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「飢えなきゃ」勝てない
ただしあんなDioなんかより
ずっとずっともっと気高く「飢え」なくては!


#8 湖を越えろ





●今回は期待通り、久し振りに白熱するレースを目にする事が出来て大満足。ジャイロ達の心理をジワジワ描いた前半とスピード感抜群の後半、緩急が効いた展開で大いに盛り上がりました。ポコロコ、サンドマン、ドット・ハーン、ガウチョ、バーバ・ヤーガ、そしてジャイロ、ジョニィ、ディエゴのキャノン湖越えに焦点が当てられています。距離は長いが平坦な右回りコースか。起伏は激しいが距離は短い左回りコースか。どちらを選ぶかが勝負の分かれ目。いかにもレースらしい駆け引きに心躍ります。
しかしジャイロが選んだのは、なんと真っ直ぐ湖を行く第3のコース!常識にも定石にも捕われず、あくまで最短ルートを突き進むというジャイロの信念は、決して揺らぐ事はありません。それに翻弄されるジョニィの図も、すっかりお約束。ジャイロが無茶する予感はしてたけど、さすがに湖を突っ切るとは予想外だった様子です。ちょっと笑いも込み上げてきてしまいました。


●「必ず1位になる」と意気込むジャイロに対し、「それは無理」とジョニィの残酷なる予言。ディエゴのような「飢えた者」とは違って、「受け継いだ者」であるジャイロは最後の一瞬でどうしても遅れを取ってしまう。「飢えた者」へと生長しなくては、絶対にこのレースでは勝てない。ジョニィの容赦ない言葉の1つ1つが、ジャイロの心を揺り動かします。
そんなジョニィの言葉を否定するように、そのまま湖を行くジャイロ。ところが、「左眼」を手に入れたディエゴの恐竜の動体視力で、馬の脈拍も呼吸も汗の量も歩幅もことごとく読まれていました。まるで運命を知っているかの如き、ディエゴの恐るべきデータ収集力&分析力ッ!こういう形で恐竜化能力がレースに利用されて、私としては実に理想的展開です。力任せではない、クールで華麗なディエゴ走法にピッタリ。
湖から上がったジャイロは、次々と余計な荷物を捨て去り、重量を軽くしていきます。まさかあんな軽装のジャイロが見れるとは驚きでした。ディエゴの読み通りにスピードが落ちていくヴァルキリー。その負担を少しでも和らげるべく、ジャイロが取った行動はッ!なんと鉄球で自らの肉体を雑巾のように絞り、体内の水分を大量に流れ出させるという荒業ッ!干物になって走るジャイロの覚悟に勝利を確信しました。しかし、焦ったディエゴは胃石を吐き出し、事故を装いヴァルキリーにケガを負わせやがります。こんなトコで胃石を役立てるとは……なんて抜け目ないヤツだ。
そして、3rd.STAGEゴールッ!接戦を制したのは……なんとジョニィ!一瞬のスキを突いて、ジャイロ達を追い抜いていました。先程の言葉を結果として証明してみせたのです。ジョニィとディエゴの予想を上回ったとは言え、未だ一度も2人に勝てていないジャイロは、今回の敗北でハッキリと悟った様子。「餓える必要あり」


●ジョニィが言っているのは、技術とか能力とか根性とかそういう事ではなく、今まで生きてきた背景根底にある欲望・魂の質の問題。
貧しい環境ゆえに、食べ物もカネも馬術も地位も奪い取ってきたディエゴ。自然と共に生きてきて、奪われた自分達の土地を奪い返そうとするサンドマン。彼らは恵まれない境遇から必死に這い上がり、懸命に生き抜こうとしています。半身不随ゆえに、「回転」や「遺体」の力をどこまでも求めるジョニィもまた然り。それに対しジャイロは、生きる上では何一つ不自由のない人生を歩んでいます。技術も使命も精神も、親や国から教えられ、授けられてきました。与えられてばかりだった彼は、望む物を自分の力で掴み取るという事への意識に、どこかで甘さがあったのでしょう。それが「飢えた者」と「受け継いだ者」の差。実力が拮抗すればする程、その僅かな差が致命的になっていくのです。
レースに参加した目的の違いもそこから来るのでしょう。ディエゴやジョニィなんかは、他の誰でもない自分自身のために走っています。だからこそ、キレイ事抜きで命を懸けられるのです。一方、ジャイロの目的は、マルコの命を救うため・祖国の栄光のため。あるいは、自分の「誇り」を守るため。つまり、「持てる者」が何かを失わないために戦っているに過ぎないのです。「持たざる者」の何かをもぎ取るために生きる執念に、この弱肉強食のサバイバル・レースの上では一歩及ばないのかもしれません。狂気じみたハングリー精神を持つ者達がひしめく中で、ジャイロはあまりに真っ当すぎると言えます。
ジャイロに欠けていた、真の意味でのハングリー精神・開拓精神。本当に勝利に飢えているのなら、ただガムシャラに無茶を重ねて危険を増やすのではなく、卑怯な手段を使って誰かを傷付けるのでもなく、「最終的な勝利」への最も確かな道を切り開いていくはずなのに。厳しい勝負の世界で生きてきたジョニィには、ジャイロが目先の結果ばかりを求めて過程を見失い、自分を犠牲にしながら近道しているように見えたのかもしれませんね。何もかもを捧げるような「犠牲の心」ではなく、生き抜いて勝ち取る「覚悟」を持たなくては。志は立派だけど、勝利への貪欲さに関しては、まだまだ生長の余地ありと感じ取っていたのでしょう。


●かつての「ジョジョ」シリーズを通して謳われ続けてきた、受け継ぐ事の素晴らしさ。しかしそれは他人から譲り受けたものであって、自分が築き上げたものではない。自分の魂の奥底から湧き上がってきたものではない。このレースはそれだけで勝てるほど生易しくはありません。 「奪い取ってきた者」であれ、「受け継いだ者」であれ、飢える事こそ勝利の必須条件!
思えばジャイロは、いつでもトップを走っていないと落ち着かないようだし、「遺体」の力にも裏で蠢く陰謀にも目もくれずに走っています。内心の不安・焦燥ゆえに後先考えず掟破りな行動ばかり取って、自分も愛馬も深刻なダメージを残す結果になってしまいました。目的以外の事柄への無頓着さ・無欲さゆえに自らの可能性を狭め、何を利用してでも絶対に勝とうとするディエゴに遅れを取ってしまいました。ジャイロの魅力として描かれていたこれらの点が、逆に勝利を逃す要因に繋がるとは何という皮肉。
言い訳のしようもなくキッチリと敗北する事で、ジャイロは自分自身に決定的に足りないものを知り、まだ自分が満たされていない事を知る必要があったのです。全ては己の弱さを自覚し、認めた時に始まる。ドン底に落ちて初めて、生長への切望・生き抜く事への渇望が芽生え、そこから更なる高みを目指す事が出来るワケですね。それこそが、ジョニィの言う「飢え」。「飢える」事自体には善も悪もありませんが、飢えを満たすために他人を踏み台にしようとする者は悪の獣。しかし、近道せずに少しずつ生長していけば、「受け継いだ心」と「飢えた心」の両方を手に入れられるはずです。ドス黒い欲望に取り憑かれる事なく、勝利への正しい道を走っていけるはずです。その「気高く飢える者」は、「獣の如く飢える者」にも勝る力を生み出せる事でしょう。
このレースがいかに過酷か、改めて痛感させられました。世界の縮図であり、人生の縮図であり、運命の縮図でもあるレースなのかもしれません。1〜6部までのテーマを受け継ぎつつ、それだけでは終わらない。もう一歩「先」へ進んだ「SBR」から目が離せませんね。


●最後に驚愕の事実が判明!すでに1時間ほど前、ホット・パンツが1着ゴールしていたのです。前々から気にはなっていた存在でしたが、ついに物語にも深く関わる時が訪れた模様。どっかの貴族か騎兵みたいな奇妙ないでたちで、えらい細身です。顔も髪型も中性的で、男か女かすらよく分かりません。そんなホット・パンツですが、ここで注目を集めたって事は4th.STAGEでスポット・ライトを浴びる展開になるのでしょうか?サンドマンとポコロコにももっと活躍させてほしいんですけどね。イケメンもどこを走っているのやら……。
今回でようやく理解できましたけど、各STAGE間の走行タイム自体はさほど重要ではなさそうですね。1st.はデモンストレーション的STAGEだから例外として、2nd.から9th.までは全部合わせて1つのレースみたいなもんで、明確に区切られてはいないようです。シンプルに、早く各チェック・ポイントに着いた者の勝ち。細かく設定して考えるより、その方が分かりやすくていいですね。そして最終的に、サンディエゴからニューヨークまでの総合計タイムにそれぞれのタイム・ボーナスを差し引いた上で、レース全体としての着順が判明。そのポイントも加えた後、合計ポイント数が最大だった選手が真の優勝者に決定されるのでしょう。


●前回から現れた写実的タッチの絵が、今回は随所で見られましたね。ちょっと不気味だけど、強烈だしカッコイイです。コミックス折り返しの作者コメントでの自画像もそうですが、荒木先生の絵の嗜好がリアル志向に変化してきたのかも。どこまでも進化を続ける荒木先生も、やはり「飢えた者」なのでしょう。
でも、全部あの絵柄になってしまうのも怖いな……。衝撃的なシーンでアクセントとして使ってほしいです。


馬も自分も疲労困憊なので、次回はさすがにみんな休憩を取ると思われます。ジャイロに至っては、ジョニィに「遺体」と間違われかねない勢いでミイラ化しちゃってますからね。水分補給して休まないと動けそうもありません。でも逆に、てっとり早くハングリー精神が得られるちょうどいい機会でもあるかも…?各キャラの絡みも見たいし、そろそろ大統領も登場してほしい。4th.STAGEが本格的にスタートするのは、次々回からがいいです。コミックス8巻の1話目から始まれば、今までのようにキリ良くなりますし。
まだ先の話ですが、5th.STAGEではほぼ純粋にレースが描かれる気がします。他のSTAGEと比べて距離も短いし、最初と真ん中と最後のSTAGEはレース中心にして、うまくバランスを取ってほしいと思います。そうなると遺体探しはかえって邪魔になりかねないので、既存のキャラがすでに「遺体」を手に入れてたって展開にして。一番しっくり来るのは、やはりポコロコ。このSTAGEにある「遺体」は「両耳」。彼の幸運は「耳」の能力です。福耳=幸運とか、そんなイメージで。自分に「遺体」が宿っている事を知って、彼の幸運もパワーアップすればいいなあ。


★今回はレース自体もさる事ながら、ジャイロとジョニィの関係性がとにかく絶妙でした。ジャイロが勝てない理由を冷たく言い放つジョニィですが、それは「受け継いだ者」が勝利する瞬間を目にしたいから。受け継ぐ事の素晴らしさを学びたいから。きっとジョニィは、ジャイロに憧れにも似た気持ちを抱いているのでしょう。その「憧れ」がこの世のヒーローになる姿を心に焼き付け、自分の生きる指針に、荒野を渡り切るための地図にしたいに違いありません。誰よりもジャイロの勝利を願っているのは、他ならぬジョニィなのです。
ジャイロも飢えるジョニィに敗れた事で、彼を見習う決意を抱きます。もっと生長するために「遺体」を集める決心も固まりました。ゲッソリと痩せ細って敗れてしまっても、挫ける事なく前を向こうとするジャイロに泣けてきます。この敗北は大きな意味を持ちました。ジャイロにとって最大の転機とも言えるでしょう。レースはバトルと違って、主人公達にも敗北を経験させる事が出来るので、ストーリーもより重厚になりますね。
なんというか……、この3rd.STAGE決着によって、いよいよレースと遺体探しが、「STEEL BALL RUN」と「ジョジョ第7部」が1つに繋がったような印象を受けました。レースに勝ちたいジャイロは速き者・ジョニィから学び、遺体争奪戦に勝ちたいジョニィは強き者・ジャイロから学ぶ。今後はジャイロがジョニィよりも「飢える者」へ、ジョニィはジャイロの精神を「受け継ぐ者」へと生長してゆく物語として描かれていくのでしょう。互いに認め合い、刺激し合い、生長し合っていく2人の名コンビっぷりに、私の魂も燃え上がりました。
4th.STAGEが今まで以上に楽しみです。ホントに誰が勝つか分からないレースになってきました。




(2005年11月19日)
(2005年11月23日:改訂)




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