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『黄金長方形』  そのスケールをひとつひとつオレからもぎとって行くために
この生命のない世界――――「氷の海峡」を攻撃地点として選んだ!


#29 ウェカピポのやり方





●トビラ絵は凍て付く氷原でのジャイロ&ジョニィ。あまりの寒さに草は凍り付いて、ジョニィはかじかむ手に息を吹き掛けています。こういう旅の中の1コマって感じの絵は、描かれていないレースとバトルの合間の時間を想像できて楽しいものです。


●今回もジャイロの回想からスタート。前回の回想の続きです。やはりウェカピポの妹への目の手術は失敗。彼女の目は永遠に光を失ってしまいました。治せたはずの目を治せなかったジャイロの胸に、彼女の感謝の言葉が突き刺さります。蒸気を吹き出しやがったスチーム管を殴って、自分を責め続けるジャイロ。そんな彼を静かに見つめるグレゴリオ父上。
父上はジャイロに対して、「人の心のありようの限界点に踏み込むな」と強く思っておりました。でも限界点って、どういう意味なんでしょうね?個人の感情や感傷なんかで踏み込むべきではない領域を見極めろ、って事なんでしょうか?一族の使命を忠実に遂行する事こそが全てであり、それ以外の事には一切関わるなと。ヘタに踏み込もうとすれば、ジャイロのように「神の意志」に阻まれ、良くない事が起こるという事を父上は知っているのかもしれません。ツェペリ一族は任務を通じて、この世の真理にまで辿り着いたのか?
ジャイロの過去がここまでしつこいくらいに描かれているのは、このウェカピポとの戦いが自分自身の心との対峙でもある事の証でしょう。ウェカピポを倒すためには、この後悔と憤りに満ちた過去に決着を付けねばならないはず。更なる生長のために、納得のいく答えを自分で見付けなければならないのです。「SBR」という作品は主人公達の心のありようを描く物語であって、レースという舞台も「人生」「歩む道」の縮図・象徴なのだと改めて感じました。だから、先へ進めば進むほど彼らの心も徐々に変わってゆく。
あ、それとジャイロの文字入り金歯はこの頃からだったんですね。よく父上も怒らなかったなあ……。


●場面は再び現在へ!ウェカピポとマジェントの隙のないコンビネーションは、尚も続く!無数の衛星を発射するだけで、敵をあっという間にパワーダウンさせています。ジョニィは『タスク』を使い果たし、ジャイロの手のひらは負傷のせいで「黄金長方形」が崩れてしまいました。人為的に作ったコピーとは言え、手のひらが「黄金長方形」か否かで、「回転」の精度や威力にも影響があるのかもしれません。
その上、衝撃波は避けきれず、またも左半身失調!左側がどんどん消えていく描写も、スゴく奇妙で面白い絵です。で、すかさずマジェントが左から攻撃!ジャイロの言う通り、相手の利点を確実に削り取って追い詰めていく戦法ですね。大ピンチのジャイロ達ですが、防御スタンドで移動させた攻撃エネルギーの軌跡からマジェントの位置を予測するってのは、なかなか頭が冴えてます。見つめたそばから左側が消えていくとしても、大まかには掴めるようです。ただ、「黄金の回転」でないが故に、与えられるダメージも浅い様子。
ついに撃たれてしまうジャイロ!しかし、それも計算のうち。弾丸を鉄球代わりにして「回転」!ところが、それすらウェカピポは見抜いていました。敵に対しても、用心に用心を重ね、謙虚に振る舞い、敬意を払う。そんな油断のカケラもない相手が、ジャイロ達の逆襲の可能性を次々に奪い取っていく!これは本当に恐ろしいし、敵ながら惚れ惚れしてしまいますね。ウェカピポは将棋とかチェスも強そうだな。


●なんとマジェント死亡(たぶん)!ジャイロが投げた弾丸をスタンドで上空に受け流したまでは良かったのですが、落下して来たその弾丸に貫かれちゃいました。絶対防御スタンドを持っているとは思えない程、超あっけない死に様!無論、落下して来るまでジャイロが会話で時間稼ぎしていたワケだし、もともと弾丸が上空に飛ばされるような「回転」を加えていたのかもしれないので、単なるラッキーではないんですけども……。
ついさっきまでピンピンしてたヤツが一瞬後には死んでいるってのは、リアルでシビアで「SBR」的でもあるのですが、マジェントの死因は安直な気がしました。勝ち方に関しては、もうちょっと捻ってくれても良かったかも。例えば、すでに投げた方の鉄球に弾丸を落下させ、鉄球の「回転」でマジェントの後頭部に向かって弾き飛ばすとか?
結局、スタンド名も謎のままでした。コミックスで判明するんだろうか?能力の方は、両手両脚が地面に触れている状態でのみ発動し、動くと同時に強制解除されてしまうようです。防御中は攻撃不可能という、分かりやすいルール。シンプルだからこそ応用の仕方も期待してたのですが、残念な結果でした。まあ、いくら無敵の防御力を誇っていても、本体:マジェントの心に隙や油断があったので必然の結果でもあるんでしょう。そんな情けないマジェントが好きだったりもします。惜しいキャラがまた散っていった……。
ついでに、マジェントのスタンド・ヴィジョンは今のジャイロにもちゃんと見えているようですね。この場合、スタンドの素質がある者にも見えるからなのか、ジャイロの「回転」がスタンドの領域に達しているからなのか、微妙な所ではありますが。


「両脚部」を持つらしい子狼が、あっさり射殺されたのにはビックリ。ウェカピポ側からすれば、それがベストの行動なんでしょう。ただし、その行動のために、ジャイロ達にも「両脚部」の位置を気付かれてしまいましたけど。
それにしても、子狼さえ殺されてしまっては、一体何から「黄金のスケール」を見出せば良いのやら……。ジャイロの独白やリアクションからして、大マジに「黄金長方形」が見えないと「黄金の回転」は起こせない様子。回想からも分かりますが、針に糸を通すような繊細さが必要な技術なんですね。
いっそ湖の氷をブチ割って、魚を見る?でも、せっかくだから劇的な逆転が見たいものです。ジャイロが忌まわしい過去を乗り超え、敵であるウェカピポにも敬意を払えるようになれた瞬間、今までよりもっと鮮明に「黄金長方形」を感じ取れるようになる…とか。動植物や昆虫だけじゃなく、人間の中にも本物の「黄金長方形」を見る事が出来るようになれば、もはや怖いもん無し!ウェカピポとの戦いからも何かを学び、ジャイロの技術も精神ももう一段階上のレベルに上がってほしいですね。


★今月は47ページ!予想はしていましたが、毎年この時期はどうしてもページが少なくなっちゃうみたいです。来月からはまた60ページ連載に戻ると思いますけど。14巻もちょっとボリューム減になりそう。6巻や10巻分の連載時期も今頃でしたし。きっと18巻収録分も同様でしょうね。
正直言って、内容の方も物足りないッ!何故かと言えば、ジャイロもウェカピポもまだ自分の心を、魂を、剥き出しにしていないからでしょう。現時点では、ただ淡々と戦っているだけって印象ですんで。リンゴォ戦のように、お互いの価値観や思想を熱くぶつけ合ってほしいです。でもマジェントが倒れ、ついにウェカピポ自身が動き出したので、次回こそは因縁の対決が楽しめそうです。「遺体」回収をジョニィに優先させて、ジャイロはウェカピポとサシで決闘って展開も燃えますね!



(追記)
●あっさり散ったマジェントですが、思うに彼は、コンビを組むウェカピポとは逆のキャラクターとして設定されたのでしょう。ウェカピポが白系で渋いイケメンだから、マジェントは黒系で妖しげな顔付きに。攻撃のための技術を持つウェカピポに対し、防御のための能力を持つマジェント。冷静で油断も隙もないウェカピポとは反対に、マジェントは相手を軽く見がちな飄々とした性格に。まさしくウェカピポという存在を引き立てるために作られたキャラなのだと思います。だから、マジェント自身が深く掘り下げられる事はなかったのでしょう。
そう考えると、マジェントのあっけない散り様も、ウェカピポがしぶとい強敵となる布石と受け取れます。……で、ここから予想。次回はついにウェカピポとジャイロが対峙!ジョニィが「両脚部」の元へと這って行くまでの間の、2人の決闘です。祖国や妹の話を交わし、ウェカピポの戦意はますます上昇!逆にジャイロは、間違った事などしていないはずのウェカピポと戦う事に迷いを抱いてしまいます。当然、そんなジャイロが勝てるワケもなく。1投目の対決では衛星群を食らい、ボロボロにされるジャイロ。
朦朧とする意識の中で、ジャイロは改めて自分自身と向き合います。己のなすべき事を見つめ直し、そして、敵のウェカピポに対してまでも「敬意」を払えた時、ジャイロは再び「光輝く道」を見るでしょう。その光の先にあるものは、真に美しい世界。今までは気付く事さえ出来なかった、自然界のあらゆる場所・あらゆる生命に隠れ、満ち溢れる無数の「黄金長方形」。極端に見えにくかっただけで、氷の海峡の中にも「黄金長方形」は確かに存在していたのでした。こうして「黄金の回転」に至った2投目は、とうとうウェカピポを打ち破るのです。さらには、そのままレースに戻ったジャイロは、「原住民のルート」を通って海峡を渡ります。「光の道」を見た事で、再び無意識で「ベスト・ライン」を選び抜けたのです。で、一気に1着ゴール!
ジャイロが「男の世界」の深遠へと近付くためのエピソードになると予想します。回想のジャイロは、「敬意」に欠けていましたからね。父上はウェカピポの妹の目に干渉した事自体を怒っているのに、ジャイロは手術が失敗した事で自分を責めています。しかも、ボールがどちら側に落ちるかは「神の領域」と知っていながら、その結果を不服に思っていますし。自分の力を過信し、思い上がった考えを持っていた証拠と言えるでしょう。だからこそウェカピポは、ジャイロのそういう甘ったれた価値観を生長させてくれるキャラとして濃く描かれてほしいです。



(もうちょっと追記)
●このウェカピポとのエピソードでは、見えていた物が見えなくなる描写が多く見受けられます。夫の暴力で失明したウェカピポ妹、左側の視界を奪ってしまうウェカピポの鉄球はもちろん、ウェカピポの衛星で目を潰されて死んだDV夫、マジェントへの死角からの攻撃(=上空からの弾丸落下)や飛び出る目玉なんかもそう言えるのかもしれません。
ウェカピポ妹の目の負傷と、襲い来るウェカピポ&マジェント。それらに立ち向かうジャイロは、見えずにいた物が見えるようになる事で初めて乗り超えられるのではないでしょうか?そういうオチならしっくり来そう。今まで見えなかった「黄金長方形」が見えて……という前述の予想もそこに掛かって来ます。もし当たったら嬉しいなあ。




(2007年8月17日)
(2007年8月23日:追記)
(2007年8月29日:もうちょっと追記)




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