂はそのまま巣に帰還。その間、赤ちゃんの体表は程良く半分だけ「石化」。こうなると、巣に戻っても、蜂の攻撃はもう効きません。そのまま、巣の奥にいる母の中の母「女王蜂」に出逢い、体表の柔らかい部分を食い破って体内に侵入。半分生かしたまま、「女王」の体を乗っ取ってしまうんだとか!そうやって温かく安全な寝床と豊富な栄養を手に入れ、17年間にも渡って、代々の「女王」の体内で過ごすのです。「岩人間」は蜂蜜が好物らしいけど、そういう理由だったのか。懐かしき故郷の味、母親の味だったんだね。( ん、でもスズメ蜂は蜂蜜なんか作らないか……。肉食って言ってるしね。)
そして、巣の中で、「女王」の体内でじっとしながら、蜂の社会の中で独りで学んでいきます。自然界の法則を、流れ行く時間を、数の概念を、集団という仕組みの中で生きていく術を……。やがて17年後、急激に身長が伸び、同じ巣に住むスズメ蜂達を皆殺しにして、外の世界に出て行くのです。
これは……、想像を遥かに超えたブッ飛んだ生態でした。どうあれ、「岩人間」という種族は他の生物の社会に寄生しないと生きていけない存在なんでしょうかね?成長し、蜂の巣を破壊して外の世界に出て来た「岩人間」は、明らかに透龍くんです。彼が「岩人間」である事は確定ですね。あと、女性の「岩人間」がちゃんと描かれたのって、さりげに初めて。1人くらい、メインで登場してほしいなぁ。


●生命が誕生したのは40億年ほど前。この時、「炭素(C)」を基本元素として結合構成された細胞と、「ケイ素(Si)」を基本元素として結合構成された細胞が生まれた。個数や割合はほんのわずかではあるが、炭素系有機体の隣に隠れるように共に存在するケイ素系の細胞。この細胞で構成された生物が、「岩人間」を始めとする「岩生物」なのです。
この星の生命に2つの道が示された理由とは……、光と影、正と負などの相対の関係性というより、恐らくは滑り止めのため。炭素系生物が失敗し、行き詰まってしまった時のための保険。はぁ~~、なるほどな~……。生物が遺伝子や種の多様性を獲得したのも、絶滅の危険を減らすためって言いますもんね。それのスゴいバージョンって事か。そうなると、生命の誕生はたまたまの偶然だとか奇跡だとかでは片付けられなくなってきます。創造主や地球や運命なんかの意志があるのだとすれば、それは「この星に生命を遺したい」という確固たる意志なんでしょうね。生命が滅んでしまうと困る都合があるのかな。「生命」とは自由に動ける物質であり、可能性そのもの。その可能性に賭け、生命の発展や進化の果てに、何かしらの境地に辿り着いてほしい、あるいはこの世界をどこかしらの極致に導いてほしい……的な願いを秘めていそうです。だからこそ「岩人間」は、「ヒト」とは決して相容れない異質の存在になっているってワケか。別々の道を歩まないと予備の意味が無いもんな。う~ん、壮大で用心深い計画だ。
「岩人間」は「単独」が基本生態で家族も持たないけれど、時に利益のためには「集団」を作り、人間社会に潜り込む。しかし、それはあくまで損得関係でしかなく、愛情や友情は無いとの事。ホントにそうなのか?夜露と愛唱には友情を、双子には愛情を感じたけどなぁ。まぁ、そういう感情は「ヒト」に比べれば微々たるもので、優先順位も低いって事なのかも。結局は理性的な個人主義で、他人のためにいちいち自分を犠牲にしたりはしない、と。こういう性質もまた、「ヒト」とは対照的なんでしょう。「ヒト」は良くも悪くも感情に支配されて振り回されがちだし、他人との繋がりを重んじて縛られるところがありますからね。感情のせいで「ヒト」が滅んでも、真逆の「岩人間」なら生き残れるはず。やっぱり「岩人間」は、生命のもう1つの可能性であり、「ヒト」の逆・裏の存在なんだな。


●「岩人間」は地面と岩と石にこだわり、「大地からの恵み」こそが真の利益であり、「岩人間」に特別なパワーを与えてくれる「特別な場所」こそが真の棲み家なのだそう。つまり、選ばれた・限られた土地に定住というか、ひとつ所にずぅ~~っと居続けるスタイルなワケです。
一方、「ヒト」は歴史的にも大陸から拡散・移動して来たし、今もなお、絶えず移動し続ける行動生態。そのくせ、どこに向かいたいのか、どこを目指してるのかもよく分からない。そういう面でも「ヒト」と「岩人間」は認め合う関係など決して築けず、同化する事も絶対にあり得ないのです。ここまで何もかも違うと、人間社会に寄生する「岩人間」達の苦労は計り知れんなぁ。そりゃあ、立場を逆転させて、「岩人間」の世界を創りたいって思うよな。数が圧倒的に多いというだけで、「ヒト」は我が物顔で土地を支配し、大地への感謝や敬意も無く地形まで変えまくって……。「岩人間」からすりゃあ、さぞや迷惑な連中でしょうよ。なのに、「ヒト」の中に隠れて生きていかなきゃならない。なんとも孤独で切ない生物だ。
……そして、今回最もビビッて興奮したのが次のシーンであります。「SBR」の面々との再会ッ!ジャイロにジョニィ、サンドマン、ルーシーが描かれたのです!恐らく、「岩人間」が目指す、特別なパワーを与えてくれる「特別な場所」の1つとして、アメリカ大陸の「悪魔のてのひら」と杜王町の「二本松」と「壁の目」が挙げられたって事なんでしょう。そう考えると、杜王町に「岩人間」が集まっているのも、東方家との因縁が深いのも頷けます。注目すべきは、第22話にて、1901年にジョニィを追って杜王町までやって来た麗しのレディーが、やはり成長したルーシーだったという点。さらに加えて、そのルーシーがスピードワゴン財団の物っぽいスーツケースを所持していた点。スピードワゴン石油会社は「SBR」レースのスポンサーだったし、スティールとの繋がりもあったろうから、ルーシーと協力関係になったとしても不思議じゃありませんけども。たぶんこのスーツケースに、回収した「聖なる遺体」を入れてアメリカに帰ったんだろうな。
その上、ディオらしき人物が被った「石仮面」やエンヤ婆が持つ『矢』まで描かれてますが……、これらは、吉良と仗世文を融合させた「二本松」と「壁の目」のある土地と同等の存在だよって説明に過ぎないと思います。杜王町の土地は、それほどまでに重大な意味と力があるものって事。別に、「ジョジョリオン」のストーリーに「石仮面」や『矢』が絡むという事じゃありません。「SBR」と「ジョジョリオン」が描かれる新世界に、「石仮面」や『矢』は存在しないはずですから。


●場面は変わり、若かりし頃の礼さん。親父さんの葬式のようです。親父さんに世話になったという多くの人達が訪れ、礼少年に挨拶をしていきますが、優しい言葉を吐いた直後に「駐車場は無料かどうか」を確認してくるデリカシーの無いおっさんも。本音じゃあ、悲しくもないしどーでもいいんだろうなぁ。相変わらず性格の悪い連中がいっぱいの杜王町です(笑)。この人達、みんな片目からしか涙を流してないけど、荒木先生的には「ムードで流してるだけの薄っぺらい涙」の表現だったりするのかな?だとしたら、「SBR」でジョニィの父親の「息子への公開懺悔」を聞いて拍手を送った観客達の涙も、これと同列って事になるな(笑)。
それはともかく、そんな礼少年のもとに現れたのがヤング憲助さん。まだヒゲも無く、ツルッツルのお顔。大統領クリソツだな。とは言え、幼い常敏と鳩ねーちゃんもいる時代なので、葬儀のためにヒゲを剃ってきたんでしょうね。2人の信頼関係はこの頃から出来上がっているようで、礼少年は憲助さんにだけ告白しました。親父さんの梨園で1匹の害虫を見た事を伝えたばっかりに、親父さんは台風の日に梨の様子を見に出掛け、崖崩れに巻き込まれて死んでしまったと言うのです。自分を責めて涙する礼少年。第75話によれば、同業者に襲撃されて果樹園を手放した両親を許せず、1人でスキー場に住み始めたって話でしたが……、憲助さんとの出逢いがそんな礼少年の頑なな心をちょっと溶かしてくれたんでしょうね。両親と仲直りして、一緒に梨の栽培を再開したのかな。そんな矢先の不運な出来事。
親父さんは優秀な植物鑑定人で、害虫や病気を見逃すはずがない。自分も調べたが、害虫などいなかった。これはただの事故だ。憲助さんは、礼少年にそう言います。しかし……、参列者の中には、なんと明負院長の姿が……ッ!ってか、この時からすでにジジイなのか!普段、杜王町には台風は上陸しないのに、今年はそれがあった。崖崩れも含め、全ては「厄災」。この時点では誰も気付きようもありませんが、もしや礼さんの親父さんの死には院長の能力が関わっていたのでしょうか?礼少年が見た害虫とは、まさか「D7(ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー)」!?


●院長と対峙する事で、そんな過去の記憶が脳裏によぎった礼さん。院長は、前回の問いに対し「「新ロカカカ」の枝は元気だよ」「収穫の時が来ている」と返答。つまり、今はまだ「果実」は収穫されていない、という事。しかし院長は、「新ロカカカ」の方から私の所へやって来る、と語ります。「流れ」が運んでくる、と。定助達が「果実」を手に出来る「流れ」にはない、と。「流れ」と言えば、第33話で定助が憲助さんに諭された言葉。物事には自然な「流れ」があり、それに逆らわなければ目的に辿り着ける。でも、院長の「厄災」の力は、その「流れ」を院長に有利な方に変えてしまうワケです。どうやって太刀打ちする?
院長は自らの名を『ワンダー・オブ・U(ユー)』と名乗りました。それがスタンド名か!院長が語っている間に、「D7」は定助の背後に接近していました。再び変形し、クレーン投擲攻撃!それを迎え撃つために、定助がイスの上に立った瞬間、定助の目や耳、鼻、口の奥から謎の白っぽい物体がワサワサと溢れ出してきます。何も見えなくなり、攻撃を避ける事も不可能。しかし、礼さんが腕を伸ばし、身代わりにダメージを負ってくれたのでした。
この謎の白っぽい物体は「石綿」。「D7」の攻撃は毒であり、上に逃げると「石綿」を吐く。思った通り、前回のかすり傷が致命的になっちゃったし、やはりかつて親父さんの梨を襲った害虫は「D7」で間違いないようです。これを礼さんも喰らっちゃったか。院長はご親切に、より正確に説明してくれました。「上に逃げると」ではなく、手足の関節を伸ばすと、体の穴と言う穴から「石綿」を吐き出す。「D7」は山岳地帯のハンターで、ウサギや鳥類を地表面から狩って食うのだそう。傷付けられた植物も、枝や果実が伸びたところから「石綿」を吐く。石綿(アスベスト)による健康被害問題も考えると、かなり悪質でエグい攻撃ですね。ただ、理屈が分かりませんし、「D7」という種族が共通して持つスタンド能力なのかもしれませんね。


●院長も、かつての礼少年や親父さんの事を思い出した様子。あの梨園は昔から良い土地だった、とか言ってます。つまり、「岩人間」にとっても素晴らしい土地だったから、邪魔な親父さんを「厄災」で殺した……って事なのでしょう。父親の仇を前にし、礼さんの瞳に復讐の炎が灯るッ!
一方、院長は深く暗い眼差しで静かに宣告します。「君たちが所有していいものなんて何も無い……」 「「梨園」だろうと……」 「『新ロカカカ』ひとつだろうとな……!!」。「ヒト」を見下し、邪魔者と嫌悪しているであろう事がよく分かる。人類からありとあらゆるものを奪い取ってやろう、という意志がビンビン感じられます。ここで思いも寄らぬ過去の因縁が明らかになった2人ですから、激突は必至!勝つのは礼さんの「熱い激情」か、院長の「冷たい殺意」か。正直、礼さんが死んじゃいそうでめっちゃ怖いけど。
机の上に逃げた定助にも、「D7」がまたもや迫る。動く事なく戦い、動く事なく勝たなければいけない。頼みの綱は「しゃぼん玉」でしょうか。2対2のバトルはますます加熱中!


★今月は45ページ!いやぁ~、面白い。今回はなんというか、「ジョジョリオン」としての面白さと「ジョジョ」シリーズとしての面白さとが融合して、最高の面白さになってた気がします。色々と衝撃の事実もあったので、改めて考察・予想を練り直したいところ。つくづく、荒木先生のマンガを読むと幸せだなぁ。
作者コメントは「電車ホームの一番隅にぼーっと立っている白いドレスの女性が。まさか自分だけに見えてる?美人の撮り鉄だった。」との事。先生の何気ない日常が楽しい。女性の正体が分かるまでこっそり観察してたんでしょうかね(笑)。今回の貞子も、この事件で連想したせいだったり?
次回は連載100回のアニバーサリー!ついにここまで来たか。次号は表紙って事ですが、たまには巻頭カラーも見たいですよね。でも、この盛り上がりの中で100回を迎えるのは感無量です。予想に反し、コミックス24巻は8月発売ではなさげなので、なんとなく10月号は休載なんじゃないかって予感。まぁ、せっかくの節目だし、こんなご時勢で無理をされてはいけないから、先生の健康第一でお願いしたいですね。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 8月号(2020年)
295ページ


今月は、飛行するスズメ蜂にしがみ付く「岩人間」の赤ちゃんの1コマ。「なんじゃこりゃ!?」っつーか、こんな絵、一生のうちにもそうそうお目に掛かれないよ(笑)。
発想自体もヤバイけど、さすがは荒木先生。絵としての表現力もハンパねえ。下から見上げるアングルといい、木々や擬音が集中線の役目を果たしているところといい、このシュールな絵を一層インパクトが残る1枚に仕上げています。




(2020年7月18日)




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