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それは この世に『存在』していない…
だが 『存在』しなければ条理を越える事が出来る


#104 終わりなき厄災 その⑩





●今回のトビラ絵は、上空から杜王町を見下ろす無数の院長。イイですねぇ~、この浮遊感。ブラックモアを思い出させるなぁ。
手前側には東方邸が、奥の方にはTG大学病院らしき建物が見えます。まさに未曾有の「厄災」がこの町を覆い尽くしているという、象徴的な絵になってますね。


●虹村さんの参戦により、未知なる見えない「しゃぼん玉」が院長に命中!ついに攻撃が通ったッ!ようやく訪れた好機。手を緩める事なく、すかさず定助はさらなる猛攻を加えます。「LOCACACA 6251」にオラオララッシュ!凄まじい攻撃により、辺りに粉塵が煙のように漂います。するとその時、定助の目は確かに捉えました。煙の中を通り抜けていく、……いや、煙を削り取っていくかの如き、1個の謎の「しゃぼん玉」の存在を。そしてそれは、どこかへと飛んでいく……。回転を止め、「線」「ひも」となって消えてゆく他の「しゃぼん玉」を観察しつつ、定助は先程の礼さんからのメッセージを思い返すのでした。
定助と対峙する、院長こと『ワンダー・オブ・U』。頭部をえぐり取られ、初めてダメージを受けた事に、かなり慌てふためいている様子。この世には「理 (ことわり)」の繋がりがある。「厄災」の流れは「条理」の流れ。その連続する繋がりを超えて来るモノなど存在しないし、絶対にあり得ない。……実際、定助を助けるべく、スマホを渡しにやって来た虹村さんには、なんとその左目に院長の折れた杖の取っ手部分が突き刺さってしまっていました!彼女はそのまま倒れ、『ボーン・ディス・ウェイ』も砕け散って消滅。ウソだろッ!?これからだと思ったら、もうご退場!?早すぎるぜ。……いいや、むしろそれこそが『ワンダー・オブ・U』の本来あるべき流れなのか。
虹村さんが落としたスマホを拾おうとする定助を見つめながら、院長はさらに思案を重ねます。もし、この世に存在しないモノがどこかに存在するとしたなら……、この世の「条理」からの影響をまったく受けないモノが存在するとしたなら……。存在しないモノが存在する。矛盾した存在。パラドックスと言いますか、まさしく「条理」を超える「背理」「逆理」「不条理」そのものです。


●一方、東方邸では……、なんと康穂の目の前に透龍くんが悠然と姿を現しました。同じ時刻、病院では定助がスマホを拾い上げる。そのスマホを通して、定助のそばに『ペイズリー・パーク』発現ッ!事態が事態だけに、康穂本体よりも定助を助ける事を優先したのでしょう。本体は透龍くんだった事、彼が東方邸の裏山にいる事など、康穂が知った情報を全て定助に伝えます。定助的には、恋のライバルだった男が敵でもあったワケで、どっちも一気に片付けられるのは一石二鳥なのかもしれませんが(笑)。
自分の方へ歩いて近付いて来る透龍くんと向き合いながら、康穂は「「本体」を殺せばッ!!」 「これらの『厄災』は終わるッ!」と明言!もはや康穂にとって、透龍くんは元カレではなく殺すべき敵となったのです。この前向きな覚悟の決まりっぷり、「ジョジョ」だな~。いくら素敵な想い出があろうと、ここでウダウダ迷ったり躊躇ったりしない。敵は敵。敵は倒すのみ。実に分かりやすい。
そんな明確な敵である院長……、クルッと定助に背を向けると、そのまま遠ざかって壁に潜り込んでいきます。康穂に近付く本体:透龍くんと真逆の行動なのが面白いな。透龍くんは、「定助を始末するのは中止にした」と淡々と語ります。邪魔な存在ではあるけど、もしかしたら自分にとっての脅威かもしれない。始末したいのはヤマヤマでも、もう諦めた。定助と関わるのは危険な感じがするという、単なる直感。それに素直に従い、あっさり戦いを放棄して逃げを選択できるのが、透龍くんの不気味な凄みですよ。こんなキャラ、今までいなかったよな。


●透龍くんにとって重要な目的は、あくまで「新ロカカカ」を確実に手に入れる事。それさえ回収したら、この場所からもTG大学病院からも消えると言います。無事が何より。たぶん、そのまま行方をくらまし、定助とは無関係のどこか遠い場所でまた誰かになりすまして生きていくんでしょう。「透龍」という名も捨て、別人として、「新ロカカカ」で人間社会を牛耳るつもりなのでしょう。目的達成のために、余計な感情には一切こだわらない。そういう「個」が希薄なところが、逆に強い個性になってるね。透龍くん、掴めないヤツ。
院長は部屋から抜け出し、逃げて行きました。すると、定助の腕を掴む4本の腕!振り向くと、もうそれらの腕は無く、横たわる礼さんと虹村さんの姿だけ。きっと、2人の魂が定助を後押ししてくれているのです。あの4本の腕は2人の両腕。その証拠に、もう動かず物言わず倒れているはずの礼さんの声が、定助には聞こえました。見えない「しゃぼん玉」を恐れて院長は逃げた。おまえ自身も気付いていないその「しゃぼん玉」であいつを倒せ、と。しかし……、コントロールなんて出来ないし、院長を追えばまた「厄災」が襲って来る、と自信なく弱気になる定助。まぁ、こんな重大な局面で、理解もしてない物を使って戦えと言われても困っちゃうよね。
礼さんは、院長も勘付いていた事を定助に教えます。あの見えない「しゃぼん玉」はこの世に存在しないから、必ず院長の能力も超えて行ける。院長はおまえから避難しているんだ。言葉の意味はよく分からんが、とにかくそれっぽい事を言って定助をその気にさせようと励ましてくれてます(笑)。魂になっても頑張るなぁ、礼さん。


●間もなく康穂に訪れる「厄災」に、「新ロカカカ」が巻き込まれないうちにゲットしようと迫る透龍くん。前は「ぼくの姿を見たら即座に死ぬよ」って言ってた割に、ここまで大っぴらに姿を見せてもまだ康穂は死んでません。まぁ、スマホで虹村さんに電話した時点で「死ぬ順番」は康穂が先って事に決まったようなので、そうなっちゃえば後から姿を見せてもノーカンなのかも。
「厄災」に正義は無い。悪との区別も無い。透龍くんがそう語ります。「厄災」は何よりも平等ですからね。何の区別も差別も無く、誰にでも等しく起こり得る。そこで結果や命運を左右するものがあるとすれば、それはただの「条理」の繋がりでしかないのでしょう。その繋がりがその時どう働いたか?全知全能なる神の視点から見れば「必然」だけど、不完全な人の視点から見ればたまたまの「偶然」。ハッキリ言って、成す術はありません。10年前の大震災にしたって、今の新型コロナウイルスにしたって、誰が無事で誰が被害に遭うかなんて分かりようもない。……ならば、いざ「厄災」に見舞われてしまった時、我々はどうすればそれを乗り超えて行けるのか?今こそ、その大切な事が描かれようとしているのかもしれません。それはきっと、「呪い」を解く事ともイコールのはず。
康穂を追い詰める透龍くんに、常秀が絡み始めます。「厄災」化が解けたおかげで正気を取り戻したようで、普通に康穂を守ろうとしてる。……ってか、常秀は透龍くんを知らないっぽいですね。高校の時の彼氏だったのに。康穂は透龍くんとこっそり交際してたのかな?母親やクラスメイト達に何言われるかって感じで。……ってかてか、常秀も透龍くんの姿を直視してるのに即死しないな。やっぱ康穂が死ぬのが先と決まってるから、常秀の死はその後になってるのかな?あるいは、同時に死ぬ?


●透龍くんは常秀の事など眼中になく、軽くあしらってます(笑)。それにキレた常秀が襲い掛かるも、その時、視界に奇妙な物が映りました。さすが目ざとい男。遥か上空から落ちて来るデカい物体。そう……、飛行機から剥がれたパネルです!康穂も透龍くんもそれを見て確信。これからあのパネルがここに落下する。それによって康穂は死ぬ
(ちなみに、岩助の犬小屋らしき物も見えますね。位置関係を見るに、コラム『東方邸の間取り図をざっくり作ってみたよ』で書いた私の解釈は正しかったようで安心。)
「新ロカカカ」から康穂を引き離そうとする透龍くんですが、大好きな康穂ちゃんに勝手に触れられた常秀は激怒!再び透龍くんに襲い掛かります。すると、「厄災」発動ッ!落ち葉が「激突」して来て、常秀の指が切断されてしまいました。もの凄い形相で絶叫し、康穂を巻き込んで一緒にブッ倒れる。すっかり顔芸に開眼しやがったな、常秀。切断された指ぐらい『ナット・キング・コール』で接続可能だろうし、コイツの心配は大してしてません(笑)。
相も変わらず淡々と悠然とマイペースに、透龍くんが「新ロカカカ」の鉢を持ち上げる。そして最後に告げる、康穂へのお別れの言葉「さよなら」 「……康穂ちゃん……」 「全てが終わって その後に残るものは…」 「夢と……… 想い出だけだ」 「それだけだ」。何なんだろう?彼には闘志も、憎悪も、愛情も、矜持も、執着も、そういう強い感情がまるで感じられません。己の信念や欲望を貫き、それゆえにぶつかり合う、今までの多くのキャラ達とは一線を画す人物ですね。定助に対しても、邪魔だけど危ないなら無視しよう。それだけ。康穂に対しても、好きだけど死ぬんならしょうがない。それだけ。そもそも彼の世界には「生きた他人」など存在していないかのよう。ただ、夢と想い出だけ。なんか……、おぼろげで儚い、うら寂しい世界。透龍くん、何とも言えぬ不思議な魅力があります。


●奪われた「新ロカカカ」!康穂に接近するパネル!絶体絶命の窮地ッ!一発逆転するためには、直ちに定助が、院長に文字通り一発命中させて仕留める以外にありません。礼さんの助言に従い、院長を追う定助。『ペイズリー・パーク』=康穂には「ここで待て」と告げ、単身、院長に勝負を挑みます。指先には回転する「しゃぼん玉」、狙う先はのんきこいてエレベーターを待つ院長。
しかし、礼さんが言うには、見えない「しゃぼん玉」とは指先に見えてる「しゃぼん玉」とは違う、との事。それは、この世に存在していない。だが、存在しなければ「条理」を超える事が出来る。それは、「呪い」をも超えて行ける。東方家の「呪い」も、ホリーさんの「呪い」も解ける。……そう断言してます。えっ、マジで!?そこまで解決できちゃうの!?このセリフを読んだ瞬間、ようやっと「あ、ひょっとして終わりが近いのか?」と感じ取れました。そんな定助の足掻きに気付いた院長、「これはわたしの只の避難訓練だよ」 「厄災が避難訓練とはだが」 「クク」などと余裕げにほくそ笑み、透龍くん同様「さよならだ」とお別れのご挨拶。
去り行く院長の後ろ姿に、定助が「しゃぼん玉」発射ッ!その瞬間、定助の「星のアザ」から不意に、もう1個の別の「しゃぼん玉」が生み出され、浮かび上がっていきました。まさかこれが、見えない「しゃぼん玉」!?定助自身もついにそれに気付きます。これは果たして一体……!?こんなイイところで、続きは次号。ぐああー!


●さて、この見えない「しゃぼん玉」とは何なのでしょうか?第100話の追記の件は一旦置いといて、その辺を改めて考え直してみます。
存在していない存在。一言で言っちゃえば、「無」です。時空・次元にポッカリ空いた「穴」。イメージ的には、超小型の『クリーム』の「暗黒空間」みたいなもの。何も無いからこそ、「条理」すら無い。「条理」とは物事の筋道や道理ですから、そもそも「物」も「事」も無いのなら、「条理」など無くて当然なのです。「無」であれば、追撃も何も無いし、院長にも命中してダメージが通るでしょう。「線」だの「回転」だのは、次元を超越して「無」となるための手段に過ぎません。
じゃあ、なんで「しゃぼん玉」が「無」なのかと言うと……、定助のスタンド能力だからです。定助という人間の存在がそのまま反映されているからです。目醒めた当初の定助は、戸籍も無ければ過去の記憶も無い、居場所も進むべき場所も無い、それどころか他者との関わりさえも持たない、新たに生まれた異質の存在でした。まさしく、この世に存在しない存在です。定助が自分にまつわる事で唯一知っていたのが、スタンド『ソフト&ウェット』。ならば、『ソフト&ウェット』の「しゃぼん玉」が、そんな定助の特性・本質をまるごと投影していたとしても不自然ではありません。そう考えると、彼のルーツの証明である「星のアザ」から生み出される点も納得できようというもの。定助のルーツ(の片割れ)は「空条 仗世文」。空っぽの条理=空条なのです。
「条理」すらも「無」に還すのなら、何かしらの因果で受け継がれてきた「石化」の「呪い」だって、確かに消滅させる事が出来そう。もっとも、この「存在しなけりゃ厄災も受けない」「無かった事にする」なんて手は、テーマ的には掟破りというか、前提を覆す禁じ手に等しい。これは「厄災」を回避する方法でしかなく、襲い掛かって来た「厄災」を乗り超えて打ち克つ方法ではありません。なので、透龍くんを倒してから、テーマが真に深掘りされるような(バトルではなく選択・姿勢としての)展開に突入するんじゃないかなと思ってます。
ヘタをすると、みんなのあらゆるダメージや不幸を一身に引き受けて、定助だけが消え去ってしまうような悲しいハッピーエンドもあり得るかも。でもなぁ……、定助と康穂には一緒に幸せになってもらいたいですね。透龍くんを始めとする「岩人間」も、人間社会からすりゃあ存在しない存在である事は共通しています。ただ、透龍くんは康穂を一方的に美しい想い出としてしか見ず、定助は共に生きる対等なパートナーとして見てる。それだけに、両者にはまったく異なる道を歩み、まったく異なるエンディングを迎えてほしいところです。


★今月は45ページ!定助と虹村さんの兄妹コンビネーションが拝めるという期待も空しく、虹村さんあっけなく倒れる!「ジョジョリオン」はどこまでも定助に焦点を定めてくるなぁ。もっともっと活かせそうなキャラもいっぱいいるだけに、もったいなく感じちゃいますが、今の謎の主題はあくまで見えない「しゃぼん玉」にあるってワケですね。その謎もいよいよ明らかになりそうで、めっちゃ楽しみです。
作者コメントは「新年おめでとうございます。コロナが終息することを祈っています。『ジョジョリオン』も大詰めですよ。」との事。嗚呼……、荒木先生からも終わりが近い事が明言されちゃいましたね。正直、まだまだ続くものと思ってましたよ。未消化の設定やキャラや問題が山積みのまんまですから。透龍くんをやっつけて「新ロカカカ」を手に入れて、それでどれだけの問題が解決するんだ?って思ってましたから。その後で、最後に怒涛の展開が押し寄せて完結するんだろうか?それとも、謎の一部は第9部に引き継がれるのか?まぁ、いずれにしても、第8部完結まではもう1~2年程度は掛かると勝手に踏んでますよ。それまで、もうしばらく「ジョジョリオン」を楽しませていただきます。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 2月号(2021年)
162ページ


今月は、倒れる虹村さんとバッキバキに砕けゆく『ボーン・ディス・ウェイ』。単純に、スタンドが砕け散っていく描写が好きなんです。一見、柔らかそうにも見えるヴィジョンが、まるで陶器か何かのように砕けてしまう独特の「質感」がね。『ボーン・ディス・ウェイ』もいい砕けっぷりです。
あと、スタンドが砕けるという事は、その人物の心と命が砕けるという事に他なりません。肉体は五体満足であろうと、スタンドが砕けて消滅しちゃったらおしまい。そんな絶対的な敗北と死が美しく描かれている。そこに魅せられているのかもしれません。




(2021年1月19日)




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