TOP  <<#58 戻る #60>>



『一番の近道は遠回りだった』
『遠回りこそが俺の最短の道だった』


#59 女神の嫉妬





●今回はトビラ絵はなく、いきなりクライマックスの本編!対峙するジャイロと大統領。2人の元へと駆けるジョニィ。「騎兵の回転」により左半身が老いてしまった大統領ですが、それでもなお立ち上がり、悠然と向かって来ます。ジャイロと大統領の一騎打ち、再びッ!
前回、「隣り」の大統領に撃たれた脇腹の傷は、やはり心臓に向かって移動を始めました。そんなジャイロに、大統領は「傷を「空間のスキ間」に入れれば、他の誰かにおっかぶせられるぞ〜」とアドバイス。まあ、次元を超える『D4C』を持たぬジャイロには無理な話だし、自分が助かるために誰かを犠牲にするなど、ジャイロに出来るはずも無し。
……そんな時、ジャイロが突然、ジョニィに叫びます。『LESSON5』だ!なんと、この限界ギリギリの状況でジャイロ先生の回転講座が開催!

オレは このSBRレースで いつも最短の近道を試みたが
『一番の近道は遠回りだった』
『遠回りこそが俺の最短の道だった』
この大陸を渡ってくる間 ずっとそうだった
そして おまえがいたから その道を渡って来れた


それはもはやLESSONというより、ジョニィへ贈るメッセージ。思えば、1st.STAGEも2nd.STAGEもスタートから全力疾走。水場のない砂漠を強引に突っ切り、3rd.STAGEでは馬の負担も省みず湖を渡りました。「遺体」への関わり方にしても、初めはまるっきり興味もなく、単なる他人事。あの頃のジャイロはただただ、「レースで優勝する」という結果のみを求めていたのです。それに囚われ過ぎるあまり、周囲を見渡す余裕もなく、愛馬も自分自身すらも犠牲にするような走りをしてしまっていた。
そんなジャイロを「正しい道」へと導いてくれたのが、他ならぬジョニィだったんです。彼が言葉で、行動で、示してくれた「気高き飢え」。そしてその直後、リンゴォとの出会いと死闘で到達した「男の世界」。「遺体」を本気で集める事は、自分自身を生長させてくれる事に繋がる。本気で優勝を目指す者なら、目先の勝利だけを追って無茶などしない。自分を取り巻く全ての出来事は、求める「結果」に辿り着くための試練であり、必要な「過程」。「結果」ばかりを求めていたジャイロが、「過程」を重んじるようになったのです。そのキッカケを、ジョニィが与えてくれたのです。


●唐突なジャイロの言葉に戸惑うジョニィ。このシチュエーションでこのセリフは……、不吉すぎる。しかし、ジャイロはお構いなしに再び駆け出し、大統領へと向かって行きます。馬から得た「回転」のエネルギーが形となり、スタンドとして鉄球から現れるッ!そして、大統領が潜む「空間のスキ間」へと鉄球が放たれるッ!
次元の壁を超え、回転くん(仮称)が大統領の髪を掴みます。自然界の摂理なのか、忘れられた人類の知慧なのか、次元を突破する技術の存在に驚愕する大統領。しかし、次の瞬間!『D4C』の手刀が走る!……一瞬の激突の末、離れる2人。大統領はとうとう左半身のみならず、全身が老いちゃいました。回転くん(仮称)は「重力」そのものだと思うんだけど、この老化現象が、大統領の細胞同士の重力がかき消されたためなのか、重力が時間に影響して老いさせたのかは謎ですね。とにかく、『D4C』もズタボロに。つーか、崩れた『D4C』もカッコイイですね〜。ちょっと『ウェザー・リポート』っぽい?
危機的状況にも関わらず、大統領は静かに自らの勝利を宣言します。「女神」となったルーシーから創り出される「空間のスキ間」、「次元の壁」。大統領の呼び方に倣えば「光のヒビ」。ジャイロはさっき、この「ヒビ」が入る方向から、大統領の位置を読み取って攻撃しました。しかしその時、鉄球は偶然にも「光のヒビ」のライン上を通過したとの事。鉄球の、「光のヒビ」と重なった部分が削られ、「害悪」として地球のどこかへ飛ばされたらしいのです。そのため、鉄球は「真球」ではなく「楕円球」となり、不完全な「回転」となってしまったのです。だからこそ大統領は死なずに済んだ。まさかそんな回避方法があったとは。でも、なんか納得できる理由なのがスゴイな。確かに前回、ジャイロが鉄球を見つめて何かを思ってるっぽい描写もあったし。
ルーシーを馬に乗せていたがゆえに、ジャイロは大統領を追い詰めた。しかし、ルーシーを馬に乗せていたがゆえに、ジャイロは敗北した。ジョナサンとディオの関係性を思い出させるような、皮肉な運命。ジャイロの胸には大きな傷が……ッ!ジャイロ自身、鉄球が「楕円」になった事実に気付いてはいたものの、それでも勝負に出るしかなかったのでしょう。戻って来る鉄球へと伸ばしたジャイロの手。その手に鉄球が握られる事は、ついにありませんでした。馬から落ち、無惨に地面へと倒れ込むジャイロ。


●横たわるジャイロの姿に、ジョニィは混乱。現実を受け止めきれず、ガタガタと体中を震わせます。そんなジョニィの脳裏に蘇る、SBRレースでの数々の想い出。ジャイロとの出会いから今までの記憶。(ジャイロの「LESSON1」って「妙な期待をするな」だったのか。)読者に初めて明かされる想い出もあります。クマちゃんのぬいぐるみの腕がもげた事件もそうですし、4th.STAGEのブラックモア戦直後の会話もそうです。なんと、「ヴァルキリーに女は乗せない」と言った理由が語られましたよ。
ジャイロにとっては、ヴァルキリーの鞍の上にはすでに「勝利の女神」が乗っているらしいのです。だから、他の女の子なんか乗せたりしたら女神が嫉妬して、勝利に見放されてしまう。ジャイロはそう信じているのです。ネットにはじかれたボールがどちら側に落ちるか、誰にも分からない。けれど、そんな時こそ「勝利の女神」がいてほしい。そうすれば、ボールがどちら側に落ちようと納得できるから。ジャイロはそう願っていたのです。これまで描かれ続けたジャイロのピースが、ここで全てピッタリとはまったような感覚。荒木先生がこれを計算していたのか否かはともかく、お見事だと思います。
――今まで幾度となく涙を流してきたジョニィですが、未だかつてない絶望の表情。瞳には涙を浮かべ、呼吸は激しく乱れる。海水に飲み込まれようとしているジャイロを見て、悲痛の叫びを上げる。大統領が自分に向かって来る事さえ、まったく意識の外。果たしてジョニィは、これ程の圧倒的な絶望を乗り越える事が出来るのでしょうか?


★今月は47ページ!これで恐らく21巻収録分がたまったものと思われます。普通に考えると、残りは4話程度かな?
予想はしていたとは言え、内容もえらい事になってきました。絵もダイナミックで、展開もメチャクチャ盛り上がって面白かったけど、ついにジャイロがやられてしまいました。でも、私はジャイロの生還を信じていますよ!ルーシーを乗せたばっかりに、「勝利の女神」が嫉妬したのだとしても、嫉妬されるって事はそれだけ好かれてるって事でもあります。きっと女神様も機嫌直して、ジャイロを助けてくれるはず!「遺体」の奇跡でもいいし、H・Pが地面と一緒に引き寄せられて来て治療してもらうでもいいし。きっとH・P自身は、もう1つの心臓を肉スプレーで作ったとか何とかって理由で生きてるんですよ。
そして、ジョニィへの「LESSON5」の答えは何なのか?「近道は遠回り」「遠回りこそが一番の近道」。「全てを敢えて差し出した者が、最後には真の全てを得る」に近い印象を受ける言葉です。その答えが、ジョニィの「騎兵の回転」を完全なものにするのでしょうか?不利になるような行動をあえてする事で、逆に勝利に近付けるのか?ジョニィにとっての「勝利の女神」であるルーシーが、彼に微笑んでくれる事を祈ります。
作者コメントは「CD。「ジェフ・ベック」のニューアルバム、超良いです。確かで祈りのようなロック。」との事。聴いてみよっかな。「祈り」ってのは、「SBR」においてキーワードにもなってそうな言葉だしなあ。




(2010年5月18日)




TOP  <<#58 戻る #60>>

inserted by FC2 system