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〜 荒木飛呂彦先生の原画鑑賞ツアー 〜





そのF


<2009年 3月23日(月)>
繊細な私は旅先だと熟睡しづらく、自宅では考えられない事ですが、朝になると自然と目が覚めてしまいます。朝食代わりに、パリに到着した時に空港で買ったクランキーチョコボールを食べました。おえっ、甘すぎる……。朝っぱらから軽く胸焼け。TVをつけると、「とっとこハム太郎」がやってました。
支度を済ませ、朝9時半頃に出発。今日も曇り空。息が白くなる程の空気の冷たさ。まずは昨日の無念を晴らすべく、奇跡のメダイを売っている(はずの)サン・ヴァンサン・ド・ポール教会へ!パリも3日目ともなると、さすがに道もある程度は分かってきて、地図無しでも歩けるようになってきました。それにしても、今日はいつもより街が騒がしい。明らかに人も車も多い。思えば、私がパリを歩いたのは土・日だけ。今日は月曜日、初めての平日。これが本来のパリの賑やかさなんでしょう。


昨日と同じルートを通って、教会に到着。おっ!ちょうど日本人らしき女性達が中から出て来ました。教会内へ入ってみると、昨日は閉まっていた売店が開いているッ!シスターがおばちゃん達にメダイを売っているのが見えます。やっぱ昨日は日曜だったからか……。おばちゃん達の買い物が終わると、私も売店へ。へえ、安くて小さいけどキレイだなあ。シルバー、ゴールド、ブルー…、様々なタイプがありますが、適当に20個ほど買っときました。
『買い物してこい』って ハァー ハァー 命令……………  完了………
安心し、教会でちょっと一休み。何人か熱心にお祈りしてます。でも、この清らかで静謐とした空間にいると、神に祈りを捧げる気持ちも理解できる気がしてきますね。日本じゃ、こういう場所に行く機会もなかったからなあ。せいぜい「ドラクエ」でセーブする時くらい。


さて、今日の目的はノートルダム大聖堂世界遺産にも登録された、歴史ある教会です。来た道を戻り、さらに橋を渡ってシテ島へ。セーヌ川に沿って歩き続けると、やがて大聖堂がその姿を現しました。なんという存在感。写真だけでは伝わりにくいんですが、えらい細かい所までビッシリ(つーかウジャウジャ)彫刻されており、ちょっと気色悪いかも……。凝りすぎだろってくらい凝ってます。



普通に街中にある

正面

ちょい斜め



大聖堂前には大勢の人々。「英語話せますか?」と、観光客にやたら絡んで来るインド人系の女性達を無視し、聖堂内へと足を踏み入れます。入場は無料です。
中は薄暗く、思わず息を飲んでしまうほど厳粛で神秘的な空気が漂っていました。こりゃあ、マジで祈りを捧げれば効きそうなムード。讃美歌のBGMも、そんなムードを盛り上げてくれるナイス演出です。美しいステンドグラスも、イエス様の像も、土産物屋もキッチリありました。商魂逞しいぜ。








神聖なる空間から俗世へ戻ると、ちょいとそこらをブラついて、腹ごしらえ。カフェでフランスパンのサンドイッチを買い、近くの橋のベンチに座って食べました。ちょうどオルガン弾きの男が演奏中で、いかにもヨーロッパ的で優雅なひと時です。良い天気と良い景色と良い音楽。
ンッン〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ! 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ〜〜
フフフフハハハハ

素晴らしきランチタイムでした。



パリ市庁舎そばの
アルコール橋

食いづらいけど、
まあまあのお味




そのG


今日は実質、最終日。ならば、せっかくなので再びルーヴル美術館と向かう事に。場所も大して離れていないので、すぐに到着。



川沿いの緑の箱は
古本屋

のどかな風景


リターン・トゥ・
ルーヴル



最後にもう一度、荒木先生の絵を観よう。気楽にそう思って来たものの、今日の客の入り様はヤバイ。おとといの比じゃないくらいの人、人、人。日本人の感覚だと土・日の方が混むように思うんですが、まさか平日にこんなに客が来るとは……意外ッ!休みの日はどこにも行かず、本当に休んでるんだろうか?
人込みをかわして、荒木先生の絵の前へ。じっくりうっとり鑑賞していると、そこへ他の客がゾロゾロと入って来ました。それは地元フランスの高校生か美術学校の学生と思しき、十数人の少年少女達。どうやらこの企画展の見学が授業の一環となっているらしく、展示されている作品を熱心に鑑賞し、それを模写しています。もちろん荒木先生の絵も。予想外の展開に驚きつつ、嬉しい気持ちになりました。教材としても認識されるなんてね〜。しかも、学生の女の子がまたカワイイんだ、コレが。余計に嬉しいね。学生達以外の一般客もけっこう観てましたし、また来てみて良かったです。
改めて観ても、荒木先生の絵は1枚の絵として映えます。インクの黒の輝きも、ホワイトの修正も、ブルーとピンクとグリーンの配置も、絵柄や構図も、全てが一体となって「美」を放っています。個人的には、夜中の「ガラスのピラミッド」に侵入する(?)露伴先生の絵が特に大好き。1枚絵としての魅力は、展示作品の中でも群を抜いてたんじゃないかな。

そうして、再びルーヴル美術館内を見て回り、最後の最後にもう一度だけ荒木先生の絵を観て、外に出ました。
思えばこのルーヴル美術館が、この旅の拠点でした。そもそもの目的の場所でもあるし、オルセー美術館にも凱旋門にもエッフェル塔にもノートルダム大聖堂にもホテルにも程近いですからね。毎日、ここを通ってたな。なんか居心地がいい場所で、愛着も湧いていました。皆がそう感じているからなのか、ルーヴルでは大勢の人々がのんびりと時間を過ごしています。こういうのって大事だよね。もし再びパリを訪れる事があったら、必ずやまたここに来よう。


テキトーに近辺をブラブラ歩き回ってるうちに、ぼちぼちいい時間になってきました。お腹も減ってきた事だし、レストランへ向かいます。結局、今夜も昨日と同じ店で。食う場所はいくらでもあるんですが、言葉もルールも分からんので正直不安。日本語メニューは魅力です。
今宵はパルメザンチーズクリームのパスタにステーキが乗っかってるような料理になりました。激ウマでございました。パリで食べた物の中で、これが一番うまかった!ウェイターさんも「アリガトー」とか「ゴユックリ メシアガレ」とか、日本語を使ってくれたりもして、少し癒されました。この店はフランスの「トラサルディー」や〜!またいつか来よう。



「SBR」レース参加者達


絶品でした


オペラ大通り沿い
にあります



腹もいっぱいになり、ホテルへと戻ります。部屋に入ると……、うおっぷ!何故か異様に香水くさい。掃除の際、芳香剤か何か振りかけまくったのだろうか?酔いそうだ……。
パリの最後の夜は、いつものように部屋でゆったりと過ごしました。でも明日は早いし、さっさと寝る事に。ところが、上の階かどこからか、誰かがしきりに物音を立ててやかましい。ガガガン…ガガガン…って。一体、何なの??やれやれだぜ。




そのH


<3月24日(火)>
結局、どこからか聞こえてくる謎の騒音は鳴り止む事はなし。安眠を妨げようとする新手のスタンド攻撃に苦しめられながら、やがて朝を迎えました。支度を終え、チェック・アウト。その際、エレベーターの方向から例の音が聞こえてきたので、もしや機械の調子がどっか悪かったんだろうか……?
タクシーでシャルル・ド・ゴール空港へ。運転手のオヤジはグラサンをかけ、軽快に飛ばしていきます。けっこう怖い運転。慣れてるんだろうけど、ここまで来て事故りたくはねーぞと、ちょいビクビク。しかし、無事に空港に到着できました。



馴染みのオペラ大通り


空港内
さらば パリ



手続きやら出国審査やら荷物チェックやらを済ませ、昼12時半頃に飛行機に搭乗。帰りこそ通路側の席にしたかったんですが、窓側しか空いてない、とのグレートにヘビーな現実。…………。

こうして再び12時間のフライトが幕を開けました。これが心底ツラい。やっぱりケツも痛いし、自由に動けないし、心身共に圧迫祭り。その上、これまた行きの時と同じく、赤ちゃんが終始泣きまくり。ああ……、頭が痛い。眠れない……。大人でもキッツイんだから、赤ちゃんのストレスたるや半端じゃないでしょうに。よっぽどの事情がない限り、赤ちゃんの搭乗は禁止してほしいと切実に思いました。
ただ、窓から眺める景色は次々と移り変わっていって面白かったです。田園風景やら北海やら雪原やら、ヨーロッパ各国の景色を遥か上空から見下ろしていました。やがては空も暗くなり、たまに家や都市の明かりが見える程度になっちゃいましたけど。

まあ、とにかく……。メルシー、フランス!メルシー、パリ!またいつの日か来る事があったらよろしく、って感じです。
今回は日程的にパリ中心部を歩き回るだけだったけど、次回はもうちょい遠出してみよう。ヴェルサイユ宮殿とか、モン・サン・ミッシェルとか。出来るもんなら、イタリアにまで足を伸ばしてみたり。夢が広がります。




そのI


<3月25日(水)>
日本時間の朝9時頃、やっとこさ成田空港に到着。ヴェルサスの人生並みにヘトヘトです。もう当分、ヨーロッパは行かなくていいな……。4日ぶりの母国・日本。日本人がいっぱい。あちこちに日本語が見える。やっぱ安心します。
さて、本来ならここで家に帰る所なんでしょうが、まだやるべき事が残っていました。それは……茨城県土浦市で行われる「土浦桜くらべ展覧会」ッ!!ジョジョファンの方ならば御存知でしょう。「桜」をテーマにした美術品の展覧会。2007年から毎年、荒木先生も描き下ろし原画を出展されているのです(詳しくは「@JOJO」さんで)ッ!今年は3月20日(金)〜4月19日(日)が開催期間という事で、まさに今、開催真っ最中!こいつは行かない手はありません。しかも、おあつらえ向きに成田空港から土浦駅までの直通バスが運行しているのです。

運命が 土浦に行けといっているのか?
荒木先生の意志が 観に来いといっているのか?

――そんなワケで、そのままバスで土浦へと向かいます。外は雨。早くも懐かしさを感じる日本の風景を眺めながら、時には軽く眠りに就きながら、バスは走っていきます。
およそ2時間後。昼12時40分頃、土浦駅に到着。実を言うと、土浦に来るのはこれで2度目。去年の「桜くらべ展覧会」も、友人と共に観に行ってたんです。なので、会場がどこかも分かっており、気持ち的にも余裕があります。まずは昼食といきましょう。駅前の「ヨーカドー」に入り、久々の和食を注文。この天丼と味噌汁が最強にうまい。やっぱ自分は日本人なんだな。



土浦駅

日本食、最高



腹ごしらえが終わると、いよいよ会場へ。土浦まちかど蔵「大徳」が会場となっているんですが、駅から近い場所にあるし、去年も来たので、特に迷う事もありません。それに展覧会のポスターも所々に貼られています。



雨の土浦

ポスター

会場の「大徳」



程なく到着。「大徳」に入り、会場となっている2階へと上っていきます。そこにいたのは、警備のおっちゃん一般客のおっちゃんの2人だけ。……あれ?もっとこう、ジョジョヲタ達がワイワイ盛り上がってんじゃないかと期待してたんだけど……。さすがに平日の昼間は厳しいか。残念。
警備のおっちゃんからチラシをもらい、順番に作品を鑑賞しました。それぞれ違った形で「桜」の美しさや儚さを表現していて、とても刺激的です。そして、我らが荒木飛呂彦先生!去年の作品『伊豆の踊り子』と、今年の新作『STEEL BALL RUN』の2点が展示されています。前回はジョルノが描かれた『黄金の風』と、この『伊豆の踊り子』だったので、去年も観に来て正解でした。写真撮影は厳禁って事で、どんな絵なのかはお見せ出来ません。でも、集英社文庫「伊豆の踊子」とウルジャン4月号(2009年)の表紙を飾った絵、と言えばすぐ分かるでしょ?その原画です。
ルーヴルでも感じましたが、本物は美しさも迫力も段違い。色1つ、線1本取って見ても、印刷では決して出せない輝きとパワーがありますよ。1年ぶりの再会となる『伊豆の踊り子』。荒木先生が描き出す「和」。艶やかで新鮮で、どこか物寂しさも漂っています。初お目見えの『STEEL BALL RUN』には、とりわけ感動。前作2枚は背景が爽やかなエメラルド・グリーンだったんですが、これはなんと濃いピンク!暖かな春の息吹を感じさせます。よく見ると、ジャイロに抱きかかえられているルーシーの足の位置が修正されている事も分かります。桜舞う季節の生命力と躍動感に満ちた絵でした。純白の額縁も、そんな荒木先生の色鮮やかな絵を一層引き立てています。
1階の売店エリアの壁にもお宝がございますので、お忘れなきよう。荒木先生直筆、承太郎のラフ画入りサイン色紙ッ!荒木先生の記事が書かれた常陽新聞(2007年4月15日の)ッ!店の方に許可をもらえば撮影もOKです。荒木ファンなら来なきゃ損ですぜ!



未来への遺産


1面トップを飾る



ちなみに、警備のおっちゃんからもらったチラシには、展覧会に作品を出展した方々が紹介されているのですが、荒木先生の紹介文をここに書き写しておこうと思います。


「荒木飛呂彦
漫画家。1960年宮城県仙台市生まれ。
’80年、週刊少年ジャンプ:第20回手塚賞に準入選、’81年に同入賞作品でデビュー。
代表作『ジョジョの奇妙な冒険』は多くの読者の支持を集め、’07年、連載20周年を迎えた。
2003年フランス・パリで個展「JOJO IN PARIS」開催。
土浦の「桜くらべ」用に描いていただいた作品「黄金の風(ジョルノ)」と「伊豆の踊り子」の2点を展示予定。
2009年パリルーブル美術館から日本人で初めて漫画アーチストとして作品の展示を求められ、
秋には120ページの漫画がルーブル美術館から出版予定。」


「秋には120ページの漫画がルーブル美術館から出版予定」ッ!120ページ……ッ!!「ルーヴルの露伴」、とんでもないボリュームですよ。しかも、もしかするとオールカラーなんて可能性もあるワケですし。秋が待ち遠しすぎるッ!




エピローグ


パリと土浦で荒木先生の生原画をたっぷりと堪能した私は、我が家へと無事に帰還。かくして、5泊7日荒木飛呂彦先生の原画鑑賞ツアーは幕を閉じたのでした。いや〜、良かった。楽しかった。自分としては大成功・大満足の旅でした。
これ以上、語る事も特にないんですが……、もしまたこういうチャンスがあったら、ぜひ何度でも行きたいですね!皆さんにも、ぜひ行ってみてほしいです。「本物」に触れられる貴重な経験、まさしく黄金体験ですから。


(余談ですが、ルーヴル美術館で展示されているはずのフェルメールの名作『レースを編む女』が、忽然と姿を消していたんです。せっかく見ようと思ってたのに。その時は不思議だったんですけど、帰国して納得。東京の国立西洋美術館で開催される「ルーヴル美術館展」に展示するため、初来日していたとの事。
バッド・タイミング……と思いきや、「桜くらべ展覧会」で『伊豆の踊り子』が展示されたのは、ちょうど私が訪れた3月25日からだったようなんです。20日〜24日までの5日間は『STEEL BALL RUN』1点のみの展示だった模様。なんたるミラクル。超グッド・タイミング。これは引力を信じざるを得ませんね!)



こうして2009年の春は………
ほとんどの人々にとって いつもの春と同じように あたり前に…
すぎていった




ルーヴル美術館へ遊びに行こう

完




(2009年7月26日)




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