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待てッ! 止まれッ! ジャイロ!止まれッ!

Dioが死んだ!


#51 最後の砦





●今月のウルジャンは「SBR」が表紙ッ!年に1〜2回の貴重な機会です。さあ、今度はどんな超美麗なカラーイラストが拝めるんでしょうか!
……と思って、心して観てみたら、あらビックリ。なんと色が無い!いや、正確には青オンリーです。白黒イラストの上に、乱雑に筆を走らせたかのようなダイナミックすぎる青ッ!ともすれば「手抜き!?」なんて思っちゃいかねませんが、これが観れば観るほどに味わい深い。ジャイロとジョニィの魂から湧き上がる気迫が空間を支配しているようでもあり、「静」と「動」を同時に感じさせるスタイリッシュな1枚となっています。荒木先生のセンス爆発です。もっとカラフルな絵が観たかった気持ちもあるけど、「SBR」らしい空気を帯びてて最高カッコイイ。
今月で19巻収録分も溜まった事だし、19巻の表紙イラストがこの絵のアレンジでもいいなあ〜。


トビラ絵は前回のディエゴ&H・Pに対抗して、ジャイロとジョニィの主人公コンビ!2人して腕を掲げ、上をビッと指差しています。普通に立ってるだけだった控えめなディエゴ&H・Pに、「いいか、よく見とけ。トビラ絵ってのはこうやって決めるんだ」とでも言いたげです。「ほぉ〜ら、最高にイケてるだろ?」と言わんばかりの、妙に自信満々な表情のジョニィがイヤです。
……というワケで、今回はジャイロとジョニィが動き出しましたよッ!いよいよ真打ちの御登場です。


●さて、本編。首をスッパリ切り裂かれる大統領、勝利を確信した微笑を浮かべるディエゴ。そのままディエゴは最後のダメ押し!鋭い爪で大統領の全身を縦に切り裂くッ!今回のディエゴもテンションMAX!

「切り裂いた首のその傷はッ! オレがいた人間世界の悲惨の「線」だ…」
「WRYYYYYYY―――ッ そして これがッ! それを越えた線ッ!」
「このオレがッ!!」
「手に入れるこの世界への「線」だッ!!」


言葉の意味はよく分からんが、とにかくスゴいセリフです。まあ、訳すると「これでとどめだッ!」って事ですね。もっと言うなら……、ここで大統領を殺す事で、「遺体」を独占する事で、自分の世界がドン底から天空へと大きく引き上げられると信じてるんでしょう。大統領への2つの傷・2本の線は、彼にとって世界の境界線であると共に、禊ぎの儀式でもあるのかもしれません。腐り切った世界の底の底で這いずり回っていた、今までの自分との別離と決着。世界と神の力を手に入れ、全てを遥か上空から見下ろして支配する、これからの自分への賛美と誓約。それらの証とも言える傷が十字をかたどっているのは、彼の「祈り」にも似た強い意志の現れのようでもあります。ディエゴの咆哮は、どこか物悲しく見える。
十字に裂かれた大統領。腹からは血と内臓が溢れ、『D4C』も同じように割れ、もはや死は間違いない!ディエゴの勝利か!?……そう思った次の瞬間、ディエゴの胴に大統領の脚が絡み付く!まだかすかに息があった模様です。そして、最期の力を振り絞り、大統領は爆走する機関車の車輪と線路の間へッ!機関車が猛スピードで線路の上を走り、車中のH・Pには悪い予感が走ります。
――機関車が走り去った線路の上。大統領はすでに消えていました。「隣りの世界」へまんまと逃げおおせたのです。体を十字に切り裂かれても生き延びた大統領、十字架に磔にされても息を吹き返したイエス様。2人の姿がちょっと重なりますね。しぶといやっちゃ。
それでも、なお自分の勝利を疑わないのはディエゴ。しかし、その姿は血まみれ。眼差しと意識は朦朧としております。それもそのはず。ディエゴは機関車の車輪に巻き込まれ、胴体を真っ二つに切断されてしまったのです!その惨状は、ツェペリさんを彷彿とさせますよ。おいおい、本当にこんなトコで死んじゃうの!?いくら敗北臭プンプンだったとは言え、これはショック……ッ!死んでほしくないなあ〜。全速力で治すんだ、H・P!まだジャイロやジョニィともマトモに決着つけてないのに、死ぬのは早いぞ!


●そんな大統領とディエゴの死闘を、距離を置いて覗いていたのがジャイロ&ジョニィ。まさかのディエゴの敗北と死(?)に、2人とも大統領への警戒を強めます。恐ろしいのは『D4C』の能力以上に、大統領の素早く的確な決断力。先程の車輪と線路の件も、逃走と攻撃を同時にやってのける見事な決断でしたし。決断、か。ジャイロもジョニィも、いつも決断を迫られる時は迷い悩みまくってますからねえ。そういう意味においても、彼らにとって大統領は超えるべき壁なのかも。
「遺体」を揃えた大統領は、争奪戦に関わった者を全員、家族も含めて闇に葬ろうとするはず。レースをやめるなら、祖国に帰るなら、今が最後のチャンス。どうする?2人に「決断」が迫られます。
ジャイロは唐突に「お互いの秘密を言い合おうぜ」と提案してきました。まずはジャイロから。なんと「ジャイロ」という名は愛称・渾名であり、本名は「ユリウス・カエサル・ツェペリ」というのだそう。父上が付けてくれた名で、弟さえもこの本名は知らない。まさしくトップ・シークレット。ジャイロが顔を赤くするくらい恥ずかしい秘密のようです。英語読みだと「ジュリアス・シーザー」。ローマ皇帝と同じ名前。それのみならず、ジョジョファンにとって「シーザー」の名を持つツェペリって事実は、不思議な感動を起こさせますね。荒木先生、シーザーのこと全然語らないし描いてくれないから、忘れてるのかと思ってた。いやはや、今年最大のヒットでございました。
続いて、ジョニィの暴露。「ジョナサン・ジョースター」が本名ってのはあっさり答えてましたが、彼にはもっともっと恥ずかしい秘密があったのです。ジョニィは、蚊に刺されて赤く膨れた女の子の皮膚に興奮する虫さされフェチだったのです。なんとマニアックな。自分の性癖を告白したジョニィも、真っ赤な顔。でもまあ、生粋の手フェチの吉良さんにはまだまだ遠く及びませんよ。
こんな危機的状況で何をバカやってんだ?……ってな笑えるノリですが、彼らにとっては重要な意味を持ちます。自分の最も深い部分を曝け出し合った事は、信頼と友情の証明であり、絶対に生き抜くという約束であり、何よりお互いの命と魂を分け合う儀式に他なりません。2人はもはや一蓮托生・一心同体。やっぱこの2人の間に流れる空気って心地良いですね。ジョニィの瞳も、漆黒の炎で滾っていたのがウソのように清らかですよ。
そうして2人は「行く」事を決断しました。いや、初めから決断ですら無かったのでしょう。列車を追い、ルーシーを救い出す。それが今の2人の一番の目的。2人には何の迷いもありません。

魂は互いに託す
             最後の決戦のために――



●馬を走らせるジョニィ、今まで折り曲げていたヒザを伸ばし、ついに鐙に足を掛けるッ!
ジャイロから「騎兵の回転」の話を聞き、本来の馬の乗り方をすると決めたようで、彼の靴には拍車も付けられています。その拍車が馬の振動で回転し始め、そのエネルギーがジョニィの脚から腰、腰から上半身、そして腕から手・指へと伝わっていく!見るからに、とんでもない回転エネルギーです。この回転の始まりを拍車にしたってのは、絵的なインパクトと説得力があるナイス・アイディアですね。
早くもジョニィは「何か」を確かに感じ、掴みかけている様子。さすがは独学でコルクを回した男!飲み込み、早すぎ!鐙で両脚を踏ん張れて、本気で回転させようものなら、一体どれだけ凄まじいエネルギーを生み出す事やら。閉塞した暗闇に風穴をブチ抜く一撃になりそうです。どう描かれるのか、何が起こるのか、期待に胸膨らみますよ。
ちなみに、久々にチュミーちゃんも登場です。何故かACT2状態に戻っちゃってますけど。もしかしてACT3状態は、爪弾の「穴」に肉体を巻き込んでいる時限定のヴィジョンなのかな?いずれにせよ、「遺体」を失っても守護聖霊たるチュミーちゃんが憑いてくれてる限り、ジョニィは「遺体」から見捨てられる事はないでしょう。


●ツェペリ一族の伝承を再現しつつあるジョニィにも気付かず、ジャイロは1つの疑問を口にします。大統領が乗っている機関車は誰が運転している?大統領の他にもう1人、運転している機関士がいるはず。考えてみれば、その通りですね。しかも、「遺体」と関わった者を皆殺しにしようとする大統領が、この最後の局面で行動を共にする事を許す程の人物!絶対の信頼を寄せている存在なのかも。一体、何者?まさか副大統領でも出て来るのか?(笑)
そして、そんな疑問に答えてくれるかのように、不穏な違和感が迫る。「クマに注意!」と書かれた看板が、どういうワケか、ジャイロ達を追い掛けて移動している?さっきは明らかに林の中にあったのに、ジャイロ達が林を出て行くと、看板まで林の外の位置に。ふと後ろを振り向くと近付いている看板。まるで「ダルマさんが転んだ」です。この期に及んで、新手のスタンド使い!?話の流れ上、「遺体」の能力の一端って可能性も低そうだし。意外すぎる展開になってきましたね。
う〜む、どんな能力のスタンドなんでしょか?仮に機関士さんのスタンドだとしたら、けっこう射程の広い能力ですよね。ジャイロ達だけを狙い撃ちにしているのか、あの辺一帯が敵のフィールドと化しているのか、そこも謎です。個人的には後者な気がしてますが。大統領が「遺体」を置いたまま「隣りの世界」へ逃げた途端に、この謎の現象です。大統領にとって、「遺体」の番人とも言えるスタンドなのでは?大統領がいなくなった「基本の世界」で、「遺体」に近付こうとする者を無差別に襲う能力。それこそが最後の砦なんです、たぶん。
あの看板に追い付かれたら、クマの絵が本物のクマになって襲って来る……とか?なんかありきたりな能力しか出て来ない。もし何か良い考えが浮かんだら、追記でもしようかと思います。


★今月は31ページ!正直、残念無念なページ数。でも、その分、内容は詰め込まれてましたね!面白かったです。ディエゴの生死も気になるし、ジャイロとジョニィのイカしたやりとりは心穏やかになれるし、新たな敵の気配に緊迫するし……、とにかく目が離せない!「SBR」は20巻(「ジョジョ」通算100巻)で完結するのではと以前は考えてたけど、こりゃあとても終わりそうにないな。22〜23巻くらいまでは続きそうな予感。まだまだ楽しませてもらいましょう。
作者コメントは「映画『96時間』良かったです。スタイリッシュで泣けるという奇跡の傑作、ありがとう。」との事。この映画はまだ見てませんが、荒木先生がそこまで絶賛するのなら観てみよっかなあ?スタイリッシュで泣けるってのは「SBR」も共通してると思いますです。
そして、付録のウルジャン創刊10周年記念イラストメッセージ集!荒木先生の描き下ろしラフ画も観られますッ!今回のトビラ絵にちょっと似てる構図のジャイロとジョニィ。ラフ画だとまた雰囲気が違って、渋みが増してます。コミックスでも感じたけど、やっぱ最近はラフ画もけっこう丁寧に描かれてるよなあ。それにしてもジョニィ、ほっぺたの縫い傷は最後までそのままなんでしょうか?カッコイイのか悪いのか微妙ですが、当分はジョニィのデザインの中に組み込まれそうです。



(追記)
●さて、例の「クマの看板」の能力について。この局面で登場するくらいですから、作品的にもストーリー的にも意味のある能力となるはず。精神・哲学といったものに関わる、作品のテーマ性・メッセージ性を内包した能力と考えられます。……で、クマと聞いて思い出すのは、やはりH・Pの過去でしょう。弟をクマに差し出し、自分だけ助かってしまった、H・Pの最も忌まわしい記憶。このスタンドは、相手が最も恐怖するものを出現させる能力なのかも。
大統領がディエゴとの戦いで列車から出て行ってしまい、「遺体」(=ルーシー)のそばに残るのはH・P。「遺体」が大統領以外の者の手に渡らぬよう、この謎の敵が能力を発動させたのです。今、真っ先に襲われているのは当然、H・P!このスタンドは射程のだだっ広い能力で、ジャイロ達のいる地点も射程内。この能力に狙われたH・Pの「恐怖」の象徴が、射程内の人間にも襲い掛かります。それは最初、「警告」という形で現れ、相手を足止め。しかし、「警告」を無視して先に進もうとすると、「遺体」に近付こうとすると、その「恐怖」は背後から迫って襲撃して来るのです。今回の場合、「警告」は看板となり、このままだとジャイロ達に追い付いた看板はクマそのものと化し、H・Pが抱く「恐怖」の分だけジャイロ達の命を脅かす事になるでしょう。
クマの脅威を退けたとしても、今度はジャイロ達自身の「恐怖」の象徴が襲って来ます。それは恐らく、ジャイロにとっては「父・グレゴリオ」、ジョニィにとっては「兄・ニコラス」なのではないかと思います。ジャイロは父上を心から尊敬すると共に、同じ分だけ恐怖もしているのではないかと。父親として慕いながらも、畏敬の対象でもあるはず。ジョニィは大好きな兄を自分のせいで死なせてしまったという意識から、兄に憎まれる事を恐れている気がします。『シビル・ウォー』戦でもそれが色濃く反映されていますね。そして……、両者に共通するのは「絶対に超えられない存在」という点。死刑執行人と騎手、それぞれ立場は自分と同じ。でも、自分の想いを「感傷に過ぎない」と父上に一喝され、かと言って、父上や自分自身を納得させられるだけの「答え」もまだ見付けられずにいるジャイロ。両親の愛情を一身に受け、羨望と憧憬の対象でもあった兄を永遠に失い、追い越したくても追い越せずにいるジョニィ。
そんな彼らにとって、この「恐怖の世界」は願ってもいないチャンスでもあります。ボスも言ってましたね。「恐怖」は打ち砕かなくてはならない。それが「生きる」という事だ、と。きっとジャイロとジョニィは、ここで自分の心の奥底にへばり付く「恐怖」を打ち砕き、男としてさらに生長するに違いありませんッ!特にジョニィは劇的に描かれそうです。何せ、馬のエネルギーを利用する「騎兵の回転」がありますからね。それはつまり、速く走れば走るほど強くなるエネルギーと思われます。「過去」と「恐怖」と自分の弱さを乗り越え、ニコラスの亡霊を追い抜く事が出来た時、ジョニィの「回転」はもう一段階上のステージへと昇るはず。増してや、ジャイロのように「光の道」モードになれたなら、紛れもなき究極のパワーを生み出しちゃいそうです。
――そんな感じの能力と展開になると予想しますが、では本体は何者なのか!?絶対的な「信頼」か「安心」か、どちらかを大統領に抱かれている者のはず。大統領を盲信する側近中の側近?「遺体」を求めようともしない、大統領の忠実なるペット(人間でさえない)?それとも、ネアポリス王国に「遺体」が渡ってほしくない反国王一派のリーダー格?……う〜ん、謎だ。


ディエゴの生死について。結論から言うと、生きていると思います。生まれたばかりの頃から命の力の強い人間だった彼が、ここで死ぬはずがないッ!じゃあ、一体どうやって?H・Pが助けに来てくれる?切断された上半身と下半身を別々の恐竜にしちゃう?ジャイロがゾンビ馬で縫合してくれる?……いえいえ、もっとシンプルな方法があるんです。
それは……、『クリーム・スターター』の肉クリーム。ただし、H・Pの助けなどいらないんです。何故なら、すでにディエゴ自身が持っているから。彼が列車を飛び出し、車輪に轢かれてしまう直前の出来事を思い出してみてください。そうです。ディエゴはH・Pの肉スプレーを全身に浴び、大統領に変身していたじゃありませんか!その肉クリームの一部がまだ彼の肉体に纏わり付いていたとしても、決して不自然な事ではないでしょう。それを使って、切断された肉体をくっ付けるんです。もちろん、さすがのディエゴもそこまで読んでいたワケではありません。悪運の強さゆえの偶然です。
果たして、すぐさま第一線に復帰できるかどうかは分かりませんが、ディエゴが生き延びる可能性はまだまだ充分に残されているって事です。何度倒しても、再び現れる。そのしぶとさこそ「ディオ」




(2009年9月18日)
(2009年10月11日:追記)




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