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『奇跡』が起こる事を祈ろう
ボールがネットの向こう側に落ちる事を……


#30 ウェカピポが来る!





●トビラ絵は例によってジャイロ&ジョニィ!こちらを振り向き、帽子を手に取るジャイロがいつになくダンディーです。そんなカッコ付けてるジャイロとは反対に、ジョニィは特に何をするでもなく、あさっての方向を見てるだけです。「今日の夕食は何にしよっかな?」とか考えてるのでしょうか?


●一歩一歩、ジャイロ達へと間合いを近付けて来るウェカピポ。何が何でも「黄金長方形」は必要だと、ジャイロは殺された狼の元へ向かいます。狼と「遺体」になら、きっと「黄金長方形」が見えるはず!負傷したり生命を失ったりしていては「黄金長方形」が砕けてしまうのではという疑問もありますが、今のジャイロには選択の余地もありません。ここからいよいよウェカピポの猛攻!たった1発の「レッキング・ボール」でさえ、弾き止めるために爪弾を一気に10発消耗しちゃいました。死にもの狂いで爪弾を発射しまくるジョニィのものすごい勢いに、圧倒されつつも少し笑えてしまいます。
一方、ジャイロの鉄球もウェカピポに命中!ところが、ウェカピポはなんともう1個の鉄球を回転させ、肉体を硬質化して防御しちゃいました。シュトロハイム戦の時にジャイロが使ったのと同じ技です。どうやら硬質化は「黄金の回転」限定の現象ではなく、「レッキング・ボール」でも可能な様子。でも、こんな懐かしの技を披露してくれるとは。硬質化してる間は鉄球を持ち続けていなくてはならない上、硬くなってるから動く事もほとんど出来ないんじゃないかと睨んでいるので、いざって時だけ使う秘技なのかもしれませんね。
何としても「黄金長方形」を見付けようとするジャイロの姿勢を用心し、ウェカピポは2発目の投球!ジャイロの鉄球とぶつかり合う!しかし、ウェカピポの狙いは狼の方でした。衛星で氷を打ち砕き、狼と「遺体」を沈めてしまいます。さらに、その時の衛星でジャイロは再び左側失調にッ!どう足掻いても確実に追い詰めて来る、美しく流れるようなウェカピポの戦法の恐ろしいったらありません。


●絶体絶命の窮地に追い込まれたジャイロ。放たれるウェカピポの2発の鉄球。「正しい道」を進んで行けば、「真の勝利」への方向を示す「光」が見えると信じてきたのに、こんな所で全てが終わってしまうのか!?まだ何ひとつ決着をつけていないのにッ!瞬間、ジャイロの脳裏によぎったのは父上の言葉でした。前回の回想の続きです。
社会と人の心のありようの限界点。その具体例として、「死刑制度」「延命治療」の2つを父上は挙げ、それらは立ち入ってはならない矛盾した特異点と語ります。一方では「人を殺せ」と言い、また一方では「人を生かせ」と言う。そして、それを法や道徳として高らかに叫んでいる。もしかしたら、本当は罪も無いはずの人間を殺してしまう事もあるかもしれないのに……。とんでもない極悪人の命を救ってしまう事もあるかもしれないのに……。あるいは、まだまだ生きていたい人の命を奪い、死にたがっている人の命を救う事もあるかもしれない。何が正しく、何が間違っているのかも分からない。その2つの仕事を受け継ぐツェペリ家の先祖達も父上も、きっと今のジャイロと同じように、自分の「答え」を出せずに悩み苦しんできた事でしょう。そこはもう、個人の感情・感傷で安易に踏み込むべきではない領域。だからこそ、彼らは「奇跡」を信じているのですね。人が裁けない事でも、「神」は公正に裁いてくれると。人の心の限界点を超えた「答え」を示してくれると。
「神の意志」の代行人たるツェペリ一族は、ネットにはじかれたボールそのもの。どちらに落ちるかは誰にも決められないけれど、それでも彼らは「奇跡」を信じ続けるのです。それは都合の良い責任転嫁や逃避などではなく、確かな意志を持った「祈り」という行動。その時、「神」は正しい場所へとボールを落としてくれるはず。果たしてマルコは救われるべき者なのか、死すべき者なのか?それを「神」に問うために、祈り続け、走り続けるジャイロ。「スティール・ボール・ラン」というタイトルには、もしかするとそういった意味も込められているのかもしれません。


●ジャイロの瞳に映ったもの……、それは不意に降り始めたでした。次の瞬間、ジャイロは鉄球を放つッ!それはウェカピポの鉄球を粉砕し、ウェカピポの胸を貫通!これは紛れもなき「黄金の回転」!先程、ウェカピポが鉄球で氷を破壊した事で、空中に舞った水しぶきが氷点下の寒さで凍り付き、雪となって降り出したのです。そして、その雪の結晶には「黄金長方形」がッ!鉄球に撃ち抜かれ、雪の中に佇むウェカピポ。この一連のシーン、あまりの美しさに目を奪われ、興奮しました。ジョニィの名解説もさすがの貫禄でした。
正に「奇跡」の大逆転ッ!「ただの偶然」と言うジャイロに、ウェカピポは「偶然じゃなく、選ばれた奇跡だ」と告げます。敗北を認め、自害しようとするウェカピポですが、ジャイロはすかさず阻止。ジャイロが語る衝撃の事実。なんとウェカピポの妹は生きていたのです!彼女は盲目であるが故に、DV夫の父親にも暗殺されずに済んでいたのです。まったくもって最低のゲス親子ですが、ともあれ、ジャイロの手術が失敗したのは逆にラッキーだったようです。今は父上がどっかの田舎にかくまってあげているとの事。動揺を隠し切れないウェカピポ。父上ったら、ウェカピポ兄妹には妙に優しいですね。
戦いが終わるや否や、ヴァルキリー達も軽快なステップで戻って来ました。コイツら、したたか過ぎです。そして、元気いっぱいに走り去って行く狼!……って、あれえッ!?狼、フツーに生きてるよ!よく見てみると、撃たれたと思いきや、氷から出ていた丸太の木に弾丸は当たっていて、狼はカスリ傷で済んでいた様子。思いっきり極寒の湖に沈んでいたように見えましたが、目の錯覚か、ちょうど良い具合に氷のスキマとかに挟まって無事だったのでしょう。さらに、その丸太は「原住民のルート」に使われている木だったのです!今なら、まだポコロコ達も追い抜ける!


●そんなジャイロ達の姿を見ていたウェカピポの心にも大きな変化が。まるで神が全てをあらかじめ定めていたかのような「奇跡」の連発を目の当たりにして、彼も「奇跡」を信じるという事を学んだのです。それは「敬意」を払う事と同じぐらい大切な事に違いありません。
そして、ジャイロは最後に、ウェカピポへルーシーの護衛を頼みます。これはビックリ。まさかウェカピポが味方になるなんて、まったく予想もしていませんでしたよ。最強クラスの敵が、最高に頼もしい仲間へ!なんという燃えまくりの展開!悲しく辛い過去ゆえに、未来も希望も感情も失っていたウェカピポ。自分を裏切ったと思っていた祖国の男が、妹の命を守ってくれていた。ついさっきまで殺し合っていたはずの男が、自分を信じ頼ってくれている。何も信じられなくなっていたであろう彼の凍り付いた心は、熱き男の涙で溶かされたのでした。感動のフィナーレです。
でも、傷の手当てをしたらって、億泰みたいに穴がポッカリ開いちゃってて大丈夫なんでしょうか?ノリスケさんはいても、仗助はいないよ!?完璧にスルーされて終わっちゃったマジェントも哀れ……。


★今月はようやく61ページ!今回は文句なしに面白かったです。現在の危機と過去の因縁を、「奇跡」によって見事に収束させてしまった荒木先生の手腕には恐れ入りました。やはり減ページの後は最高の回が来るなあ。相変わらず予想は当たりませんが、それがむしろ嬉しくもありますね。ウェカピポがレース裏の重要人物となり、ルーシーのピンチを救ってくれる事になろうとは!
結局、このエピソード内では「レッキング・ボール」の原理等の説明はありませんでしたけど、それは彼の次なる戦いで明かされる事を期待するとします。H・Pとネアポリス王国コンビでも組んで、2人の側近と死闘を繰り広げたりしたら鳥肌モンですな。ただ、どうにもF・Fを思い出させる展開だったため、これが死亡フラグに見えなくもない所が怖いです。大統領の能力の見せ場として殺されない事を神に祈りますよ。生きて妹と再会してほしい。
さて、これといった試練もなく「両脚部」をGETしたところで、次号はレースに戻って6th.STAGEゴール前デッドヒートかな。久しぶりの白熱したレースシーンも見たいですね。この戦いでさらに「上」へ行ったジャイロは、今度こそ1位を取れるのでしょうか?次号も楽しみです。



(追記)
●父上のナイス判断により、密かに生き長らえていたウェカピポ妹。父上は法を忠実に守り、法の審議には関わらないスタンス。だからこそ、法的に国家反逆罪の判決を受けたマルコには情けを掛けない反面、法に触れる行いなど一切していないウェカピポ達には優しかったのかもしれません。ですが、ウェカピポはどこから「妹の死」という誤った情報を入手してしまったのでしょうか?それさえなければ、まだ未来への希望も失わず、大統領の手下になる必要もなかったかもしれないのに。
彼女が死んだ事にされたのは、恐らく父上の仕業なんでしょうね。DV夫の父親に「どうせいずれ死ぬ」と思われていたために、殺されずに済んでいた彼女。そんな時に起きた彼女の転落事故と、ジャイロの手術失敗。父上はこれらの出来事を神の意志と受け取り、彼女をかくまうなら今しかないと決断したのでしょう。兄・ウェカピポと同様に、死んだ事にして世間の目を欺いたのです。目が不自由なために事故に遭い、治療は施したものの、衰弱して病気になり死んでしまった、とでも説明したと思われます。祖国には帰れないウェカピポは、その情報を王国のテロリスト達を通じて知った可能性がありますね。彼女は国の超VIPの息子と結婚&死別した有名人でしょうから、それを調べるぐらいの事はそう難しくないはずですし。
しかし、ウェカピポが妹の死を知り、ジャイロ達に襲い掛からなければ、ジャイロもジョニィもルーシーもまったく違う道を辿る事になってしまったでしょう。きっと悪い方向に。全てが大きな流れとして繋がっている、何か1つでも欠けたら成り立たない、選ばれた「奇跡」
「ジョジョ」はよく、駆け引きに満ちた心理戦・頭脳戦が魅力と評されています。確かに私もそうは思いますが、部を重ねるごとに、それだけではない部分が色濃くなってきているとも感じます。それが端的に表された言葉が、6部・リキエルの「この世で最も強い力は計算なんかでは決してない」というセリフ。そして、エンポリオの「正義の道を歩む事こそ運命」というセリフ。「運命」は正しい道を進む者に味方し、必然の連続の結果である「奇跡」すら起こしてくれるのです。今回のウェカピポ戦はそれが前面に押し出された戦いでした。
策略や小細工はバトルを盛り上げるスパイス程度のものとなり、もはや「奇跡」の構成物質の1つに過ぎません。力押しとか御都合主義とか批判も出て来るかもしれませんが、作品に込めたテーマを表現していく上で自然とそうなったのでしょう。ストーリーやバトルや舞台のスケールではなく、荒木先生自身の視点のスケールがより大きく深くなったというか何というか……、そんな印象。これがなるべくしてなった今の「ジョジョ」の形なのだろうと思います。




(2007年9月17日)
(2007年10月11日:追記)




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