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岸辺露伴は動かない
エピソード#09 ザ・ラン (OVA)





2019年7月、多くのファンを熱狂させたTVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」が、ついに感動のフィナーレを迎えました。しかしッ!ジョジョロスになんてなる暇もなく、同年8月に「岸辺露伴は動かない」OVA化プロジェクトが始動したのです。なんと、「ザ・ラン」「懺悔室」の2編のエピソードがアニメ化する事に。さらに12月からは、「奇譚見聞録」と題し、東京を皮切りに全国六都市を巡る上映ツアーまでスタートしたのでした。
私もツアーの抽選に申し込んでみたんですが……、残念ながら落選。この度の新作2編に加え、すでにアニメ化されている「六壁坂」「富豪村」も収録した円盤が2020年3月25日に発売されるというので、すぐに予約しておとなしく待ってました。そして、とうとうその時がやって来た!……ってなワケで、ここでは「ザ・ラン」の方の感想を書いていこうと思います。(「懺悔室」の方はこちらで。)



ストーリーは言わずもがな、作画も、声優さんの演技も、BGMも、演出も、全てがハイ・クオリティでまとまっていました。とっても面白く、大満足です。このエピソードで最も重要な点は、とにかく「橋本 陽馬」というキャラクターの恐ろしさだと思います。そこがしっかりと描かれていた時点で、今作はもう間違いない。
まず、露伴が1人で語る導入パート。最初は真っ青だった背景が、徐々に紫になり、そして真っ赤に変わっていくところが不穏で最高です。しかも、原作にはない、露伴が陽馬の気配に怯える姿まで見せてくれました。我々視聴者にも危険を警告しまくりで、早くもヤバさがビンビンに漂ってきています。無音の部屋に静かに響く露伴の声がまた、雰囲気があって心地良いんだよなぁ。のっけから引き込まれちゃいました。
本編の方も、アニオリを織り交ぜながら、陽馬がエスカレートしていく様を見事に描写。露伴と陽馬のスミスマシン勝負なんて、ノリノリのBGMも相まって笑えました。そして、黙々とトレーニングを重ねる陽馬に「ヘルメス神」が宿り始め、人の領域を侵していく怪しい磁場が纏わり付きます。マンションでのボルダリングも、妖怪じみててマジでイカレてて、映像で見られて嬉しかった。まぁ、1枚絵としてのインパクトも強烈ですが、実際に動いて下りていく様子も見てみたかったところ。

露伴とのトレッドミル勝負も、凄まじい緊迫感とスピード感でしたね!原作以上にムッキムキになった陽馬の肉体も美しい!公式Twitterによれば、荒木先生の指示があって体格を良くしたらしいですよ。自分が殺したミカちゃんのネックレスも、しっかり身に付けていました。肉体のみならず、精神や行動にもゾッと出来ます。よしよし。
ルール説明の時には、格ゲー風の画面でバトルの始まりを演出。4部アニメの『シンデレラ』編でのミュシャ風の絵や魔法チックな効果などもそうですが、荒木先生なら絶対に描かないであろう画面です。なんと言うか……、こういうスタッフさん達の本気の創意工夫が見られるからこそ、メディアミックスする意味も甲斐もあるってもんでしょう。どんどん加速し、ボルテージも上がる一方のクライマックスは、まさに手に汗握ります。極限に研ぎ澄まされた空気、躍動する筋肉、血管がブチ切れんばかりの死に物狂いの形相、グルグル回るカメラワーク、どれを取っても極上!
窓から落ちる瞬間の、光を失って冷たく濁った陽馬の瞳が、これまた恐怖です。あんな鋭い眼で睨み付けられ、呪うように自分の名を呟かれた日にゃあ、露伴じゃなくたって逃げるしかありません。最後に映るのが、非常階段のマークってのも巧いですよね。全力で逃げないといけない非常事態に陥った不吉さを暗示しつつも、もの静かな余韻を含ませて終わるという……。う~ん、シャレてんなぁ~。


不満点って程でもありませんけど、個人的な願望を言わせてもらうと……、陽馬が最初からクールすぎたのは少々残念だったかな。
最初のうちは、もっと普通の兄ちゃんっぽく素朴な演技にして、筋肉に取り憑かれていくに従い、だんだんとクールに狂気を帯びた演技へ変わっていくってのが理想。トレッドミル勝負で爆発させる感じで。筋トレ好きから筋肉信者に、そしてついに「ヘルメス神」の化身に!という段階を踏んでほしかったな、と。やっぱ、人が怖さを感じるのは「変貌」「変容」なんだと思うんですよ。
とは言え、陽馬役の内山昂輝さんの声は、これまでの「ジョジョ」アニメにはいなかったタイプのイケボでした。おぞましく恐ろしくも、カッコいい陽馬だったぜ。



あとは、サブキャラもいい味出してましたね~。
陽馬をスカウトしたおばちゃんは、顔面の圧がスゲー。この人の一言が、陽馬が筋トレにハマるキッカケになっちゃったんで、ある意味、すべての元凶と言えるかも(笑)。ミカちゃんは、アニメでもかわいかった。こんなにいい子を蔑ろにして、あまつさえ殺してしまうなんてあり得ない。
そんで、私のイチオシはトレーナーさん。荒木作品では非常に珍しいオネエ系。私、オネエなキャラって好きなんですよ。竹内良太さんの演技も相まって、このハードなストーリーの中の一服の清涼剤になってくれました。スキンヘッドの人の安否をすごい心配してる描写もあったし、真っ当で優しい人だ。




(2020年3月26日)




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