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『黄金長方形の軌跡』で回転せよ!
そこには『無限に続く力(パワー)』があるはずだ………


#19 黄金長方形





●扉絵はジャイロ&ジョニィ。こちらを真っ直ぐに見つめるジョニィの眼差しが印象的です。最近は彼らの瞳の描き方が変わって来ましたね。今まではアバッキオみたいな点目だったのが、黒く塗られたり光が描かれたりしています。今の方が眼にも感情や生気が感じられて良いです。ただ、睫毛が少なくなってきてるのが気になる所。


●連載スタートからおよそ3年。これまでずっと謎のベールに包まれていた「回転」の秘密が、とうとう明かされました。その秘密とは……、『黄金長方形の軌跡』で回転させる事ッ!
この世で最も美しい形の基本は、「黄金率」と呼ばれる1:0.618の比率の長方形。古代の名芸術家達の作品の中には、この「黄金率」が隠されており、だからこそその美しさを人々の心に焼き付ける事が出来たのです。そしてこの「黄金長方形」は、中に次々と正方形を作っていき、それぞれの中心点を結んでいくと「無限の螺旋」が描かれます。
「無限」の力を追求していたツェペリ一族は、「黄金長方形」のこの特徴に注目し、「鉄球」の技術として昇華させたのでした。つまり、鉄球(あるいは爪)の表面の一点にマジックで小さな黒丸を付けたとして、鉄球自体の位置はそのままに、その黒丸の軌道が「無限の螺旋」を描くようにして回転させるって事ですね。理屈からして、鉄球や爪を「無限の螺旋」のコースで投げ飛ばすって事ではなさそうです。ラストのジョニィの爪の軌道は、分かりやすく魅せるためのマンガ的表現と見ております。
なんと、ジャイロの手のひらも「黄金長方形」の比率になるように訓練されているし、ベルトのバックルもこの比率でデザインされているとの事。プロシュート兄貴並みにトコトン徹底的にやる一族のようです。球体や円状の物の方がより「回転」させやすく、ゴツゴツした「石くれ」等だと「回転」も不完全みたい。色々と奥が深く、底が見えません。
ちなみに、4巻でのツェペリ一族の話の時には、「ウィトルウィウス的人体図」と呼ばれる図が描かれていましたね。レオナルド・ダ・ヴィンチによる男性裸体図で、人体の全てが「黄金率」で描かれた図。今になって思えば、これもさりげない伏線だったのでしょうか?次のページには「鉄球」の図も描かれています。きっと「回転」を最も「無限」に近付けられるような構造・デザインで作られたのでしょうね。


●ジョニィは爪をただグルグル回していただけに過ぎなかったのです。ジャイロは親父さんからの修行と同じように、ジョニィにも「できるわけがない」と4回だけ言う許可を与え、この「黄金の回転」を会得させようとします。ジョセフのセリフ先読みっぽくて面白い。4回言ったらベルトのバックルをプレゼントなんてイジワルに、ジョニィももう大荒れです。なんか駄々っ子のように屁理屈こねたり、力づくで奪い取ろうとして逆に殴られたり、大ピンチなのにスゲー笑っちゃいました。かわいいヤツだな、ジョニィ……。
ジョニィはジャイロが描いた長方形や、自分でイメージした長方形を使って、必死に爪を回転させるものの、どうしても「黄金の回転」には至らず。それもそのはず。たとえバックルを使ったとしても、やはり「回転」は出来ないのだから。そりゃジャイロだって、バックルを渡すだけで危機を回避できるんなら、とっくにやってます。「できるわけがない」と4回言う程に追い詰められて初めて、「作られたコピーの長方形では回転できない」という事実に辿り着けるのです。ツェペリ家の掟とは、それを自分で気付かせるためのものでした。「黄金の回転」は「本物の長方形」の中でこそ生まれるッ!
かつての芸術家達は、何から「黄金率」や「美しさ」を学んだのか?「本物の長方形」とは、「本当に美しいもの」とは、一体何なのか?それは、空を舞う蝶の羽。風にそよぐ木々や葉。咲き乱れる花々。野を駆ける小さな白ネズミ。この地球に溢れる大自然の姿そのものであり、ジョニィを優しく取り囲んでいる生命そのものなのです。実際、植物にも昆虫にも人間にも、その基本的な構成に「黄金率」が深く関わっているようですね。
これには私、痛く感動させられました。「回転」の技術は、まさに生命への敬意。生命とは、ただ存在しているだけで美しい。その美しさには、「無限」の力と可能性が秘められている。人間や生命の素晴らしさを信じ続け、ひたすら美を追求し続け、それをマンガで描き続けてきた荒木先生だからこその発想だと思います。理論的に可能かどうかとか、理屈が正しいかどうかなど、大した問題ではありません。見事なエセ理論に、「回転」の今までの無茶さ加減も思わず納得。何つーか、「言葉」でも「心」でもなく、「生命」で理解できました。


●ディエゴの忠実なる部下となった「音」のスタンド使いの正体も発覚ッ!その驚愕の正体とはノリスケさん!……ではなく、なんとサンドマンだったのです!本気でビックリしたし、唖然としましたよ。マジっスか!?でも、音も気配もなくディエゴに近付いていたのも、インディアンの彼なら頷けます。ノリスケさんは読者のミスリードを誘うだけの役目だったのか、あっさりサンドマンに刺されちゃいました。死にはしないと思うけど。
大統領と「遺体」絡みの取り引きをしたらしく、3部位も持っている(本当は2部位)ジャイロとジョニィを襲って来たのです。「祖先からの土地を取り戻す」という目的さえ果たせれば、レースで優勝する事も「遺体」を奪う事も彼にとっては同じ事。現実的で賢いサンドマンらしい選択とも言えましょう。好き好んで殺す気はないが、殺す事に躊躇いもない。他の何を失おうとも、欲するモノはなりふり構わず奪い取る。「善」も「悪」も超越した彼に、紛れもなき漆黒の意志を感じます。まるで忍のような立ち居振る舞いや、冷酷な表情がまたゾッとするほどカッコイイ。
いつから取り引きしていたのかは知りませんが、ジャイロに1st.STAGEでの借りをちゃんと返すまでは攻撃しないと決めていたのかもしれませんね。それを返し終わり、関係が対等となった今、サンドマンは最強の敵となる!「遺体」争奪戦に関わらないと出番が来ないとは思いましたが、まさかこんな形で戦う事になろうとは予想外でした。
ここで倒されてレースもリタイアってのは寂しいです。これは総合1位の彼を一時的に負傷させ、レースを更なる混戦へと持って行くためのものと信じたい。大統領はインディアンのサンドマンも見下しており、最初からカネも土地も渡す気などなかったという事が分かり、全世界が見届けているレースで優勝する以外になくなるって展開を希望。死闘の末、ジャイロ達ともむしろ絆が生まれるとか。敵になってしまったとは言え、やっぱ頑張ってほしいですよ。


●サンドマンのスタンドは『サイレント・ウェイ』という名でした。直接描かれてはいませんが、スタンドが周囲に発生した「音」を取り込み、他の物質に閉じ込めているものと、ジャイロは推測。その能力からの名なのでしょうが、誰もいない「静かなる道」をたった1人で駆け抜けるサンドマンの孤独な生き方も意味しているようで、なんとも悲しげな名前です。
今回は無数の「音」の固まりとなった奇妙なモンスターで攻撃!ミシシッピー川に逃げ込んだ2人に「音」の波が迫り、ますます窮地に。この「音」の波の絵は圧巻ですが、これまでとは描写が違いますね。あの「音」の文字群は、今までも地面や泥や小屋の内部を駆け巡っていたけど、水中だったからクッキリ目に見えるようになったんでしょうか?
ジャイロが水を「回転」させて辛うじて避けたものの、「音」は共鳴・共振・増幅・反射するもの。人間の耳に聞こえる音が全ての音ではないように、目に見える「音」だけでなく見えない「音」までもが襲って来るようです。あるいは、見えないくらい小さな「音」同士が交差・増幅した一瞬の攻撃だから避けられないのか?ともあれ、「音」の猛襲にジャイロも手脚を切断されてしまいました。ショック!恐らく、「音」を閉じ込めたモノ(今の場合は恐竜共)を殺してしまえば、それ以上は「音」のエネルギーを放ち続けられなくなるのでしょうが、一度放たれた「音」は伝わり終わるまでは決して消えません。こいつはヤバすぎるスタンドです。


●しかし、この『サイレント・ウェイ』は砂のスタンドと関係あるんでしょうか?砂と音って、イメージ的にあんま結び付かないんですが。サンドマンが「遺体」を持っているはずはないので、考えられる可能性としてはこんな感じ。

  1. もともと砂のスタンドが持っている能力だった
  2. 『サイレント・ウェイ』の能力を応用して砂を操っていた
  3. 2nd.STAGEで「悪魔の手のひら」に迷い込み、砂のスタンドに「音」の能力が追加された
  4. 2nd.STAGEで「悪魔の手のひら」に迷い込み、砂のスタンドとは別に『サイレント・ウェイ』が発現した

私としては正直、どれでもいいです。「砂で防音している」とか意味不明な理屈で「音」を閉じ込めていたとしてもOKだし、1人1能力の原則を「SBR」で完全に取っ払ってくれてもOK。あるいは、「ザグッ」って音を固めたハチの巣を赤ん坊の形に変えたように、砂にも「音」を閉じ込めて「仮の生命」を与え、操作していたのかもしれません。その答えも、次号以降の楽しみです。


●「音」にやられたジャイロを目の当たりにしたジョニィの脳裏に、亡き兄・ニコラスの面影が過ぎります。ネガティブ・モードまっしぐらなジョニィは大泣き。ジョニィもルーシーも泣きすぎだし、ジャイロも人生に迷いまくりです。「SBR」は「ジョジョ」1〜6部と比べて、人の迷いや脆さも濃く描かれているようですね。かつては「ウジウジ悩んだり迷ったりするヤツは嫌い」と言っていた荒木先生ですが、善悪観と共に、この辺の考え方も変化してきたのでしょうか?心の闇を抱え、もがき苦しみながらも、それでも前へ進もうとする人の姿ほど心を打つものもありませんからね。
もちろん、我らがジョジョ!泣いてるだけでは終わりません。生命へのリスペクトによって、自然界に散りばめられた「黄金長方形」を感じ取るジョニィ。ダニーそっくりの白ネズミを目にし、感極まってまた号泣。その時ッ!ついにジョニィの『タスク』の「回転」は、「無限」の領域へと続く扉を開いたのです!まだ「回転」の全貌が明かされたワケではないですけど、これで「鉄球」に近い現象が起こせるようになるのでしょう。まずはジャイロの傷口を回転させて捻って、早く止血した方が良さそう。
卵型だった『タスク』は星型に変化しています。「五芒星」の図形は「黄金率」が多く含まれた図形らしく、「星」がシンボルマークのジョニィが「回転」のさらなる段階へと進んだ事を示しているかのよう。そして、ジョニィの背後に現れたのは生長を遂げたチュミーちゃん。体付きはゴッツくなったのに顔はそのまんまなので、不気味にアンバランスです。こうして「回転」を学ぶ事で『タスク』がパワーアップしましたが、「脊椎」スタンドの発現はもうちょっとおあずけみたいですね。


★今月は63ページ。ページ数もさる事ながら、内容もボリューム満点・絵も迫力満点。一気に話が動き、最高に熱くてドラマティックでした!前回のジョニィの回想がとても活かされてます。結果的に今、ジャイロ&ジョニィVSディエゴ&サンドマンという豪華メンバーでの本気バトルが繰り広げられているワケで、やはりテンションも上がりますね。散々じらされ続けてきた「回転」の秘密も、明かされるべきタイミングは今しかなかったとさえ思えるから不思議です。
サンドマンが残酷な敵となったのは衝撃的でしたが、こういう展開もアリ。「正義」と「悪」にハッキリ分かれて戦っていた今までの「ジョジョ」とは異なり、「SBR」は究極にシンプルな弱肉強食のサバイバル。ジャイロもジョニィも「正義」のために戦ってなどおらず、誰もが自分だけの信念・欲望のために行動しています。道を妨げる邪魔者は全て敵。そこにあるものはもはや善悪ではなく、「個」と「個」の魂のぶつかり合い。だからどんな生き様であれ、自分なりの掟を貫いてガムシャラに生きている事こそが大切なんです。
来週26日は「ジョジョ」1部ゲー発売、11月2日には「SBR」10巻発売と、サマーシーズンばりにお楽しみもいっぱい!ウキウキしつつ、また1ヶ月待つとしましょう。



(追記)
ジャイロの死を心配している人もけっこういるようです。やっぱりツェペリ一族というだけあって、死の影は常に付きまとってしまいますよね。しかし、「男の世界」を極める事もなく、死刑執行人という使命に対する彼なりの答えを導き出す事もなく、こんな所で死ぬはずがないと思います。ゾンビ馬で治せる範囲か分かりませんが、肉クリームを接着剤にしてくっ付けとけば大丈夫!ジョニィにしても、兄・ニコラスとダブッてしまうようなジャイロを死なせるワケもないし。ジャイロを守り抜いてこそ、あの辛い過去を完全に乗り越えられるのだから。
私個人の希望としては、レース優勝者が誰になっても、最後まで彼らには生き残ってほしいです。1部ではジョナサンもツェペリさんも死んでしまったけれど、新世界の2人には新しい未来を歩んでいってほしい。
ここから先は最終回妄想です。レース終了後、おちゃらけながらも「もう会う事もねーな」なんて言って、ジャイロはジョニィと別れる。そして、ジョニィのモノローグが入り、場面は数年後のサンディエゴ・ビーチ。スティールが新・大統領に選ばれたという新聞記事を見つめる謎の男。ジョッキーとして再起を果たしたジョニィはホット・パンツと結婚。その挙式中、幸せそうな2人の前に謎の男が近付いて来る。見覚えのある人影……。ジョニィは「もう会う事はないって言ってたクセに」と男に声を掛け、涙を浮かべて微笑む。その先には、ニョホっと笑うジャイロの姿。彼の金歯がキンと光る。そこに刻まれていた文字、それは…… 「STEEL BALL RUN」 「HAPPY END」
―なんてね(笑)。こんな感じにハッピー・エンドで締めてほしいと切に願っております。テーマ的には難しいかもしれないけど、5部・6部と切ない余韻の残るラストだったので、久々にスカッと爽やかなエンディングが見たいですね。




(2006年10月19日)
(2006年10月22日:追記)




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