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君のお父さんと 親友でいれた事を 誇りに思う
さあ……… この『ハンカチ』は君のものだ


#62 LESSON5B





トビラ絵は、3号連続でジャイロ&ジョニィの旅の1コマシリーズ。見張り台らしき建物の見える林で、愛馬に跨る2人が佇んでいます。
アオリは「LOOK AHEAD.」。前号の「DON´T LOOK BACK.」を受けてのもの。編集さんもいい仕事してくれますな。自ずと、2人のこれまでの旅路が思い返されます。


●本編は、「基本の世界」のジョニィから。「騎兵の回転」を見事に決めたジョニィですが、その表情は緊張感で満ちています。大統領はきっともう一度、この世界に戻って来る。大統領の消えた大穴を覗き込みながら、ジョニィはそう予感するのでした。そして、彼の後方では、ヴァルキリーに乗せられているルーシーが、ようやく意識を取り戻そうとしています。
場面は変わり、「隣りの世界」。そこは、見張り台のある林。トビラ絵で描かれた風景ですね。大統領と『D4C』は、懲りずに何十回と次元移動を繰り返し続け、この世界に現れたようです。しかし、どれだけ次元を超えようとも、『タスク ACT4』の「回転」は止まる事を知らず。細胞の1つ1つに至るまで回転しまくり、大統領は必ず穴に戻ってしまいます。穴に落っこちた大統領の顔、猪木のモノマネっぽくて噴きました。
生き埋めになった大統領は、再び次元移動。この世界では、どこかの街で戦いが行われていた模様。『D4C』を託されたこの世界の大統領は、「ジョニィめ!基本世界のおまえを殺してやるぞ!」と息巻いております。この世界のジョニィも困惑気味。「え?何言ってんの、この人?」みたいな顔してます。そんな大統領の必死の決意も空しく、スライス回転は無情にも再発動!半ベソかいてる大統領が、ちょっと気の毒にさえ思えてきました。走ってきた馬車に飛び乗って、ついに穴から離れられたと思ったら、今度は馬車ごとスライス回転させられて、やっぱり穴に逆戻り。
何をどう足掻いても、この「回転」からは逃れられない!抵抗を続ける限り、無限に生き埋めにされ続ける!暗闇はもうイヤだ……。さすがの大統領も、すっかり絶望に覆われています。遥かな高みに君臨し、大勢の民を従えて、輝かしい栄光を築いていくはずだった男が、真っ暗闇の土の中に埋められる孤独な姿。なんとも皮肉な末路です。


●――そんな大統領の脳裏に過ぎるは、幼き頃の記憶。なんと、この期に及んでの大統領の過去話ですよ。
それは、大統領がまだ7歳の頃。あどけない少年時代の想い出のようです。ファニーくんが家で飼い犬達と戯れていると、美人の母ちゃんがお客さんを連れて来ました。顔に大きな傷跡のある、ちょっとコワモテな感じのおっさんです。その人は、陸軍騎兵隊大尉のヴァレンタインさん。彼は1枚のハンカチをファニーくんに見せ、その持ち主の話を始めました。彼は、ハンカチの持ち主の親友らしい。その持ち主は何にでも日付けを書く習慣がある男で、当然、ハンカチにも日付けが入っていました。……で、その男は戦争で敵に捕まり、毎日のように拷問を受けたとの事。それでも決して仲間の情報を話す事はなかったけれど、心が挫けそうな時は、そのハンカチを唯一の「心の支え」としていた。そして、敵に発見されて奪われないよう、ハンカチを大切に隠し通した。拷問で潰された左目をくり抜き、その空洞の中に。ハンカチに刺繍された日付けは、1847年9月20日。それは、ファニーくんの誕生日。そう、そのハンカチの持ち主はファニーくんの父親だったのです。
ファニーくんの父は、激しい拷問の末、とうとう命を落としてしまったようです。彼を埋葬する際、ヴァレンタインさんがこのハンカチを見付けたのです。愛する子供の誕生日、その日の結晶とも言えるハンカチ。彼にとっては、ファニーくんそのものだったのでしょう。彼は最期までハンカチを守り抜き、拷問に耐え抜いた。だからこそ、ヴァレンタインさんの隊も全員生き残れたワケです。
「愛国心」は、この世で最も美しい「徳」。家族を思う事が、国を守る事に繋がる。国の誇りのために命を賭ける事が、家族を守る事に繋がる。そう考える事が出来る事こそが「人間の気高さ」。狂信者なんかとはまったく違う心。君のお父さんと親友でいれた事を誇りに思う。――そう言って、ヴァレンタインさんは、ハンカチをファニーくんに手渡したのでした。そして、現在。ファニーくんこと大統領は、今でもそのハンカチを大切に持ち続けていました。朦朧とした意識の中、土の底でそれを握り締め、心に火を灯すッ!
このエピソードだけで、大統領の見方が変わっちゃいそうですね。48歳のはずなのに1847年生まれっておかしくね?とか、そんなのは瑣末な事です。恐らくこの後、母ちゃんはヴァレンタインさんと再婚したんでしょう。そうしてファニー・ヴァレンタインになった、と。それでもきっと、大統領のとっての父親はただ1人だったはず。ヴァレンタインさんが話してくれた父親の姿は、大統領の心に深く刻み込まれたんですね。何を犠牲にしようと、自分自身すら幾度犠牲にしようと、国の永遠の繁栄を求め続けた大統領。その心理が少し理解できたような気がします。父が命を賭して守り抜いたものを自分も守り抜き、繁栄させたいという、純粋な願いが根底にあったのでしょう。それだけに、家族を思う気持ちが失われている今の大統領が悲しいですなあ。彼もまた、愛する気持ちゆえに「道」を誤った者なのか。


●場面は移り、「基本の世界」のジョニィ。爪が再生し、5発撃てるようになりました。そこへ、目を覚ましたルーシーが近付いてきます。その姿は、すっかり元の状態に戻り、割れていた海も普通の海岸になっています。大統領が遠い別次元へ消えてしまったため、「女神」化も解除されたのでしょうか。まるで状況が理解できていない彼女。自分のためにスティールが体を張り、ジャイロが死んでしまったなんて知ったら、どう思うのやら。
ジョニィは、近付くルーシーに「来るな」と制し、穴の底を見つめます。そこに、とうとう「基本の世界」に舞い戻った大統領がッ!すかさず身構えるジョニィ。しかし、大統領にはもう戦う意思は無い様子。「やめろ。もういい。わたしの完全敗北だ。勝者はおまえだ。」と、大統領らしからぬ発言まで飛び出る始末。現に、スライス回転は未だ持続中で、もはや自分にはどうにも出来ないと悟ったようです。
これで決着か!?……と思いきや、そこからが本番。大統領は「戦い」ではなく、「取り引き」を持ち掛けてきたのです。無限に存在する「隣りの世界」の中には、まだジャイロが生きている世界もある。もし、この「回転」を止めてくれるなら、別次元からジャイロをここに連れて来てやる。それが可能なのは自分だけ。もし、このまま自分が土に埋もれて死ねば、それは永久に叶わなくなる。ジャイロはもう二度と戻って来れない。その究極の選択が、大統領の最後の策ッ!ジョニィは衝撃のあまり、涙を浮かべています。「SBR」では「選択」がよく描かれていると、以前にも書きましたが、この最後の局面で来ました!
「隣りの世界」のジャイロは、「遺体」の存在も知らない。ジョニィが虫刺されフェチである事も知らないかもしれない、厳密には別人。それでも、確かに「ジャイロ・ツェペリ」である事には間違いない。けれど、ジャイロのおかげで追い詰める事が出来た大統領を、このまま逃がしていいのか?これはジョニィは迷うでしょうね。ジョニィが選び取る未来は、果たしてどちらなのか!?TO BE CONTINUED(「SBR」初の「TO BE CONTINUED」です。)


★今月は45ページ!お盆の時期にも関わらず、いつも通りのページ数で良かった。今回はとにかく、大統領の回でした。こりゃあもうケリはついたな〜、なんて思っちゃってましたが、しぶといしぶとい。回想や究極の選択など、まさかの展開で驚かせてくれましたよ。大統領の魅力がますます増した感じです。その分、次号はジョニィが盛り上げてくれそうだし。来月が楽しみです。
作者コメントは「ちばてつや先生宅へ。まさに、あの名作たちが生まれた歴史的建造物だと思いました。」との事。今月号には、文星芸術大学で先日行われた、荒木先生とちば先生のトークライブのレポートも掲載されています。会社近くの食堂で「のたり松太郎」を読んだけど、スゲー面白かったです。




(2010年8月18日)




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