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調べるのは「血統」だ
「ジョースター」と「吉良」……
オレは何者なんだ?


#011 『SBRレース全記録』の秘密





●今月は表紙巻頭カラー!超美麗イラストが堪能できます。表紙イラストは、東方家をバックに、階段でポーズを決める定助達。無数の「しゃぼん玉」が舞う中で、花柄セーラー服に身を包んだ定助がカッコイイ。その後ろでは、康穂と大弥ちゃんが向かい合っています。2人とも無表情ですが、定助を巡って静かに火花を散らしているのでしょうか?(笑)
カラー扉絵はと言うと、なんと表紙イラストとほぼ同じ絵ッ!無論、コピーなんかじゃありません。今度は康穂と大弥ちゃんの方にスポットライトが当たっています。彼女達が前面に描かれ、定助は奥に引っ込みました。花柄も、康穂の服の方に移動。こういった手法は今までになくて、面白い試みだと思います。ウルジャン読者だけが楽しめる贅沢ですな。色合いも、ピンクとイエローがメインで春らしい。寒色系の定助達と引き立て合うカラーリングです。


●さて、本編。前回ラストから一転、東方家の平和な朝が描かれます。定助の部屋(元・常秀の部屋)の風景。ベッドの上にはセーラー服が無造作に脱ぎ捨てられ、何故かイスまで乗っかっています。マットレスの下を見れば、わずかにはみ出た帽子。……そうです。定助が絶賛圧迫中なのです。寝てても帽子を外さないのはさすが。目が覚めた定助は、マットレスから出て来るついでに、セーラー服にお着替え。ものぐさな野郎です。
寝ボケまなこで部屋を出ると、朝ご飯を作る虹村さんの姿。すると、今度は大弥ちゃんも登場。彼女とはすっかり馴染んだようで、自然体で朝の挨拶。そこへ親父さんも現れ、2人の様子を窺います。てっきり大弥ちゃんが定助を手懐けているものと思いきや、なんか違うっぽい?むしろ定助はちょっとそっけなく、大弥ちゃんはベソかいてる始末(笑)。


●洗面所では、鳩さん常秀の姿が。鳩さんは今日、仙台とも縁深い荒川静香さんとアイススケートをする仕事があるらしく、メイクにも余念がありません。一方、常秀もヒゲ剃り中。相変わらず、2人してしょーもない言い合いをしてます。そんなところに、定助もフラッと登場。ヒゲを剃る常秀を見て、自分のヒゲも伸びてきている事に気付きます。すると常秀、カミソリとクリームを定助に貸してあげるのでした。意外と優しいな。
しかし、定助は危なっかしい手付き。刃を圧迫しすぎて血まで出てます。どこまで圧迫マニアなのか。これに慌てて、定助を注意する鳩さん。でも、常秀はそんな鳩さんを止め、様子見に徹します。やっぱ意地悪でした。結果的には、変な動きしてたクセに、定助は見事にヒゲ剃り成功。スベスベになって、御満悦で洗面所を出て行きます。そして、残った鳩さんと常秀に異変がッ!なんと、2人の顔にヒゲが生えてきたのです。しかも、そのヒゲによって顔に落書きされたみたいになってます。常秀のマユゲが繋がり、ほっぺにはグルグルうずまき。鳩さんに至っては、額に「肉」マーク!
このたわけた出来事は、『ソフト&ウェット』の能力によるもの。シェービングクリームの泡に混じって、『ソフト&ウェット』の「しゃぼん玉」も無数に舞っています。まさしく、今月の表紙イラストやカラー扉絵のよう。こんなに「しゃぼん玉」が飛んでたら奪われまくりだな〜、なんて思ってたら、まさか本編でこんな状況になっちゃうとは。同時に2つどころか、いくつもの「しゃぼん玉」が出せる事が明確になりました。実物の「泡」と交じり合わせる事で、「しゃぼん玉」を大量に増やせるのかもしれません。んで……、多分これは、定助が剃ったヒゲを「しゃぼん玉」に閉じ込め、常秀達の顔に解き放ったという事なんでしょう。「奪う」能力というのは、もはや正確な表現じゃなくなってきてるな。「与える」事まで出来てるし。せめて、「しゃぼん玉」はいっぱい出せるけど、一度にいろんなものは奪えない……とか、そういう制約はあってほしいもんです。
それにしても、なんで定助はこんなイタズラしたんでしょうかねえ?2人ともけっこう親切に接してくれてたのに。ただのギャグ描写なんでしょうけど、ちょっと気になりました。未だ得体も底も知れない東方家。こうやって自ら仕掛けて、さりげに反応を見てたりしてるのか?つーか、そもそも「キン肉マン」とか知ってんのかな?


●リビングで朝ご飯を食べる定助。大弥ちゃんが定助の焼き魚に醤油をかけてあげたりと世話を焼いてます。そんな姿を、新聞読むフリして見つめる親父さん。「手懐けてるっていうか、これって逆じゃね?」と焦ってます。真剣な顔付きで緊迫した空気を放ってるだけに、かえって笑えました。「ジョジョリオン」はエロもギャグも満載ですね。
ちなみに、親父さんの読んでる(フリしてた)新聞を見ると、「2011年」の文字が。古新聞を読むのが親父さんの趣味じゃない限りは、「ジョジョリオン」の舞台はやはり2011年のようです。まだ明言こそされていませんが、作中の「大震災」とは「東日本大震災」でファイナル・アンサーですな。


●場面は一変し、前回ラストの続きへ!作中での昨日の出来事。親父さんの書斎に侵入した定助と大弥ちゃん。初代・憲助さんが書き遺した「スティール・ボール・ラン・レース全記録」なる本を紐解きます。大弥ちゃん曰く、東方家の跡取りは代々「憲助」の名を襲名するとの事。親父さんはご存知、4代目「憲助」。「ジョジョリオン」では、「名前」が1つのキーワードになりそう。
当然のように、本には「SBR」レースについて事細かに記されていました。作中世界では120年以上も昔とは言え、つい1年前まで連載していた「SBR」。大して懐かしむようなものでもないはずなのに、無性に感慨深いな〜……。
でも、レースそのものの事とか「遺体」だとか、そーゆーのは一切関係なかった模様。巻末に東方家の家系図が載っており、それこそが謎を解く鍵だったのです!その鍵はひとまず置いといて、他に気になった点をいくつか。初代・憲助さん、1846年生まれと書いていますが、それだと1890年の時点で44歳という事に。「SBR」では68歳と書いてたのに。まあ、荒木作品ではいつもの事ですけどね。この本を出版するにあたり、ちょっとカッコつけてサバ読んだという事にでもしときます?あと、親父さんの本名は「常助」。康穂ってば、飼い犬に幼馴染みのお父さんと同じ名前を付けてたのか……。そんで、奥さんは「花都(かあと)」という名前らしい。トランプにちなんだ名前って事で、「カード」か。ついでに、つるぎちゃんは2歳のはずなのに、2002年生まれになってますね(汗)。親父さんの書き間違い……って事にしときます。


●いよいよ本題です。1890年当時、初代・憲助さんには若い娘さんがおり、その名は「理那(りな)」。なんとこのお嬢さんこそ、ジョニィのお嫁さんとなった女性だったのです!「理那」=「エリナ」って事ですね。「SBR」最終話で、ジョニィと同じ船に乗ってた女性かなあ?マジで結婚したのか〜。そして、その後のジョースター家の家系図までキッチリ載っていました!
ジョニィは1892年に結婚し、1男1女に恵まれたようです。息子の名はジョージ・ジョースター。ジョニィの父親の名もジョージであるようで、父と同じ名を付けるからには、完全に和解も出来たっぽいですな。ただ、母親の名はメアリーではなく、アンでした。そして、息子:ジョージの妻の名はエリザベス。ジョージとエリザベスには4人の子どもが生まれ、そのうちの1人がジョセフ・ジョースター。ジョセフはスージーQという女性と結婚。娘のホリーが生まれました。……う〜む、なんとも凄まじいな。歴史の重みを想像すると圧倒されます。新世界のジョースター家は旧世界より子沢山で、今までけっこう平和に暮らせてきたみたいですね。
しかし、本当の衝撃はここからです。ホリーは日本人男性と結婚しているのですが、その男の名は「吉良 吉輝(きら よしてる)」なのですッ!そして、この2人の息子こそ「吉良 吉影」ッ!そう、なんと東方家とジョースター家と吉良家は繋がっていたのです!旧世界での承太郎に位置する男が、まさか吉良だったなんて。予想外すぎるぜ。承太郎にあたる存在やアイリンなんかは、ジョースターの分家筋になっているのかも?


●定助は家系図を写メで撮り、さらに彼らの名前をネットで検索。大弥ちゃんから奪ったケータイ、さっそく大活躍です。大弥ちゃんは自分の家系について何も知らないようですが、恐らく吉良はこの事を調べていたはず。だから、例のマークが吉良の手首にも刻まれていた。吉良は生前、何を求め、何をしていたのか!?
そして、定助が次に向かう先は……?ホリーの名を検索したところ、うまいことヒット!彼女は今も生きており、眼科医であった様子。吉良が船医なのも、親が医者だったからなんですね。吉輝さんも医者だったりするのかな?そんなホリーさん、現在はTG大(=東北学院大学?)の教授をやっているとの事。吉良には身寄りがないという話だったのに、生きて存在している吉良の母親。同時に、彼女はジョニィの子孫でもあるのです。こりゃ超重要人物ですね。ホリーさんに会えば、きっと何かが分かる!定助は自分の正体を知るため、ジョースターと吉良の血統を調べ始めるのでした!
ホリーさんはどんな女性なのでしょうかね?ホリィさんみたいな明るくおっとりした性格……とはならなそうですよねえ。息子や吉良家とも縁を切ってしまっているかもしれんし、ドライでクールな感じだったり?


★今月は33ページ!ページは少ないものの、急展開を見せた物語は最高でした。謎が深まりながらも、徐々に真相に近付いているって雰囲気がゾクゾクきます。でも、吉良がジョースターの血統であるならば、定助は一体、何者なのでしょうか?いや……、吉良と「誰か」が合体(?)した存在が「定助」だとすれば、その「誰か」とは誰だったのでしょうか?実はディエゴの血を継ぐ人間だったとか、あるいはスティール夫妻の子孫だったとか?それとも、枝分かれしたジョースター家の末裔とか?……また、吉良の死体にも「星のアザ」があったのかも気掛かり。金玉と一緒に「星のアザ」も移動したのかな?まだまだ謎がいっぱいで、まだまだ楽しめそうです。
作者コメントは「皆既日食用に太陽を見るメガネを買った。晴天を願う!」との事。どうやら今年の5月21日に皆既日食が見られるそうです。しかも、かなりレアな金環日食。荒木先生が皆既日食を見る事で、新たなアイディアが生まれるかもしれません。私の住む地域では見られないっぽいですが、晴天を願います。
あと、付録には「ジョジョリオン」のブックカバーも!お揃いのポーズをした定助と康穂のラフ画が使用されており、ディ・モールト素晴らしい出来栄えです。永久保存確定ッ!



(ちょっと追記)
●あの謎のマークは何だったのか?結果的には、あれは出版社のマークであり、初代・憲助さんが記した『スティール・ボール・ラン・レース全記録』なる本に刻まれたマークでした。では、吉良の死体の手首にも描かれていたのは何故なのか?何かしら、特別な力が宿っているのか?……結論から言えば、マークそれ自体には何ら変わった力はありません。単なるマークです。吉良は、定助にマークを見付けてほしいから、自分の手首にもマークを描いただけなのです。
いや、マークだけではありません。定助が裸で地面に埋まっていたのに帽子だけはかぶっていたのも、帽子屋「SBR」に氏名と住所が書かれた注文書が残されていたのも、すべては吉良の思惑なのです。定助は、それらを手掛かりに吉良の足跡を辿りました。自分自身の意思で行動していると思っている定助ですが、実際は選択の余地なく、まんまと吉良の狙い通りに動かされているに過ぎません。
吉良は、やがて定助が自分の死体をも発見してくれる事を予見し、自分の手首にマークを刻みます。そうすれば定助は、次にそのマークを手掛かりに行動し始めるに違いない。それを知らぬ東方家に引き取られるであろう定助は、最終的に『スティール・ボール・ラン・レース全記録』に辿り着けるはず。そして、東方家とジョースター家、吉良家の家系図に辿り着くはず。すると、必然的にホリーさんと出会う事になるでしょう。マークはそのための道標なのです。それ以上でもそれ以下でもない。つまり吉良は、定助とホリーさんを会わせたいと思っていたという事。吉良にとって都合の良い「何か」が、定助とホリーさんの出会いによって起こる(あるいは、起こり始める)という事。
記憶が戻らぬ定助を、自分達の奴隷として利用したいと思っているっぽい親父さんが、あれほど隠したがっていた家系図です。逆に考えれば、定助が家系図に辿り着けば、奴隷にも出来なくなるし、記憶も戻ってしまう危険があるって事になります。定助とホリーさんが出会う事で、定助の記憶が蘇る?定助は吉良とほぼ同一の遺伝子を持ち、吉良の物らしきキンタマもぶら下げている男。となると、蘇るのは定助の記憶ではなく、むしろ吉良の記憶である可能性が高そう。吉良が自身の復活のため、あらかじめ定助のシナリオを書いていたのだとしたら、実にシンプルで分かりやすい動機です。

ジョースター家と東方家、そして吉良家の関係は?それぞれの人物の目的は?……そこら辺については、また改めて考えてみます。



(もっと追記)
――というワケで、考えてみました。以下、ザ・ニュー予想&妄想となります。


●まず、東方家はかつて、その地域一帯で一目置かれる占いの一族でした。いろんな物事について、占いによって進むべき道を決定してきたんです。当然のように、一族が結婚する相手も占いで決めていました。ところが、その占いを無視して、まったく違うところに嫁いでしまった者がいたのです。それが理那さん。彼女はなんと、ジョースター家という異国アメリカの家に嫁いでいったのです。彼女の結婚を巡り、東方家は揉めに揉めました。
もともと東方家には、考え方の異なる2つの派閥がありました。閉鎖的・保守的な考えの派閥と、開放的・革新的な考えの派閥です。初代・憲助さんは後者。「明治」という新たな時代が幕を開けた今、東方家にも新しい生き方があるはずだと考えていたのです。それを証明するように、彼は遠い異国の地へ渡り、「SBR」レースに出場!見事、2位の栄光を手にしました。そして、外国のフルーツを輸入する商売を始め、ついには娘が外国に嫁ぐ事も許しました。そんな憲助さんと理那さんの行動が、保守派の逆鱗に触れてしまったというワケです。
結果として、東方家は2つに分裂する事になりました。憲助さんには兄がおり、その兄は保守派の筆頭。一方、憲助さんも革新派の筆頭。兄弟は、完全に別の道を歩む事になったのです。憲助さんの営む「東方ふるうつ屋」は大繁盛し、革新派は大いに栄えました。しかし、古い因習や占いを重んじる保守派は、時代の流れに取り残され、衰退していくのでした。落ちぶれた保守派は、やがて「東方」の名すら失います。彼らの一族は2011年現在、「吉良」という名に変わってしまっているのです。
(ちなみに、吉良が切った爪を集めていたのも、占いの1つ。4部の吉良みたいに、爪の伸びる長さで占っていたのかもしれません。東方家の女性達の名が「トランプ」にちなんでいるのも、占いの家系であった事を暗に示しているのかも?)
吉良家の人間は、東方家の人間を恨んでいます。本来ならば東方家の繁栄や名声は、すべて自分達のものだったはず。憲助さえいなければ。……そう思い、憎悪しているのです。しかも、これ見よがしに東方家は、憎き「憲助」の名を子孫に受け継がせている始末。祖先からの恨みを、何とかして晴らしたい。穢れた「東方家」を、自分達の手で正しい姿に戻したい。そうしなければならない宿命が吉良家にはある。そんな歪んだ目的のために、吉良吉輝はホリーさんに近付きました。理那さんの血を継ぐホリーさんを孕ませ、より東方の血が濃い吉影が生まれます。そして吉影は、東方家の女を孕ませ、分かれてしまった東方の血を1つに戻そうとしていたのです。すべては、東方家を取り戻すため。


●では、桜二郎との戦いの最中、定助の記憶の中に過ぎった謎の男の正体は?この「男」こそ、最大のキーマン。なんと彼は、明治の頃から今までずっと生き続けている人間なのです。彼の家系はかつて、杜王町のある地域の名士で、霊的なパワーが強い家柄と言われていました。「壁の目」の正体や使用法などについて、ある程度の知識が祖先から受け継がれているのです。即ち、「壁の目」の管理者・守護者とでもいうような一族。そもそも「壁の目」とは、を操作できる巨大機関であり、転生を行なうための装置でもあるのです。詳しい事は謎ですが、いつの頃からか、杜王町の地下深くにはそんな霊的超自然的装置が存在していたのです。
この「男」、実は東方家の占いが示した理那さんの結婚相手。理那さんは、本来ならばジョニィではなく、彼と結婚するはずだったワケです。優しく気高く美しい理那さんにゾッコンLOVEだった彼は、彼女の結婚を機に歪んでいきました。そして、ある邪悪な計画を立てるのでした。一族に伝わる「壁の目」を利用し、愛しの理那さんと結ばれるという一大プロジェクト。理那さんが他の男と結婚してしまったのなら、新しい理那さんを作って結婚すれば良い。「壁の目」があれば、きっとそれが出来る。こうして彼は、「壁の目」の研究に没頭し始め、ついには禁忌である「転生」を自らに施したのです。これは他人の肉体に、自分の遺伝情報記憶を継承させるというもの。実質的に、自分が生まれ変わるも同然。
やがて彼は、1つの答えを導き出します。……「壁の目」は埋まっている状態では、その力をフルに発揮できない。月の光を浴びるほどに、力を増していく。隆起させる方法は知っており、いつでも実行できるものの、さすがに目立ちすぎてしまう。そこで彼は、偶然に起きた大震災でカモフラージュし、「壁の目」を地表へ露出させたのでした。人々は大地震による断層の隆起として納得するはず。こうして、運良く最初の問題をクリアしたのです。「壁の目」は満月の光を浴びている時、その力が最大となり、なんと死者の魂すらも操る事が出来る。すでに天に召された理那さんの魂を、この世に呼び寄せる事も容易い。彼女の魂の器となる肉体は、東方家で作るだけ。分かれてしまった東方の血を1つに戻せば、理那さんにふさわしい肉体を持つ子が生まれるに違いない。吉良と利害は一致します。
さらに、4代目・憲助さんこと親父さんの目的は、死んでしまった愛妻・花都さんを蘇らせること。「男」にとっては、理那さんの復活は最重要事項であり、確実かつ安全に遂行しなければならないことです。それをいきなりぶっつけ本番でやれるはずもなし。要するに、花都さんを実験台にしようという魂胆なのです。予行練習の材料としては最適。親父さんに話を持ち掛けると、案の定、飛び付いてきたのでした。このように、親父さんとも利害が一致。
もっとも、「男」も自分の過去や目的をすべて教えはしません。目的達成に必要な情報のみを、真偽問わず与えるのみ。協力しているかに見せ、吉良も親父さんも利用しているだけなのです。


●「壁の目」による「転生」には、あるルールがあります。転生先の肉体が、自分の血筋の者でなければいけないのです。同じ血統だからこそよく馴染み、スムーズに生まれ変われるのです。もし赤の他人(あるいは、遠すぎる血縁)の肉体に「転生」してしまうと、「転生」は中途半端なまま中断してしまう。魂は新たな肉体に入れても、記憶は正しく伝達されず、遺伝情報も完全には書き換えられません。それがまさに、今の「定助」の状態。「転生」を完了させるには、同じ血統の人間と接触するか、強い執着を持っていた事を行なうかする必要があります。そうすれば、魂や肉体が刺激を受け反応し、眠っている記憶も呼び起こされるのです。
吉良は何故、わざわざ記憶を失うリスクを犯してまで、赤の他人に「転生」したのか?答えは単純。東方家の人間に、すでに自分が知られているからです。吉良家は、自分達のルーツや憎悪の感情を隠しつつも、とりあえず表面上は東方家と穏やかな関係を保っていました。だからこそ1989年時点で、親父さんが『スティール・ボール・ラン・レース全記録』や家系図を改訂する事も出来たワケです。もちろん吉良自身、東方家を何度か訪れた事があります。そんな吉良が堂々と、東方の女性を妊娠させ、東方家の正統な跡取りを産ませるなど困難でしょう。赤の他人として出会い、結婚し、東方家を奪い返すのが最良。そうして吉良は、「定助」という新しい人間になり、東方家に潜り込んだのです。自分の記憶を蘇らせ、「転生」を完了させるための道標をあちこちに残しながら。
吉良と親父さんの両者を、自分に都合良く利用したいと思っている「男」。吉良に対しては、1つの不安要素がありました。それは、吉良がナルシストであるという事。自分の美しい手にだけ興奮するという異常性欲の持ち主で、普通の女性経験はなかったのです。そんな彼が真っ当に子作りなんか出来るのか?いっそ子どもが出来るまで記憶喪失でいてもらった方が良いのでは?そこで、親父さんを使ったのです。「壁の目」による「転生」について教えた後、吉良が「憲助」の名を継ぐあなたを殺そうとしているとかウソを言い、吉良の記憶が戻らないよう監視するように命じました。吉良の状態を監視・報告してもらえれば、「転生」の研究に繋がり、花都さんの復活もより確実になる。そんな事を言えば、親父さんも喜んで協力するでしょう。同時に、「定助」が東方家の女と関わる事の危険性から、親父さんの目を逸らす事も出来ると。むしろ、「定助」を捕えて奴隷にするためなら、愛娘と肉体関係を持つ事さえ良しとしているくらいです。


――こんな感じで、主要人物の目的・動機を血統のみならず、恋愛や性にも絡めて考えてみました。それならば、エロもドロドロも「呪い」も描けるのではないかな、と。
そして、改めて「壁の目」についても予想してみました。やっぱし杜王町の隠された歴史に繋がる、魂や生死にも関わる、超重要スポットになると思います。はるかな昔、杜王町のある地域に巨大な壁が現れ、そこでは死者が蘇り、魑魅魍魎が跋扈していた……なんて伝承があったりするんですよ。で、「杜王(もりおう)」の語源は「魍魎(もうりょう)」である事は言うまでもない……とかって民明書房の本に書かれてたりするんですよ(笑)。以上、予想&妄想でした。




(2012年4月18日)
(2012年4月27日:ちょっと追記)
(2012年5月5日:もっと追記)




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