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魔少年ビーティー (リブート版)





2024年3月4日発売の「最強ジャンプ」4月号(2024年)に掲載された、「魔少年ビーティー」のリブート版読み切り作品です。脚本に羊山十一郎氏、コンテ構成に雀村アオ氏、そして作画は松谷祐汰氏という体制で制作されました。
それにしても……、そもそもの話、なんでまた急に「ビーティー」を持って来たんだろう?時期は微妙~にズレちゃってるけど、40周年記念って事?まぁ、「ビーティー」好きとしては話題になってくれるなら嬉しいかな。何ならアニメ化とかもしてほしいなぁ。


さて、肝心の内容の方ですが、まあまあ面白かったです。荒木作品としての個性や毒はだいぶ薄まってて、無難というかオーソドックスというか、良くも悪くも普通の漫画。正直、「ビーティー」である必要があったのか疑問も浮かびますが、「最強ジャンプ」の対象読者層は恐らく「少年ジャンプ」よりも幼い子達だろうと思うので、あまり過激な内容には出来ないのかもしれません。
絵的な話をすると……、アングルや擬音なんかは荒木先生っぽさを意識しているようで(丸コマもあったりする)、それゆえか決めゴマのビーティーはとってもカッコイイ。ただ、それ以外のコマはちょっと雑にも見えるので、もっと丁寧に気合い入れて描いてほしかったところです。見やすい絵ではあるものの、「走り」とかの動作が今イチ伝わりにくい。あと、個人的な好みとして、ビーティーの瞳にはハイライトが無い方がクールだなと思います。「ジョジョ」の小ネタもあちこちにありますが、「魔老紳士」に比べればよっぽど控えめ。このくらいでお腹いっぱいっスね(笑)。
現代日本が舞台となっており、ネットやスマホ、動画配信など、今の子ども達にとって身近であろう物が当たり前に出て来ますね。ビーティーもそれらを使いこなし、なぜか天才ハッカーみたいな雰囲気まで醸し出してました。それはそれで良いんだけど、「ビーティー」と言えばやはりマジックやトリック!実際に試してみたくなるような具体的な図解が欲しかったなぁ~。手品らしい手品なんて、最初のスマホのパームくらいしかやってないからなぁ。……ってか、もしかして、実際に試した子がヤバい事になっちゃって責任問題になったりしても面倒だから、ふわっとした感じにごまかして逃げてる……とかじゃないよね??



ストーリーとしましては……、ワルい学生達に絡まれていた公一くんがビーティーに助けられ、それをキッカケに友人に。しかしある日、何者かの放火によって麦刈家は住む家を失う。ビーティーは1人で放火魔を見付け出し、正体を隠したまま然るべき報いを与える。放火魔は捕まり、麦刈家は保険金が下り、家も建て直しが決まってハッピーエンド。こんな流れです。
ビーティーが(多少過激ではあっても)凡庸な「正義のヒーロー」っぽくなってるのが気になっちゃいました。逆に、公一くんは終始助けられっぱなしの「弱者」「被害者」に過ぎなかった。荒木先生が描かれたパイロット版を読めば一目瞭然ですが、「ビーティー」は勧善懲悪のヒーロー物ではなく、あくまでシャーロック・ホームズを基盤とし裏返しにした作品。増して、2人は唯一無二の親友・相棒になるのだから、(連載第1話のように)むしろ最初は公一くんがビーティーを助けようとする形にすべきだったかも。そうすれば、ビーティーにとっての特別な存在となり、「君が困った時には必ずぼくが助けよう」なんて感じで友情を育んでいけるはず。そんで、2人一緒に事件を調査、放火犯を捜して追い詰めていくという展開にすれば、2人の対照的なキャラクターももっと活きたんじゃないでしょうか。

放火魔の「バズりたい」という動機は実に現代的な欲求で、リブートならではのキャラでした。しかし、「ビーティーのトリックで倒される」というシナリオありきで、意味もなくコートを脱がせたのはいただけません。作者の都合でキャラを無理矢理動かすんじゃなく、コートを脱ぎ捨てるための自然な理由を考えてやらないと。まぁ、毒ヘビや火を使って成敗するってのは、なかなか派手でスカッとしました。
つーかね、何よりもこいつ、あまりにポッと出すぎなんですよね。「どちらさん?」ってなるよね。こういう犯人の正体ってのはやっぱ、漫画的に「事前に登場した人物」であってほしいですよ。
例えば……、冒頭で公一くんに絡んできた学生とかさ。まぁ、それだとただクズがクズ行為をしただけの話になって、意外性もギャップも何もないか~。であれば……、絡んできた学生達を追っ払った後、そいつらの学校の生徒会長が現れて、ビーティー達に謝ってくるワケですよ。「ぼくの学校の生徒達が済まない事をした」と。彼は金持ちのぼっちゃんで、文武両道のイケメン。まさしく原作の伊達さんみたいな男です。そーゆーヤツが実は犯人だったというのもお約束ではあるけど、どこの馬の骨とも知れないキャラよりは盛り上がると思います。

そして、「魔少年」である以上、ビーティーの良心罪悪感ゼロ的な「魔」の部分もしっかり見せ付けてほしいところ。さっきの例を使うなら……、放火魔だった生徒会長もその金持ちの親も脅迫し、警察に通報しない代わりに公一くんの家を弁償させて建て直させるんです。で、エピローグにて、ビーティーが公一くんに最新型のハイスペックスマホを手渡す。これも弁償させた物。「ぼくもお揃いだぜ」と、ビーティーも同じスマホを自慢げに見せてくる。「おまけにうちのテレビやパソコンも新しくしたんだ!慰謝料および調査費用として、たんまりふんだくってやったのさ。」と無邪気に笑う。公一くんは、本当に警察に言わなくて良かったのかと不安に思うも、ビーティーは「約束だから警察には言わないでやるが、おばあちゃんには話したよ。うちのおばあちゃんは顔が広いんだ。いろんな友達がいてね。きっとあいつらも『いい友達』になれると思うぜ。」と意味深な言葉。きっと、おとなしく警察に逮捕されといた方がマシってぐらいの目に遭うのだ!ま… 魔少年……!
1ページ目で「魔少年」の存在が都市伝説として語られている設定っぽいのに、結局、それがまったく触れられずに終わっちゃったのももったいない。「ま、まさか……、魔少年って君の事なのかい!?」とでも公一くんに言わせて、後ろ姿のビーティーが無言のままゆっくり振り向き、冷たい笑みを浮かべる。みたいな終わり方でも良かったかもしれません。




―― なんか色々と好き放題に書いちゃいましたけど、要するに、改善・改良の余地は大いにあるって事です。
本来の「ビーティー」らしさをちゃんと残してリメイクするやり方はいくらでもあったんじゃないかな~、と。公一くんに導入部の「語り部」をやってほしかったって気持ちも強いですね。今回は2人にとっての最初の事件だったから仕方ないとしても、あの様式美が大好きなので、もし続編があればぜひ公一くんに語らせてあげてください。
でも結局のところ、今時の子ども達が読んでどういう感想を持つのかによるんでしょうね。これが喜ばれるのなら、きっとこれがリブートとして正解だった事になると思いますし。原作の「ビーティー」が今の時代に受け入れられないとしたら、私が書いたような内容にしちゃうと逆効果って事になりますし。いずれにせよ、こうやってあれこれ考える事自体が私個人としては面白かったです。「ビーティー」の魅力を改めて感じられたので感謝!




(2024年3月7日)




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