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岸辺露伴は動かない
〜エピソード4 望月家のお月見〜





事の発端は、2014年9月1日発売の「週刊少年ジャンプ」第40号(2014年)。そこで唐突に掲載された、謎の見開きページ。荒木先生が描かれたらしき1人の女の子が、超ドアップで「少年ジャンプ、」と喋ってる絵でした。しかも、空白のままのフキダシが2つも。何とも意味深なページであったため、当然ながら、ネットでも様々な憶測が行き交いました。
……結論から言ってしまえば、それは「少年ジャンプ+(プラス)」なる新雑誌創刊の広告だったのです!専用のホームページまで開設され、そこには荒木先生の新作の予告カットっぽいイラストも1枚アップされていました。ごくごく平凡そうな家族が「お月見」をしているような絵。これだけでは、どんなストーリーなのか、そもそも本当にマンガとして発表されるのかさえ分かりません。
そして9月22日、これまた唐突に「少年ジャンプ+」はその姿を現したのです。「少年ジャンプ+」の正体とは、web上で読めるデジタル雑誌ッ!いわゆる電子書籍ってヤツですね。その創刊記念として、荒木先生が新作読み切りを執筆した……というのが真相でした。荒木作品では初となる、紙媒体ではなくデジタルで発表された作品です。その新作読み切りが、なんと「岸辺露伴は動かない」シリーズ第5弾!「密漁海岸」から1年振りの新作です。なんやかんやで、ここんとこ毎年描かれていますねえ。いっそ、年に1度の恒例イベントにしてしまってもイイかも。今回は残念ながらカラーページはありませんが、ページ数は47ページとなかなかのボリューム!



――さて、本編。読者への挨拶代わりに、露伴先生は例によって、漫画を描く前の「ウォーミングアップ」をいきなり披露してくれ……たのかと思いきや、特に意味もなくパスタを舌にグルグル巻きにして見せただけ。巧みな舌使いは見事ですけど、お行儀が悪いですな(笑)。「密漁海岸」にも続いて、つかみはOK!「トラサルディー」で食事中のため、トニオさんらしき人もさりげに描かれてます。ほんのちょっぴりであっても、彼らの元気な姿が見られると嬉しいものですね。
今回の露伴は珍しく、正真正銘まったく「動かない」語り部に徹しております。予告カットでも彼は描かれてすらいないし、物語にも一切関わらない第3者だし、冒頭の導入部のみの登場となりました。そんな彼が今回語るのは、近所に住むとある家族の「お月見」に関するお話。「忙しくて取材旅行に行けてない」なんて言ってはいるものの、それでも、彼の周りには怪異が勝手に集まって来る模様。『ヘブンズ・ドアー』もあるからいくらでも調べられるし、奇妙なネタには事欠きません。


登場人物は「望月家(仮)」の人々。会社員の昇さん(50歳)は、一家の大黒柱。その妻である晴瑠子さん(46歳)は、専業主婦の美人さん。2人の子どもは、母譲りの美貌を持つ大学生の亜貴ちゃん(21歳)と、野球好き中学生の(15歳)。そして、亜貴ちゃん達のおばあちゃんであり、昇さんの母でもあるミツさん(78歳)。あと、名前も不明だけどペットの犬。彼ら望月家の、忙しい一晩の物語です。
望月家は先祖代々、必ず「中秋の名月」の日が命日となる一族。しかし、「中秋の名月」の夜、「お月見」をして過ごせば長生きできるらしい。そんな彼らが、今年の「中秋の名月」の夜にも「お月見」を楽しむ……。言ってしまえば、ただそれだけのストーリー。それだけなのに面白いッ!
まず何より、望月家の人々のキャラクターが見てて楽しいです。特に、昇さんと猛の男連中。女性陣が割と常識的な人達だから、余計にキャラが引き立ってますね。奥さんが健康診断で子宮頸ガンの疑いありと診断されていた事もあって、今年の昇さんは例年以上に気合いが入っている様子。どんな理由や障害があろうとも、絶対に家族全員で「お月見」するという覚悟を決めてます。邪魔する輩は、追い詰めて暗殺する事すら辞さない(笑)。でもその必死さは、家族を愛しているからこそなワケですよ。最年少の猛は、一言で言えば「おバカ」なヤツ。良くも悪くも、単純で純朴なガキっぽい性格しています。
そんな愉快な家族には似つかわしくない、一族のヘビーな宿命。何故か死ぬ日が決まっている、という恐ろしさ。これは「ジョジョリオン」とはまた一味違った「呪い」です。信じたくなくても事実は事実。信じざるを得ません。スゲー怖くて、そして好奇心を掻き立てられる設定です。一体、何が起きるんだろう?不穏な空気が立ち込め、読者としてはドキドキハラハラ。そんな呪われた宿命であっても、「この日以外は不死身」と逆転の発想で捉え、全力で夜を乗り切ろうとする昇さんがカッコイイ。荒木キャラらしい前向きさですね。確かに、「呪い」によって逆に護られてもいる。「呪い」と「繁栄」は紙一重であり、表裏一体。皮肉なもんです。

昇さんの懸命な説得が功を奏し、今年も家族全員で「お月見」する事に。最初こそ子ども達も嫌がってはいたものの、いざ準備を始めると楽しくなってきたようです。まあ、どうせやるなら楽しまないとね。普通の「お月見」じゃ物足りないとばかりに、庭にテレビやスピーカー、ビニールプールまで設置!ミツさんは「千の風にのって」(「なって」ではない)を、晴瑠子さんはヘンリー・マンシーニの「ムーン・リバー」を聴こうとし、猛は映画「宇宙人ポール」のBlu-rayを観ようとして、すでにみんなウキウキ状態(笑)。猛に至っては更に、カメラを搭載したヘリのラジコンまで操縦して遊んでます。
なんか豪勢なバーベキュー・パーティーというか、キャンプというか、秘密基地的というか……、こっちまでちょっと羨ましくなってくる。見開きの乾杯シーンなんて、超ハッピーそう。花火も打ち上げ、流しそうめんまでしてるし!近所には迷惑かもしれないけど、ここまで徹底されると言葉も出ないか(笑)。
……しかしッ!荒木マンガである以上、和やかなまま終われる道理などありません。ここからはサスペンスに次ぐサスペンス!と言っても、そのサスペンスに気付けているのは読者オンリーで、本人達はのんきなものですが。「呪い」は望月家の知らぬ間に、じわりじわりと不吉さを纏って忍び寄ってきました。「風が吹けば桶屋が儲かる」「バタフライ・エフェクト」、そんな偶然の連続から起こる必然。決して避けられない運命、抗えない宿命。その絶対的な力。荒木先生お得意の描写ですし、ホラーテイストたっぷりで目が離せません。
ミツさんが金魚をノドに詰まらせ、危うく死ぬところでしたが……、これまた偶然の連続により、ラジコンがミツさんのノドに落下!うまい具合に金魚を吐き出し、無事に生還したのでした。ちゃんと「お月見」をしているからこその御利益、なんでしょうか?そんなおばあちゃんの危機も知らず、ビニールプールの破裂と共に猛の青春も幕を下ろしていました(笑)。代わりに親父さんからマージャンを教えてもらう事になり、大人の階段を上り始めるのであります。


夜は更け、みんな「お月見」を満喫し切って穏やかな眠りに就いていました。亜貴ちゃん以外は……!亜貴ちゃんはこっそり彼氏と電話中です。なんと彼氏は望月家の近くにまで来ており、どうしても亜貴ちゃんに逢いたい模様。「今日は外に出られない」って言ってんのに、勝手な男です(笑)。しかし、何らかの彼氏の言葉を聞いた途端、亜貴ちゃんの気持ちは一気に傾いてしまいました。せっかくあと10分程度で9月8日が終わるのに、亜貴ちゃんは外に出てしまったのですッ!
……この時を待っていたと言わんばかりに、満月が不気味に夜空に浮かぶ。そして、望月家の郵便受けの中から得体の知れない男が出現!何の説明も脈絡もない登場に、こっちも驚きです。何だ、この怪しすぎるヤツ!格子模様のスーツを身に纏い、ウサギのような大きな耳と前歯としっぽを持つ男。手足の形状も、人間ではなく獣のそれです。どうやら月からの使者、望月家の「呪い」の主っぽい。やはり時間にはシビアなのか、腕時計までしてるし。月のウサギって、こんなおっさんだったの?イヤすぎるわ。
このウサたんの謎パワーが発動し、「お月見」を放棄した亜貴ちゃんに襲い掛かるッ!ここに至るまで散々布石を打っていた通り、彼女にスズメ蜂が迫るッ!「ジョジョリオン」ではクワガタ VS スズメ蜂のバトルがあったり、今月のウルジャンで「ビーティー」の復刻コミックスが付録だったり、ここ最近はスズメ蜂がブームですな。亜貴ちゃんの全身に纏わり付くスズメ蜂の大群がキモくて恐ろしい……。

愛しの彼氏と抱き締め合う亜貴ちゃん。しかし、そのすぐ頭上にはウサたんが浮かぶ。ウサたんの存在は、普通の人間には見えもせず感じもしないようです。ある意味、スタンドにも似た存在なのかもしれません。……そして、ついに亜貴ちゃんが蜂に刺される……という瞬間、ウサたんすら予期せぬ出来事が。
彼氏の手にある小さな箱、亜貴ちゃんの左薬指にはめられた指輪。そうです、彼氏は亜貴ちゃんにプロポーズしていたのです!それを匂わせる言葉を聞いたなら、そりゃあ家を抜け出したくもなりますね。亜貴ちゃんはもちろんプロポーズを受け、身も心も望月家ではなくなってしまいました。つまり、「呪い」の対象外になったワケです。この自然な流れでの大逆転、見事と言うほかありません。
ただ、殺す人の数はその年ごとに決まっているらしく、とばっちりで通りがかりのライダーが事故って犠牲に。お気の毒すぎ……。帳尻合わせのために赤の他人でもいいんなら、予定通り亜貴ちゃんを殺しても問題ない気もしますが、ウサたんにしか分からないルールがあるんでしょう。つーか、望月家が生き長らえている裏では、こうやって無関係の他人が身代わりに死んでいるのかもしれませんね。家系図だけじゃなく、望月家周辺の事件・事故や死亡者を詳細に調べれば、その辺のルールももっとハッキリしてきそうです。他者の犠牲の上に成り立つ、望月家の平穏と繁栄。
事故の騒音で目覚めた望月家の面々の前に、婚約者を招く亜貴ちゃん。どうやら今年も全員乗り切れたみたいです。ウサたんはおとなしく空へと帰って行くのでした。しかし、彼は来年も再来年もその次の年も……、毎年「中秋の名月」の夜にやって来る。ウサたんは(人外だけに)相当に気が長いようで、時が流れて世代が変われば、いつかそのうち「お月見」を忘れる者も現れるだろうってスタンスなのです。今年の「お月見」は終わっても、望月家の「宿命」は終わらない。



――個人的には、すごく面白かったです。「ジョジョリオン」のテイスト、東方家のテイストも多分に含んでおり、自分好みのストーリーでした。ただ、具体的な敵や困難に、強い意志を持って立ち向かう……っていう攻めの展開ではないので、その辺は賛否がありそうな印象。本当にただ「お月見」したり、恋人とイチャついたりしてるだけですから(汗)。
過去からの教訓や戒め、言い伝え……、そういった祖先からの遺産に対する「敬意」を失ってはいけない……といったテーマで描かれた作品なのでしょう。大切なのは、過去から受け継ぎ、未来へと伝えていく事。それをないがしろにしてはいけない。理由もルーツも分からない、不条理ともシュールとも思えるルールであっても、そこには重大な意味が込められているかもしれないのです。これは「ジョジョ」にも通じるし、「密漁海岸」にも共通するであろうテーマですね。
そうは言いつつ、やっぱ物語的にはルーツは非常に気になるところ(笑)。あのウサたん、何者なんでしょうか?彼自身は望月家に特に憎悪を燃やしてる風でもなく、あくまで淡々とマイペースにこなしている感じ。スーツを着ているし、彼にとっては単なる「仕事」でしかないのかも?望月家を呪う「月の神様」的な存在が別にいて、その神様の意志を遂行する「仕事」を受け持つサラリーマンが彼なのか?給与はニンジンとか(笑)。大体、そこまで延々付き纏われて呪われるって、望月家の先祖は何をやらかしやがったんでしょうかね?はるか昔、「中秋の名月」の夜、他の家族がお供えしている月見だんごを盗んで食いまくったとか、そんなん?いずれにせよ、「敬意」を著しく欠いた行ないをしてしまったんだろうなあ。罪深い先祖だ。
でも、「呪い」の主は、望月家をガチで滅ぼそうとしているワケでもなさそうです。むしろ、末代に至るまで永遠に呪い続ける事自体が目的っぽく感じます。裏を返せば、呪う対象である望月家は永遠に存在し続けるって事。だとしたら、なんとも複雑な関係。

まあ、謎だらけですけど、謎そのものを描いた作品でもあるんでしょうね。会った事もない先祖からの因縁が自分に降り掛かる。荒木先生の最も恐れるものが描き出されていました。また、恋愛感情が逆転のキッカケになる点も見逃せません。「今」の荒木先生らしい気がします。「ジョジョリオン」でも、定助と康穂の恋愛感情が物語を大きく左右していくのでは、と期待させられますよ。そして、やがては「呪い」を解くカギの1つにさえなり得るかも?
そんなワケで、「岸辺露伴は動かない」の最新エピソードも堪能させていただきました。そのうちコミックスの第2巻も出せるくらい、今後も続いていくといいなあ。楽しみにしています。「ジョジョリオン」も読みたいから悩ましいところですけど。




(2014年9月23日)




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