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最初にナプキンを取る事のできる人間になる
その「円卓」に この「ファニー・ヴァレンタイン」が座る事になるのだ


#37 真の力(パワー)@





●トビラ絵は、スカーレットに化けたルーシー。木の枝を腕で掴みながら、こちらを真っ直ぐに見つめてくる彼女。その凛とした表情からは、ダイヤモンドのように気高く固い意志が感じられます。
そんなワケで、今回は正にルーシー祭りです。女の世界です。


●いつも通りに唐突に、冒頭でルーシーの過去が明らかにッ!彼女の一族はアイルランドからの移民の子孫で、オクラホマで小さな農場を営んでいるとか。ルーシーは6人兄妹の、上から2番目の長女。なんと驚くべき事に、彼女の一族の名はペンドルトンでした。そう……、この姓は「ジョジョ」1部でのエリナの姓です。てっきりH・Pの本名がペンドルトンかと思っていたので、こいつはかなりの不意打ち。よくある名前なんでしょうけど、メアリーとかウィルの名にも反応するのは「ジョジョ」ファンならば致し方なき事。
ともあれ、ルーシーの母は彼女が12歳の時に病死。その上、収穫のために借りていたカネが、実はマフィア絡み。ペンドルトン家は借金と絶望にまみれていきます。ルーシーの父親は「土地」か「子供」のどちらかをマフィアに差し出さなくてはならない状況に追い込まれました。父親は泣く泣くルーシーを借金のカタに出す事を選んだのですが、「選択」という言葉も「SBR」のキーワードの1つなのかもしれませんね。ジャイロか「遺体」かを選ばねばならなかったポーク・パイ・ハット戦やシュガーの泉もそうですし、その選んだ道が「正しい道」なのか「間違った道」なのか、どうやって見分ければ良いのかってのも荒木先生が悩んでいるテーマですしね。


●そんな時、ペンドルトン家に訪れたのはスティール氏。レースの企画が誰にも相手にされず荒み切っていた頃、自分を救ってくれたルーシーにお礼をするために来訪したのです。2巻・巻末の番外編で描かれたものと同じですね。……って、あれ?同じじゃねえッ!番外編では可愛く微笑むルーシーが出て来て、スティールは号泣しまくっていたのに、すでに彼女は家にはいませんでした。一足先に彼女はマフィアの元へ奉公に出ちゃっていたみたいです。
マフィアは1つしか持たない者からは何も取らないが、2つ以上持っている者からはどれかを取る。取ると決めたものは必ず取るのがマフィア。そんなヤツらからルーシーを取り返す方法はただ1つ。スティールがルーシーと法的に結婚してしまえば、ヤツらはルーシーがキズモノだったと思い、返してくれるはず。ヤツらが欲しいのは、あくまで処女。このままではルーシーには売春婦以下の仕事が待っていて、その地獄では10年も生きられない。スティールを変態野郎と泣いて罵りながらも、それ以外に大切な娘を救う方法がない父親は、ルーシーをスティールに託すのでした。
う〜む、こんなヘビーな過去があったとは。じゃあ、救出されて家に戻ったルーシーを迎えに行った時に初めて再会し、今は亡きかつての恋人と瓜二つの彼女を見て号泣したってトコでしょうか。それでも辻褄が合わなくなる部分はあるんですが、毎度の如く、こうも堂々と設定を変えてしまう荒木先生は真に恐るべき男です。強引に押し切られ、「そ、そうですか!分かりましたッ!」としか言えなくなりますね。ジョニィやサンドマンの過去・設定も然り。キャラクターの生い立ちや履歴書まで考えているらしいのに、より面白いアイディアが閃けば、惜しげもなくそっちを選んでしまうんでしょうね。
しかし、今回は露骨に「処女」だの「売春婦」だのって単語が出て来て、ちょっとビックリしました。まあ、この程度はまだルーシー祭りの序章に過ぎなかったワケですけど。


●ルーシー・ペンドルトンからルーシー・スティールになった彼女は、かつて一度だけ会ったスティールの事を憶えていたようです。彼の純粋さや何かとんでもない事をしでかしそうな雰囲気が気に入り、いつか本当の意味でお嫁さんにしてほしいと告げるルーシー。でも、スティールはそれを断ります。「そんな事は考えるな」「君には指一本触れたりしない」「いつか誰かに恋をして、家を出たければいつでも出て行くと良い」と。彼女を救い出したのは自分ではなく、家族を想う父親の意志なのだと。向かおうとする意志こそが大切なのです。
何やらブチャラティ並みにカッコイイ事を言ってるスティールですが、シカゴの図書館でナチュラルにキスしてたじゃん!番外編では「結婚のお許しをいただきたい。わたしはいつまででも待つつもりです」なんて言ってたじゃん!まあ、昔の恋人とルーシーをダブらせて、つい我を失って本音が出ちゃったのかもしれませんし、冷静になってからルーシー本人の幸せのために発言を訂正したとかって可能性もありますが。とにかく、スティールとルーシーの間には性的な欲望や肉体的な関係は一切ありませんよという説明なんでしょう。2人にしか分からない奇妙な愛情。ジャイロとジョニィは思いっきり信じてない様子で笑えました。
でも、ペンドルトンの姓に、まだ清いままの心身、そして「誰かに恋して、いつでも出て行け」というスティールの言葉……。急にジョニィとの恋愛フラグスティールの死亡フラグが立ったような印象を受けますね。う〜ん、ルーシーとスティールは一緒に生きる方がしっくり来るんだけどなあ。お互いに泣くほど好きなんだったら、それでいいじゃないかと思いますよ。ジョニィもH・Pの方が似合ってるし。まさか「ユリイカ」での金田淳子女史との対談が原因なのでは、などと邪推もしちゃったりして。「H・Pは女の子を好きであるか、清い身体のままでいてください!(笑)」との女史の言葉に、「わかりました(笑)」と答えた事を荒木先生がふと思い出して、ルーシーを嫁にする事に急遽変更したとか……?
ジョニィと結ばれるのは誰かという点も、今後の要チェックなポイントになってきました。


●ルーシーの過去が終わり、舞台は再びフィラデルフィアのルーシーへ!コンコンと威勢良く転がりまくる「右眼」に、ルーシーは冷や冷やです。大統領は彼女の手をほどき、後ろを振り返るも、そこにはすでに「右眼」は無し。ドアの僅かなスキマから向こうの部屋の「遺体」の元へ行っちゃったんでしょう。もうこれだけ揃うと、「遺体」が勝手に起き出して、残りのパーツを自分で集めに出発しても不思議じゃありませんね。
コツコツ足音を立てて、ドアに近付く大統領。足音を立てないで歩くって話は、スカーレットのウソか、その気になれば出来るだけで常に音がしないワケではないって事なのか?「何をしていた?」という大統領の尋問に、ルーシーも覚悟を決めてスカーレットを演じ続けます。そんな仕草もいちいち可愛らしく、大統領はルーシーにキスを迫るものの、巧みにかわされる!徐倫に対するアナスイっぽくて面白いです。


●「このレースの目的は一体、何?」。それを遠回しに訊ねるルーシー。大統領がいよいよ語ってくれました!「テーブルに座った時、右と左、どちらのナプキンを手に取るか?」。これまた遠回しな説明!
「円卓」は人間社会の縮図であり、地球宇宙をも表しているとの事。最初にナプキンを取った者に、後の者達が従う形になるからです。それがこの世のルール。そして、最初にナプキンを取れる者とは、万人の尊敬を集める者。尊敬を集める力こそ、真のパワー。「遺体」を揃えた者が、最初にナプキンを取れる者になれるのです。なるほど、スゲー分かりやすい!今回の大統領の言葉で、大統領自身が第2のイエス・キリストとして頂点に立とうとしている事もハッキリしました。また、このテーブルが12人分の席なのも意味深な感じ。12使徒円卓の騎士などを暗示していそうですね。
……なんて言ってる間にも、大統領は妙にかわいいスカーレットに欲情!「服を脱げ」と命令し、ボディガードにも「しばらく2人きりにしてほしい」と言い、部屋のドアもキッチリ閉めてしまいました。妻に酒を手渡し、彼女の結われた髪をほどく大統領。髪を下ろしたスカーレットが、確かにやたらカワイイぞ!おもむろにテーブル上のナイフやフォークを床に落とし、歴史と由緒あるテーブルでヤッちゃおうと目論む大統領!その非日常感と背徳感がたまらんのでしょうか?ナイスな変態っぷりです。
あまりの興奮に、大統領もクロス・アウッ(脱衣)!かつて見られたラテン語の暗号も健在ですし、単なる小デブかと思っていたら、意外にも筋骨隆々!いいガタイしてます。彼の背中は、兵士として戦争に行った時の拷問された古キズでいっぱい。この古キズ、あたかも星条旗のような模様になっているのは偶然でしょうか?これぞまさしくアメリカを背負う大統領。痛々しい傷だらけの姿は、どこかイエス様をも思わせますしね。彼の過去話も早く読みたいもんです。


●いつもうずいて突っ張っていた古キズ、急に痛みが止まったようです。それは肉体が新しい命を求めているから!真のパワーを得たならば、その力を子孫に伝えていく必要がある。それでこその繁栄。大統領はそう言います。つまり、大統領は自分自身の不老不死だとか、永遠の支配者の力だとかは求めていないという事ですかね。自分が老いて死んでいったとしても、自分の意志と力は子孫が受け継いでくれて、この世界をずっと導いて行ってくれるはず。それが大統領の願いなら、悪役でありながらも人間賛歌さえ感じます。
とは言え、やってる事は正に外道!無理矢理、ルーシーを押し倒し、服を破り捨ててますよ。ルーシーもとうとう限界を超え、テーブルの上のナイフを手に取り、大統領に向けて振り下ろす!ところが、大統領はしっかり勘付いていて、難なくナイフを止めてしまいました。今までの裏切り者が彼女である事を確信した大統領ですが、彼女の正体もスカーレットがどこにいるのかも、すでに興味がない様子。スカーレットとの間には子供に恵まれなかったから、彼女に自分の子を産ませる気満々になってます。純愛なスティールと良い対比になってますね。ナイフを咥えさせられ、ルーシーは舌を噛み切る事も出来ません。ルーシーは大統領に処女を奪われた挙句、孕まされてしまうのか!?「いやああああああああああ」!ルーシーの絶叫が響く!ルーシー祭りは今、クライマックス!


●大統領の汚らわしい舌がルーシーの可憐な唇を舐め回す直前ッ!ルーシーは『クリーム・スターター』の肉を剥がし、大統領に纏わり付かせました!これでついにルーシーの正体がバレてしまうワケですが、スカーレットに化けていた部分のおっぱいと、ルーシー本人の乳輪がしっかりと描かれている事に注目です。トーンまで貼られてるし。ここまでおっぱいが克明に描写されたのは、「ゴージャス☆アイリン」とせいぜい「ジョジョ」5部のトリッシュくらいでした。「SBR」は原点回帰も意識された作りになっていますが、「武装ポーカー」や「アウトロー・マン」で見られる西部劇の要素は「男の世界」として、「ゴージャス☆アイリン」で見られる擬態侵入おっぱいの要素は「女の世界」として、それぞれ描き直されていると考えるべきでしょうか。
肉が引っ付いた上、裏切り者がルーシーと知った驚きで、隙が生じた大統領の首筋に、全力でナイフをブッ刺すルーシー!血を溢れさせながら、大慌ての大統領。助けを呼ぶも、2人きりにしてしまった事が仇となり、誰も来ないまま倒れ込んでしまいました。なんという展開!大統領はこれで死んで、側近が大統領の上を行こうとするのか?本気でそう考えちゃいましたが、ここで異常な現象が発生!
まるで床の中に透過するかのように、大統領の肉体が消失してしまったのです。一緒に倒れたイスにも、似た現象が起こっていますね。理解不能な事態に泣き震えながら、ルーシーが倒れたイスをゆっくりと持ち上げると……。そこに大統領が再び現れました。そのまま大統領の肉体を仰向けに転がすと、今度はイスの方が床の中へと沈み込んでしまいます。ルーシーはこれが大統領のスタンド能力と悟り、もう一度、ナイフを掲げる!その時、大統領の目が開く!怒涛の展開で次号に続きます。


●未知なる大統領のスタンド能力とは、どんな能力なのでしょうか?今のところ、時間系の能力ではなさそうですよね。物質とか影とかの中に潜り込める能力?空間を操り、物質を平面化できる能力?物質の存在を虚ろにするような能力?何かを「軸」にして、どんな物があろうとそれを中心に「回転」できる能力?……うん!さっぱり分からん!何か思い付いたら追記したいと思います。
不思議なのは、あんな死ぬ程のダメージを受けたのに、床に沈んで戻って来たら治ってたっぽいトコです。もともと「心臓部」を宿した事で発現したであろう能力だから、不死身に近くなれるような効果でもあるんでしょうか?血液が関係している可能性もあるかも。それとも、ダメージを他の物質に移動させたのかな?まだまだ謎だらけのスタンドです。


★今月は61ページのルーシー祭り!ジャイロ&ジョニィのディエゴとの再戦も、ウェカピポVSマジェントも一切描かれず、ひたすらルーシーと大統領でした。でも、ものすごく濃かった。ここまで直接的で性的な回は「ジョジョ」史上でも珍しいですね。ウルジャン効果と言うべきか、メローネも裸で逃げ出す勢いでした。
大統領がえらいカッコイイです。初登場時とは比較になりませんね。絵柄の変化ゆえなんでしょうけど、大統領の体がなんかグギグギいってるシーンもあったので、マジに「遺体」の影響も多少はあるのかも。「遺体」のおかげでカリスマ性もイケメン度もUP!?正直、かなり好きなキャラになってます。不完全で隙も多い人物だけど、存在感が大きくて。
そして、ルーシー側とウェカピポ側がどう繋がり、それがジャイロ達にどう関わっていくのか?とても楽しみです。
8th.STAGEでジャイロ達がディエゴとバトルして「左眼」を奪うものの、4th.STAGEの時にジョニィが爪弾でレースを邪魔した借りもある。正々堂々、正真正銘、ガチンコのレースで完全に負かしてこその勝利。だから、ディエゴを倒してリタイヤさせる事はあえてしないと思います。ところが、そこに揃っている「遺体」が自ら現れ、「左眼」もそこに引き寄せられ、そのまま「遺体」は「頭部」が眠るニュージャージーへ消えていく。ニュージャージーに最初に着いた者が、全ての「遺体」を手にする!そう予感したジョニィ、ジャイロ、ディエゴ、そして大統領がニュージャージーへ急ぐ!……って感じになったりしたら燃えるかも。ぼちぼちジョニィにも1位になってほしいので。



(追記)
●8th.STAGEのタイトルは「ボース・サイド・ナウ」。ジョニ・ミッチェルの曲名が元ネタのようですが、邦題は「青春の光と影」。直訳すると「2つの側面」となるらしいです。きっと、華々しい表舞台の裏では「遺体」を巡る争いが起こっている、このレースの事を意味しているのでしょう。加えて、ジャイロ&ジョニィのディエゴとの戦いと、ルーシー&ウェカピポの大統領達との戦い、2つの視点で描かれるが故のタイトルでもあるのかもしれません。しかし、それだけでなく、もしかすると大統領のスタンド能力にも絡められているのではないかと思い、2つほど考えてみました。
まず、1つ目。触れたモノの「影」になれる能力。今回、大統領はイスの「影」になったのです。「影」という実体のない存在になったため、その姿がイスの下に消えたし、首にブッ刺さってたナイフも取れました。そして、「光」が強ければ「影」も濃くなる。イスは充分に「光」に照らされていたため、その「影」となった大統領の負傷も治っていったのです。また、逆に自分が実体となって、イスを自分の「影」にする事も出来ます。床の中に沈んでいったのは、「影」と化していたからそう見えたって事です。
続いて2つ目。2つの「世界」を重ねる能力。荒木ワールド内では「運命」は基本的に決定されており、変える事は不可能です。しかし、大統領の能力はほんの数秒間だけ、本来はあるはずもない「IF世界」(=パラレル・ワールド)を創り出す事が出来ます。その「IF世界」の自分と、この世界にいる自分自身とを入れ替えてしまうのです。つまり、「ルーシーに刺されなかった世界」の無傷の自分を、今の瀕死の自分と入れ替えてしまったワケです。今までの記憶や魂は無傷の自分に引き継がれ、瀕死の自分の肉体は「IF世界」と共に消滅。2つの「世界」が重なっている射程内は、微妙に空間が歪んでおり、そのせいで床にイスや大統領も重なって見えていたって事です。
恐らく外れるでしょうけど、このように予想を立ててみました。荒木先生は果たして、どんなブッ飛んだ解答を用意しているのでしょうかね?期待しております。でも、そう思ってると、次号はウェカピポVSマジェントだけで終わっちゃったなんて事もあり得るかも!




(2008年5月17日)
(2008年5月19日:追記)




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