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岸辺露伴 ルーヴルへ行く





ついにというか、やっとこさというか、この時がやって来ました。2011年5月27日、「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」刊行ッ!思えば長い道のりでした。2009年1月22日〜4月13日までの期間、パリはルーヴル美術館にて作品冒頭の数ページとイメージボードを展示。そして、2010年3月19日発売号のウルジャン誌上より、3号連続でのモノクロ掲載。フランス版「Rohan au Louvre」も、ウルジャン掲載に合わせるかようなタイミングで刊行されています。また、日本での原画展示も、2010年の秋、京都と東京にて行われました。
様々な形で、我々読者の前に登場した当作品でしたが、肝心要の単行本が一向に発売されず……。焦らしに焦らされた末、荒木飛呂彦先生執筆30周年記念出版と銘打って、満を持しての刊行と相成りました。無論、123ページもの作品は、B5判の大きさでフルカラー収録!



さて、この単行本について語る前に、当作品に関連するコンテンツをまとめておきます。

 まず、全ての始まりであるルーヴル美術館での展示のレポート。
 <ルーヴル美術館へ遊びに行こう>
   前編 (その@〜そのB)
   中編 (そのC〜そのE)
   後編 (そのF〜そのI + エピローグ)

 2009年の10月・11月、秋葉原で開催されたイベントでは、複製原画も展示されました。
 <アキバ上陸作戦>
   ウルジャンまつり

 2010年11月より、生原画が京都と横浜で展示。
 <管理人 京都へ行く>
   マンガ・ミーツ・ルーヴル

 そして、ウルジャン誌上で作品が掲載された際の感想です。
  <前編>  <中編>  <後編>




ではでは、前置きはこのくらいにして、「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」単行本について語ってみたいと思います。まあ、内容に関してはすでに書いているので、ここではビジュアル的な部分に触れてみましょう。せっかくフランス版も買っているんだし、日本版フランス版を比較してみます。みみっちいくらい細かい点にも触れますが、悪意は一切ありませんので(笑)。


単行本そのものの大きさは、フランス版の方が日本版(B5判)よりもやや大きい。コミックスとかも、国によって大きさや厚さが微妙に異なるから、お国柄みたいなもんなのかな?
表紙イラストは、ルーヴル美術館をバックに、ジョルノっぽいポーズを決める露伴。インタビューでも荒木先生が語っていますが、青と白と赤を基調としたカラーリングとなっており、これはフランス国旗のトリコロールカラー。フランスへの敬意なのです。また、背景に描かれたグネグネ模様は日本のイメージ。フランスと日本を繋ぐ絵として描かれているワケですね。
バンドデシネというものは、表紙に人物をドンと配置したりはしないらしいのですが、当作品は荒木先生の希望により、露伴が前面に大きく描かれました。これは日本版だと更に顕著になり、フランス版よりも露伴がちょびっとズームアップされています。それに、フランス版は非常にシンプルな印象なんですが、日本版はタイトルロゴもカラフルだし、線が浮かび上がっているように加工された滑らかな印刷になってるしと、えらく凝ってます。オビやらバーコードやらも付いてるので、ゴテゴテしてる印象さえ受けました。美術品として扱っているフランスと、娯楽的な商品として扱っている日本の違いなんでしょうか?
特筆すべきは、カバーイラストの一部が異なっている点。裏表紙に、赤で塗られた露伴の横顔が描かれています。その横顔の先には、日本版だとバーコードしかないんですが、フランス版だと額縁に飾られた3点の絵が配置されているのです。ちなみに、原画にはその3点の絵は描かれていなかったので、フランス側が加えたのかもしれません。より美術館らしい空気を出したかったのかな?
あと、日本版はコミックスのように、表紙がカバーとなっています。だから当然、カバーを取り外す事が可能。取り外すと、そこには黒い表紙の上に、本となった作中での露伴のドアップが描かれていました。一方、フランス版にはカバーは無し。まさに「本」それ単体のみ。そういう面でもシンプルです。


続いて、本編を見ていきましょう。本編は大きく分けて、日本編・ルーヴル編・地下倉庫編の3つで構成されています。それぞれにベースとなるカラーが決められていて、そのため、読んだ時の印象が見た目にもガラッと変わるようになっているのです。日本編露伴の過去の話でもあり、セピア色がベースカラー。畳の色なんかもイメージされているそうです。儚さ切なさ、そんな日本らしい心の機微が伝わってきますね。ルーヴル編ピンクがベース。ルーヴル美術館の華麗さを表現しているのでしょうか。そして、地下倉庫編ブルーがベース。一変して、薄暗くジメジメとした不気味さが演出されています。こうして改めて読んでみても、色の持つ力とは不思議なものです。それを見事に引き出し、活かし切る荒木先生の感性と表現力も素晴らしい。
……んで、日本版とフランス版を見比べてみて、気になった点が3つ。
1つ目は、紙面の大きさ。フランス版の方が少し大きいという事は前述の通りなんですが、どうやら印刷されている範囲もそうみたい。つまり日本版は、単純にサイズが縮小されているというより、上下左右が切り取られたような形で印刷されているって事。フランス版では見えている所が、日本版では切られて見れなくなっているんです。まあ、もともと原画がそのまま印刷されるはずもないし、切られる事も想定して描かれているんでしょうけど。でも、日本版はけっこうな面積が切られちゃってる気がしました。かと思えば、逆にフランス版で切られてるのに、日本版では見えるって部分も、僅かながらありました。よく分からんけど、印刷方法とかの違いなのかな。
2つ目は、色の度合い。表紙イラストなんか如実なんですが、日本版はよりハッキリとした色合いになっています。赤はパステルカラーっぽいピンクで、青はその濃さを増しています。黒もまた、より明確で濃い黒に。ただ、肌の色はフランス版に比べて落ちており、土気色っぽくなっていますけど。これは本編でも同様で、いちいち見比べなきゃ分からないとは言え、意外と違って見えて興味深い。どちらが良いとか悪いとかは好みもあるでしょうが、両方とも購入されてみるのも一興かと思いますよ。
最後の3つ目は、露伴の涙。「月下」より奈々瀬さんが抜け出てきた時、そのあまりに奇妙な再会に露伴は衝撃を受けました。そしてこのシーン、フランス版では露伴の瞳に涙が浮かんでいるのです。ところが、日本版では、その涙が無いッ!ウルジャン掲載時には涙が描かれていたのに。4部でも露伴が涙ぐむシーンは描かれているのだから、露伴のキャラに合わないって理由ではなさそうだし……。謎です。懐かしき初恋の相手に不意打ちで遭遇し、大きく揺さぶられた感情が伝わってくるので、涙はあった方が個人的には良かったですね。


そして、日本版だけのボーナス・トラックもありました。ルーヴル展示の記事と、荒木先生の取材時の様子インタビュー記事が、これまたカラーで収録です。内容自体は過去のインタビューと同じですが、写真をカラーで拝めるのは嬉しい限り。ルーヴル展示の様子も、今となっては懐かしく思えます。取材時の様子を見ると、どれほど取材が作品に影響を与えたのかがよ〜く分かりますね。ルーヴルの裏側を収めたこの写真、かなりレアですよ。先生も実に楽しそう。先生がどんな想いでこの作品を描いたのかが記されたインタビューも必見です。
そして、最後にはなんと、露伴の描き下ろしラフ画がッ!ウルジャン6月号(2011年)の、当作品の紹介ページでうっすらとは見えていましたが、こうして目にすると感激です。最高に美しく、カッチョよろしく、色気ムンムンであります。このためだけにでも日本版を買う価値があります。



この歴史的作品、是非とも多くの人々に読んでほしいし、楽しんでほしいと思います。個人的にはかなり想い出深い作品になっていますが、日本・フランス両国の、……いやいや、世界中の読者の様々な感想も知りたいですね〜。




(2011年5月28日)




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