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「ジョジョリオン」の意味について





「ジョジョの奇妙な冒険」第8部のタイトルは、ご存知「ジョジョリオン」Jojolion)。このあまりにもインパクトの強いタイトルが示す意味を、誰もが一度は考えた事でしょう。「ジョジョ」はともかくとして、「リオン」って何なんだろうか、と。コミックス1巻も先日発売された事ですし、今回は、「ジョジョリオン」というタイトルの意味について書いていきたいと思います。

よく見掛ける説としましては……、まず「ジョジョの捕食者」説。アリジゴクは英語でAntlion(アントリオン)」と言うそうです。アリ(=アント)を捕食するのがアントリオンならば、ジョジョを捕食する者はジョジョリオン。杜王町という舞台はそもそも、蜘蛛のように獲物を待ち構える敵のアイディアを使うために作られた舞台です。増してや、8代目ジョジョである定助は、吉良吉影の物と思しきキンタマをも持ち合わせています。アリジゴクのように定助を狙う敵もわんさと現れるでしょうし、吉良吉影が現時点ですでに定助の存在を捕食しているのかもしれません。定助の星のアザに付いていた歯形の主こそ、その「捕食者」であるとも解釈できます。そう考えると、なるほど。納得の仮説と言えましょう。
お次は「ジョジョの種馬」説です。定助がキンタマを4つも持っている事から、ジョースターの血統を遺す種馬となる、と。ジョースターの血統を次なる世代へと遺す、もしくは別の次元へと導く、新しい何かを生み出す……、そんな物語になるのではないかという仮説です。つまり、種馬=Stallion(スタリオン)」ってワケですね。4つのキンタマのうち、2つは恐らく吉良吉影の物なのでしょうけど、それでも定助がジョースターの血統を新たなステージへ引き上げる存在となる可能性は充分にあります。青年誌でスタートした初の「ジョジョ」であるためか、ヒロイン・康穂とのボーイ・ミーツ・ガールな物語であると同時に、いつになく女性キャラの人数「性」を意識させる描写が多い点も気になりますね。これまた、無視できない仮説です。
他にもいくつかの仮説がありましたが、私的に説得力があると感じられるものはこの2つでしょうか。


……で、私自身の仮説としましては、第1話の感想(⇒こちら)でも書いている通り、「ジョジョの福音」説です。よく「ジョジョ」と「エヴァンゲリオン」を合体させたネタなんかを見掛けますが、これはあながち当たらずとも遠からず。ただし、アニメの「新世紀エヴァンゲリオン」及び「ヱヴァンゲリヲン」ではなく、「福音」を意味するEvangelion(エヴァンゲリオン、もしくはエウアンゲリオン)」の方です。
主人公である定助は、自分に関する記憶を全て失っています。それは、自分自身の名前を失い、帰る場所を失い、アイデンティティを失い、歩んできた過去も歩むべき未来も失っている状態です。生きる目的や意味を見失っている状態、とも言えるでしょう。加えて、定助が吉良吉影と同化しちゃってるような状態でもあるとすれば、今ある自分すらも徐々に蝕まれ、失われていく事になりかねません。彼の抱える漠然たる不安や恐怖は、どれほどのものなんでしょうか。康穂もまた、不遇な家庭環境ゆえに、「自分」と「居場所」を見失っている人間でした。そして、そんな定助達の姿はある意味、東日本大震災で被災した人々の象徴とも言えるのかもしれません。
全てを失った主人公。そこからスタートし、失った「自分」を取り戻そうと立ち上がり、広瀬康穂という友人を得る。そして、「東方定助」という名前を得、東方家という家と家族を得る。失ったもの、取り戻せるもの、永遠に取り戻せないもの、壊されたもの、共に築き上げていくもの。それらは、震災で様々なものを失い、それでもなお、復旧・復興に向けて進んで行こうとする被災地の方々の姿なのです。舞台である杜王町自体もやはり、あの震災以降、かつての姿を失ってしまいました。地震、津波、そして「壁の目」の隆起によって。
つまり「ジョジョリオン」とは……、そんな杜王町の中で生きる定助達の姿を通じて、被災者の方々に希望勇気を与えてくれる、被災者の方々と共に歩んでいく物語なのです。東北ネタが多いのもその一環でしょうし、東方家がマジで社会奉仕をして、この国や地域に恩返しをするところが描かれるかもしれませんしね。仙台出身の荒木先生が、故郷への想いをメッセージとして込めて描き出す作品。それが「ジョジョリオン」だと思うのです。

「ジョジョリオン」は、「呪い」を解く物語。「呪い」とは、恐らく、先にも述べた「自分自身」や「居場所」を失ってしまう事をも意味しているのでしょう。そして、その「呪い」を解くという事は、「赦し」を得るという事。「祝福」を受けるという事。呪われた定助達や杜王町が、「救済」され、「浄化」され、「祝福」されるための物語なのです。杜王町は被災地と共に復興し、定助達は被災者の方々と共に前を向いて生きていく。それは、紛れもなく「ジョジョが齎す福音」なのです。
そう予想すると、「ジョジョリオン」は、7年という最長連載記録を樹立した「SBR」よりも長期連載になるのかもしれません。何せ、復旧だ復興だといくら言っても、現実的には2年や3年であっさり出来るようなもんじゃありません。それこそ十数年、数十年と掛かるものでしょう。であれば、「ジョジョリオン」も10年程は続くのではないかな、と思えます。十数年も海外での「ジョジョ」を描き続け、7年間もアメリカ大陸を旅してきて、ようやく故郷に帰れるって矢先に、その故郷があんな目に遭ったのですから……、荒木先生としても、この作品に懸ける想いや願いは相当なものであるはずです。自分のマンガを通して、愛する故郷が救われる姿を描きたい。そんな祈りが「ジョジョリオン」なのです。
※【そして、サブタイトルまでもが「ジョジョ」の名を冠している意味も考えてみようではありませんか。言わずもがな、「ジョジョ」とは「人間讃歌」であり、「生命讃歌」です。人間って素晴らしい。生きるって素晴らしい。荒木先生は25年にも渡って、それを我々読者に伝えんがために「ジョジョ」を描き続けてきたのです。「ジョジョ」は荒木先生の魂そのもの、と言っても過言ではないでしょう。そんな言葉をサブタイトルにまで使うって事は、今までにも増して「人間讃歌」を深〜く描こうとしているって事なのだと思います。もし私の仮説が正しかったとすれば、「ジョジョ」+「リオン」は、「人間讃歌」+「福音」と言い換えられます。荒木先生の祈りの強さと本気の覚悟を感じずにはいられません。たとえ定助達がどんなに「呪い」に苦しめられようとも、決して負ける事はないでしょう。「ジョジョリオン」という物語は、必ずや、希望に満ち溢れた最高のハッピーエンドを迎え、今を生きる勇気を我々の心に宿してくれる。そう固く信じています。


――と、このような仮説を立ててはいますが、果たして、荒木先生から「ジョジョリオン」の真の意味が語られる時は訪れるのでしょうか?どんな意味が込められているのであれ、今はその瞬間を待ちましょう。




(2011年12月22日)
(2012年2月3日:※【】内を追加)




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