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岸辺露伴 グッチへ行く





「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」単行本発売から、わずか数ヶ月。我らが露伴先生は、早くも新たなる旅へとご出発されました。行き先はイタリア・フィレンツェ!あの老舗の超有名ブランド『GUCCI(グッチ)』の工房を訪ねるというのです!
その旅の一部始終は、なんと女性ファッションモード誌「SPUR」に掲載ッ!2011年8月23日発売の「SPUR」10月号の別冊付録として、今作は世に発表されました。これはそもそも、GUCCIブランド創設90周年&荒木飛呂彦執筆30周年記念作品というスペシャル企画にちなんで描かれた、夢のコラボ作品。しかも嬉しい事に、「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」に続いて、これもフルカラー作品となっています。16ページと、ページ数こそ少ないけれど、その内容は荒木ファンならずとも必見です。



まず、「SPUR」10月号の表紙を飾ってくれたのが、今作にも登場した通訳の女の子!そうです。荒木先生が描く絵が、なんと女性誌の表紙となったのです。これはさすがに予想外すぎました。「SPUR」としても初の試みであったようで、編集部のお目の高さと冒険心には敬意を表したいところ。信者的視線だからそう思うのか、荒木先生の絵はファッション誌との親和性も高く、違和感なく融合していましたよ。
肝心の絵の方ですが、実に麗しゅうございました。グッチの2011-12秋冬の新作である、ブルーのカシミアロングコートに身を包んだ通訳さん。その涼やかな視線、しなやかなボディーライン、目にも鮮やかなブルーで統一された紙面、どれを取っても寸分の隙も無しッ!色の塗り方といい、丁寧に引かれた線といい、いつにも増して気合い入ってるように感じられました。ファッション誌の表紙であるからこそ、人物よりもファッションを中心に描いたのでしょう。バッグ1つを見ても、ディテールや質感にまでこだわっている事が窺えます。




さて、本編。一応、公式の設定としては、ルーヴルへの旅から数年後という事らしい。露伴はばあちゃんの形見であるグッチのバッグを手に、はるばるフィレンツェにまでやって来ました。イタリア料理の美味しさや、通訳の女の子の綺麗さに満足気の露伴。しかし、彼の目的は、フィレンツェ郊外のグッチの工房へ行く事でした。実はこのバッグ……、ちょいとおかしなバッグなもんで、職人さんに直接文句を言って、修理してもらおうとしたってワケ。
何がおかしいのかというと、バッグの中に金目の物を入れると、金目の物だけ消えてなくなっちゃう機能が付いてるのです!試しにGペンと飴玉とカネを、バッグに入れてみせます。100ユーロ……と思ったけど、やっぱもったいないんで50ユーロ札に。そんでバッグを開けてみると、しっかりカネだけ消えちゃってました。今度は10ユーロ札を入れ、大統領ばりにドジャーンと開けてみると、これまたカネだけ消失。合計60ユーロがなくなりました。何か特別な構造や仕掛けがあるバッグなのでしょうか?
通訳さんと職人さんもこれにはビックリ。なんかいきなり職人さんが、グッチの哲学であり理念である「伝統」「革新」について熱く語り出したかと思ったら、話題はやがてこの奇妙なバッグへ。どうやら職人達の間で噂になっていたバッグだったようで、かつてグッチの天才的な職人の1人が全世界に3個だけ特別に作った物だというのです。さらに、このバッグの「真の使い方」を知らないままなのに修理しちゃってもいいのか、とまで訊いてくる。意味深で神妙なムードを放つ職人さん。でも、露伴はやっぱりマイペースで自己中(笑)。日が暮れる前に帰りたいから修理してよ、とあっさりアンサーです。
(ちなみに、バッグに刻印された「□.K.」の文字は、ばあちゃんのイニシャルなのかな……?ばあちゃんがどんな経緯でこのバッグを入手したのかも気になりますね。)


ここから場面は一転。バッグの修理を終え、通訳さんにワイナリーを案内してもらった様子。ところが、のんきにワインを飲んでる隙に、なんと彼女は露伴から何もかも盗んでトンズラこいちゃったのです(笑)。可愛いからって油断してたら、とんだ女狐でした。しっかりしてそうで、露伴も意外と抜けてますね。残ったのは、ばあちゃんのバッグただ1つ。肉親の形見くらいは勘弁してやろうと、お情けをかけてくれたのでしょうか?惨めです。家は火事になるわ、山を買って破産するわ、初恋の人は身内の幽霊だわ……、どの作品でも波乱万丈な人生だな。
周囲に建物1つないあぜ道に取り残され、どっちへ行けばいいかも分からない。空は暗くなり、雨まで降ってくる。挙句、足を滑らせ、ゴミ捨て場に突っ込んじゃいました。絵に描いたような最悪な状況。しかし、偶然にもそこにはが捨ててあり、それで雨を防ぐ事が出来たのです。さらに、偶然にもガチガチに硬質化した牛の糞も発見。バッグからGペンを取り出し、糞をメッタ打ち!糞にはリンが多く含まれており、火花によって火がつきました。そして、その火のおかげで通りすがりの車に無事発見されたのでした。この辺、ページ数が少ないからじっくり描けなかっただけなんでしょうけど、やたらテンポ良すぎて笑えます。
どうにか街のホテルまで辿り着いたものの、無一文で泊まれない。ズブ濡れでガタガタ震えていると、偶然にもホテルの客が露伴の傘に目を付け、「売ってほしい」と言い出します。それはグッチの傘だったらしく、60ユーロで売れました。これで1泊60ユーロの部屋に宿泊OK!
このミラクル続きに、ついに露伴は悟りました。ばあちゃんのバッグの「真の使い方」。このバッグは、持ち主が危機的状況に陥った時、それまでバッグに入れて消した分の金額との「等価交換」によって救ってくれるスタンド・バッグだったのですッ!誇り高きグッチの職人が魂を込めまくって作ったからこそ、奇跡か必然か、そのバッグはスタンド化したのでしょう。さすがグッチだぜッ!『アヌビス神』に限りなく近いタイプのスタンドですな。「等価交換」の能力ってのも、「鋼の錬金術師」の荒川先生との対談も影響してたりして?
自分を助けてくれたバッグを遺していってくれたばあちゃんに感謝。しかし、バッグはもう修理させてしまった。この60ユーロが、最後の「等価交換」。ヘタにいじれば能力が消滅してしまうって、なんともデリケートなスタンドです。このバッグの作成者であり、スタンドの本体でもある職人は、実直で公平で繊細な性格だったんじゃないかな〜、とか想像しました。
そして露伴は、もう50ユーロ追加すれば豪勢なディナーにありつけたって事実が分かり、あの時、ケチらないで100ユーロ入れとけば……と後悔(笑)。今宵は、飴玉を舐めながら、ひとり寂しく過ごす事となりそうです。――と、まあ、キレイにオチもつきました。



このような物語でした。確かにページ数の関係上、展開が唐突に感じられる部分もあります。でも、必要最低限の要素だけでキッチリと構築され、ストーリーとしてうまくまとまっていたと思います。実質的には10ページそこらなのに、起承転結が押さえられていました。単なるグッチ紹介漫画じゃなく、れっきとした荒木漫画になっていたし。企画の意図や購買層とかも考慮してか、血みどろバトル展開ではなく、ちょっと不思議なほのぼの旅行記でコミカルな空気も楽しめました。露伴のキャラはいいよねえ〜。どんな話でも動かしやすそうで。もちろん、これでもかってくらいグッチのアイテムが描かれ、グッチというブランドそのものにも興味が沸いてきます。
フルカラー作品として「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」と比較してみると、その大きな違いは色の強さ・濃さにありますね。123ページもの長編であった「ルーヴル」は、読んでいても目が疲れないように淡い色使いとなっていました。一方、16ページの短編である今作は、逆に濃厚なカラーリングが基本。グッチのファッション性を表現する狙いもあるのでしょう。モスグリーンやブラウンの空、オレンジや紫の地面といった、荒木流の色の配置も健在です。
また、露伴と通訳さんのファッション・ショー的なイラストを本編に織り交ぜ、ファッションモード誌らしさと荒木飛呂彦らしさを同時に演出しています。単体で1つのアート作品になり得るようなイラストなので、物語の展開を考えると脈絡がなくって、ぶっちゃけなくても不自然で浮いてるカットではありますが(笑)。それも個性って事で。
「SPUR」本誌の方には、荒木先生のインタビューも掲載されています!さすがにこういう企画は初めてなので、インタビューでも今まで読めなかったような新鮮な発言だらけ。いつもと違い、髪もオシャレにセットされ、作中の露伴と同型のファッションに身を包む荒木先生の姿も拝めました。



露伴の新しい旅、充分に堪能させていただきました。面白かったですよ。しかしッ!彼の旅はまだ終わらないッ!9/17(土)〜10/6(木)の期間中、グッチ新宿の3階にて「岸辺露伴 グッチへ行く」原画展が開催されるのです。その名も……「岸辺露伴 新宿へ行く」!!こいつは女房を質に入れてでも行かなきゃ損でっせ!




(2011年8月23日)




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