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アウトロー・マン





2004年3月発売の愛蔵版「ゴージャス☆アイリン」で、初めて収録された幻の作品がこの「アウトロー・マン」です。元々は、「週刊少年ジャンプ」1982年1月10日増刊号に掲載されました。集英社ビルの移転作業の際に原稿が紛失したらしく、それは未だに発見されていません。そのため、デジタル復刻掲載という形で、十数年の時を経て読者の目に触れる事となったのです。
確かに画質は悪くて読みづらいのですが、とにかく読めるってだけで充分に価値があります。ずっとずっと読みたくて仕方なかったので、嬉しくてたまりませんでした。苦労して掲載してくれた方々には、ホントに感謝ですね。
ただ、あとがきでの荒木先生のコメントがさりげに怖い。他の作品はけっこう語っているのに、この作品に関しては「原稿紛失のため、今までどこにも未収録だった作品。」の一言。荒木先生の静かなる怒りを感じるのは私だけでしょうか……?


では、肝心の内容について。賞金首の男とその追っ手のある1日を切り取って、ただただ逃亡と追跡のみを描いた作品です。主人公がどんな人物なのかは、何一つとして分かりません。名前すら明かされていないのです。追っ手の男達も、とある探偵社の一員という事以外は謎に包まれています。キャラクター性やストーリー性は完全に排除して、ひたすらサスペンスを追求した結果なのでしょう。
あれこれと策を弄して相手を出し抜こうとする辺りは、そしてそれが具体的に読者に説明される辺りは、さすがに荒木作品。31ページの中に、息詰まる命の奪い合いがきっちり描かれています。逃げても逃げても追って来る探偵社の男達、その執念と追跡テクニックは恐ろしい。主人公が無表情のまま、跳弾を容赦なく撃ちまくるシーンも、ハードボイルドな凄みがありますね。この頃から銃を撃つ絵の迫力はただならぬものだったんだなあ、と驚かされました。



この作品からは、日の当たらない世界に生きる者が持つ、独特の切なさ・虚しさが滲んでいます。アウトローの孤独と悲哀が漂っています。逃げ続け、戦い続けるだけの人生。心の休まる日々など決して訪れず、あても無く一人さすらう毎日。今は生き延びれても、次の瞬間には死んでいるかも分からない。人間社会からはみ出した彼は、弱肉強食の獣の世界で、己の力だけを頼りに生き抜く以外ないのです。
負傷した愛馬キャメロンを自分の手で死なせてやるシーンと、最後の去り行く主人公の背中に、彼の人生の厳しさと悲しさが垣間見えました。冒頭とラストで描かれているヘビと鳥も、明日をも知れぬ彼の運命を象徴し、暗示しているかのようですね……。特別多くを語れるワケではありませんけど、不思議と印象に残る作品でした。




(2004年4月27日)




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