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「全て」を敢えて差し出した者が 最後には真の「全て」を得る
それが わたしがこの「泉」の番人をして理解した ただひとつの事
それは確かな事……… あの2人はその「資格」を得た……


#24 湖畔のルールC





●「木の根」化していくジャイロを目の前にして、ジョニィの心は大揺れです。今のジョニィにとって、「遺体」とは「生きる希望」そのもの。それを失くす事は、再び心が死んでいく事すら意味します。絶対にイヤだというのも当然。ポーク・パイ・ハット戦でも似たような状況がありましたが、あの時よりもさらに飢えているジョニィは、なんとジャイロを見捨ててしまいます。ジョニィの苦しい表情に、痛切な想いが表れていますね。そんな等身大な所がジョニィの魅力。
ついに「木の実」と化してしまったジャイロを見て、シュガーちゃんも残念そう。ところが、何故かシュガーの両親も解放されている様子。一体、何が起こったのでしょうか?元に戻ったジャイロの目には、涙と鼻水を垂れ流すジョニィと満身創痍の敵が。ジョニィはただ1人生き残っていた敵と「取り引き」をしたのです。ジャイロを救うために「遺体」2つを、飲みかけのワイン+お互いに手出ししない約束と交換していたのです。
こんな形で幕が降りるなんて予想だにしていませんでしたよ。11人は普通に大統領の手先だったらしく、これで「右腕」と「両耳」が大統領の手に渡る事に。「遺体」争奪戦はますます複雑になり、加熱してきました!ホント、先が読めない!結局、11人のバックボーン等は謎のままでしたが、雪の街から去り行く敵の背中に哀愁を感じずにはいられません。戦いの後の虚しさが漂ってきます。もうこの敵が登場する事もないだろうけど、なんか心に焼き付くシーンでした。ちなみに、アイツが11人のスタンドの真の本体って解釈する事にしときます。


●命以上に大事な「遺体」より、自分を救う事を選んでくれたジョニィ。ジャイロの胸に去来するのは、かつての祖国での記憶。事故で負傷した母と子のどちらの命を救うかという、あまりにも厳しい選択。この「湖畔のルール」編では、医者としてのジャイロが深く描かれています。やや唐突にも感じた不倫事件の回想も、今回の手術時の回想をスムーズに挿入するためのクッションだったんですね。物語のテンポやリズムを壊さない、無駄のない構成に唸らされました。
死刑執行人であり医者でもあるツェペリ一族とは、人の生死を司る「神の意志」の代行人です。命を奪う任務と命を救う仕事、その全ての重責を背負わねばなりません。しかし、「挑戦すれば2人とも救えるかもしれないし、選択するなら父親の意思を尊重したい」と願うジャイロにとって、父上の言葉の衝撃は計り知れないものだったでしょう。父上はきっと、その子の父親に選ばせる事は、いつか価値観や状況が変わった時に今の選択を後悔させてしまうと考えているのです。自分の意思の及ばぬ、抗いようのない運命だったら受け入れる事も出来るだろう、と。
父上は何故、挑もうとしない?自分なんかが人の命や運命を左右させてもいいのか?いくら役割や宿命だとしても、本当にそんな権利があるのか?さぞかし彼の心には、父上に訴えたい疑問が渦巻いていただろうと思います。どちらを選んだとしても、選び切れなかったとしても、ジャイロが「納得」できずにいた事に違いはありません。個人的な「感傷」を捨て、全てを「神の意志」として従う父上の生き方。「自分の意志」で運命を切り開こうと、「納得」を得ようと、もがき苦しみ続けるジャイロの生き方。
残酷な決断を迫られた自分を、今のジョニィの姿と重ねたのでしょうか?どんなに迷っても辛くても、自分自身の意志で道を選んだジョニィに敬意を抱いたのでしょうか?ジョニィがどちらを選択したとしても、ジャイロは決して恨みも後悔もしないでしょうけど、それでも自分を選んでくれた事に感謝の念を覚えたのでしょうか?自分が選択肢の1つになった事で初めて、あの時の父上の言葉の真意に近付けたのでしょうか?ジャイロはおもむろに、「遺体」と交換したワインで乾杯しようと言い出します。
次の「遺体」とゴールに、乾杯。彼らの瞳には、すでに確かな未来が映っています。何もかも無くしても、未来だけは残っているのです。ジョニィの選択は2人をさらに生長させ、2人の繋がりをより強くしてくれましたね。降りしきる激しい雪の中、穏やかな2人の乾杯シーン。希望へのリスタート。これまた泣きそうな程、胸を打ちます。カッコ良過ぎだよ、2人とも!言葉にするべきじゃない、男の熱き絆がありました。名シーンに雪は良く似合う。
無事に解放されたシュガーちゃん達。シュガーの言葉が印象的です。「全て」を敢えて差し出した者が、最後には真の「全て」を得る。相手にあえて先に撃たせたリンゴォや、ディエゴにあえてベスト・ラインを譲ったジャイロに通じるものがありますね。あえて厳しい道を行く事。本当に大切なモノを得るためには、自分の全てを捧げなくてはいけないのでしょう。それは生半可な覚悟ではありませんが、ジャイロとジョニィはそれを持っていました。彼らが「全て」と引き換えに手に入れるであろうモノは、きっと「誇り」


●ところで、あの時点でジャイロだけが「木の根」化した理由もよく分からないままでしたね。「遺体」はジャイロが泉にモノを投げ込んで手に入ったのだから、あくまでジャイロの所有物(使い切らないといけない物)って事なのかな?「これで終わり!」と宣言しちゃったのも要因かも。ただし、日が完全に沈み終わるまでに、ジャイロ以外の者が代わりに使い切ってくれても「取り引き」は有効と。でも、やっぱあれだけは、イジワルな「遺体」の最終試練であるために特殊だったって事にした方が分かりやすそうですが。
もうちょい細かく考えてみると――鉄球を落としてゲットした金塊やダイヤは、そのままジャイロの物。それらでビルを買った「釣り銭」もジャイロの物。ジョニィが落とした毒キノコからゲットした松茸は、そのままジョニィの物。札束とブレゲは、元々はジョニィの紙や腕時計だけど、泉に落としたのはジャイロなので、所有権は2人にある。所有権が2人にあるモノは、直接「ルール違反」をした者のみが「木の根」化する。カジノの時は、ジャイロの賭けにジョニィも承諾したため、2人とも「木の根」化した。――といった感じでしょうか?
今回のワインも、「遺体」と「休戦協定」の契約のお釣りみたいな物なのかも。だから、それもちゃんと飲み切らないとダメって事で。う〜む、ややこしい。


●場面は変わって、その翌日。シカゴから約2km地点。久々に登場のディエゴです。冬服姿もエレガント。シルバー・バレットの調子も回復してきているようですが、今はかなりペースを落として走っていますね。まだこんな地点にいるって事は恐らく、シカゴに数日滞在して休息を取っていたのでしょう。
そんな所に、声を掛けて来る影が1つ。「〜な世界だ」が口癖の、色黒の青年です。見るからに凄腕のスタンド使いって風貌。やはり大統領サイドの者で、ディエゴと情報交換しに訪れた様子。ここでついに、4th.STAGEでの「裏切り者」の情報が明かされてしまいました。でも、相変わらず他人を見下しているのがディエゴらしくってステキ。彼が「セカイ」とか言うのも意味深ですね。
シカゴの政府公邸にて。謎の色黒青年―名はマイク・O―は、情報をすぐさま大統領に報告。大統領もなかなか分析力や決断力のある男で、ディエゴの言う通り「女」を容疑者として捜査を開始します。そこで使用するのがマイク・Oのスタンド『チューブラー・ベルズ』。能力は「バルーン・アート」。物質を風船のように膨らませ、その風船で作った形に見合った性質を付加させる、応用力の高そうな能力です。今回は釘を膨らませ、「犬」の形と性質を与えています。カンザスでイケメンを呼ぶ際に使った電話機からルーシーの「匂い」を記憶させ、追跡・始末する算段。絵的にも能力的にも面白いスタンドですね、これ。膨らませる能力ぐらいは考えた事もありますが、それを風船や犬と結び付ける発想が荒木先生の独創性のスゴい所。以前の出来事が後々にまで尾を引くって展開も、なんとなく「ジョジョ」シリーズでは新鮮に思えます。


●さて、またまた場面は変わり、今度はシカゴの図書館。政府は迅速に捜査を進め、すでに例のレース係員の妻や娘にまで及んでいます。つーか、アンタら結婚してたんかッ!ある意味、これが今月で2番目のサプライズ。スティールも国のやる事に疑問や不信を拭えないものの、ルーシーに対して思う所もあるよう。平静を装う当のルーシーも、内心ビビリまくり。ジョニィと同じように、よく泣いてます。でも、以前にも増して女のコっぽくなってるなあ。エッチな小説を見て、「ええっ!ウソーっ!こ、こんな事まで…!?」って感じに顔を赤らめてるトコも実にカワイイ(変態でごめんなさい)。
しかし、ルーシーの意志と行動は、もう戦いへと向かっていました。ここで現れたのが、なんと美人の大統領夫人(ファースト・レディ)!その名はスカーレット・バレンタイン!大統領も結婚してたんかッ!これが1番のサプライズでした。そして、スカーレット夫人はレズでした。ルーシーは夫人の図書カードから彼女の嗜好を探り、レズ疑惑も自らの身をもって確認したのです。なんて的確かつ大胆な行動ッ!まんまと夫人を誘惑し、大統領のいる政府公邸への侵入も難無く達成しそうです。ちょっぴり18禁な展開にもなりかねないので、いろんな意味でドキドキです。さすがに露骨な性描写はないでしょうけど、本気でこんな方法を使ってくるとは思いませんでした。由花子さんと辻彩先生を超えるか?


★今月は61ページ。ページ数ももちろん、内容も読み応え抜群で、文句無しに面白かったです。ジャイロとジョニィの友情、「遺体」の行方、ディエゴの登場、マイク・Oと大統領の思惑、そして動き出すルーシー。それぞれの人物の感情や動向が、再び大きな流れを生み出しつつあります。物語を盛り上げるファクターがあちこちに散りばめられているので、心から今後の展開が楽しみで仕方ありません。「SBR」はまだまだ中盤ですよ!
またもやルーシーの孤独な戦いが始まりましたが、あっさり「心臓」をゲットできるとも思えません。ジョニィから奪い取った「右腕」か「両耳」を手に入れる可能性もありますけど。ジャイロ達の助けも位置的に期待できないですし、もしバレたらヤバすぎです。でも、マイク・Oをルーシーが破ったりしたら最高ですね〜。次回は緊張感とエロティックなムードに満ちた回になりそうです。



(追記)
●大統領サイドが入手した「右腕」「両耳」ですが、ひょっとすると2人の側近に宿るのかもしれません。あんなに偉そうなのに実は普通の人で、ここで「遺体」をゲットした事で初めてスタンドが発現するとか。元からスタンド使いだとしても、パワーアップが期待できますしね。まあ、大統領がみすみす他人に「遺体」を預けるとも思えませんけど、前々から気になっている2人もそろそろクローズ・アップされてほしいので、そんな想像もしてしまいました。
「SBR」でのスタンド発現条件は、現時点では、「遺体」を宿すか「悪魔の手のひら」に選ばれるかの2つだけ。「悪魔の手のひら」にしても、「左腕」と「隕石」のパワーが奇跡の融合を果たしたアリゾナ砂漠限定のようです。という事は、大統領の部下のスタンド使いは全員、かつてアリゾナ探検して来た事になります。あまり大人数のスタンド使いがいるのも逆におかしい気がするし、側近ズは今までスタンド絡みの事件には積極的に関わってはいません。もちろんスタンドの存在は知っていますが、「遺体」集めのサポート役が中心っぽいです。彼らが非スタンド使いである可能性も低くはないと思います。直接的な戦闘力ではなく、交渉力や政治力などが買われたが故に、側近の立場に置かれているのかも。




(2007年3月18日)
(2007年3月25日:追記)




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