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ようこそ………
『男の世界』へ……………


#11 大草原の小さな墓標B





リンゴォさんの過去が明らかに。一介の敵キャラであるにも関わらず、こんなに丁寧に過去が描かれるとは。この作品のテーマを追求するに当たって、ジャイロの生長を描くに当たって、いかに彼の存在が不可欠なものであるのかが分かります。
そんなリンゴォは生まれつき皮膚が弱く、幼い頃に父を亡くし、あちこちを転々とする厳しい人生を歩んでいたようです。その上、10歳の時に軍隊出身の大男(まさに荒木的ゲス顔!)に家族を惨殺され、自分も強姦・殺害されそうになりました。コイツといい、ディエゴの母さんに関係を迫った男といい、ウルジャン移籍後はそれまでよりも幾分、性的な描写が生々しくなってきている気がします。それでも露骨な直接的描写はないあたり、先生なりのルールやこだわりがありそう。エロやグロを描くのが目的ではないですしね。
そしてリンゴォは結果的に、男と公正なる決闘を交える事に。ここで彼に「漆黒の殺意」が芽生えたのです。男を射殺すると、彼は生きる力に満ち満ちていました。あどけなく弱々しかった瞳には光が差し、皮膚の異常も何故か消え失せます。皮肉な話ですが、きっとリンゴォが生まれて初めて命を燃やせた瞬間だったのでしょう。劇的に生まれ変わったリンゴォは、この出来事をキッカケに「果し合い」の必要性を悟り、「男」としての生き方を強く求めるようになったのです。彼の背中が実にダンディーで、男の哀愁を帯びていてカッコイイ。


●ジョニィを救出すべく小屋へ突入しようとするジャイロに、父・グレゴリオの幻影が語り掛けます。恐らくこれは、ジャイロ本人すら意識していない、内心での葛藤の表れなんでしょう。父や先祖・祖国から教えられて染み付いた思考と、ジャイロ自身の心から湧き上がる想いの葛藤。
しかしジャイロは、父の言葉を否定します。同時にリンゴォの言葉をも。自分は「感傷」でも「対応」でもなく、ただ「納得」を優先しているだけ。「納得」とは、心の迷い・不安・わだかまりを消し去る事に繋がります。そして、それは自信と誇りを生み出します。それがなければ、自分はどこへも向かえない。生きている意味さえ見出せない。だからこそ、自分の魂の声に従う。「納得」を得るために生きるという、ジャイロのシンプルなスタイルは決して揺らぎません。
その後のリンゴォとの決闘にて、なおも「対応者」と評される彼ですが、「決めるのはおまえじゃあねぇーッ」と力強く言い切ります。「納得」とは自分自身の心が決めるものであって、他人に何を言われようと思われようと関係ないのです。ジャイロもリンゴォも、どこまでも自分を貫こうとしています。2人が「納得」とか「決闘」にこだわるのも、内なる不安を取り除くためであり、他ならぬ「自分」として生きるため。ある意味で、2人の生き様は似ているのかもしれません。


●ジャイロの凄みゆえなのか、唐突に登場したターボ君(右半分)。別に何をするでもなく、単なる鉄球スキャンの象徴としてですが。一度出て来た守護精霊はもう現れないと思ってたけど、これならチュミーちゃんの再登場もあるか……?
それと、リンゴォは完璧にジャイロなど眼中に無し。大統領の命令だとしても見逃してやるくらい、まったく興味のない相手になっとります。ジャイロが「右眼」を持ってるって事も知らないんだろうし。とすると、ジョニィを生かしておいたのは偶然か、確実に「遺体」を回収してから殺すため?


●ジャイロとリンゴォの最後の決闘。絵も内容も本当に凄まじかったです。間違いなく今までの「SBR」の中でベストバウト!互いの全能力・全精神力・全生命力を懸けての、超迫力の激闘でした。これを見て燃えない男がいるだろうか?いや、いねえッ!
ジャイロも公正にリンゴォの左鎖骨の古傷の事を教えます。まだ体が弱かった幼い頃の傷?あるいは、かつての決闘で負った傷でしょうか?そこに鉄球をブチ込めば、その衝撃で左半身が麻痺。この弱点によって、お互いに一撃必殺の勝負となりました。間近で対峙し、睨み合う2人……。ピンと張り詰めた冷たい空気が、こちらにも流れ込んで来るかのようです。一瞬の撃ち合いで、ジャイロは恐らく即死・リンゴォも心臓停止。相打ちかッ!?しかしリンゴォ、発射した弾丸で時間を戻します。このとっさの機転には感心しきり。
続く第2ラウンドでは、リンゴォが防御に出ました。ところが、ジャイロはそれを先読み。崩れ落ちる小屋の木の破片を鉄球で打ち込んでいたのです。しかも防御の動きのせいで、リンゴォの弾丸は僅かにそれていた。かと言って、防御しなくては永遠に相打ちの繰り返し。相手の能力や環境すら利用する「ジョジョ」的バトルの王道!文句無くジャイロの勝利ですッ!


●すでに決着は付いたかに見えたが、リンゴォはまだ銃を手放しはしません。ジャイロは「オレはもう納得したよ。だからもういいよ。」と、あえて彼を殺す気はない様子。しかし、リンゴォはそんなジャイロを再び「対応者」と呼び、語り始めました。
「社会的な価値観」「男の価値」。その2つは今はもう一致していないが、「真の勝利」を手にするためには「男の価値」が必要。これからのレースや戦いの中でそれを確認すれば、自分が進むべき「光輝く道」を見付ける事が出来るはず。そう言うとリンゴォはジャイロに銃を向け、ジャイロはすかさずリンゴォにとどめを刺します。敵味方・善悪を超えた部分で繋がった男同士の別れの挨拶無言の礼儀って感じ。すげーシビれました。「男」を語るに、無粋な言葉はいらぬ。
そして、リンゴォの最期の言葉。「ようこそ……… 『男の世界』へ……………」。もうね、美しすぎ。ジャイロを「男」として認め、祝福し歓迎して死んでいく気高さと穏やかさ。敵ではあっても邪悪ではない「男」でした。まだ心に甘さのあるジャイロに最後の一線を超えさせる事で、後戻りできない過酷な世界へと踏み入れさせたのだと思います。「真の勝利」を掴める男になるための通過儀礼なのかもしれません。
己の野望を勝ち取るには、綺麗事など一切通用しない。時には法や規律・道徳をも破り、現代の社会的価値観での「悪」になる覚悟さえ必要とされる。ただし、ドス黒く汚れた邪悪ではなく、「漆黒の意志」を持つ気高き悪。世間や時代に認められなくとも、誰にも理解されず蔑まれようとも、正しいと信じるものに命を懸けられる強き悪孤高の領域。それが「男」の条件であり、勝者の条件。今回のエピソードで描かれたのは、こんなテーマだと思いました。ジャイロが父の教えや言葉にハッキリと逆らい、自分自身の「掟」に従った時点で、彼はツェペリ一族としては「悪」となったものの、同時に「男の価値」は一気に高まったと言えます。荒木先生にとっての「正義」と「悪」の在り様にも、更なる変化・進化が訪れている気がしますね。
リンゴォ・ロードアゲイン。その名は、ワムウやンドゥール、プロシュート兄貴、リゾットなどと並んで、ジョジョファン達に誇り高き敵として末永く語り継がれていく事でしょう…。


●ホット・パンツはすっかり背景と化していました。結局、このエピソードでの彼の存在理由って何だったんでしょうか…?いなきゃいないで特に問題もなさそうなんですけど。まあ、さすがに死んではいないと思うので、今後の展開に大きく絡んできてくれれば良いなあ。レースでもいいし、カンザスでの遺体争奪バトルでもいいから。
あ、どうでもいいけど、ホット・パンツの牛を撃ったのは結局誰だったんでしょう?やっぱしリンゴォか?さりげにリンゴォ、小鳥なんて飼ってますよね。まさかこれも食べるためだったり?


★ここんとこ毎回のように思ってますが、今回も最高でした。最近の荒木先生はホントに神懸かってる。
自分の意志を再認識して「価値ある対応者」となり、リンゴォの命を奪う事で容赦なき「男の世界」への扉を開いたジャイロ。しかし、彼はまだまだ発展途上。きっとこの先、リンゴォの言葉を痛感させられる出来事が起こるのでしょう。そうして少しずつ、自らの男の値打ちを上げていくのだと思います。このレースは男を磨く旅でもあるのです。
注目すべきは、ジャイロがどういう方向へと生長していくか。どういう形で「納得」を得ようとするか。つまり、どんな「男」になっていくのかという点。ジャイロにとっての「真の勝利」とは、ただレースに勝つって事ではないからです。レースもバトルも人生もひっくるめて、自分に「納得」する事が勝利なのです。並大抵の事では答えなんて出せそうもないだけに、どう描かれるのかが楽しみですね。
「道」に迷っていたジャイロがリンゴォ・ロードアゲインとの出会いの先に見出すであろう「光輝く道」とは、一体どんな道なのでしょうか?そして、その道の果てには何があるのでしょうか?




(2006年2月19日)




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