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徐倫、GUCCIで飛ぶ





2011年8月、荒木先生と女性ファッションモード誌「SPUR」、そして超有名ブランド『GUCCI(グッチ)』が奇跡のコラボレーションで世界中を魅了してくれた事は、まだ記憶に新しいでしょう。そう、「岸辺露伴 グッチへ行く」です。
あれから早1年と数ヶ月。奇跡は再び巻き起こるッ!2012年12月22日発売の「SPUR」2月号の別冊付録として、今作「徐倫、GUCCIで飛ぶ」が発表されたのです。「岸辺露伴 グッチへ行く」に続き、これまたフルカラー作品24ページに渡って、徐倫とユニコーンと「GUCCI」の夢の物語が切なく美しく紡がれます。



「SPUR」2月号の表紙を飾ったのは、徐倫に似たお団子ヘアーの女性モデルさん。作中で徐倫が着ている物と同じ、イエローのドレスを身に纏っています。……えっ?露伴の時は荒木先生の絵が表紙だったのに、今回はこれだけなのかって?
――いいや、それだけで終わるはずがないでしょう!今回の表紙には面白い仕掛けが施されているのです。ジッパーの形のテープで、表紙が固定されています。そのジッパーの持つ部分には「石仮面」と「手形」も刻まれ、わずかに開いたジッパーの向こう側に花の絵がチラリと見えています。テープを剥がし、くっ付いていた部分を広げると……、なんと隠されたもう1つの表紙が現れたッ!そして、それをさらに展開すると……、世にも美しき荒木先生の特大イラストがお目見えッ!こいつはスゲーや!
そのイラストは、フローラ柄の「GUCCI」のドレスを着て、同じくフローラ柄の床に寝そべる徐倫!彼女の背後には、白いユニコーンが駆ける雄々しき姿。滑らかな曲線で描かれた徐倫のボディーラインもセクシーだし、しなやかで引き締まったユニコーンの筋肉も躍動感たっぷりです。何より、画面全体を覆うかのようなフローラ柄の華やかさたるや半端ありません。よく見れば、柄だけでなく、本物の花々も咲き誇っています。「生命の歓び」に満ち溢れた、春の夢のような優しい絵ですね。素晴らしいよ……。
(余談ですが……、「ジョジョ展」フィレンツェ展のキービジュアルで徐倫とブチャラティが乗っていたのって、白馬だと思ってましたけど、実はユニコーンだったんですね。なるほどな〜、すべてが腑に落ちました。)




さて、本編。まず、この作品は「ジョジョ」と同一世界ではなく、完全なるパラレル・ワールドとして描かれています。何せ、徐倫はまだ17歳なのに、彼女の母親が死んでしまっているんで。その上、表紙のジッパーで予感した通り、出会うはずもないブチャラティ達まで登場するし。お馴染みのキャラクターを使っただけの、まったくの別ストーリーとして読みましょう。


前述の通り、徐倫の母親が死んでしまったので、彼女はひとりぼっち。遠い親戚に引き取られる事になったらしく、これから飛行機で東京に向かうところです。のっけからヘビーな状況ですが、それでもやっぱり徐倫はタフな女の子。母親は自分が気に入っていた服を彼女のサイズに仕立て直してくれていたようで、その服さえ着ていれば母が守ってくれていると信じられるのです。だからきっと、大丈夫。
そんな徐倫の前に現れたのが、謎の生き物。えらく小さな動物ですが、シルエットは馬に似ています。ただ、その頭部には1本の角が生えている?目のデザインはスタンドっぽくもありますね。すると、今度は2人の青年もやって来ました。「GUCCI」のファッションをシャレオツに着こなす、スカシたブチャラティとアバッキオ。カッコイイんだけど、「いやいや、お前ら何やってんだよ」感がとてつもない(笑)。加えて、なんとミニサイズのポルポまで参上。オールスター勢揃いです。
ブチャラティとアバッキオは政府の人間で、ポルポは民間人。このポルポが税関を通る際、檻から生き物が逃げ出してしまい、彼らはそれを追っているらしい。その生き物は非常に珍しい貴重な動物だから、ヘタに隠したりすると重罪になると脅してきます。それでも徐倫は、自分のバッグを調べられる事をキッパリ拒否!そこで監視カメラの映像を確認する事となりました。再生役はやっぱしアバッキオか(笑)。映像に映っていたのは、徐倫と、怪我をしている動物。それはまさしく、伝説の一角獣ユニコーン。この世界では、ユニコーンは実在していたのです。どうやらポルポがユニコーンの発見者で飼い主のようですが、負傷させるような飼い方をしていた事は大問題。「団長」と呼ばれているので、サーカスか何かの人なのかな?ユニコーンを見せ物にしていたんでしょうかね?ヤバい事実が政府にバレて、汗ダクダクのポルポ団長さん。

傷付いたユニコーンは、徐倫に近付いたと思ったら、いつの間にか姿を消していました。一体、どこに行ったのか?徐倫はどこに匿ったのか?徐倫に問い詰めるブチャラティ。しかし徐倫は、たとえ重罪になったとしてもユニコーンを渡すつもりはありません。この辺、建物(窓とか?)の影が鉄格子の形で徐倫に伸びているのが印象的です。彼女自身も、ユニコーンの行方は知らないようですが……、知らない土地で知らない人達と、檻に閉じ込められ、ひとりぼっちで過ごさせたくない。ただ、その一心です。不安げに怯えるユニコーンの姿を、自分の姿と重ね合わせたのでしょう。徐倫だって、不安や寂しさで押し潰されそうだったに違いありません。でも、母が遺してくれた服が心を救ってくれた。だからこそ、涙を流して、自分もユニコーンを救いたいと願う徐倫。
彼女の強い想いを目の当たりにしながらも、立場上、ブチャラティは徐倫を捕まえなくてはなりません。彼が掴んだ徐倫のスカーフ。そのフローラ柄の中には、なんとユニコーンが描かれているじゃありませんか!しかもその姿は、現在の徐倫を映しているiPad(?)の画面には映っていない!そして、自分を守ろうとしてくれた徐倫を護ろうとするかのように、ユニコーンが完全体で出現ッ!
物語自体はここまでのお話です。これは現実か、それとも幻か、はたまたスタンドによる現象なのか?これから徐倫はどうなるのか?……そんな事は瑣末な問題です。真相がどうとか、オチがどうとか、そんな事を求めるのはもはやナンセンス。ここで重要な事は、「GUCCI」のファッションには「夢」「希望」が織り込まれているという事。素敵なメッセージエネルギーが込められているという事。そしてそれは、世代をも超えて受け継がれていくという事。徐倫は、母と「GUCCI」が守ってくれているのです。だから絶対、大丈夫。




――このような作品でした。ほんの一瞬のファンタジー。なんというか……、ストーリー仕立ての「GUCCI」のPVを観たかのような印象を受けました。色鮮やかで艶やかなCM、とも言えるかな。コラボ作品なのだから、むしろその通りなんでしょうけどね。「GUCCI」ってワードをまったく用いずに、「GUCCI」の精神性を表現した感じ。「面白かった!」って言うより、「いいもの観たなあ」って気持ちになりました。乙女とユニコーンというモチーフもあって、不思議で清らかな余韻に包まれますね。
それぞれの絵も本当に幻想的で綺麗。女性ならではの、柔らかく暖かな美を感じます。これらの絵が、来年1〜2月に世界各国の「GUCCI」直営店でウインドーデザインとして使われるってのは、心から誇らしい。世界中の人々に、今作で描かれた大切な「夢」新しい「希望」が伝わる事を祈っています。
そして、パラレル・ワールドであっても、徐倫は徐倫らしさを失っていませんでした。タフだけど、ただ強いだけではない。優しさも脆さも持ち合わせた、可愛い女の子です。彼女と再会できた事が嬉しい。またいつの日か、彼女の別の旅が読める事を期待しています。




(2012年12月22日)




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