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生きていると
「使命」というものがあるものよ


#109 ラヂオ・ガガ事件





●今回のトビラ絵は、謎の2人の男女。男性の方は青年で、彼が肩に掛けるバッグには見慣れたデザインが……。円形の中に星マーク、蹄鉄に馬、そして『ソフト&ウェット』の頭部そのもの。ジョニィや定助とただならぬ縁がありそう。女性の方は、どこかで見た事あるような小柄な美人熟女。カメラを抱えています。彼らは一体、何者なのか?


●時は70年も遡り、1941年。昭和16年。第二次世界大戦の真っ只中であり、太平洋戦争が開戦する年でもあり、ジョニィ・ジョースターが杜王町で死んでからちょうど40年後にあたる年でもあります。果たして、この年に何が起こったのでしょうか?1~6部の開幕の時のように、あるいは5部のエピローグの時のように、縦にデカデカと『ラヂオ・ガガ事件』の文字。懐かしの感覚。これが「ジョジョリオン」のエピローグとなるのか?しかし、「事件」とはまた不穏な……。ちなみに、「ラヂオ・ガガ」の元ネタは、あのレディー・ガガの名の由来ともなった「QUEEN」の曲「RADIO GA GA」。「ラジオ」じゃなく「ラヂオ」なのも時代感があってグッド。
どこかの駅に到着した列車から降りる、トビラ絵の美人熟女。お迎えの車の運転手のおっさんが彼女を出迎えてくれたものの、指をケガしてる上に融通の利かない人のようで、大量の荷物を車に運んでもくれません。おっさんが持つお迎えボードには「STEEL様」の文字。そう……、やはり彼女はルーシー・スティールその人でした!年齢は恐らく、もう65歳。それでも、あの当時の可愛らしさは健在ですね。ルーシーがはるばるやって来たのは、S市の駅でした。「聖なる遺体」を奪ったジョニィを追って来た時以来の来日なんでしょうか?
そこへ、荷物を運んでくれると言う親切な人が現れたのですが、そいつはなんと置き引きでした。逃げる置き引きに向かって、鬼太郎ばりにゲタを飛ばして撃退する若い男。彼はトビラ絵の青年。2人はこの時、ここで、出会ったのでした。


●荷物を取り返してくれた優しい青年にお礼を言い、ついでにアルバイトの勧誘をするルーシー。荷物運びとガイドで、時給2万円との事。太っ腹です。しかし、青年はこれからガールフレンドと出掛ける予定で、駅にもその彼女を迎えに来たところ。それに、ルーシーが見せる目的地の写真は「ラヂオ・ガガ事件」の現場らしい。杜王町の二本松の場所。東方家の果樹園のある場所。そこのカーブとガードレールが写っていました。どうやら「ラヂオ・ガガ事件」とは、これから起こる事件ではなく、すでに起きている事件だった模様。ルーシーの素性も謎なワケだし、わざわざそんな物騒っぽい場所に行きたくもないでしょうしね。
着物姿のかわいい彼女が現れ、青年を呼びます。「文(ふみ)くん」と……。うん、彼はたぶん空条家の人間なんでしょうね。仗世文やその父親:貞文の関係者・血縁者。年齢的に普通に考えれば、仗世文の祖父にあたる人物なんじゃないかと思われますけど。ただ、彼の服にもジョニィと同じ「蹄鉄&馬マーク」があしらわれているので、ジョースターの血も引いてそうなんですよね。ジョニィの娘の子どもとか、なのかな?黒髪じゃない理由にもなりますよ。奇しくもジョセフと同じ1924年生まれのはずですし、ジョセフと空条家は親しい付き合いをして、それで孫には「仗世文」なんて名前が付けられたのかも。文くんの本名も、「承文 (つぐふみ)」とかだったりしてね。ジョセフ本人って可能性もあるけど、家系図的にスージーとの結婚が確定してる以上、いくらカッコ良くビシッと登場させても「でもコイツ、100パー浮気すんだよな~」って思っちゃってイマイチ締まらないんで(笑)。かと思えば、髪型は憲助さんに少し似てる。東方家との関係もあるのかな?ようやく空条家の、仗世文のルーツが判明しそうでワクワクです。
そんな文くん、さっきの置き引きにぶつかった時、財布をスられちゃってました。「あっちゃあ~~」って感じ(笑)。彼女もあっさり背を向けて去って行きます。結局、ルーシーのアルバイトを引き受ける事に。明るく礼儀正しいし、正義感もあるし、どこかちょっと抜けてるし……、文くんは好感が持てますねぇ。いいヤツだな。


●ルーシーはスピード・ワゴン財団の職員で、植物学と地形学の専門との事。スピード・ワゴンは石油会社から、この世界でも財団になったようです。科学の発展のための財団。勝手な想像ですが、財団はアメリカ政府とも繋がりが強く、政府関係者であった彼女もその繋がりで財団職員になったのかも。また、彼女はかつて結婚していたけれど今は独身らしい。さすがにスティールさんも死んじゃったよな。とは言え、スティールの姓を名乗ってるし、帽子や服のデザインもスティールさんの頭のギザギザを思わせますんで、今も変わらず彼を想ってそう。
土地の調査に来たと言うルーシーですが、文くんは犯罪捜査だと思っていた様子。それは、「ラヂオ・ガガ事件」で何度も人が死んでいるから。―― ある日の夕暮れ、1組のカップルがあのカーブのところでイチャついていた。すると突然、女性の方が「自分を呼んでいる声がする」と言い出し、フラフラと歩き出した。そして、ガードレールのところで「ガガっガガ」と言いながら、なぜか衣服を脱ぎ始めた。たまたまそこに通り掛かった車のヘッドライトの明かりが彼女を照らすと、彼女はパッとどこかへ消えてしまった。近くには溝も穴もない。必死に周囲を探すと、ガードレールの真下に女性の足の指5本と少量の血液が落ちていた。彼女は今も見付かっていない。……そういう話らしい。実に奇怪な事件です。都市伝説そのものですし、「カツアゲロード」なんかよりもよっぽど「デッドマンズ・カーブ」の異名が似合う場所ですよ。
その行方不明の、恐らく死んでいるであろう女性の捜索。ルーシーはそれにはまったく興味がありません。警察や国とも無関係。今、文くんは17歳。戦争時に徴兵されていないワケですから、やっぱり未成年ですよね。彼女は、そんな若き文くんに諭すように語ります。「生きていると 「使命」というものがあるのよ」、と。仕事や自分で決めた事というよりも、大きな流れで選ばれてしまう「天からの命令」みたいなもの。世の中や誰かのために行く事になる、そんな「使命」が人にはあるのだ、と。波乱に満ちた人生を歩む彼女だからこその説得力。ルーシーもきっと、その「使命」のためにここに来たのでしょう。


●車は走り出し、杜王町へ。やがてあのカーブに到着。写真と同じ風景が広がり、二本松からは海岸や鳥居が見下ろせます。この辺りは「杜王猟場 (もりおうりょうば)」と呼ばれる場所で、つい最近までは偉い人達の別荘地域でした。山ではキジ鳥が狩れるようです。海岸では超デッかいアワビが獲れ、密漁したら処刑される時代もあったそう。ニヤリと出来る説明ありがとう、文くん(笑)。そして現在は、東方フルーツパーラー所有の果樹園になっていました。……っていうか、ここは「東方ふるうつ屋」って呼んだ方がそれっぽいですよね。「フルーツパーラー」だと現代的な呼び方に感じる。
さっそく土地の調査を開始するルーシー。東方家の屋敷も見えます。2011年とは地形も建物も風景もまるで違い、時間の流れが実感させられて良いですね。
カメラを抱えて待機する文くんですが、ふと足元に異様な物が落ちている事に気付きました。よく見ると、それは千切れた小鳥の頭部と脚。ビックリして叫ぶ文くんがなんだか新鮮です。戦い慣れた定助達じゃ、もうこの程度で叫んだりはしないでしょうし。しかし、事態はこれだけで終わりませんでした。運転手のおっさんが、あの事件の女性のように異常な行動を始めたのです。自分を呼ぶ声が聞こえ、フラフラとガードレールに近付き、「ガガ」「ガガ」とつぶやき、服を脱ぎ出し、走って来た車が通り過ぎるとどこかに消えてしまいました。残された衣服をめくってみると、そこには切断されたおっさんの手が落ちていたのです。この辺、ケガをしてバンソーコー貼ってるから、おっさんの指だと一目瞭然になっているという見せ方が巧いな。


●あまりの出来事に、文くんとルーシーは戦慄。「ラヂオ・ガガ事件」は単なる噂話や怪談なんかじゃありませんでした。すっかりビビッて「帰りたい」と言い出す文くんですが、ルーシーは1人でなおも調査を続ける気のようです。
彼女はかつて14歳の時、北米大陸で「悪魔の手のひら」と呼ばれる土地に出会った。それは移動する地面。さらに、人間の心の潜在能力を引き出す「特別な力」もあった。土地は生命を生み出す素晴らしい場所。しかし、豊かな土地が必ずしも幸福とは限らない。その豊かさが歪み過ぎて、呪われているという見方もある。「悪魔の手のひら」にどこか似ていると思ったから、彼女は30年程前にも一度、この「杜王猟場」を訪れた事があるそう。なるほど、99話冒頭のルーシーはその時の姿だったのかもね。とすると、彼女は杜王町に来るのは3回目って事かな。ジョニィを追って来た40年前と、調査に来た30年前と、再調査でやって来た今回。
30年ぶりに訪れた理由こそ、新種の植物「ロカカカ」だったのです。「ラヂオ・ガガ事件」の資料はキッカケに過ぎず、その写真の中に写っていた「ロカカカ」を見て、探しに来たって経緯らしい。事件そのものはどうでも良く、目的はあくまで「ロカカカ」。でも、何のために必要なのか?そういや、ルーシーはやたらと咳込んでます。もしかすると、病気でもう長くないのかもしれない。自分の病気を治すため……というよりも、せめて「ロカカカ」を発見・研究し、少しでもより良い世の中にしたいと願っているのかもしれない。「ロカカカ」が杜王町にある理由にしても……、東方常照が戦争でニューギニア島に行った際に見付けて持ち帰ったからではと考えてたんですが、ニューギニア島の戦いは1942年からだしなぁ。後の子孫である憲助さん達に「ロカカカ」の事が伝わっていないのも不思議。果樹も情報も全部、「岩人間」に奪われちゃったのか?まだまだ謎は尽きません。
「RADIO GA GA」という曲名の由来は、「QUEEN」のドラマーであるロジャー・テイラーの子どもが幼い頃、赤ちゃん言葉で「RADIO CACA」と言った事らしいです。「CACA」だと「うんち」って意味になっちゃうので、「夢中」「熱狂」を意味する「GA GA」に置き換えて「RADIO GA GA」にした、との事。「CACA (カカ)」。「ロカカカ」。響きが通じるじゃないですか。こじつけですが、意味深にも感じます。


●「ロカカカ」はきっとどこかにある。でも、この土地は何か、さらにもっと違う。ルーシーに芽生える、そんな確信めいた違和感。ルーシーの言葉の意味がさっぱり理解できず、文くんは必死に彼女を引き止めて帰ろうとしています。このヒーロー然としていない一般人っぽさがいいなぁ。
その時、ルーシーの耳に奇妙な音が聞こえました。「ゴニョゴニョ」「ガガッ」「ガガッ」と異音がしたかと思えば、ハッキリとした「言葉」としても耳に届き始めます。ルーシーを呼び寄せ、誘い込むような言葉。その声は彼女にしか聞こえていません。その声に従ってガードレールのところまで近付くと、その表面が振動して声のような音が聞こえている事に気付きました。いや……、それは確かに「声」だったのです。穏やかに導くようだった声は、急に荒げ出し、「モット近クニ来イ!」と命令してきました。すると、ルーシーの衣服がガードレールの鉄板と鉄板の隙間に挟まってしまいます。強いパワーで強引に、剥ぎ取るように引っ張られる。
「じゅるっ」とヨダレをすするような音が聞こえ、ボルトには目のような物が浮かぶッ!そして、鉄板と鉄板の隙間からは何者かの指と血がチラ見え。鉄板が勢い良くスライドし、ルーシーが引きずられていくッ!スライドして移動した後には、ペチャンコに潰された人間(恐らくおっさん)の死体がへばり付いているッ!そう……、「ような」ではなかったのです。紛れもない、悪意ある生き物! 「杜王猟場」は、この人喰いガードレールが人を狩る場所だった!


人喰いガードレール……。こいつの名を「ラヂオ・ガガ」と呼ぶべきなんでしょうか?とりあえず仮でそう呼ぶか。荒木先生もよくこんなの思い付くよなぁ。この感じ、一人歩きしたスタンドとかっていうよりか、「ダーダーダー」や「オブラディ・オブラダ」に似てる。という事は、「ラヂオ・ガガ」もまた「岩生物」?いやいや、「岩生物」どころじゃない。あんな明確な自我と知性を持って、人語を発しているんですから。例えば、「岩人間」とガードレールが「壁の目」で「融合」しちゃった、ガードレール人間とか?
でも、この期に及んで登場させる程なんだから、もっと驚く正体がいいですね。そんなワケで、「ラヂオ・ガガ」の正体はディエゴ・ブランドーと予想します!「RADIO」なので「Dio」です。1891年、「SBR」レース終了後、トリニティ教会の地下シェルターに、実はディエゴの死体までもが「聖なる遺体」と共に隠されていたのです。その上、聖なるパワーによって、なんと両者は「融合」してしまったんです。その封印を解いてしまったのがジョニィ。「遺体」を持ち出し、1901年、杜王町の二本松の根元の洞穴に隠してしまいました。これにより、「壁の目」の「等価交換」が偶発。「遺体」からディエゴ成分が分離。丸々抜き取られ、地中に残り続けます。やがてあの場所に道路が作られ、ガードレールが設置されました。この時、基礎部分が地中に埋められたため、ディエゴとガードレールが「融合」しちゃったんです!ガードレールは生物ですらないけど、そこは聖なるパワーとかディエゴの執念とかで例外的にね。ひょっとすると、「ロカカカ」があの土地にあったのも、ディエゴ成分が植物に吸収されてたまたま生まれた物だったりして。
そういう事なら、ルーシーがずっと探していた理由も日本に来る理由もよく分かります。ディエゴを殺し、その死体を隠した張本人なんですから!死ぬ前に、自分の行動の落とし前を付ける。それこそが今の彼女の「使命」なのかもしれません。「ジョジョリオン」もまた、やはりDioとの因縁が根底に流れていたってワケですね。


★今月は47ページ!最後のページに書かれていました。「次号…表紙&巻頭カラーにて『ジョジョリオン』遂に完結っ!!」、と。うわあああぁぁぁ~~~……ッ!!マジかよ~~……。この展開ならまだもうちょい続くだろ、なんて思ってた矢先に。ショック!!……つーか、終われるの?別に急いで終わらせなくたっていいんスよ?(笑)
さて、この「ラヂオ・ガガ事件」とはどんな意味を持つエピソードになるんでしょうか?2本の松の木、「聖なる遺体」、「壁の目」、「ロカカカ」、「岩生物」、スタンド能力……。あの土地はいろんな物や力が絡み合っている、「特異点」とすら言える土地。そして、その土地には人の意志がさらに複雑に絡み付く。それによって、豊かな土地も、豊かであるがゆえに「歪み」と「呪い」が生み出される事もある。ルーシーと「ラヂオ・ガガ」を通じてそれを知った文くんが、この町で土地と人々を見守って生きていくと誓う。彼の血と意志は、仗世文の、定助の中にも、知らず知らずのうちに確かに受け継がれていた。……みたいな、定助のバックボーンと未来を示す意味があったりするんでしょうかね?「ラヂオ・ガガ」に服を破られて、文くんの肩に「星のアザ」が!っていうシーン、最後にありそうじゃないですか。
作者コメントは「次回で「ジョジョリオン」完結します。定助や康穂ちゃんには幸せになってほしいなあ。」との事。まったくもってその通りですし、作者本人からのお言葉である以上、ハッピーエンド間違い無しですねッ!……と言いたいところではありますが、作中であんな惨い死に様を描いたヴェルサスに対し、コミックスではぬけぬけと「本当に幸せになってほしいものだ。」などと他人事のようなコメントを寄せていた前例もありますからね(笑)。最後まで油断ならないのが荒木先生です。いや、まぁ……、でもやっぱり誰がどう見てもハッピーエンドって終わり方になると信じちゃあいますがね。何にせよ、泣こうが笑おうが残りはあと1話!心して全てを見届ける覚悟であります。少なくとも、それまでは絶対に死ねないぞ……ッ!!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 8月号(2021年)
249ページ


今月は、ルーシーと文くんが車で杜王町を走るこの1コマ。なんか、とにかく雰囲気が好き。昭和前期の未開発な田舎の風景をクラシックカーが走る。そんなレトロでノスタルジックな空気がたまりません。
これまでもさんざん言ってきましたが、私は荒木先生の描く「和」が大好き。こうして明治~昭和あたりの時代を描いてくれた「ジョジョリオン」は、本当にありがたい限りです。それだけにもっと描いてほしかった。もっともっと読んでいたかったな~。




(追記)
●さあ、行ってみましょう。正真正銘、最後の「ジョジョリオン」最終回予想!特に誰が求めているワケでもないでしょうが、自分が書きたいので書きます。



ガードレールに引きずられるルーシー。声が聞こえる。「ルーシー・スティール……。久しぶりだな……。あれから50年か……。こんな場所で、おまえにまた会えるとはな……。」 ルーシーが気付く。「ハッ!ま、まさか……、Dio!?あなたは、ディエゴ・ブランドーなの!?」
かつてルーシーに殺された異次元のディエゴは、「聖なる遺体」と融合して復活。ジョニィが二本松の根元の洞に「遺体」を隠した事で、偶然「等価交換」されたディエゴの肉と魂は、「遺体」から分離して地中に埋まっていた。そして、なんとガードレールと融合。生き物を呼び寄せては喰らい、密かに生き長らえていたのだった。
ディエゴはルーシーを喰おうとするが、ルーシーは静かに語る。「お互い、ずいぶんと変わってしまったものね……。でもね、わたしが何も用意をして来なかったと思う?わたしは、何十年もあなたの行方を探していたのよ?」、と。ルーシーは上着を脱ぎ捨てると、懐から何かを取り出す。それは爆弾だった。「さすがにそんな姿になってるとは思わなかったけれど……、でも、あなたを殺すならこれで十分。……文くん、ちゃんと離れててね。」 焦るディエゴ。「なんだとッ!?ルーシー・スティール、貴様ッ!自分ごと……!」

しかし、ルーシーが爆弾に点火する直前に、文くんが車でガードレールに突っ込んだ!ルーシーを救出!代わりに文くんの上着が捕まってしまうが、服を破り捨て、どうにか回避する。
「どうしてこんな無茶を!?離れてと言ったでしょう!?」 文くんの身を案じるルーシー。「そんな事言われたって、目の前で死にそうな人をほっとけるわけないだろッ!」 文くんが答える。
このまま放っておけば、犠牲者は増え続けるだろう。今、ここでヤツを倒さなくては。この僕が!ガードレールに向き直り、策を練る。ルーシーが落とした爆弾を拾い、それを喰らわせるしか手はない。ヤツに捕われないよう近付き、爆弾を仕掛けて逃げるしかない。心を決め、ヤツに向かって走る!……と、突然、ディエゴは絶叫し、すぐにおとなしくなった。いつからいたのだろうか、1人の若い男がガードレールに寄り掛かって座っていた。男の傍らには、「ロカカカ」の鉢植え。ルーシーが驚く。
男が話し掛けてくる。この「ロカカカ」は、ほんの数年前にニューギニア島で発見されたばかりの新種の植物。「等価交換」のフルーツ。この「杜王猟場」には軍のお偉いさんの別荘もあり、そのお偉いさんが権力にモノを言わせて、島から取り寄せたのだと言う。それを知った東方家が大金で購入。そして、男がそれを研究資料ごと盗んできたらしい。ひとしきり喋り終わると、「そろそろかな……?」と足元の地面を掘り返す。そこには「ロカカカ」の果実が埋まっていた。なんと、果実が人の顔のように歪み、うめき声を上げている。この土地もまた「等価交換」の力を持ち、今、ディエゴと「ロカカカ」にその力を使った。つまり、両者は融合してしまったのだ。男はその果実に齧り付き、食べてしまった。呆然とする2人。
男は、自分の肉体の一部の石化と引き換えに、ディエゴの記憶と力を取り込んでしまった。彼はディエゴの血を引く者だと言う。だから、遺産を受け取りに来たのだ、と。彼の姿は、紛れもなく、定助の脳裏に一瞬よぎった「記憶の男」そのものであった。鉢植えを持って、男は立ち去っていく。ルーシーが呼び止め、何をするつもりなのかと問う。男は「何もしないよ。少なくとも……、君達が生きてるうちはね。」とだけ言い残し、どこかへと消えていった。文くんは男を追おうとしたが、ルーシーが激しく咳込んだので彼女を介抱する。

「聖なる遺体」、「杜王猟場」、「ロカカカ」……、それらに宿る「等価交換」の力を利用して、ヤツはいつか何かをしでかす気なのだ。確実に、良からぬ事を。
苦しそうに咳を繰り返すルーシー。口を押さえる手には血が付いていた。自分は重い病気で、もう長くはない事を文くんに告げる。ディエゴがこの場所にいたのは、そもそも自分の責任。せめて生きているうちにケリを付けたかった。そして、これからの世の人達のために、「ロカカカ」を手に入れて科学や医学の発展に役立ちたかった。でも、すべてが裏目に出てしまった。涙を流す。
文くんがルーシーに誓う。今日、あなたと出会って、こんな奇妙な体験をしたのは、それがきっと僕の「使命」だからだ、と。あなたの「使命」は僕が引き継いでいく、と。生まれ育ったこの杜王町で、この土地とここに住む大切な人達をずっと守っていく。あの男と「ロカカカ」の行方も追い続ける。たとえ僕が成し遂げられなかったとしても、自分の子どもや孫にも伝えていく。
彼の左肩に、「星のアザ」が見えた。文くんはジョースターの血を受け継ぎ、空条の名を持つ者。空条仗世文の祖父となる男だった。彼の背後に家系図が描かれる。ここでついに、空条家が新たに書き加えられる事となる。


……2011年。TG大学病院。定助が頭を押さえている。不意に、かつての文くんとルーシーの出来事が脳裏に浮かんできたのだった。これは定助自身の記憶ではない。血の記憶なのか、あるいは土地の記憶なのか。仗世文の肉体を持ち、「壁の目」に埋もれて生まれた定助には、それらの記憶がかすかに混じっていたのかもしれない。桜二郎と戦った時に思い出した「記憶の男」も、それらを自分の記憶と錯覚してしまったものなのだろう。
ホリーさんの「呪い」も、あれから「ゴー・ビヨンド」で打ち砕いた。ついに母を救ったのだ。「使命、か……。オレは、自分の使命を果たせたのかな……?」 定助がつぶやく。

定助が病院や町を歩き、知り合ってきたみんなに会う。憲助さん、花都さん、ホリーさん、虹村さん、ドロミテ、カレラ。やがて東方邸に着く。常秀、鳩ねーちゃん、大弥ちゃん、密葉さん、つるぎちゃん、岩助。それぞれの現況とこれからの事がナレーションで語られる。……みんな、大変そうだけど、それでも前を向いて生きている。そして、命を落とした礼さんと常敏に思いを馳せる。
定助は1人、「瞑想の松」へ。景色を見渡し、あの日のガードレールでの出来事を思い返す。すると、「何してるの?定助」 康穂がそこにやって来た。「康穂ちゃん!」 笑顔になる定助。
しばらく無言のまま2人で佇む。「ねえ、定助……。これからどうするの?記憶を取り戻したいなら、もちろんあたしも手伝うよ?」と、康穂が問い掛けてきた。定助が答える。「いや……、もういいんだ。空条仗世文も吉良吉影も確かにオレの一部分だけど……、オレじゃあない。オレは東方定助だ。オレは、オレの記憶を大事にしたい。定助として生まれて、定助として出会った人達の近くで生きていきたい。」と。そして……。
「だ、だから、その……。なんて言ったらいいのかな?あの~……。」 口ごもる。「康穂ちゃんには!……康穂ちゃんには、オレの一番近くにいてほしいんだッ!」 真剣な表情で、でも真っ赤になった顔で、定助が告白する。康穂は涙を浮かべて微笑む。「うん、定助……。あたしもあなたとずっと一緒にいたい……。」 松の木の下で、見つめ合う2人。抱き締め合い、そして唇を重ねる。
その松の木には、2人を祝福するかのように聖なる果実が1つ実っていた。遥か上空から俯瞰した杜王町の風景。2人はこれからも、この町で、この場所で生き続ける。


ジョジョリオン




―― こんなラブラブなハッピーエンドです。ただ、多くの謎は第9部に積み残し。「ジョジョリオン」という物語で重要なのは、「謎を解く」事よりも、「祝福される」事だと思いますんで。そして、謎を積み残すからには、それをちゃんと予告しておいた方がいいかなというワケで、いろいろ意味深な描写もあえて含めました。
まぁ、私の予想なんてほぼほぼ当たりはしませんけど、「ジョジョリオン」の予想もホント楽しかったな。満足です。あとは最終回を待つのみだぜッ!




(2021年7月16日)
(2021年7月20日:追記)




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