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オレたちだけの「気持ちのいい道」だ!
リンゴォの話だとその先には「光」がある筈だ…
「光」を探せ!

「光」の中へ


#14 緑色の小さな墓標A





●今回の扉絵は、前号のウルジャンPRESSと同じポージングのジャイロ。愛馬を駆るジャイロの扉絵は久し振りですね。雨に打たれながら遠くを見据えるシリアスなジャイロに、バックのファンシーな星型トーンのギャップがまた良し。


●依然、窮地に立たされ続けるルーシー。「遺体」を手にしながらも、彼女は「所有者」の器ではなかったらしく、スタンドには目醒めません。その証拠としてブラックモアは、彼女に「スタンドが見えていない」事を挙げていますが、「SBR」のスタンドは「スタンド使い」と「素質ある者」になら見えるって事が初めて明かされましたね。実質、見えてようが見えていまいが大した差はないとは言え、ようやくスッキリしました。
でも、ルーシーの心根の強さ、「脊椎」を手にした事、助けが来るはずのない絶望的な状況……と、彼女がスタンド使いになる下地だけはバッチリ整っていたと思います。そう予想していた人も多いでしょうし、そういう展開になっても不自然じゃあないと私も思っていました。それだけに、いきなりその可能性が否定され、ますます無力な一般人VSスタンド使いの構図が浮き彫りになったのでゾクゾクしました。
ルーシーはブラックモアにあっさり「脊椎」を奪われ、彼の言葉から自分の行動のせいで夫とイケメンを巻き込みまくってしまった事を悟ります。絶望と後悔の涙。愛する人を守ろうとするあまり、愛する人を傷付けてしまったら……?コミックスで荒木先生がコメントしていた通りのシチュエーションです。彼女もまた、運命の迷い子の1人。


●ブラックモアは単独で捜索を続けていたため、ルーシーが反逆者である事をまだ誰にも知らせていない様子。今、初めて大統領に連絡を取ろうとしているようです。ブラックモアさえ阻止すれば、ルーシーも何食わぬ顔でカンザスに戻れそうですね。
ここでブラックモアの脳裏に邪な考えが過ぎります。「脊椎」を大統領に渡さず、自分だけのものにしてしまいたい……。忠誠心の強い人間と思いきや、どうやら彼も大統領を盲信しているワケではなさそう。正直、まだ大統領には心酔する程のカリスマ性は描かれてないしなあ…。ブラックモアの方がキレ者って感じがするし、欲をかいて裏切りを考えてもおかしくないですよ。単なる雑魚キャラではなく、あくまで1人の人間としてのリアルな心理が描写されていて、見ていて面白いです。


●「遺体」は「遺体」と引き合うらしく、「脊椎」のパワーによって空間が歪められてしまいました。ルーシーとブラックモアと電柱は、一瞬のうちにカンザスから26kmも離れた街へ!そのため、射程外の電線はぶった切られ、大統領とも連絡不能に。ちょうど電柱と重なっていた馬車は突き破られてます。この嵐も起こしているようだし、地味に人迷惑なパワーです。
そんな時、「脊椎」から出現したのは「あの方」ッ!手のひらに開けられた穴、傷だらけの体、茨の冠、そしてあの神々しいシルエット。どこからどう見ても、まさしく「あの方」です。わざわざ名前を伏せる必要があるでしょうか?ぶっちゃけ、疑う余地なくイエス・キリストそのものです。まあ、荒木先生も別に「遺体」の正体なんて隠す意思はないんでしょうけど。これは変に読者の予想の斜め上を行かなくとも、直球でいいと思いますよ。正体なんかより、それを求める人物達の動きの方が重要ですからね。


●狂喜するブラックモアですが、思いっきし油断していたせいで不意打ちをマトモに喰らっちゃいました。泣きながら、震えながら、息を荒げながら、拳銃の引き金を引くルーシー。もう後戻りは出来ない、彼女の悲痛な覚悟が込められた弾丸は全弾命中ッ!イケメンの立場がありませんね!でも、いたいけな少女が人を殺そうとまでしなきゃならない事自体が、ショッキングでやるせなくもあります。そんな彼女の想いも行動も、まったく理解不能のブラックモア。
「脊椎」を奪い返し、ルーシーは走り去ります。気付けば、そこは森の中。カンザスから34kmの地点。確実にジョニィ・ジャイロ・ディエゴの持つ「遺体」へと近付いています。こういう形でジャイロ達との距離の問題を解決するとは思ってなかったので、素直に驚きました。
くたばったかに見えたブラックモアは、雨で傷口を塞ぎ、命を繋いでいました。『キャッチ・ザ・レインボー』は本当に雨天限定能力で、雨が止んだ時点で強制解除されるみたい。嵐が過ぎ去った時が、ブラックモアの命が尽きる時。しかし彼は悲観する事なく、卑しく弱い自分への「罰」と受け取っております。「あの方」を直に感じたからか、心を入れ直して、大統領のために全身全霊を捧げる覚悟!リンゴォとはまた異なる価値観の持ち主ではありますが、己の信じる道を突き進む執念を燃やす彼には、ある種の気高さを感じずにはいられません。


●場面は一転、ジャイロ&ジョニィへ。ジャイロもディエゴ同様、「眼球」を通じて「脊椎」の移動を感じているようです。そして、ついにディエゴを視界に捕えたッ!ディエゴをブッ潰してやりたい2人は、いきなり攻撃!「気高き飢え」「漆黒の意志」が燃えたぎっています。そんな気迫ゆえか、さりげなくチュミーちゃんも久々の再登場。しかし、恐竜と化した不気味なディエゴは、バトルではなくレースで2人を負かしてやると言い放ちます。お互いに「敗北」を刻み付けてやりたいと思っているからこその、正々堂々たる誇りのぶつかり合いですね。
ここからは3人のガチレース展開。大きな紙面に大ゴマ、迫力とスピード感全開の大胆な構図。彼らの駆ける風が吹き込んでくるかの如き臨場感と躍動感。「SBR」のレース・シーンは最高にカッコ良くって心震えます!そして、絵ももちろんですが、詩的で情感溢れるテキストでも魅せられました。ジョッキーらしく理知的・論理的に勝機を窺うジョニィと、どこまでも感情的・攻撃的に勝利を奪おうとするジャイロの対比も、2人の性格や人生経験の違いが良く表れています。
リンゴォとの死闘を経て、ジャイロは「何か」を確かに掴んでいました。リンゴォが相手より先に銃を撃ちはしなかった事から、あえて「厳しい道」を歩んでこそ「男の価値」が上がると学んだようです。その「厳しい道」は同時に、他ならぬ自分だけが「なじむ道」であり、自分に納得できる「気持ちのいい道」でもありました。もう敵も味方も環境も関係ない……。その道の上にいるのは自分だけ。「他者と競い、争う」のではなく、「自分自身と向き合い、乗り超える」という孤高の領域へとジャイロも到達したのです。リンゴォが言った「光輝く道」とは象徴的・抽象的な比喩だと思っていましたが、実はかなり具体的で現実的な意味だったんですね。


「光の道」=「自分だけのライン」を無心で駆け抜けるジャイロは、いつの間にかディエゴに追い付いていました。これにはディエゴもジョニィも、ジャイロ自身もビックリ。ジャイロ、完璧にトリップしてた模様です。ここまで達すると、もはやジャイロとヴァルキリーは一心同体ッ!ヴァルキリーがディエゴのムチを咥えて吐き捨てるシーンは痛快でした。3rd.STAGEゴール前のリベンジです。
ジョニィの心配やディエゴの決意も、今のジャイロ&ヴァルキリーには眼中にすらありません。彼らの瞳に映るものは、道を照らす「光」のみ!この他人お構いナッシングな余裕綽々っぷり、なんか初期のジャイロらしさが戻ってきたようで嬉しいです。このSTAGEはもうジャイロの1着ゴールしか見えません。


★いやあ〜〜、今月も最高でした。信者でごめんなさい。でも面白いんだからしょうがない。やはり登場人物の誰もが本気だからこそ面白いし、美しいし、燃えるんでしょうね。前号のウルジャンPRESSで荒木先生は「アメリカ取材旅行を決行」と書いていたので、減ページも覚悟してたんですけど今月も63ページ。見事な職人ぶりです。
苦い敗北を喫し続けてきたジャイロが、いよいよ生長を見せ付けてくれる展開になり、色々と込み上げてくるものがありますね。「100年間は〜」とか「なじむ道」とか「光の中へ」とかのくだりなんて、熱い涙がちょちょぎれんばかりの勢いですよ。次回は、鉄球を地面に放つ事で地表の状態を変え、微妙にラインをズラしてディエゴを追い抜くとか?そして、あの丘を越えると近付いて来るルーシーの姿が見えて、もう一波乱ってなトコでしょうか?スゴイ楽しみです。
余談ですが、付録の未発表イラストのポストカードも良かったです。絵柄から見て、ほんの1〜2ヶ月くらい前のイラストっぽいですね。8巻表紙と近い時期に描かれたのか、これも黒を基調とした男らしいイラストに仕上がっております。




(2006年5月18日)




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