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呪いを解いて……
新しい空を見上げよう


#105 見えないしゃぼん玉





●今回のトビラ絵は、ダラリと下げた指先に「しゃぼん玉」ならぬ「しゃぼん弾」を回転させ、こちらを睨んで進んで来る定助と『ソフト&ウェット』。めちゃんこカッケーな!この10年近い積み重ねで、定助もいい風格を漂わせるようになったな。背景には、ドデカく「JO」の文字。名実ともに紛れもなき「ジョジョ」!
サブタイトルもとうとう「終わりなき厄災」から変わり、終わりが近付いてきた事実を感じさせます。もっとも、最終回へのカウントダウンは無し。「SBR」ではラスト3回からカウントされてましたから、それに倣えば、少なくともあと4回以上続くはず。よしよし、こっちはまだまだ「ジョジョリオン」が読みたいんでひと安心。


●波立つ海。遠くの陸地から立ち昇る黒煙。この光景だけでピンと来ますよね。そう……、今回の冒頭はなんと、仗世文と吉良の「融合」直前シーン!ダモカンと夜露に追い詰められ、『シアーハートアタック』の爆発で辛くもその場を逃げ出せた2人。東方家の果樹園まで辿り着き、追っ手のエイ・フェックス兄弟も返り討ちにしたところで、再び地面の隆起が発生します。瀕死の吉良に2個目の「新ロカカカ」を食べさせる仗世文。ひょっとして、多くの読者にさんざんっぱら矛盾だなんだと言われた過去編を補強するエピソードでも追加されるのか?
そんな期待と不安に胸がざわつきましたが、特にそんな事も無かったぜ!地面が崩れたシーンで終わっちゃったので、単におさらい的な意味合いで描かれたんでしょう。とは言え、仗世文の最後のセリフは染みましたよ。「呪いを解いて……」 「新しい空を見上げよう」。い~~い言葉だなぁ~~。爽やかで前向きな希望に満ちた、美しい言葉。この仗世文の祈りから生まれ、それを受け継いだのが、今の定助なのです。この言葉が読めただけでも価値があった。震災から10年目の今、世界中がコロナ禍で苦しむ今、この言葉がリアルにグッと来る。仗世文の一人称が「オレ」から「僕」になってるけど、そんなのは些細な事です(笑)。ジョニィもそうだったしね。


●院長に「しゃぼん弾」を撃ち込もうと構える定助。すると、彼の「星のアザ」から見えない「しゃぼん玉」が浮かび上がる。
……礼さんが言います。この見えない「しゃぼん玉」は、無限ゼロに細い線が回転しているから、この世には存在していない、と。なるほど。どこまでもどこまでも際限なく細い「線」「ひも」。延々と突き詰めて考えていけば、その究極・極限はゼロです。無限に細いという事は、もはやゼロに等しいという事。まるで、「アキレスと亀」のパラドックスを体現した、永遠に追い付けない「緑色の赤ちゃん」のように……、「黄金長方形」の無限への軌跡に自分の肉体を巻き込み、その果てにある究極の地点にまで到達した『タスク ACT3』のように……、「机上の空論」 「抽象的な概念」を実現させてしまったという事。しかし、それもそのはず。そもそもスタンド能力とは、物理さえ超えた「心の力」なんですから。そんなワケで、「無」を現実化したものがあの「しゃぼん玉」なのでしょう。
「存在しない存在」とも言える、この見えない「しゃぼん玉」。見えなくて存在していないのであれば、恐らくコントロールも不可能。そこに在るのは、爆発的な回転だけ。どうやらその途方もない回転力の源は、『キラークイーン』の爆発の能力のようです。これぞ仗世文と吉良が「融合」した定助だからこその能力ッ!自分など最初からどこにも存在していなかったと語りながらも、吉良とホリーさんを救う事で己の存在を確かめたがった仗世文。そんな彼の心の形が、とても儚い「無限に細い線」だったのかも。普通の「しゃぼん玉」とは別に、たま~に人知れず「線」が出て来たけれど、球体にもなれずにすぐさま霧散・消滅してしまっていたのでしょう。そして、一度思い込んだらトコトン突っ走る吉良の心の形が、凄まじいまでの「爆発」。この2人の心と性質を受け継いだのが定助です。2人の力が合わさる事で初めて、「無限に細い線」は「しゃぼん玉」の形を取る事が出来るようになり、条理を超えて「厄災」をも打ち破れる力となったのです!
「超弦理論」だとか「ビッグバン」だとか、そういう壮大なスケールの宇宙的パワーではなさそうですね。もっとずっと単純な、どこにでも行けて何でも削り取っちゃう(消し去っちゃう)玉っていうだけ。でも、定助という存在の意味が明確に表れた解答だと思います。見えない「しゃぼん玉」は、まさしく定助にとっての「祝福」であり「福音」なんだ。


●満を持して、指先の「しゃぼん弾」を発射!ところが、院長は相変わらずの余裕っぷり。「オブラディ・オブラダ」、そう呟いて杖をかざします。「しゃぼん弾」は杖に当たって、あっさり弾かれてしまいました。杖は折れたものの、院長はノー・ダメージ。ただ、見えない「しゃぼん玉」が肩から出た事を、定助自身も感じ取った模様。コントロールは出来ないまでも、存在を感じられるなら利用は出来るはず。
エレベーターに乗り込む院長へ近付き、その背中に2発目を向ける!それでもなお、院長は余裕綽々な態度。「オブラディ・オブラダ」とは、「ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー」に続く2匹目の「岩昆虫」の名前だったのです。さきほどの攻撃の際、飛び散って定助の右手に引っ付いていたのです。これも無論、「厄災」って事。「オブラディ・オブラダ」はコインかメダル、あるいはクッキーのような丸く平べったい体をしています。「岩昆虫」と言っても、人間が決めた「昆虫」の定義には当てはまらず、節足も無ければ体が3つの部位に分かれてもいないそう。便宜上「岩昆虫」と呼称してるだけっぽい。崖とかの傾斜地に生息し、上下方向から色々な動物を狙うんだとか。その見た目は、動物の足跡の擬態にも見えます。これまた面白いヤツを出して来たな。「ダーダーダー」だけで終わりじゃないとなると、院長独自の戦闘スタイルって感じが増して良いですね。
「オブラディ・オブラダ」は、引っ付いた箇所にどんどん喰い込んでいく。出血する右手。力ずくで剝がそうとする定助ですが、なんとポコポコと増殖ッ!血を吸って増えるとかか?増殖したヤツらも定助の右腕に引っ付き、事態は余計に悪化しちゃいました。「しゃぼん弾」を撃ち込んでも、その飛び散った破片からまた再生・増殖し、また肉体に引っ付く。コレ、明らかに定助の血を追ってますよ。「オブラディ・オブラダ」は『暗青の月(ダークブルームーン)』のフジツボや『黄の節制(イエロー・テンパランス)』、「密漁海岸」のクロアワビなんかを彷彿とさせますね。しかも増殖した分、重さも増しちゃって、マトモに立ってもいられない!


●一方、東方邸では、落下中の飛行機のパネルがいよいよ康穂の元に近付いて来ました。康穂が動いても、それに合わせてパネルも落下方向が変わる。完全にピンポイントで狙われてます。それを見上げ、無言で歩き去っていく透龍くん。指を切断された常秀は、意外にも粘って男気を発揮し、「君をオレが守る」と宣言。実際に役立つかどうかはともかく、この状況でこのセリフを吐けるだけ常秀は立派だよ。
定助はスマホを床に落とすと、「『ペイズリー・パーク』を自分の所に戻して、自分自身を守れ」と康穂に伝えます。「オブラディ・オブラダ」が体中に纏わり付き、院長を追うどころか、床を這いずる事しか出来ません。院長はエレベーターに乗り込み、ドアを閉める。とうとう逃げ切られたのか!?そう思いきや、すかさず『ペイズリー・パーク』が回線からエレベーターを止め、ドアを再び開かせる。目の前には院長の姿。これがきっと最後のチャンス!「撃ってッ!」という康穂の叫びを聞き、定助は力を振り絞って立ち上がります。その左目には闘志の炎がメラメラ。「星のアザ」からは、またもや見えない「しゃぼん玉」が浮かんできました。
指先を院長に向け、「しゃぼん弾」を再度発射!しかし、院長は避ける素振りすら見せず、突っ立っているだけ。放たれた「しゃぼん弾」は、ポコポコ増殖する「オブラディ・オブラダ」に当たり、軌道が逸れてしまいます。飛び散る定助の血を追い、広がって増えやがったのです。やはり追撃しようとする限り、「厄災」が院長を守る。「オブラディ・オブラダ」に全身を埋め尽くされた定助は、その場に崩れ落ちる。せっかくのラスト・チャンスをフイにしてしまった!


●絶望の中、定助の名を叫びながら、『ペイズリー・パーク』がスマホから康穂の元に戻っていきます。パネルはもう康穂のマジ目前ッ!生きようとする本能で、無意識的に『ペイズリー・パーク』を戻した感じですね。透龍くんは、せめて康穂の最期くらい見届けてやろうとでも思ってるのか、横目でチラリ。だがッ!この時、奇跡が起こったのですッ!
『ペイズリー・パーク』と一緒に、見えない「しゃぼん玉」までこちらに移動。すべてを超えて行けるのだから、そりゃあこの程度は楽勝でしょう。スマホから放たれ、透龍くんへと真っ直ぐ飛んでいく!これこそが正真正銘、ガチのラスト・チャンス!……誰の計算でも策略でもありません。でも、単なる偶然のラッキーとも違う。定助と康穂、2人がいたから、2人が巡り逢ったからこそ辿り着けた必然の奇跡なのでしょう。スマホに「しゃぼん玉」なんて、第1話とも繋がってるしね。うん、さすがにこれは決着が付くだろうと思いますよ。ここで今回はおしまい。
見えない「しゃぼん玉」が透龍くんを貫き、彼が手放した「新ロカカカ」の鉢がパネルに当たって軌道が僅かにズレる。(これで「新ロカカカ」は破壊される。) 康穂や常秀には命中せず、東方邸のガレージに直撃。その壁の向こうでは、死んだ常敏と、泣きじゃくる家族達。しかし、パネル落下の衝撃で、幸運にも常敏の心臓が再び動き出す。―― みたいな展開にならんかな。『ワンダー・オブ・U』が解除されれば、今までの「厄災」がひっくり返って、良い事がいっぱい起こるとかさ。


★今月は45ページ!う~~ん……、何と言いましょうか……。うまく言えませんけど、今回はなんか、荒木先生と「ジョジョ」の新たな領域を垣間見た気分です。今までとは違う、新しい世界に突入した感じ。そんな転換点に立ち会えたような感じ。いや、スゴかったです。展開自体はゆっくりですが、美麗大ゴマの連発で「バンド・デシネ」を読んでいるようでしたし、ストーリー展開に至っては、もはや個人の意志や理解さえも超えたところに来たっていうか。ただの勝敗や損得、カタルシスとかじゃなく、先生の「祈り」が作中世界の「流れ」となって落とし込まれて描かれている気がします。人間の、人の世の、正しい在り方。存在と、出逢いと、願い。心の交わりと積み重ね。愛と、奇跡。それらが世界の自然な「成り行き」として描かれている気がします。やっぱり言葉がまとまらないけど、より大きなステージに来たな、と。まぁ、要するに圧倒されたんです。
作者コメントは「車の自動運転の発明って待ち遠しい。あれって免許持ってない僕でもOKという意味で良いのかな。」との事。でしょうね!完全なる自動運転が確立されたら、「ドライバー」じゃなくて「乗ってる人」でしかなくなりますからね。そんな時代が到来するのは、まだまだ先かもしれませんけど、その頃には交通事故なんてものも無くなってくれるんだろうなぁ。(ちなみに、先生は車の免許は持ってませんが、2001年にモーターボートの免許を取得。2002年の目標として、小型1級船舶の免許取得を掲げていた事もありました。)
残念ながら、来月号は休載です。こんなイイところでお預けとは……!「露伴」の新作でも描かれるのか、第9部に向けての準備でも始めたのか、それとも普通に休養なのか、理由は気になっちゃいますね。とにかく、次回を楽しみに待ちましょう!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 3月号(2021年)
348ページ


今月はトビラ絵も含め、大ゴマ・決めゴマが多く、選考に難航しましたが……、ラストのインパクトでこれですね!康穂にパネルが直撃するその刹那、スマホから放たれる見えない「しゃぼん玉」。時間が止まったかのような、あるいは切り取られたかのような、全ての命運を分けるであろう決定的な一瞬です。
一切のセリフも擬音も無い、静寂の世界。迫り来る「死」という「厄災」に、なす術も無い絶体絶命の窮地。そんな暗闇に差し込む一条の光として「しゃぼん玉」が描かれています。最後の最後、祈りが通じて差し伸べられた救いの手。そういう希望が込められた1コマでした。




(2021年2月19日)




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