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「物事は円」―――――
「回転したならば」―――――


#42 不可解の連鎖





●今月のウルジャンは「SBR」が表紙を飾っています。馬に跨り、鉄球を唇に押し当てているようなジャイロのカラーイラスト。シックな色合いの中で、エメラルドグリーンが映えてますね。無論、オシャレにも余念がありません。ヒョウ柄のフードに、馬の形のアクセサリーも装着。まさに「SBR」のファッションリーダーです。
そして、トビラ絵もこれまたジャイロ。鉄球を掲げた腕を折り曲げ、その親指を唇に。こっちのポーズ&表情の方がジャイロっぽく感じるし、セクシーで好きです。


●冒頭では、イエス様(名前は明示してないけど)がいかにして「遺体」になったのかが語られていました。磔刑に処されて死んだはずの彼は、なんと3日後に蘇生。自分の体を手厚く清めてくれていたアリマタヤのヨセフに感謝を述べると、「東に行くよ」と宣言。「また会える?」とヨセフに聞かれると、足元の砂に謎の地図9ヵ所の印を示し、「物事は」「回転したならば」とだけ告げ、光の中に消えていったのでした。
イエス様までもが「回転」の概念を重要視しているんですね。「回転」とは究極の真理なのか?荒木ワールドでは宇宙すら円環となっているワケですし、命も因果も何もかもが巡り巡って回転しているのでしょう。そんな「回転」の力を操るジャイロとジョニィ、2人の運命はどのように流転していくのか?
ヨセフはイエス様が示した地図を正確に書き写し、意味不明・理解不能ではあるけれど、大事に守っていったそうです。それこそが、大統領の持つ「ヨセフの地図」。一方、イエス様は長い長い旅を続け、ひたすら東を目指したとの事。それぞれの土地の人々と生活を共にし、言葉や習慣も覚えていったとか。やがて東の果ての地(日本と思われる)に辿り着くと、みんなと一緒に船を作って、それに乗ってアメリカ大陸まで渡った様子。青森県新郷村の戸来(へらい)という場所にはイエス様の墓まであるくらいだし、日本に立ち寄ってたとしても不思議ではありません……よね?
とにかく、アメリカ大陸で残りの生涯を過ごし、インディアン達にも大層好かれていたみたいです。偉大な人物なのに、決して驕る事もなく、その土地の人々と共に歩もうとする姿。神の力を持ちながら、人の心を愛する姿。なんと気高い精神。誰もが敬意を払い、再会を願うのも頷けます。ルーシーにはいともたやすくえげつない行為をしちゃったけど。


●磔刑では復活したのに、寿命か病気か分からないけど、普通にぽっくり逝っちゃったらしいイエス様。ところが、しばらくして地震と嵐と洪水が起こり、彼の遺体は9つにバラバラになりました。そして、風や流砂が、時には動物や植物が、それぞれの「遺体」を運び、アメリカ全土に散らばっていったのです。なるほど、ヨセフさんが「遺体」を隠したんじゃなかったんですね。「右腕」と「両耳」が同じ場所にあった時、めんどくなって手抜きしたんじゃないかなんて言ってごめんなさい。
――時は流れ、サンディエゴの砂漠にて。訓練中の軍隊が遭難し、全滅。その時、死にかけている若い軍人「心臓部」が宿り、彼はたった1人、砂漠から生還。その後、彼はどんどん出世し、大統領にまで登りつめ、「遺体」を全て集める事を誓ったのでした。その人物こそファニー・ヴァレンタイン!う〜ん、カッコイイ。大統領は半裸が似合います。
例によって、6巻オマケの大統領物語とは矛盾していますね。6巻では、下院議員の頃に「ヨセフの地図」と出会い、印の場所を捜索するピューリタン達のグループに同行した事になってるんですが。……ま、いっか。普段は議員、有事には兵隊!ピューリタンと軍隊は同じタイミングで砂漠に突入!若かりし大統領は訓練の傍らで、印の場所を探索しようとしていた!これで解決ですね、うん!
ちなみに、『埋もれた謎と伝説』を追った―――のコマ、よく見るとイケメンがいるじゃありませんかッ!スティールとブラックモアの間。文字の下に隠れちゃってますが、あの帽子とモミアゲ、色気ムンムンの唇は間違いなくイケメンのもの!こいつは今回のイケメン」コーナーも更新せざるを得ませんよ。


●さて、ここでようやく場面は現在へ。……と思いきや、なんと8分前に戻ってる!公園の市民達は平和なひと時を楽しみ、ジャイロとジョニィもまだ一緒にいます。木の陰から彼らを見つめるのはウェカピポ!ジョニィがウェカピポを発見した時、ウェカピポは何を思っていたのか?
「ジャイロ達はディエゴに辿り着く事なく、このまま大統領に始末される」と予感し、冷たい眼差しを送っています。今のウェカピポには、いかにしてルーシーの命自分の身を守り抜くかが最大の問題。与えられた使命を果たし、祖国の妹と再会するために。それ以外の事柄には異常にドライでシビアらしく、ジャイロ達の生死すら興味の外のよう。
敗北する方にはつかない。ディエゴから「遺体」を奪おうとするなら、大統領はきっと直接襲って来るはず。その時、ディエゴが大統領を返り討ちにし、逆に「遺体」を揃えてしまうかもしれない。最後まで生き残り、勝利する可能性の高い者はディエゴと判断したのか、彼を追跡。ディエゴの味方をしようってか?「ジャイロ達を助けてやれよ!」と思いますが、実際、仲間でも友達でもなく、依頼人と仕事人の割り切った関係に近いんでしょうからね。そこまで期待は出来ないか……。まったく、複雑な男です。
ディエゴを追うウェカピポ、ディスコとすれ違い。この直後、ディスコはジャイロの前に姿を現すワケです。舞台裏を覗いてるみたいで、こういうの面白いですね。


●ウェカピポ、道端に落ちた拳銃を発見。弾倉には弾丸が装填済み。何故、誰が置いた?周囲を警戒するウェカピポの背後、立て掛けられたアメリカ国旗の裏に謎の人影!スタンド像を発現し、ウェカピポを襲います!手のヴィジョンしか見えないものの、あの特徴的な結び目らしきデザインは大統領のスタンドにしか見えません。星条旗を纏っているあたりも、実に大統領チック!
謎の敵を左半身失調にすると、ウェカピポは銃を拾って狙撃!確かに弾丸は敵に命中しました。ところが、その敵の正体は……、なんとジョニィだったのです。自分に攻撃を仕掛けようとするジョニィに、ウェカピポは慌てて発砲。ジョニィはそのまま排水溝へと逃げて行きました。つまり、ジョニィを撃った敵はウェカピポ!これは驚きでした。ウェカピポが裏切ったとかではなく、彼もまた不可解な現象に翻弄されただけ。彼自身、あれが本当にジョニィだったのかも分からず、夢を見ていたのかとさえ思う程に混乱中。
そこへディエゴ登場!前号のラストの再現です。ただ、今回を読むと、前から手を組んでいたというより、単に大統領サイドだった頃に顔見知りになったって程度の関係にも思えますね。ウェカピポは、ディエゴが自分をこの場所へ誘い込んだものと、敵意を剥き出しにしています。今、何をしていた?何を見た?ウェカピポの問いに、ディエゴは――


●――再び時間は8分前へ。マジェントからの情報で、大統領サイドにいるスパイの正体がルーシーと知ったディエゴ。
独立宣言庁舎前で計画を練っていると、見張りが銃を向けてきます。恐竜の驚異的な身体能力で、一瞬のうちに見張りを気絶させ、鮮やかに服を奪ってしまいました。警備兵バージョンのディエゴも超カッコイイ。身ぐるみ剥いだ見張りは恐竜に変えて、保護色で樹木と同化させて隠します。そんなカメレオンみたいな恐竜がいるのか謎ですが、この保護色は近いうちディエゴ自身も応用してきそうな気がしますね。
庁舎内に潜入すると、その嗅覚から全てを察知。大統領が1人で出て来る事、すでに「遺体」は揃い終わっている事。警備兵になりすまし、敬礼のポーズを取るディエゴ。大統領は一歩一歩、ディエゴに近付いていく。護衛もいない今、ここで大統領を暗殺できるのかッ!?……いや、まあ、出来ないんだろうけど。復活したディエゴのお手並み拝見と行きましょう。


●衝撃的な内容でした。まさかのザッピング・システム。7th.STAGEゴールから現在時刻の表示がたびたび出て来てたのは、この展開のためでもあったんですね。同じ時間軸を、別の人物の視点から繰り返し描き、徐々に全体像を浮かび上がらせていく、と。だからこそ、こんなに不可解な状況にしたんでしょう。こういう描写は今までの「ジョジョ」にはなかったので、かなり新鮮で意外でした。
こうなっては、ほぼ確実に大統領の能力による混乱と予測は出来ますが、まだまだ謎だらけ。ジャイロ&ジョニィ、ウェカピポ、ディエゴだけでなく、大統領視点にもザッピングしてほしいものです。大統領らしき人物の一連の行動の流れが、今いち把握しきれてないんで。ジャイロの後ろに現れたかと思えば、ウェカピポを襲撃したりでややこしい。次回は、ディエゴが攻撃したら、すでに大統領が消えていてディエゴも混乱とか?そこを大統領の主観で描かれれば、疑問も一気に解消されるんでしょうけど。
恐らく時間を戻す系の能力であろうと思われますけど、作中の時間を巻き戻す事で、読者にもスタンド攻撃を仕掛けてしまうとは。そもそも「SBR」という物語自体、ある意味、先に進み続けていた「ジョジョ」シリーズの時間を巻き戻しているようなものですし(新世界とかはひとまず置いといて)。紙とインクだけで時空を歪めてしまう荒木先生は恐ろしいぜ。
……などと思わせといて、実はザッピングするたびに実際に時間が戻っていたなんて、ちょっぴりメタな展開の可能性もあるかも。大統領の行動が起こした「結果」は運命に組み込まれ、時間を戻したとしても、(大統領じゃなくても)誰かが必ず同じ行動をする、というルールもあり。最初にジョニィを撃ったのは大統領だが、2周目の「時間」ではウェカピポが撃ち、3周目の「時間」ではディエゴが撃ち……と、あの時刻に「ジョニィが誰かに撃たれる」という事実は変わらないんです。脚本は決まっていて、それを演じる者が変わるだけって事。ジョニィが逃げた後の「ジョニィは消えた。致命傷だし」ってセリフも、あくまで1周目の大統領のセリフです。
しかも、戻した後の時間は、戻す前の時間とも重なっているとか。時間を戻した分だけ、複数の「16:05 PM〜」が同時に存在する事となり、そのせいで目撃証言もバラバラになるんです。一体、誰が何周目の時間軸にいるのか?余計に状況がゴチャゴチャするけど、これなら説明も付くのでは。


★今月は47ページ!まあまあのページ数。内容はもちろんの事、絵も美しいです。荒木先生がこだわっているという陰影法。最近は特に、絵の中に光と影を強く感じます。太い線と細い線の両方を使って1つの絵を描いたり、ベタを大胆に塗ったり、逆に白い絵にしてみたり。今後もきっと、新たな表現が生まれていくんでしょうね。
それにしても、今回は感想がえらく書きにくかったです。不明瞭で分からない事がいっぱい。全てが明かされるのはいつなんでしょうか?でも、読むごとに頭に「?」「!」が浮かんできて、なんとも心地良いカオス。本当に荒木先生は、よくこんなストーリーやシチュエーションを描けるものです。やっぱり面白かった!



(追記)
●またしても大統領の能力予想。判明するまでは、懲りずに続けます。パラレルワールド説や四次元説など、興味深く説得力もある予想があちこちでされているようですが、私はあくまで時間を戻す能力で突っ走ります。作中での時間が巻き戻る演出と同時に、本当に時間が戻っているという上記の予想を発展させました。
ただ単に時間が戻るのではなく、大統領自身は、時を戻す前とまったく同じ状態のまま。つまり、時を戻しても、自分の負傷は消えたりしない。大統領だけが過去へ時間旅行する、といったイメージ。ただし、「影」を媒介にする事で、その物質の「過去」を再現できる。「影」から「過去」のヴィジョンを出現させたり、「影」に潜って「過去」の状態に戻したり。これが能力の基本。
以上を踏まえ、今回の件について考えてみます。
まず、作中で描かれている時点で、すでに2周目以降の時間になっています。ディスコと共に現れ、ジョニィが目撃した大統領は「過去」のヴィジョンだったのです。時間を戻しても大統領の心身状態はそのままという事は、2周目以降の「16:05 PM」は大統領にとってはすでに「過去」という事。1周目の自分自身も「過去」のヴィジョンとして出現可能なワケです。で、自分のヴィジョンで注意を引き付けつつ、本物の大統領は裏からジョニィに近付き、狙撃。
ここで大統領は再び時間を戻します。この能力には、時が戻っても(過程は違えど)「結果」が再現されるルールがあり、今度はウェカピポにジョニィを狙撃させるよう仕向けました。あの位置でウェカピポを襲撃し、落としておいた銃を拾わせる事で、ジョニィを撃つ流れの中に乗せたのです。大統領が唐突に現れたり消えたりしたのは、「影」から出たり潜ったりしたからって事で。そして、またまた時間を戻し、今度は恐らくディエゴにジョニィを撃たせようとするのでしょう。
さらに恐ろしい事に、その再現された「結果」までも含めて、「事実」として運命の中にまとめて組み込まれていきます。歴史に刻まれていく、と表現しても良いでしょう。時を戻して、白紙状態でやり直しどころか、むしろ、どんどん書き加えられていく一方。巻き戻した複数の時間軸が重なり合い、複数の異なる「事実」が同時に存在してしまうのです。目撃証言がバラバラなのはこの影響。仮に今回の時間軸において、実際にジョニィを撃ったのがディエゴだったとしても、「大統領が撃った事実」と「ウェカピポが撃った事実」もまた同時に存在するため、それぞれの目撃者が見た(感じた)「事実」が違っていたのです。ジョニィ自身さえ、ハッキリ見たにも関わらず、誰に撃たれたのか曖昧になっていると思われます。
そんな回りくどい事をする動機は、(最初の時間で行われた)自分の犯行の隠蔽はもちろん、敵達を疑心暗鬼にするためでもあります。誰が敵なのか味方なのか、これは現実なのか幻覚なのか、何が起こっているのか……?敵同士で争わせる方向にも持って行きやすいし、その混乱に乗じて自ら始末する事も出来ます。
結論を述べると、前回まで描かれたのが最終的な時間軸となります。今回から描かれているのは、そこに至るまでの過程の時間軸。前回、目撃情報がバラバラだったのはその証拠ですし、ジョニィを撃った敵も我々読者視点には大統領(少なくともウェカピポではない)が写っただけなのです。
余談ですが、大統領が時間を戻す能力に目醒めたのは、ゲティスバーグにて「遺体」を揃えてからだと思ってます。ブラックモアと鳩を見に来た時もシカゴでマイク・Oが殺された時も、侵入者を捜すために時を戻せば良かったワケだし。初めはほんの数秒前までの「過去」の再現しか出来なかったけど、「遺体」を集めて生長し、ついには数分前まで時間を戻す事すら可能になった、と。


●ディエゴがウェカピポに言った「ジョニィは生きているのがふさわしい」「これまでは予定通り」とのセリフの真意について。マジェントからの情報で、ルーシーの居場所とウェカピポの追跡を知ったディエゴ。恐らく、「ジャイロ達は大統領にやられる」「大統領を倒せるとしたらディエゴ」とウェカピポも考えているであろう事を読んでいたと思います。
ジョニィが瀕死でも生きているならば、そしてジャイロがそれを追うならば、大統領も彼らの相手をせざるを得ません。ディエゴはその隙を突いて、大統領を倒し、「遺体」を総取りしようとしているのです。そういう意味においては、今の不可解な現象が何であろうと、お互いに予定通りという事に変わりはないのでしょう。ジョニィは大統領を釣る餌として使えるから、生きている方が都合が良いのです。
前回ラストにてウェカピポが、「マジェントが生きていた事を黙ってたな?」とディエゴを問い詰めていたという事は、氷の海峡から今までの間に、2人は少なくとも一度は接触があったという事。とは言え、別に手を組んでいたワケでも何でもなく、ただたまたま会って言葉を交わしたってだけなのかも。マジェントの事を教えてやる義理などディエゴにはないのに、「おいおい、あの時に教えろよな」とウェカピポが一方的に怒ってただけで。
ディエゴがウェカピポを誘い込んだというのは、彼なりの手荒な勧誘なのかもしれません。大統領を庁舎内で暗殺しようとした際、大統領の謎の能力に触れ、1人では分が悪いと判断したのです。手を組む(利用する)ならウェカピポがベストと踏んだ彼は、恐竜の嗅覚か何かで大統領が潜む場所を探り出し、そこへウェカピポを誘い込みました。ウェカピポも大統領の能力を体験したならば、自分の誘いがいかに合理的であるかが理解できるはずだからです。
ちなみに、ディエゴを追っていたらしき見知らぬ足跡の主はH・Pと予想。蹄鉄を替えたゲッツ・アップだったのです。11人の男達の時も、蹄鉄を替えた馬をおとりにしてましたからね。これ以上、余計に新キャラを投入しても複雑になるだけですし。ジョニィはH・Pに治療してもらい、大統領を迎え撃つ事となります。ジャイロ、ジョニィ&H・P、大統領、ディエゴ&ウェカピポ。この4者に分断される状況。これらがいかに絡み合う事になるのか?




(2008年10月17日)
(2008年10月28日:追記)




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