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岸辺露伴は動かない
エピソード#07 月曜日 天気-雨





2015年12月4日発売の「ジャンプSQ.」1月号(2016年)に掲載された、「岸辺露伴は動かない」シリーズ第6弾!50ページとボリュームもたっぷり!「六壁坂」から8年振りの「SQ.」凱旋であり、「望月家のお月見」から1年ちょい振りの新作でもあります。今や、すっかり毎年の恒例行事になりつつあるシリーズですが、この調子ならコミックス第2巻も期待してかまいませんよね?
「ウルジャン」にて連載中の「ジョジョリオン」を休載しての執筆(これも恒例)だった事もあり、荒木作品を読める幸せを噛み締めながら読みました。いやあ〜、面白かったッ!
今回はセンターカラーなので、カラートビラ絵も堪能。中央には露伴が描かれ、薄紫色の背景には「雨」をイメージしたマークがいくつも配置されています。急な雨に降られ、小走りに駆ける露伴……といったところでしょうか。そして、一際大きく目立って描かれているのが『ヘブンズ・ドアー』。全身が美しい七色に塗られ、まさしく「虹」と化しています。今作のタイトルを象徴するイラストですね。



――さて、本編。まずは、これまた恒例の自己紹介から。皿に乗ったチキンを見つめる露伴は、おもむろに『ヘブンズ・ドアー』を発動ッ!すると、チキンは「本」になってパラパラめくれていきます。とあるページには、消費期限までの残り時間や原材料、いろんな細菌の数値などが表記。その食品が安全かどうかが判別可能です。『ヘブンズ・ドアー』は生物にしか効果がないんじゃ、なんていうツッコミは今さら野暮。スタンドが成長した……、そもそも世界が「ジョジョ」4部とは違う……、実は露伴が用意したフェイクのチキンだった……、って具合にいくらでも解釈できるんで(笑)。
環境破壊による影響で、近年は世界中で気候変動や異常気象が続いています。どうやら露伴の住む杜王町も、今年は特に雨が多いらしく、「一小川」が一部氾濫しちゃったようです。そして、露伴が子どもの頃、海岸の岩場で転んで骨折したというアバラ骨。強い低気圧で天気が悪い時には、今もそこが痛むとの事。今回のエピソードは、それと因果関係があるっぽい。
そんな事をしゃべりながら、露伴は手に持つスマホを勢い良くチキンに叩き付けました。すると、さっきまであったはずのチキンは消え、スマホの画面にはチキンの画像が!……えっ?チキンがスマホの中に入ったの?これも『ヘブンズ・ドアー』の能力?それとも、今回のエピソードの怪奇現象?呆気に取られていたら、なんとただの無意味な冗談でした(笑)。遠近感と画像を使ったトリックを、我々に披露したくなっちゃっただけ。この感じ、なんか「ビーティー」的で懐かしさがあるなあ。
最後まで読めば分かる通り、これより語られるエピソードに絡む「雨」「気候変動」「スマホ」といった要素が、このほんの数ページにあらかじめ散りばめられていました。実に無駄のない洗練された構成です。


……ある雨の日の夕方。杜王駅では、露伴が編集者と電話中。雨のせいで道路が渋滞しているので、打ち合わせ場所をS市に変更し、電車に乗ろうとしています。そんな露伴の身に、次々と起こる現象。いわゆる「歩きスマホ」です。「歩きスマホ」をしてる人が、次から次へと露伴にぶつかって来たのでした。子どもにDQNカップル、お婆ちゃん、「晴天バーディーズ」のサポーター……、老若男女問わず、駅内を歩く人々みんなが一様にケータイいじりながら歩いています。お婆ちゃんが急に苦しんで倒れても、誰もスマホを手放しません。これは不気味!悪気すらもないのが異様すぎる。
挙げ句、やっとホームまで辿り着いたと思いきや、ここでも人にぶつかって押されまくり。とうとうホームから線路上に突き落とされちゃいました。お約束通り、ナイス・タイミングで電車が迫るッ!太ったおっさんが露伴を助けようと手を伸ばすも、彼を信用していいか躊躇してる間に、今度はおっさんまで突き落とされるッ!絶体絶命です。しかし、『ヘブンズ・ドアー』でおっさんを「本」にし、露伴を押すように命令。押された露伴は電車の直撃を免れ、おっさんも全身が「本」になってバラバラペラペラになったおかげでダメージ無し。このシーンの絵がまたイカしてます。書き込んだ命令じゃなく、「本」にする事自体で危機を切り抜けたのって、実は初めて?
しかし、状況はますます悪化。彼らを救出しようとした駅員達も、ホームにいる人々も、全員がどんどん押されて線路に落下!次の電車も迫る!この思わず笑っちゃうほどの戦慄。荒木流サスペンス描写の典型ともいえる「リピート」「エスカレート」が、見事に効果を発揮してますよ。


ところが、露伴はすでに余裕顔。すでに駅員に命令を書き込み、踏切を渡っていたトラックを奪って、線路上に止めさせていたのです。電車はトラックに衝突しつつも、なんとか停車。おかげで線路上の人達も、電車の乗客も、誰も犠牲にならずに済みました。ただ1人を除いては。
その唯一の犠牲者が、さっきの太ったおっさん。なんと、一連の「歩きスマホ」の現象は、全て彼が狙いだったのです。露伴さえも、実は彼に引き付けられていただけだったのです。スマホやケータイに空いている、イヤホンとかを挿し込んだりする穴。この場に集まった人達全員のスマホやケータイの「穴」の中から、得体の知れぬモノが這い出てきました。それは、細長〜く、ところどころ角ばった体を持ち、触覚や脚もあるキモい。この電子回路にも似た形状の虫は、後に学界で発表される事にもなる、「ロレンチーニャ」という新種の昆虫
この「ロレンチーニャ」、学名は「コーイレ・エレクトリカス・ロレンチーニャ」と名付けられる事になるらしい(「コーイレ」=「孔入れ」?)。香港や上海などの東アジアの都市部で最近出現した模様。電子機器の集積回路の中に住み、卵もそこで産む。エサは「電磁波」で、少数ならケータイの電気をちょっと食うだけの無害な存在。しかし、体内に「電磁波」を帯びており、たくさん集まると、時に外部生物に攻撃する事もある。その時、口からゼリー状物質を吐き出すとの事。特に、心臓が弱っている生物を探知して、集まろうとする。人体は脳も心臓も筋肉も「電気信号」で動くため、人々は「ロレンチーニャ」の影響を無意識に受けてしまう。おっさんは心臓の持病を持っており、「ロレンチーニャ」達は彼を獲物に決めたってワケです。(健康な人の電気は、「ロレンチーニャ」には強すぎる?)
調べてみると、サメやエイの頭部には「ロレンチーニ器官」なる感覚器が無数にあるみたい。ゼリー状の物質が詰まった小さな筒状の器官で、これによってごくごく僅かな電磁波をも敏感に感知できるようです。マジで他の生物の筋肉が発する電気さえキャッチできる模様。「ロレンチーニャ」は、この「ロレンチーニ器官」そのものが独立して進化し、1個の生物になったかのような存在なのかな。海中ではなく空気中で、しかも相当広い範囲の電磁波を感じ取っているようですから。
……ともあれ、結局、おっさんは心臓発作で死亡。「ロレンチーニャ」は獲物をジワジワ弱らせ、頃合いを見て、体内に侵入する性質がありそう。恐らく、彼の体内に入った「ロレンチーニャ」達は、残された彼の微弱な生命電気を喜んで喰らい尽くすのでしょう。エグいわー。おっさんがいい人だっただけに、お気の毒でやるせない結末です。まあ、虫に善悪なんて関係ないしね。
そして、先ほど胸を押さえて苦しんでいたお婆ちゃんが、フラフラと通り過ぎます。その耳や首元からは「ロレンチーニャ」が蠢く……。露伴は気付いたのか否か。その事は特に意にも介しません。踏切事故のために電車が遅延し、道路がさらに渋滞し出したので、今日の打ち合わせを中止して帰路に就くのでした。露伴にとっては、この事件も、漫画のアイディアとして使えるネタに過ぎないのです。いつもながら余韻の残る終わり方。タイトルもいつの間にか「日曜日」になってるし(汗)。



――このような奇妙なエピソードでした。最近、社会問題として取り上げられる事の多い「歩きスマホ」「ながらスマホ」も、荒木先生に掛かればサスペンスの題材です。どんな些細なネタでも、短編1本描けるアイディアにまで昇華させてしまう荒木先生スゲー!尊敬すると同時に、実際に似たような被害に遭ったりしたんじゃねーかと心配にもなりました(笑)。荒木先生には、「歩きスマホ」してる人がスマホに操られているように感じられたのかもしれませんね。
みんながみんな同じ行動を取って「歩きスマホ」してる事への恐怖……、危機的状況にも関わらず平然とスマホをいじる人々への悪寒……、そして次々と畳み掛け激化していく死への絶望……。これらの異常の原因が、まさか虫とはビックリ。「懺悔室」や「富豪村」、「望月家」のような超常的な存在が出るパターンではなく、「六壁坂」や「密漁海岸」、「ルーヴル」のような未知の生物が出るパターンでしたね。荒木先生の描く新生物はリアリティがあって好きなので、今作も私好みのオチ。
異常気象によって「ロレンチーニャ」も異常大繁殖しているかも……という設定も、なんか皮肉が利いてます。「ロレンチーニャ」を生み出しちゃったのは、やっぱ人間なんだろうしなあ。「物質的な豊かさ」「自分だけの利益」ばかりを追求し続けてると、人間は自分達の文明に追い詰められていっちゃう。誰かを知らず知らずに不幸にしてしまうし、その不幸はやがて自分にも降り掛かってくる。誰もがイヤな気分にならないためにも、「歩きスマホ」はやめましょう(笑)。

ただ、今作のタイトル「月曜日-天気雨」。どうもピンと来ないんですが、もしかして「本日は月曜日。天気は雨。」って意味で、晴天なのに雨が降る「天気雨」って意味じゃないのかな?それとも、「天気雨」のようにどこからか現れ、スッと通り過ぎていくエピソード……ってイメージ?
露伴のアバラ骨との因果関係とやらも不明のまま。単に、「雨」繋がりのエピソードってだけ?「雨」の日の「抗いようのない」出来事、って意味で共通してるとかで。でも、それで因果関係とまで言うかね?昔、露伴が海岸で転んだのも「ロレンチーニャ」が原因?いや……、深く考えずに、今回のドタバタのせいで古傷がまた痛み出したってだけの話か?微妙に謎が残ります。
ちなみに、作者コメントは「最近、眠るのが楽しみで、眠れるかと思うと楽しみ過ぎて、勿体無くて「眠れない」。」でした。しっかり眠って、元気に作品を描いていただきたいものです。



なお、今作で久しぶりの「JohDai」の文字を発見しました。詳細はこちらで。




2018年7月19日発売の「岸辺露伴は動かない」コミックス第2巻に、このエピソードも収録されました。すると、タイトルが「月曜日-天気雨」から「月曜日 天気-雨」に修正されていたのです(笑)。2年半越しの疑問もこれで解けました。そんなワケで、こちらもタイトルだけ修正しておきます。
ついでに言うと……、このエピソードと因果関係がある「それ」とは、アバラ骨の骨折の事じゃなくて、「ここ数年、雨の日や降水量が多くなった」事なんでしょうね。アバラ骨がウズいて痛むのも、「ロレンチーニャ」が異常大繁殖したのも、きっと「天気-雨」のせい。今更ですが。




(2015年12月4日)




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