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『ジョジョリオン』…―
これは― 「呪い」を解く物語


#108 最期の厄災





●今回のトビラ絵は、破壊された東方邸をバックに立つ康穂。スラリと伸びた脚がキレイな三角形を描いています。この堂々たる佇まい、力強い眼差し、美しい。


●東方邸の潰れた「離れ」、近くに見える「壁の目」と「瞑想の松」。この松の見える風景は、「ジョジョリオン」の象徴的なカットですよね。そして、飛行機のパネルの落下・激突により破壊された東方邸。その時の衝撃で気絶していたのか、倒れていた密葉さんがヨロヨロと立ち上がり、つるぎちゃんの身を案じてガレージへとやって来ました。
そこでは、今まさに東方家の「呪い」を解く儀式が執り行われていたのです!「新ロカカカ」を食べた透龍くんが、「病気」で石化したつるぎちゃんに触れてしまった。食べた者が触れた者から奪うのが、「新ロカカカ」による「等価交換」の形。さらに花都さんは、『スペース・トラッキング』のカードで「新ロカカカ」の樹木をすり潰し、トロトロの樹液を滴らせていました。なるほど。カードとカードの間に空間的に隠すだけでなく、物理的に押し潰す事も可能なんですね。空間を切開するだけじゃなく、物理的に切り裂く事も出来た『スティッキィ・フィンガーズ』みたいなもんか。とすると、『スペース・トラッキング』はエグい程に強力なスタンドですよ。ただカードとカードに挟み込むだけで、どんな物質も押し潰しすり潰す事が出来るんでしょうから。
というワケで、てっきりトランプでトラップを仕掛けているものとばかり思っていましたが、そんな事はなかったぜ。


●滴る樹液をつるぎちゃんの口に垂らす花都さん。止めさせようと、院長こと『ワンダー・オブ・U』が彼女にしがみ付くものの、時すでに遅し。透龍くんと院長の脳天が吹っ飛んでしまいました。どうやら「岩人間」と言えど、「石化病」を引き受けてしまうと、全身が石化して崩壊していくようです。めっちゃストレートな結果ですね。逆に人間化する、なんて事にはならなかったか(笑)。
崩壊する透龍くんとは対照的に、石化が解けて瑞々しい肌を取り戻していくつるぎちゃん。恐らく、最初の「等価交換」で、透龍くんがつるぎちゃんから「石化病」ごと肉体・細胞を奪った。そして、続く樹液による「等価交換」で、今度はつるぎちゃんが透龍くんから自分の肉体・細胞を奪い返した。結果、「石化病」だけが透龍くんに残り、つるぎちゃんは健康な肉体を取り戻した。……そんな感じかな?「岩人間」だからこそ「石化病」を優先的に持って行ってくれたんでしょうか?花都さんはどこまで計算してて、どこからが偶発的な結果だったんでしょうか?結果オーライではありますが、気になります。
ってか、樹液での「等価交換」は昆虫だから可能な事だと思ってたら、普通に出来るんですね。樹木そのものをほぼほぼ犠牲にする必要があるんでしょうけど、これで1回分追加できるなら御の字。こんな掟破りの裏ワザがあるとは、「岩人間」さえも知らなかったんじゃないかな。あえて「邪道」を突き進む花都さんらしい方法。


●いよいよ透龍くんの最期の瞬間が訪れようとしています。「新ロカカカ」という奇跡。震災での「壁の目」の隆起と、吉良吉影の死と、スタンド能力とが偶然重なり合ってこの土地に生まれた、この世の「理」。もう二度と現れない、地球上の生命の為の摂理。その完璧な植物を永遠に失ってしまう事を嘆き、やめるよう花都さんに説得する透龍くん。確かに、吉良と仗世文の行動がたまたま生み出した物ではあるけど、そこまで凄い貴重な物だったの!?なんか、「ロカカカ」の枝さえあれば、また接ぎ木して量産できそうに思えるんですがね。偶然や奇跡で片付けず、生まれた理由や原理を突き止めていけば再現可能なんじゃない?そういうもんでもないのかな?
透龍くんの言葉にも花都さんは耳を貸さず。つるぎの「病い」はあんたが全部持って行け。そしてこの「罪」は、全て私が背負って行く。……うおお、この覚悟がカッコ良すぎる!彼女の言う「罪」とは、生命の歴史を塗り替えてしまえる「新ロカカカ」を闇に葬ってしまう事であり、勝利と復讐のためにつるぎちゃんの命と肉体を利用した事でもあるのかな?そうなら、つるぎちゃんをうまいこと完治できるかどうかは「賭け」だったのかもしれませんね。まぁ、やらなきゃつるぎちゃんは死を待つばかりだったんですが。
もはや花都さんの説得は不可能と見て、透龍くんは今度は康穂を落としに掛かりました。涙まで流しながら、「助けてくれ」「死にたくない」と無様に懇願。さすがに康穂の心も少しは揺れ動いたでしょうけど、体までは動かない。黙って見つめているだけの彼女。「康穂ッ!このクソ女をさっさと止めやがれェェェェェエッ」と断末魔の叫びを上げ、そのまま崩れ去り、散っていったのでした。透龍くんがここまで声を荒げ感情を露わにするのは、最初で最後。目を醒ましたつるぎちゃんを密葉さんが抱き締め、散り行く透龍くんは1匹のスズメ蜂に手を伸ばす。「家族」、「愛情」、「思い出」。彼が本当に求めていたものは何だったのか?ついに土へと還った透龍くん、なんとも侘しい最期でした。


●サイレンの音が遠くから聞こえてきます。この大惨事に、消防車や救急車が向かって来ている模様。全ては終わった……かに見えたのですが、透龍くんの置き土産が残っていたのです。さきほど「新ロカカカ」をすり潰し、樹液をつるぎちゃんに飲ませた行為は、透龍くんへの明確な敵意・害意によるものでした。透龍くんから「奪い取ろう」とする行為でした。それは攻撃と見なされ、「厄災」がすでに花都さんに襲い掛かっていたのです。透龍くんが持っていたノコギリが、彼女の腹部に深々と突き刺さっていたのです。
力なく倒れ込む花都さん。気絶している息子:常秀の姿を見つめ、自分だけがその中に居られなかった東方家の姿を想う。涙を流し、そして意識を失っていく。泣き叫んで母を呼ぶ大弥ちゃんの声が周囲に響く。

そんな東方家を目の当たりにし、康穂が涙を浮かべます。康穂の静かなモノローグ。
 『ジョジョリオン』…―  これは― 「呪い」を解く物語
存在するけれども目に見えないものがこの世には在り、それは人の「心の形」。あまりにも大きく残酷な犠牲と代償を支払った東方家、それぞれの想いを抱く家族が集うこのガレージの中に何が見えるのか?バラバラにされた鉢植え、破壊された東方邸、散らばったトランプの残骸、それらの中に何が見えるのか?
私(康穂)には、絶望ではなく「希望」が見える。全員が希望のために行動し、「厄災」に倒れながらも、最後の最後にここまで進んだ。それは全て希望のため。つるつるに輝くつるぎちゃんのほっぺたの皮膚の表面に、東方家の希望が見える。「呪い」は… この時、解かれたのだから…


●第1話の1つのアンサーとも言える、このモノローグ。とにかくグッと来ますね。「ジョジョリオン」という作品タイトルが作中で語られるとは、メタいと言いますか、前代未聞の事態ですよ。つまりこれは、康穂から我々読者に対するメッセージなんです。現実世界と作中世界、大震災という「厄災」を共有する2つの世界。その両者の境界・垣根が壊され、繋がったのです。康穂の声が世界を超えて行き、今、我々に届いたのです。『ペイズリー・パーク』の能力を持つ康穂だから、なおのこと説得力を持ちますよね。
そんな康穂が私達に伝えるのは、人の「心の形」。見えないけど在るもの。見えなくなってしまっても、そこに確かに遺るもの。その大切なものを、見ようとしなければいけないのです。彼らが何を想い、何を願い、何を祈って生きたのか、を。様々な物をいくつも失ってボロボロの東方家ですが、それでも、何もかもを無くしたワケじゃありません。「等価交換」がこの世の理なのだとしたら、願いや祈りの果てで、代わりに手に入れた物だってあったはず。生と死、罪と罰、善と悪、勝利と敗北、幸と不幸、愛と憎しみ、希望と絶望……、割り切れないいろんな矛盾やジレンマを抱えながら、東方家はようやくここまで辿り着けたのです。康穂のモノローグは、東方家への、そして我々読者への「祝福」の言葉に違いありません。


●つるぎちゃんが、気を失いシートに包まれる憲助さんを引きずって来ました。常敏が手加減していたはずだから、首の血管のヤケドはかすり傷らしい。その息子の行動と想いは、憲助さんも分かっているはず。……とは言え、首以上に右手首の負傷の方がヤバくないっスか?ホントに大丈夫?(笑)
救急車が到着し、花都さんや常秀が運び込まれます。さぁ、お次は憲助さん……という時、康穂が視界の端に何かを捉えました。それはなんと、本体:透龍くんと共に消滅したはずの院長の姿ッ!車の下から憲助さんのシートの中へと移動。慌てて康穂がシートを開いて確認すると、そこには何も無い。ところが、憲助さんの首のヤケドが急激にどんどん悪化していくではありませんか!よく見ると、憲助さんの口の中に院長の手が見える!憲助さんは意識すら無く、院長への攻撃どころか行動も思考も出来ないのに何故ッ!?
康穂はここで気付きました。透龍くんのスタンド『ワンダー・オブ・U』とは、この世から決して無くなる事のない「厄災の理」というエネルギーを、自分のために利用するだけの能力だったという事に。そっか、それなら一個人があんなにメチャクチャな能力を持てたのも納得いきます。そもそも自分の力じゃなかったんだね。透龍くんがいようがいまいが、「厄災」は起こって当然だからね。恐らく、もともと存在している「厄災」のエネルギーに自分のスタンドパワーを加え、具体的な形を与えたものが『ワンダー・オブ・U』(=院長)なんでしょう。透龍くんが死んでも、与えられたスタンドパワーはまだいくらか残っていて、院長の姿を保てているのかも。(まぁ、残ったスタンドパワーは次第に弱まって消え失せ、じきに院長も形の無い見えない「厄災」のエネルギーに戻りそうだけど。) ……で、たまたま近くにいた憲助さんに憑いた、と。前回書いた、ラスボスは「厄災」そのものという考えを裏付けるような真相でした。


●ヤケドの悪化で血を噴き出す憲助さん。迷惑極まりない透龍くんの置き土産 第2弾に翻弄され、みんなは絶望の叫び声を上げるのみ。
その絶体絶命の窮地にさりげなく何気なく登場したのは、我らが主人公:定助でした!うおおっ、これぞヒーロー!何故か仗世文みたいに一人称が「僕」になってるけど。この期に及んで、仗世文要素が強くなってきたのか?意味はあるのかなぁ?ともあれ、定助は落ち着き払って、「ゴー・ビヨンド」を発射ッ!この瞬間の絵がまた泣けるくらいにカッコイイ。絶対勝利間違いなしの、ヒーローの最後の必殺技シーンって感じで。「ゴー・ビヨンド」は憲助さんの肉体を通り抜け、体内に潜む院長にだけ命中。「正確なコントロールは出来ない」だの「狙いはだいたい」だの言ってる割に、軌道まで曲げて、すっかり使いこなしてるぞ。見事、これにて院長を完全粉砕ッ!もしもケガや病気、不運なんかが、こんな風に「厄災」のエネルギーに取り憑かれている状態を指すのならば、それを「ゴー・ビヨンド」で粉砕・撃破しちゃえば解決できるって事ですね。ホリーさんの「呪い」もそうやって解くのかな?もはや神の領域(汗)。
「厄災」を乗り超え、再会し、寄り添い合う定助と康穂。やっと全てが終わった……。そんな確信を抱ける、清々しい絵です。透龍くん&院長との死闘、決着ゥゥ―――――ッ!!
こうなったら、憲助さんも花都さんも生きていてほしいですね。花都さんがこのまま死んじゃったら悲しすぎ。長男:常敏を失っても、せめて花都さんが犯した罪は、憲助さんが赦してあげてほしい。花都さんが貫いた愛は、憲助さんが認めてあげてほしい。そんな救いがあってもいいじゃない。罪も愛も、受け継いだ過去も、託された未来も、家族のみんなで背負って生きていってほしい。増して、密葉さんのお腹には常敏の忘れ形見も宿っているんですから。やがて産まれてくるその子のためにも、ね。


★今月は49ページ!ちょっぴり増ページが続いており、荒木先生の気合いの入りようが伝わってきます。胸がじんわりと熱くなる回でした。テーマが結実した回でした。大きな厄災に見舞われた直後に始まったこの物語は、10年もの歳月を経て、我々が新たな厄災の渦中で苦しむ今この時、とうとう実を結びました。彼らの姿に、言葉に、想いに、しみじみと勇気が湧いてきます。まだ「次号、最終回!」とか「完結まで残り○話!」とかの告知も無いので、もう少しこの物語と一緒にいられると考えていいのかな?期待しちゃいます。
作者コメントは「最近普通の白い食パンに超うまいヤツがある。並べて食べると以前のに戻れないくらいに。」との事。先生お気に入りの食パン、教えてほしい。先日、誕生日を迎えられたばかりの先生ですが、食べる事を楽しめるのは健康な証拠。これからもお元気に漫画を描き続けていただけたら嬉しいです!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 7月号(2021年)
139ページ


今月は、最後の1コマ。そっと寄り添う定助と康穂です。なんとリアルタイムでは2年ぶりの再会となった2人。ここまでの道のり、長かったな~。
勝利、解放、愛、幸福、安息、希望。見えないけれど確かに在るもの。そういういろんなものを象徴するかのような絵なんですよ。「福音」の証なんですよ、この絵は。だから、今月の1コマはこれ以外にあり得ない。




(追記)
●次回からラストまでの展開を、またもやガチ予想&妄想してみました。「ジョジョリオン」でこんな事を楽しめるのも、あと何回もないでしょうしね!これも106話の追記で書いたタイムスリップ説を踏襲します。



ついに透龍くんを、そして「厄災」を打ち砕いた定助達。東方邸にいた全員が救急車でTG大学病院へ運ばれる。死亡者は常敏と礼さん。重体が花都さんと虹村さん。重傷者は憲助さんと常秀。他のみんなは軽傷。「呪い」を解く代償は、やはりあまりにも大きかった。
定助は手当てを待たず、康穂に声を掛ける。「僕はこれからホリーさんのところへ行く。康穂も来るかい?」。頷き、定助について行く康穂。…………ん?なんだろう?康穂の胸中に違和感が芽生える。
ベッドに横たわるホリーさんをよく見ると、禍々しい「厄災」のエネルギーが取り憑いていた。『ワンダー・オブ・U』との戦いで絶えず「厄災」と向き合ってきたからこそ、見える・感じるようになったのかもしれない。これも「ゴー・ビヨンド」であっさり撃破!ホリーさんの「呪い」も解けた。とうとう母を救えた。安堵し、涙を浮かべる定助。しかし、その直後、意識が遠のいてフラついた。心配した康穂が、定助の顔を覗き込むと……、なぜか皮膚の石化が綺麗さっぱり消えている。その上、なんと口や目から血を流している。いや、仗世文と吉良の「融合」の境目から血が出ているのだ。どういうワケか、「融合」が不安定になり、境目が広がっている。みるみるうちに、全身のいたるところから血が滲み、流れ出した。苦しみのたうち回る定助は、すぐに気を失うのだった。
悲鳴を上げる康穂。大慌てで医師や看護師を呼ぶ。騒ぎを聞き付けたらしい警察も現れた。ふと思い出す。そう言えば定助は、患者殺しの容疑者にされていて、今も逃亡中の身なのだ。なんとかごまかさないと。そんな康穂の警戒とは裏腹に、幸い誰も定助の事を知らないようだ。院内で待機する鳩ちゃんや大弥ちゃんに、定助の突然の負傷を知らせる。ところが2人は、定助という人など知らないと言う。つるぎちゃんと密葉さんに聞いても、答えは同じ。……みんなが、定助の事を忘れていた


康穂自身も、定助との想い出がおぼろげになっていくのを実感していた。定助の顔も、声も、だんだん思い出せなくなっている。なんだ、これは……?急いで定助の病室へ戻ると、彼は気を失ったまま。近付いて、顔をじっくり見つめる。指で触れる。すると……、定助の顔に指がめり込んでいく。顔が透けて、自分の指と重なって見えた。顔だけじゃない。全身が透けている。何もかも意味が分からない。でも、たった1つだけ理解できる。このままだと、定助は消える
当ては無い。でも、じっとしていられない。何か助けられる手掛かりはないかと、すがるように、町のあちこちを駆け回る康穂。大粒の涙をこぼしながら、気付けば、定助と初めて出逢った場所「壁の目」の泉にいた。……そこには、1人の男が佇んでいた。「やあ、君はここに来ると思っていたよ」。男が話し掛けてくる。その男は、桜二郎との戦いの最中、定助の脳裏によぎった「記憶の男」その人であった。無論、康穂には知る由もないのだが。
彼は、今の定助の状態を康穂に教える……。この世の理を超える力「ゴー・ビヨンド」。それは本来、この世に決してあってはならない力。それゆえに、使った者は恐ろしい代償を支払わなければならない。使えば使うほど、この世界そのものから忌み嫌われ、呪われる。世界にとっての邪魔者・異物と見なされ、この世から排除されていくのだ。具体的には、まず、これまで関わってきた人達の記憶から薄れ、消えていく。誰からも忘れられ、誰にも認識されない人間など、存在しないに等しい。そして、肉体までもがこの世から消え去ろうとし始める。「オレ」ではなく「僕」と言うのも、「康穂ちゃん」ではなく「康穂」と呼んだのも、皮膚の石化が消えたのも、「融合」が弱まっているのも、全て存在が不安定になっているため。非常に希薄で曖昧な存在になってしまっているのだ。
そんな定助を救う方法はただ1つ。それは、定助と互いに強く想い合う人が、彼の存在を忘れない事。定助との想い出だけじゃなく、「定助」という存在を形作ったあらゆるものを知り、それを心に刻む事。そうすれば、定助の心も体もこの世に完全に繋ぎ止める事が出来る。つまり、ほとんどの人はすでに定助を忘れ去っているのに、康穂がまだ憶えている事には意味があったのだ。康穂が彼のルーツを探り、見付け出せば良いのだ。どんな巨大な樹だろうと、根っこが無ければ立ってはいられない。定助のルーツを知る事で、康穂が定助にとっての「根」となる。「根」さえあれば、幹や枝を伸ばしていける。過去と今があって、初めて未来があるのだから。それだけ伝えると、男は立ち去っていく。康穂が呼び止め、男の素性を訊ねると「彼のルーツを知れば分かるよ」とだけ言い残した。


定助のルーツ……。空条仗世文と吉良吉影……。吉良の母親であるホリーさんなら、何かを知っているはず!病院へ走る。
「呪い」から解放されたホリーさんは、目を醒ましていた。彼女もまだ定助の事を、息子の事をかろうじて憶えていた。康穂の話を聞き、すぐさま行動に移る。ホリーさんのスタンドは、時に逆らう能力。他人を過去に送る事が出来る能力だったのだ。「岩人間」達はこの能力を恐れ、また、利用できる方法を探し、今まで彼女を生かさず殺さず縛り付けていたのである。ただし、今のホリーさんは心身が弱り切っているため、正確なコントロールが出来ない。下手をすれば、まったく無関係の過去に飛ばされるかもしれないし、人類の歴史さえ狂わせかねない。危険すぎる。……だが、ここでまた『ペイズリー・パーク』の出番!『ペイズリー・パーク』なら、行くべき時と場所に導いてくれるッ!
しかし、問題はもう1つ残っていた。本来ならばホリーさん自身が、常に流れ続ける「この時間」のアンカー(錨)的役割を果たし、過去に送られた者はアンカーを手繰り寄せて「この時間」へと戻って来れる。ところが、ホリーさんはもう間もなく、定助の記憶を忘れ去ってしまうだろう。そうなると、康穂がここに戻るためのアンカーが無くなってしまう。『ペイズリー・パーク』の能力だけを頼りに帰って来れる100%の保証はない。とは言え、もはや迷っている時間もないのだ。……すると、そこに1人の若い女性が現れた。「あぁ~~、セッちゃんだァ~~。え、ホントに透けてるじゃん!」などと、トボけた事を口走る。そう、彼女は作並カレラ。定助の半身でありルーツの一部である仗世文に、恋心を抱いていた唯一の人間。そのせいか、まだ仗世文の事も定助の事も憶えていたのだ。彼女もまた、「記憶の男」から定助の事を聞かされ、ここにやって来た。男の素性も目的も謎だが、とにかく、定助を憶えているカレラならアンカーの役割を代行できるはず!


こうして、様々な偶然と必然が絡み合って導かれ、康穂は1人、過去へと旅立つのであった。「定助……。あたしは、あなたを忘れたくない。あなたをもっと知りたい。あなたと、一緒に生きたい……。」 たとえ世界が定助を必要としなくても、康穂には定助が必要だった。そんな切なる祈りを胸に、東方家、ジョースター家、吉良家、そして空条家の奇妙な歴史と因縁を紐解いていく。定助のルーツを辿っていく。やがて全てを知り、康穂はようやく分かった。定助という人間が存在する事がどれほどの奇跡なのか、を。いや、きっとそれは定助に限った事じゃない。この世に存在する全ての人、全ての生命も同じなのだ。産まれてきた時点で、誰もが等しく祝福を受けていたのだ。その「大切な事」が今、ハッキリと見えた。
―― 康穂が無事に帰って来た。元気な姿の定助が彼女を出迎えた。「おかえり、康穂ちゃん」 「おかえり、定助」。2人は泣きながら抱き締め合い、微笑んで見つめ合い、どちらからともなく口づけを交わす。この瞬間、2人の「呪い」は解かれた。
時はちょっとだけ流れ、数ヶ月後。あの震災からおよそ1年……。東方家は悲劇から少しずつ立ち直りつつあるようだ。家は改修工事も終了。憲助さんも花都さんも生きて退院でき、だんだんと歩み寄り、今では東方邸で一緒に住み始めている。常秀は右腕に義手を付けた。スタンドのネジで自在に動かせるので、特に不自由はしてないらしい。前よりは真面目に家業の事を考え始め、たまに店の手伝いもしている。密葉さんのお腹はだいぶ大きくなり、つるぎちゃんも女装をやめ、男の子として兄として堂々と生きている。岩助は、犬のガールフレンドが出来た。虹村さんも片眼は失ったが一命を取り留め、母と仲良く生活している。東方家との交流も深まってきた。カレラは、なぜか東方邸によく遊びに来る。鳩・大弥姉妹ともすっかり打ち解けていた。康穂は、母親との会話が増えた。父親とも時々会うようになったらしい。
そして定助は、目醒めて以来、「ゴー・ビヨンド」が使えなくなっていた。警察からの疑いも晴れ、正式に東方家の養子となった。今も記憶を失ったままで、東方邸に暮らしている。きっと、記憶を取り戻す事はもう無いのだろう。でも、それでいいと思った。空条仗世文でも吉良吉影でもない、「東方定助」として生きる事を選んだのだから。「東方定助」として出逢い関わった人達と、共に支え合って生きていくと決めたのだから。常秀とはちょくちょくケンカしてるが、果樹栽培師を目指して目下勉強中。康穂との交際も順調である。あの「記憶の男」は、定助のルーツと深い因縁を持つ者だったが、行方はようとして知れない。しかし、いつの日か邂逅の時が訪れるだろう。
憲助さんの書斎。机の上には家族写真と、1冊の本が置かれている。開いたページには、東方家の家系図。そこには、「定助」の名が記されていた。



ジョジョリオン




……っていう予想でした!あと2話くらいで終わっちゃうのは寂しいので、こんな風なさらなる急展開があったら嬉しいです。出来れば28~30巻で完結してほしいなぁ。
まぁ、どういう形であれ、愛と祝福に満ちたハッピーエンドこそ、「ジョジョリオン」というタイトルの物語には相応しい。10年前からそう強く思っております。




(2021年6月18日)
(2021年6月22日:追記)




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