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心が迷ったなら 撃つのはやめなさい
成長するのだ …………再び
「新しい道」への扉が開かれるだろう


#34 追憶の館B





●今回のトビラも前回同様、1枚の写真チックな絵になっています。勇ましくファイティング・ポーズを決めるジャイロとジョニィ。ページ全体から一回り小さい黄金長方形のコマに描かれ、彼らの服に貼られたスクリーン・トーンも、いつもとは一味違った雰囲気を醸し出しております。


●爪弾によって「清める水」をGETしたジョニィ。スロー・ダンサーに乗せた荷物から照明を取り出し、更にハーブもモグモグ食って爪弾補充!このコマのジョニィの描き方ですが、サンドマン戦から見られる白いシルエット的な部分と通常の描き込み部分が組み合わさっているのが新鮮です。
館へと戻って行く白ネズミに爪弾を向けるジョニィの元に、ついに神々しき「あの方」が降臨!「心が迷ったら撃つな」と忠告し、そうすれば「新しい道」への扉が開くと意味深な言葉も……。ジョニィが振り向くとすでに誰もいなくなっていたものの、幻覚ではないという確信があるようです。それを示すかの如く、ジョニィの動かないはずの両脚がビグビグと痙攣を始めました。なんというか、いよいよ来るべき時が来たかって感じ。「あの方」が現れて喋った上に、ジョニィの脚も動き出す。物語のクライマックスが近付いて来ている実感が、否応なしに湧き上がりますね。


●ラッピングされたジャイロを見下ろすのは、このえげつない能力の本体。姿を見せた本体は、メロンパンみたいな帽子と顔の模様がチャームポイントの、これまたなかなかシブい男。「遺体」を持つのはジョニィの方と気付いた今、本気でとことん追い込みをかけてやると決心している様子。で、コイツのスタンド名は『シビル・ウォー』と判明しました。どうやらガンズ・アンド・ローゼスの曲名が元ネタっぽいです。
苦しそうな、悔しそうな表情で彼を睨み付けるジャイロ。また当てずっぽで鉄球を掴んでみたけど、やっぱりハズレ。ヘコんだ想い出が蘇ったのか、ジャイロはますますラッピングされ、潰されていきます。そこへジョニィが助けにやって来ますが、本体より白ネズミを先に始末しようとしている所がいいですね。ダニーとの過去は過去、この敵は敵と、何とか割り切ろうとする必死の顔付きにグッと来ます。そんな彼に襲い掛かる想い出の品々。途中で読むのをやめて捨てた本、「JoJo」と書かれた定規、女の子から誕生日プレゼントにもらった四つ葉のクローバー、そしてディエゴに負けて2位になったレースのトロフィー。ジョニィのこれまでの人生がほんの少し覗けました。
つーか、普通にディエゴともレースしてたのか〜。今更ですけども。ジョニィはディエゴと勝負すらした事がないと脳内補完していたんですが、それは否定されてしまいました。トロフィーを壊す程、ディエゴを強く意識していたはずなのに、なんで1st.STAGEではお互い初対面みたいな口ぶりだったんでしょうかね?もう思い出したくもない事だったから、意識的に無関係を決め込んだとか?ディエゴからすれば、ジョニィなど最初から眼中にすらなくて印象も薄かったのかもしれませんが。


●水で過去を清めつつ、ようやっと白ネズミを撃破!水じゃなく、通常のスタンド攻撃でも倒せるようですね。ホッとしたのも束の間、その時に割れたガラスから親父登場!次々と連続して畳み掛けて来る、この無駄のない流れが素晴らしい。相変わらず根性の腐ってそうな顔をして、イルーゾォみたいに現れた親父。ジョニィの水筒を空っぽにした上、ニコラスが「おませ」のせいで死んだという爆弾発言までしてくれます。そうか、ニコラスはおませな男の子だったから早死にしちゃったのか!シリアスなシーンだっただけに、この不意打ちの誤植には吹きました。
親父の「連れて行く子供を間違えた」発言は、ジョニィの中でもベスト・トラウマの一角を担っているらしく、またまた泣き出してしまいました。迷いながらも爪弾で撃とうとすると、そこへ再び「あの方」がッ!ここでジョニィは「遺体」の正体に気付き始めたようです。イエス様と、ハッキリ作中で言葉にされたのは初めてですね。
襲い来る親父の耳を爪弾で撃ち抜いても、ジョニィの心は折れていく一方。あまりにリアルな親父に、もはや現実か幻覚かも判断が出来なくなっています。……と、そこに響くはジャイロの声!回転しまくってる鉄球を利用して、そのエコーで本体の居場所を探知していたとの事。さすがはジャイロ、ただでは転びません。ジャイロの助言に従って爪弾を発射すると、見事に命中!首にトドメの一発!バラバラに砕けるスタンド、消滅していく親父。2人のコンビネーションの勝利です。


●……と思いきや、この『シビル・ウォー』の能力には真の目的があったのです。人は何かを捨てて前へ進む。ジョニィがメロンパン(仮名)を殺すという事は、彼を捨てて前へ進む事を意味するのです。メロンパン(仮名)の狙いは、自分自身をジョニィに殺させる事。それで初めて『シビル・ウォー』は完成する。捨て去ったメロンパン(仮名)が背負う「罪」も、全てジョニィに降り掛かって来る事になる。死人がゾロゾロ蠢く見開きページの迫力と恐怖感は圧倒的!ジョニィが殺したブンブーン親父やサンドマン、11人の男達なんかも出現しても不思議じゃないですね。
メロンパン(仮名)にこんなスタンドが発現したのにも理由があり、事の発端は1863年南北戦争の中でも最大の激戦と伝えられるゲティスバーグの戦い。若き日の彼は、音楽家の夢を持ちながらも戦場に召集され、見張りの任務を命じられていたそうな。心身共に参ってて酒を飲んでたら寝てしまい、気付けば敵軍がやって来ていたけど、見付かって殺されるのはイヤだから味方に知らせもしなかったとの事。そのせいで町の人々も殺され、戦争も敗北したようです。つまり彼は南軍(アメリカ連合国)の兵士だったって事でしょうね。1890年から27年も前の話ですし、彼は意外とナイス・ミドルなお年頃みたいです。50歳前後ってトコか。
『シビル・ウォー』は、彼が自分のその「罪」を清めたい一心で発現した能力なのです。能力発動時に誰かに殺される事で、自分自身をも「捨て去られた過去」として蘇らせてもらうために。一度死ぬ事を前提とした、『ノトーリアス・B・I・G』や『リンプ・ビズキット』を彷彿させるスタンドです。彼は自分が清められて、「遺体」を手にする資格も出来たと大喜びですけど、要は他人に罪を擦り付けるだけの自己中極まる能力。フェアが聞いて呆れます。そんなゲスな野郎をイエス様が認めるはずもなし!
でも、こんな形で蘇って彼は満足なんでしょうか?ジョニィの捨てたモノという括りで蘇ったのなら、ジョニィを殺したら一緒に消滅してしまうのでは?水に濡れてもヤバイだろうし。そういう不安定な存在になってしまうからこそ、「遺体」の完全なる力を求めている?あるいは、自身の浄化・復活こそが目的であり完成なのだから、その辺の弱点も無くなっているのかもしれませんけど。亡霊共にしても、同化してラッピングとはならず、普通にジョニィに触っていますんで。う〜ん、まだ謎の多いスタンドです。


●亡霊共に両手足を引きちぎられそうになり、大ピンチのジョニィ!まさに拷問!そこに再度、イエス様が登場し、ジョニィに囁き掛けます。守護精霊もイエス様も、同じ事つぶやいてばっかだな。しかし、ジョニィにはすでに迷いはない!爪弾を撃つべき場所は……、自分!なんと、ジョニィは自分の頭に爪弾をブッ放しちゃいました。その「穴」を胸のあたりにまでズギャルン!!と移動させた事で、何かが起ころうとしています。「黄金の回転」で「新たな道」へ行く、とジョニィは宣言していますが、これには呆然としました。一体全体、何をしようとしているのか?
あえて「自分」を捨てる事で、ジョニィ自身もメロンパン(仮名)と同じように新生・復活する!?地下水を思いっきり溢れさせ、館内に洪水を起こす!?自分自身を「回転」で一巡(または裏返り)させて、ザ・ニュージョニィに!?……色々と可能性は思い浮かびます。ですが私としては、「回転」のうねりで「遺体」総取り説を推したいですね。床にまで「回転」が及んでいるし、「回転」の中心部がジョニィの胴体という点も注目です。「胴体」は、まだ手にしていない新しい「遺体」部位ですから。近くに「遺体」がまとめて置かれているのを見たジョニィが、「遺体」を自分の方へと引き寄せるために使った「回転」と予想。そうなれば、「頭部」と「両眼部」以外の全ての部位がジョニィに集う事になるので、とてつもない成長も期待できます。爪弾によるダメージに関しては、「黄金の回転」と「遺体」の超パワーできっと何とでもなるんでしょう。


★今月は51ページ。先々月が33ページだった事から考えて、コミックス15巻も4話収録とすると、バランス的に今月・来月の減ページは避けられないだろうと予測はしていました。まあ、内容もスゴく読み応えがあったし、特に不満もありません。ちょびっと唐突な印象があった『シビル・ウォー』の能力にしても、本体の過去が分かって説得力も一気に増しました。
しかし、来月が休載ってのはまったくの予想外!ウルジャン移籍後、初の休載ですね。正直、ショックです。2ヶ月も待つなんて……。ただ、荒木先生は意味もなく休む人ではないという事は、皆さんも御存知の通り。もしかすると、「SBR」クライマックスに向けて、ゲティスバーグからニューヨークまで取材旅行を敢行するのかもしれません。後に明かされる、何か別の仕事(読み切りとか画集とか個展とか)に取り掛かっているのかもしれません。いずれ、より良い仕事をするために必要な休載だと思いますんで、ここはグッと耐え抜くしかないですね。
でも、あんな気になる所で終わって、続きは2ヶ月後だなんて……。あァんまりだァァアァ!



(追記)
●H・Pについて少々。良忠さんからいただいた御意見も参考にさせてもらっています。
H・Pのスタンド『クリーム・スターター』は、彼女の過去の罪に起因するもののように思えてきました。触れた者の肉をスプレーにして飛ばすという能力は、ある意味、弟の肉体を差し出してしまった自分の罪の再現。どこか自虐的な行為に感じられます。更に、自分自身の肉体をすり減らしてスプレーにするのも自己犠牲的な精神を思わせますし、同時に「自分などただの肉の塊にすぎない」とでもいった自己否定的な感情さえ含まれている気もします。ほんの少しでも罪を贖いたくて、自分の肉を差し出せる能力になったのかもしれません。己の犯した罪に囚われた彼女の、悲しい能力。
もしそうだとすれば、H・Pはメロンパン(仮名)と実に対照的です。自分の命のために他人の命を犠牲にする「弱さ」は共通していましたが、そんな自分自身に対する姿勢はまったく正反対。自分の罪を勝手に他人に押し付け、清められたと悦に浸る『シビル・ウォー』の腐れ外道な能力が何よりの証です。自分の「弱さ」を見つめ続け、立ち向かおうとしていたH・P。自分の「弱さ」から目を背け、逃げ続けていたメロンパン(仮名)。神はどちらに真の「救い」をもたらすでしょうか?
振り返ってみれば、「罪」と向き合うというテーマは6部でも描かれていましたね。主人公達がみな罪人、舞台が刑務所という時点で、それは如実に示されていますが。徐倫はよくモノローグで罪悪感を語っていました。ヒッチハイカーを死なせてしまった罪、神父様にウソをついてしまった罪、ウェザーを死なせてしまった罪、車を盗んだ罪……。エルメェスは姉の復讐のためにあえて罪を犯し、アナスイは徐倫への恋心が罪を清めてくれると信じ、ウェザーはペルラを死に追いやった罪深い自分と世界全てを呪っていました。一方のプッチ神父は、自分が悪だと気付いていない最もドス黒い悪。最期の最期まで、自分の罪を自覚すらしません。「罪」を認め、正面から向き合った徐倫達には「救い」が、「罪」に気付きもせず、過ちを重ね続けたプッチには「罰」が、運命から与えられたのでした。
「SBR」でも、このテーマが引き継がれているように思います。この「SBR」という物語では、自分の目的のためだけに他者の願いや祈りを打ち砕かねば、勝ち進む事も生き抜く事も出来ません。善と悪、白と黒を描こうとするならば、そして「気高き飢え」「漆黒の意志」「男の世界」「正しい道」「奇跡」といった領域まで追求しようとするならば、「罪」「罰」「救い」というワードは重要な意味を持って来るのではないかと考えております。H・Pのみならず、ジャイロやジョニィ、あらゆる登場人物達の走る「道」の先には、何が待ち受けているのでしょうかね?




(2008年1月18日)
(2008年2月20日:追記)




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