TOP  <<#009 戻る #011>>



DO " the HUSTLE "


#010 THE ハッスル その①





●今月のウルジャンの表紙は「ジョジョランズ」!「溶岩」とダイヤを手に持つ、ドラゴナとジョディオの仲良しジョースター兄弟!例の如く、同日発売のコミックス2巻のカバーイラストとの連作となっています。
パッと見、2巻の絵よりもキャラクターをちょっと前面に出してる印象を受けました。背景には景色も描かれてませんしね。2人の体や手の角度により、背景の斜線が『ノーヴェンバー・レイン』の「雨」のようにも、あるいはハワイのまばゆい「日射し」のようにも見えてくるのがイイなぁ。連作でありながら、受け取るイメージはけっこう違うんだよね。甲乙付け難し!
さて、連載スタートから1年も経たずして、カラーイラストはそこそこの枚数になってきました。いつか開催されるであろう次の原画展の頃にはもっともっと増えているでしょうから、もうすでに楽しみであります。早く「ジョジョランズ」の原画も観たいッ!


●今回のトビラ絵は、海岸沿いの岩場に佇むジョディオ&パコ。アオリにもある通り、暗雲が立ち込めており、不吉を予感させます。
しかし!サブタイトルは「THE ハッスル」ですよ!?パコのターン確定ッ!しかも「その①」ですからね。少なくとも、今号と次号のパコの大活躍は保証されているッ!わ、こりゃあ楽しみ!!荒木先生イチ押しのキャラで、スタンドもめっちゃシンプルな能力なんだけど……、正直、他の3人に比べるとまだそこまで目立ってない印象だったので、彼がスポットライトを浴びるのは大歓迎です。


●パコの過去エピソードからスタートするのかなぁ~、と期待しましたが、特にそんな事もなく普通にスタートしました。偽パコにナイフで首を切られてブッ倒れるジョディオ!よく見ると、偽パコの頭が透けるように景色と一体化してるぞ。単なる変身能力じゃなく、その正体はリゾットの『メタリカ』に近いのかも。
偽パコは次に真パコを襲います。にしてもこの武器、ナイフと言うより、デカすぎてもはや両手剣と化してない?(笑) 生身で剣持って戦うヤツなんて、この時代に超珍しい。1部や7部「SBR」の時代ならともかく、2020年代よ?しかし、そんな斬撃を、『THE ハッスル』の「筋肉」で華麗に回避するパコ!食事を運んで来たトレイを腕の「筋肉」にベタッと貼り付け、にしてガードです。剣に対して盾、見事な返し。「筋肉」で挟むどころか、タコの吸盤のように吸着させてるっぽいですよね。タコの吸盤も筋肉ですから、細かく精密な「筋肉」操作によって擬似的な吸盤を作り出したんでしょうか?
そして、元ネタの曲よろしく「DO " the HUSTLE "」と発すると、満身の力を込めたパンチを偽パコの顔面にお見舞い!続けざまに、倒れ込んできたイスを、背中の「筋肉」で掴んで投げ飛ばす!突然の大ゲンカに、お客さん達もビックリです。いや~、さっそくサブタイに相応しい活躍じゃないですか!


●ところが、当のパコ本人は偽パコの「謎」の一端に触れていました。偽パコの顔面の周囲を舞っている、塵のようなモノ。それは、指で触れられる本物の「砂」。色の付いた「岩の破片」。……おおおッ!これはもしかして?8部「ジョジョリオン」好きの私的にはワクワクな予感が胸中をよぎりますね。
起き上がってきた偽パコはすでに変身が解かれ、「飼い主」の素顔らしき姿が見えてきました。アバッキオの黒髪バージョンとでも言うべきか……、でも一見したイメージ、なんとなくミセス・ロビンスンを思い出しちゃった。両目の下には、黒い涙の筋のようなペイント。オーバーオールを着ていて、胸元と両ヒザにはでっかいリボンが付いてます。全体的にパンキッシュだけど可愛らしさもある、少々アンバランスな見た目。ただ、随分焦らしてくれた割に、大物感は微塵もないな(笑)。
「飼い主」はなおもデカナイフを構え、攻撃の意志を示す。パコは「さもなくば バイオレンスしか方策は無いって訳かよ」と、例の名ゼリフの変形を披露しつつ、いよいよ第2ラウンド開始! バイオレンスはパコにとっても最も得意な分野なのです。


●「飼い主」の連続攻撃を難無くかわし、ナイフを自分の左腕と照明ポールの間に挟み込む。そして、左腕の「筋肉」をプルプル振動させ、さらに右腕で左腕を殴ると……、なんと「飼い主」の腕の「筋肉」に異変がッ!メキメキメギョメギョと「筋肉」が搾られ、苦痛の叫びを上げながらナイフを手離してしまいました。
これは即ち、『THE ハッスル』の能力は他者の「筋肉」も操れるという事!恐らく、相手の肉体にただ触れているだけじゃダメで、与えた「物理的衝撃」と共に能力も伝わっていくのでしょう。その「衝撃」の強弱によって、操れる時間や強さも変化しそう。まぁ、あくまで自分の「筋肉」操作がメインであって、他者に対しての操作はそれほど強力でも精密でも長時間でもないと思いますが。でも、能力の新たな側面を知れたのは良かった。まだまだ可能性を秘めてるな。
そのままの勢いで、「飼い主」の首を掴むパコ。しかし、首の感触も砂でザラザラしていて、違和感を覚えるのでした。首を締めようとするも、ここでさらなる違和感。「飼い主」のもう片方の腕とナイフが、空や雲の景色と溶け込んでパコを狙って来たのです!再び顔面を殴り飛ばして回避するも、未知の能力に戦慄。塵の破片が集まって、遠近感を無くすように肉体が景色と同化する。


●パコは倒れているジョディオに呼び掛けます。とっとと起きて、傷にはバンソーコーでも貼ってろと。と言うのも、首を切られるその瞬間、パコはすかさずジョディオをドツイていたのです。その「衝撃」によって、『THE ハッスル』の能力もジョディオへと伝導。首の「筋肉」が硬く盛り上がり、致命傷は避けられたのでした。パコ有能!!
どうにか起き上がるジョディオに、パコは「飼い主」に対する奇妙な違和感を語ります。「こいつ 人間なのか?」と。「皮膚が砂っぽい」と。……これは、来たな。やっぱり来たな。「岩人間」だな、コレ!もちろん嫌いな人もいるんでしょうけど、「岩人間」や「岩生物」の設定、私は大好物なのです。彼らの存在はホントにいろんなものを暗示していて……、この世のもう1つの面というか、裏の世界というか、なんか浪漫がありますよ。「ジョジョリオン」の中だけで終わらせちゃあ、あまりにもったいないって思ってたんで、「ジョジョランズ」でもっと深掘りしてくれるんなら最高です。
そんな緊迫した空気をブチ壊すように、時計店から出て来たドラゴナ&ウサギ先輩のお気楽コンビ。露伴邸からくすねて来たワインを手に、文字通り勝利の美酒を味わっとります(笑)。「飲酒は20歳になってから」と、荒木先生からの注意書きまで添えられとる(笑)。ハワイでは飲酒は21歳かららしいけど、まっ、これは日本の読者に向けてのメッセージですから。時計は無関係の因果関係によって戻って来る。ドヤ顔で解説し、脳天気に大喜びの2人に、パコが怒る。ジョディオも首に貼ったバンソーコーを見せ、敵の襲撃を告げる。
パコの推測によれば、「飼い主」はマフィアやプロの殺し屋なんかではなさそうです。「マフィア」というワードを出してビビらせようとしてるだけで、ナイフの腕前はそこまでではないらしい。えっ、そういう連中を見た事あんの?空白の1年で、ヤバいヤツらと関わってたりするのかもね。とは言え……、「飼い主」のスタンド能力の脅威と、存在そのものへの違和感は拭えない。


●その時、時計店からカップルが出て来ました。水着姿の彼女の手首には、ついさっきドラゴナが騒動を起こしたばかりの例の腕時計が。彼氏に買ってもらったようです。ドラゴナは焦りまくってますが、ウサギ先輩はさすがにクレバー。人の欲望や想い、無関係の因果関係を介して、早くも時計が店外に移動して来たってワケです。「溶岩」の元に戻って来る真っ最中なのです。すっかりゴキゲンになるドラゴナが可愛い。
……っつーか、それよりも気になるのが彼氏の方なんだよなぁ。彼女は「レオ君」って呼んでるけど、あのヘアースタイルはまさしく東方 常秀!肌もすっかり黒く焼けて、モミアゲやヒゲもたくわえ、メガネも掛けて、「等価交換」で失われた右腕も戻っているけれど……、あの髪型とノリはどう見たって常秀じゃね!?常秀じゃないなら、あんなにそっくりに描く必要ないよね?いや、深読みのしすぎで赤の他人の別人って線もあり得るけど、常秀だったら嬉しい!「岩人間」と常秀、一気に「ジョジョリオン」との繋がりが濃厚になってきたって事になるじゃん。
広い場所では不利だからと、車の狭い密室に避難しようとする4人。すると、さっきの彼女が時計を外し、常秀クリソツの「レオ君」に日焼け止めクリームを塗らせ始めました。使用済みの汚い紙ナプキンの上に高級時計を置くもんだから、ドラゴナは一気に不機嫌に。ちなみにここ、腕時計を「8万ドル」と言ってますが、正しくは「10万ドル」ですね。


●カップルの席周辺には、地面に落ちた食べカスを狙って野鳥が集まってきました。野鳥はテーブル上の食べカスもついばみ、なんと腕時計までも掴む!そして、そのままドラゴナの元へと飛んで運んで来る!早くも戻って来た腕時計に、またゴキゲンになるドラゴナ。気分の浮き沈みが激しいな(笑)。
その時ッ!ジョディオとパコが気付きます。カップルの彼女の手首には、まだ腕時計が付けられている事に。これは、「飼い主」の策略でした。色の付いた塵を使って、ありもしない偽の風景を自らの肉体に描き続け、ドラゴナをおびき寄せ油断を誘ったのですッ!アニメーターになれそうな才能だわ。でも、なるほど!いくら周囲の景色と同化できると言っても、透明化とは違うから、こうやって実際とは異なる景色を見せて騙す事も可能なのか。ひたすら身を隠す事に使われた『メタリカ』とは一線を画す使用法ッ!しかもこれは、「溶岩」の特性とドラゴナの性格を把握してなきゃ出来ません。やはり凄まじい観察眼。
ヤツが「岩人間」と仮定すると……、自身の体表を覆う「硬質膜」の「色」を自由に変えられる能力、ってトコでしょうかね。「色」の変化によって、景色と一体化したり、他人に変身したり、遠近感を狂わせたり、異なる景色を作り出したり出来る。とにかく「騙す」事に特化した能力。非常に「岩人間」らしい能力だな、と。


●まんまと騙されちゃったドラゴナ。「溶岩」を奪われた上に、首をナイフで刺し貫かれてしまった!血を吐いて倒れる!ジョディオは首の傷を押さえるも、血はどんどん噴き出してくる!これはヤバくね?えっ、マジで死んじゃう!?
このままヤツを逃がすワケにはいきません。すぐさま、ジョディオは『ノーヴェンバー・レイン』を発動ッ!「雨」はギリギリで、逃げる途中の「飼い主」の足を捕らえました!大切な兄を傷付けた怨敵、睨み付けるジョディオの眼光が鋭い。一方、ドラゴナもやられてるだけじゃない。『スムース・オペレイターズ』傷をスライドさせるつもりです。おおっ、良かった。前から予想はされていたけど、本当にそういう応用も可能なんですね。死んじゃうかもと思って慌てましたが、逆に今後は回復役として重宝されそうで一安心。
この一連のシーン、展開の意外性と空気の緩急がスゴくて、緊迫感とスピード感をメチャクチャ味わえました。これぞ「ジョジョ」の真骨頂よなぁ。


★今月は49ページ!いつもよりちょっと多めのページ数だった事もあり、気になる部分も多く、読み応えがあって面白かった!未知の能力を使った奇妙な描写は、やっぱり視覚的に楽しめて良いですね。荒木先生の方も絶対楽しんで描いてるな、っていうのが伝わってきます。あとは、敵側のキャラクター性をどう描くのかに注目です。「飼い主」がもし「岩人間」だとすると、「ジョジョリオン」と同じ描かれ方か、異なるアプローチで表現されるのか?人間とは根本で理解し合えない存在であるが故に、漫画的面白さを重視して人間臭さを出し過ぎてもいけないし、かと言って、あまりに人間とかけ離れすぎてても意味不明になっちゃう。なかなか難しい設定なんですよ。
作者コメントは「大阪京都旅行して来ました。『咄々々(とつとつとつ)』という昔の書に出会いました。意味は「ゴゴゴ」みたいな擬音らしい。」との事。旅行を満喫されたようで何よりです。毎月のコメント見てても思うけど、先生ってばホントにアクティブで尊敬するなぁ~。その書、どんな事が書かれてあるんだろ?こういう様々な出逢いの1つ1つが、たとえ何かに直接的に書かれずとも、先生ご自身や描かれる作品により深みを与えてくれるんだろうなと思います。





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 1月号(2024年)
214・215ページ


今月は、風景に溶け込んでドラゴナを狙う「飼い主」。時が止まったかのような、切り抜いたかのような、決定的な一瞬を描いた1コマです。
これはもう、分かりやすく芸術でしょ。「飼い主」の体に描かれた、現実に即した風景と異なる風景。すぐ目の前の物体に描かれた、遠くの風景。肉体をキャンパスにした美術作品です。そして、自分の欲望に惑わされ、のんきに盲目的に腕時計だけを追い求めるドラゴナと……、すぐ脇でそんなドラゴナの命を奪わんとする「飼い主」のナイフ。この平和と殺意、希望と絶望の隣り合わせが表現されているのも、実に「ジョジョ」的!心理的盲点を突くビューティフル&ビザールな絵でございました。

2023/12/24 追記
これの下に書いた追記とは時間が前後しちゃいますが……、12/24放送「日曜美術館」に荒木先生が出演され、「キュビスム」について語られていました。その中で、ちょうどこの1コマが紹介されたのでビックリ。
なるほどね~。これもまた「キュビスム」の流れを組んだ絵だったのか。9部ではあってもキューブではないから「キュビスム」とは直接結び付かなかったけど、様々な要素の多視点的分解・再構築からの融合という意味では確かにそうなのかも。この絵も、本来は決して重なり合って見えないはずの「人物」と「鳥」と「雲」と「建物」の全てを一緒に描く溶け合わせるという発想自体がもはや、「キュビスム」の思想と言えるって事なのね。勉強になりました!
逆に言えば、「飼い主」はそういう多視点的・多面的な物の捉え方をする人物で、スタンド能力も「キュビスム」的な分解・再構築が原理になっている可能性もありますね。こいつは考察・妄想の良い材料になってくれそうです(笑)。




(ちょっとだけ追記)
●私の中で物議を醸した「レオ君」ですが……、あれは名前も見た目もまるっきり、画家のレオナール・フジタ氏をモチーフにしてるんですね。言われてみれば、完全にあからさまなレベルなので納得する以外にない。
しかし、じゃあなんでレオナール・フジタなのか?という事ですよ。思うに、TV番組「日曜美術館」の司会を務める小野正嗣氏にちなんでるんじゃないかなぁ。荒木先生は過去に何度か「日曜美術館」に出演されてますし、12/24放送回にも出られる事が分かっています。そのお礼や宣伝の意味も込め、小野氏はレオナール・フジタを意識した髪型やメガネをされているって事で、先生は2人をリスペクトしたキャラ「レオ君」を登場させたのかもしれません。
だとすると、「常秀」「常秀」騒いでた自分が恥ずかしくなってしまうところですが、まだ確定したワケじゃありません!一縷の望みを賭けて、レオ君=常秀説を主張していきたいと思います!(笑)




(2023年12月19日)
(2023年12月20日:ちょっとだけ追記)
(2023年12月24日:「今月の1コマ」に追記)




TOP  <<#009 戻る #011>>

inserted by FC2 system