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勝ったッ!
これで予想した おまえの『弱点』は
今 全て証明されたッ!


#50 弱点の証明





●トビラ絵はディエゴH・Pのお2人さん!涼しげな顔をしといて、これから一国の大統領をブッ殺しに向かうという、物騒この上ないデンジャラス・カップルです。
そんなワケで、今回もジャイロとジョニィの出番はありません。ディエゴとH・Pが代わりに主役を張ってくれています。いやぁ〜、じらしてくれますねえ。真打ちの登場はもうちょっと先ですか。本当の活躍と決着の時までは、脇役に頑張ってもらおうという目論みですか。でも、ジャイロとジョニィがいなくてもメッチャ盛り上がっちゃってますんで、あんまり遅い登場だと忘れられかねませんよ〜!


●さて、本編。だいぶスピードも乗ってきた列車内。ディエゴとH・Pは、扉の向こうにルーシーとスティール、そして大統領の姿を発見しました。
大統領に襲い掛かる前に、まずは作戦会議を。ディエゴが見付けたという、『D4C』の弱点が語られます。「遺体」を「隣りの世界」には持って行けないから、大統領は「遺体」から目を離したり、遠くへ距離を置く事は出来ない。ここに「遺体」がある限り、列車から逃げたりなど出来ない。その「遺体」へのこだわりが弱点。……との事です。でも事実、「左眼球」は「隣りの世界」に持ち込めていたのだから、能力的な制限ではないんでしょうね。大統領は「遺体」を常に「基本の世界」に置いておきたい、って事なんでしょう。
それは何故か?もし「隣りの世界」が『D4C』の創り出した世界なのだとしたら、どのみち長時間は能力も持続せず、解除されたら強制的に「基本の世界」に戻ってきてしまうのかもしれません。あるいは、「隣りの世界」と共に消滅してしまうのかも。それでは、わざわざ隠す意味もない。もし「隣りの世界」が元から無限に存在している世界なのだとしたら、「遺体」を生み出した世界が「基本の世界」というワケではなく、物理的に今「遺体」がある世界が「基本の世界」に変わるのかもしれません。それでは、うかうか持ってなど行けない。
ディエゴが何を根拠にこの結論を出したのか、ちょっと分かりかねますが、いずれにせよ「遺体」への執着ゆえに隙が生じる事は確かなようです。「赤石」への執念を逆手に取られたカーズを思い出しますね。


●作戦会議も終わり、いよいよ決戦の時。H・Pの呼吸が激しく乱れます。自分の犯した「弟殺し」の罪、その重さに心が押し潰されそうになっていたのです。『シビル・ウォー』戦で、過去を克服するどころか、逆にますます罪の重さを痛感してしまったんでしょう。「遺体」を揃える事こそ、そんな彼女の心の救い。地球上の人々の「善の心」のために、自らの命を捧げる事で初めて、血塗られた人生が清められると信じているんですね。なんと悲しい決意。彼女もまた、弟の死を境に「帰る場所」と「帰る意味」を失ってしまった1人なのです。
ここはやはり、同じように「兄殺し」の罪を背負っているジョニィが、彼女の心を真に救ってあげてほしいもの。事実や理由はどうあれ、2人とも大事な肉親を自分のせいで死なせてしまった(と思い込んでいる)似た者同士。『シビル・ウォー』戦の時にも期待してたんですけど、何にも起こらなかったので、今度こそはジョニィのナイス生き様を見せ付けてほしいです。
一方、ディエゴも「遺体」への熱い想いをぶっちゃけてます。まあ、分かりきってる事ですがH・Pとの取引など当然、守る気はゼロ!「遺体」を独占する気マンマンです。野獣のような本能ゆえか、鋭敏な直感ゆえか、はたまた優れた知能や洞察ゆえなのか、彼も「遺体」の真の力に勘付いている様子。大統領は「ナプキンを最初に取れる力」と表現していましたが、彼は「ハトの群れを支配する力」と例えているのが面白い。1羽が右へ飛べば全部が右に行く、それがハトの群れであり、人の習性。どいつもこいつも自分の利益と自惚れしか見ようとしない気取り屋どもの集まり、と評しています。貧しく厳しい環境で生まれ育ってきたからか、きれい事など言わないし、人の善性を信じてもいません。だからこそ、そんな世界の醜い流れに則って、この世で最高の気取り屋になろうとしているのです。「遺体」の力で最大の巨悪に成り上がり、くだらない卑小な悪をまるごと全部飲み込んでやる。それが彼の野望。
非常にディエゴらしい考え方でカッコイイんですけど、母親の死を水に流してやってもいいと思っていたのはショッキング。復讐心よりも、自分の欲望の方が勝ってしまってるんですねえ。自分の原点さえ捨て去ってしまえるディエゴは、完全に「帰る場所」を見失ってるな〜と思いました。母さんも自分の死に縛られる事は望んでないでしょうが、こんな姿の息子も見たくはないでしょうねえ。
そんな迷える子羊達が今、決戦の扉を開きます。その扉はどこへと続いていくのか?


●大統領、「遺体」化進行中のルーシーを見てビックリ!ルーシーの頭こそ「遺体」の「頭部」。ついに「遺体」が全て揃ったと、大興奮の大統領。
……そこに音もなく現れたディエゴ、いきなりの猛攻ッ!大統領も『D4C』で応戦ッ!こういう真っ向勝負のスタンド・バトル、久々に目にした気がしますね。「SBR」の世界観的には銃での決闘の方がお似合いですけど、正統派バトルもやっぱ燃えます。接近戦では、恐竜の身体能力を持つディエゴに軍配が上がるようで、早くも優位に。先の戦闘での経験から、大統領を何かに叩きつけたり、拳と拳で挟み込んだりはもうしない。鋭い爪によって肉を切り裂き、臓器をえぐり取るのみ。静かに淡々と語るディエゴが怖い。
ディエゴの攻撃を避け、ドアと壁に挟まろうとする大統領。しかし、そこにはすでにH・Pの分離した腕が!挟む事も封じられました。見事なコンビネーション。ここからは「挟む」「挟ませない」の応酬です!やってる事自体はしょうもない事なんだけど、大統領もディエゴ達も手を変え品を変え、裏をかき合う!息をもつかせぬ展開です。そして、とうとうディエゴの爪が、大統領の両腕とノドを掻っ切った!「ブッ殺してやるッ!!」と殺意みなぎるディエゴ、その気迫がこちらにまで伝わるようです。
ところが、この圧迫バトルを制したのは大統領でした。激闘の最中、ルーシーも飲もうとしていた水がこぼれ落ち、大統領に降り注いだのです。果たして、これは彼の計算なのか?それとも、流れを味方にしているのか?それは謎ですが、大統領はまんまと「隣りの世界」へと逃げおおせました。『D4C』は液体であっても発動可能!水滴から次元移動する図は、なんかブラックモアっぽい描写でイカしてますね。


●惜しくも大統領を逃がしてしまったディエゴ。すぐさま頭を切り替え、思考を巡らします。「基本」の大統領を始末しない限り、大統領は無限に現れ続けるはず。即死させる以外にない。……でも、大統領の顔の大群がディエゴを取り囲んでるコマには吹きました。なんだ、これ(笑)。ディエゴの切羽詰った表情もまた。
周囲を警戒する2人。大統領はどこのスキ間から現れる?……と突然、H・Pの脇にあるタンスの引き出しが開き、彼女に直撃!なんとドラえもんさながらに、引き出しの中から登場!しかも、吹っ飛ばしたH・Pと壁のスキ間から、彼女の肉体を通過して、もう1人も登場!ついでに彼女のお腹に攻撃を加えていきます。さらには、よく見りゃ引き出しからは大統領が2人!トータル3人の大統領が現れました!さっきまで2対1だったのが、あっという間に2対3。ジョニィ銃撃の時もそうだったけど、『D4C』は最大で3つの世界しか行き来できないのかな?
このシュールな光景にひるむ事なく、ディエゴは「WRYYYYYYYYYYYYYY」と雄叫びを上げ、トリオ・ザ・大統領に向かって行くッ!なんか特攻シーンみたい。このページをめくれば、急にジャイロ達にシーンが変わって、ボロボロに敗れ去ったディエゴが後で出て来そうな……。しかし、それは杞憂でした。ちゃんとディエゴとトリオ・ザ・大統領の攻防が綿密に描かれております。とりあえず、このシーンで「隣り」の大統領も『D4C』を持っている事が判明。能力がまったく同一かどうかは不明ですが。さすがのディエゴも3人相手は分が悪いのか、ちょっと追い詰められ気味。でも、「マウス」にボコられたアイアン・マイケルの二の舞いにはなりません。ディエゴにはとっておきの秘策があったのです!
H・Pの肉スプレーが炸裂した時!恐るべき現象は起こりました。なんと、トリオ・ザ・大統領にメンバーが増えてしまったのです!そこにいるのは4人の大統領。大統領カルテットの結成です。そう、肉スプレーでディエゴを変装させちゃったのです!どうやら大統領同士であっても、意思が通じ合っているワケではないらしく、誰がディエゴなのか区別が付かない様子。これも『D4C』の弱点!もちろん、質問したり『D4C』を見せ合いっこしたりすれば、偽者はすぐに分かるんでしょうけど、ディエゴにとっては一瞬の隙さえ出来れば充分ッ!2人の首を切り裂き、即死させてしまいました。見よ、この鮮やかなる奇襲!


●せっかくのトリオが一瞬で解散に追い込まれた大統領、慌てて背を向け、逃げ出します。しかし、背後からの一閃!ディエゴの手刀が腕を切り裂く!『D4C』の弱点予想が全て証明され、勝利を確信するディエゴ!ただ、このマンガは「勝ったッ!」って言うと負けるからなあ……。
大統領は窓をブチ破って、列車の外に飛び出します。この構図はブチャラティVSプロシュート兄貴を思い出させるものがありますね。今度は落下するガラスの破片で次元移動を目論んでいるのか?全てお見通しのディエゴは、それもさせません。挟む物はもう何もない!手も足も出ない大統領に、ディエゴの決定的な一撃!首にディエゴの手刀が突き刺さる!正直、防戦一方の大統領より、イケイケなディエゴの方に迫力を感じるので、この勢いで大統領も倒せるんじゃないかって本気で思えたりもしちゃいます。
ただ、大統領もこのまま終わるとは思えない。突き刺さったディエゴの腕を、逆にもっと押し込んで固定するとか。そんで地面に落下すれば、ディエゴと地面に挟まれて「隣りの世界」へ移動できるでしょう。あるいは、実はあの大統領、2人の大統領がすでに融合していた状態だったとか。元の2人に別れ、「隣り」の自分をディエゴと道連れに列車の外に放り出し、「基本」の自分は悠々と列車内に舞い戻ったりして。「遺体」化したルーシーが、大統領を救ってしまうなんて展開もあるかもしれません。虚ろな表情のルーシーが気になりますし。とにかく、毎回毎回、先が読めなくてハラハラしますね!


★今月は49ページ!毎年お盆の時期は減ページが常だったので、今年も30数ページ程度かと思いきや、いい意味で予想外でした。内容もディエゴが絡むと面白さ倍増って感じです。あの佇まいや身のこなし、実に洗練されていてカッコイイ。クールなようでいて、すんごい感情的な男ですから、こっちもグイグイ引き込まれますね!彼のほとばしる熱いパトスに圧倒されます。H・Pもナイス・サポートです。でも、やっぱしH・Pはいかつい顔してるよなあ……。
今回はまた、大統領が死にまくり。いくら殺しても死なないしつこさが不気味ですね。思えば、「SBR」にはいろんな「世界」が描かれています。リンゴォと出会ってからの「男の世界」、ルーシーやH・Pの「女の世界」、アリゾナ砂漠の「砂の世界」、恐竜ひしめく「太古の世界」、生命なき「氷の世界」、過去の罪が襲う「心の世界」、ジョニィが爪弾で自分を撃つ事により到達した「新しい世界」……。マイク・Oの口癖も「世界」でした。極め付けが、この「隣りの世界」。「SBR」は世界中から多くの人々が集まり、誰もが自分の目的・価値観・欲望のためだけに戦い抜く物語ですから、1人1人に「自分の世界」があるワケです。この広い世界には、視点や立場を変えるだけで「無限の世界」が存在するっていう事。そして、その全ての「世界」を肯定する事が人間讃歌にも繋がるのかな。……などと、とりとめもなく考えました。
作者コメントは「ネコ、あまり好きじゃあないけど、和歌山の「ネコの駅長」。会いたいです。」との事。私はネコ派なので、余計に会ってみたいです。
そして、来月号は「SBR」が表紙ッ!どんな超美麗イラストが表紙を飾ってくれるのか、今から楽しみです。そろそろクライマックスだし、巻頭カラーの方も是非ともよろしくお願いします。



(追記)
●「『D4C』は最大で3つの世界しか行き来できないのかな?」と書きましたが、よくよく考えてみれば、これは思い違いでしたね。確かに「基本の世界」に現れたのは3人の大統領ですけど、瀕死になった大統領のダメージを引き受けて死んでいった大統領が1人いたはず。つまり今回は、少なくとも4つの世界を行き来していた事になります。うっかりしてました。この分なら、5〜6人くらい「隣り」の大統領を連れて来る事も出来るかもなあ。
それともう1つ、『D4C』の能力に関する謎が。次元移動する際、2つの世界に「同一のスキ間」が無ければいけないのか?という点です。今月号で「大統領はどこかのスキ間から出て来る」とディエゴが叫んでいたし、事実、H・Pと壁のスキ間を通して出現しました。しかし、現時点ではハッキリした描写がなく、どっちでも解釈可能かと思われます。
まずは、必要ないよ説から。「同一のスキ間」は必要なく、移動元の世界でのみスキ間に挟まれればOKって説。2つの「面」に挟まった際、そのどちらかの「面」に溶け込め、それを通じて次元を超えられるのです。これなら、移動先の世界のスキ間の事は考える必要もなく、スキ間からじゃなくても出現可能。親切設定で非常に便利です。ただ、この場合の疑問点は、前述したディエゴのセリフと大統領の出現方法。前者は、ディエゴがそう思い込んじゃってただけ。後者は、「隣りの世界」でH・Pと何かの間に挟まり、彼女の肉体に溶け込んだ大統領。「基本の世界」でH・Pをわざわざ壁にぶつけなくても、こっちの彼女の肉体へ移動して来れるんだけど、たまたま壁にぶつかっちゃったので、あたかも彼女と壁の間から現れたように見えた。……とか?う〜ん。
続いて、必要だよ説。これなら当然、ディエゴのセリフと大統領の出現方法は合理的に説明できます。しかし、この場合の疑問点は、そんなにうまく「同一のスキ間」なんて作れるのか?って事。いくら似ている世界と言っても、「隣りの世界」は「鏡写しの世界」とは違います。それぞれの世界の存在は独立しています。どっかの世界のドアを開けたからって、それ以外の世界のドアまでもが同時に開くワケではありません。でなけりゃ、今回だって「基本の世界」のタンスや引き出しが勝手に動き出したりしてるでしょうからね。つまり、移動元の世界でスキ間を作っても、移動先の世界にも同じスキ間が出来るかどうかは不確定。向こうの大統領に協力してもらう事は可能でしょうけど、大統領のいなくなった世界へ戻ろうとする時だってありますし。対策は「頑張る」としか言えませんね。なるべく重力や風力などの外的な力で自然とスキ間が出来るような物から移動する……とかしないと、うまく次元移動できないかも。
結局、どちらの説もどうにか説明は付くものの、ちょいと苦しい部分もあるようです。この疑問についても、今後の描写で徐々に分かってくるかもしれませんが、私個人の感覚としては必要ないよ説の方かな。『D4C』は細かく考える程に新たな謎が生まれるなあ。


●激闘を繰り広げているディエゴと大統領。その傍らで、列車に取り残されたのはH・P。列車には今、ルーシーとスティールも乗っているワケで、これはスティール治療の絶好のチャンス!自らの肉体が「遺体」へ変貌を遂げながらも、健気なルーシーはH・Pに夫の治療を懇願するんです。それを「遺体」の聖なる言葉として受け取るのか、あるいは、「遺体」と化すルーシーに「夫を助ける代わりにわたしと共に来い」なんて取引をするのか、それは謎ですけど、H・Pはきっとスティールを救ってくれるでしょう。
荒木先生の初代担当編集者(椛島さん)は「スティールを深く描け」とアドバイスしていますし、荒木先生自身も「彼の生き方が物語に大きく関わるかもしれない」とコメントしています。まあ、これは2004年発売の「青マルジャンプ」に書かれていた事なので、今現在はどうなのか分かりませんが、もともとスティールは重要人物なんです。だから私は、彼の活躍をずっとずっと心待ちにしていたんです。でも、今の今までまるでいいトコなし!嫁のルーシーが必死で戦っている一方で、彼は何も知らない傍観者、そして被害者でしかありませんでした。もうレースもバトルも終盤、そろそろスティールの出番なんじゃないですか!?
大統領にいいように利用され続け、愛しのルーシーもこっぴどい目にばかり遭わされ……、ここらで立ち上がらねばいつ立ち上がるのか?今度はルーシーを護るために、最高権力者たる大統領にも絶対者たる「遺体(=あの方)」にも全力で逆らってほしいです。元ボクサーのごっついパンチをお見舞いしてやってほしいです。それでこそ「男の世界」、「男のロマン」ですよ。青臭いロマンとラブが、ドス黒い野望や真の力(パワー)にさえ打ち勝つ様を期待しております。




(2009年8月20日)
(2009年8月26日:追記)




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