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『力』!! 『栄光』!! 『幸福』! 『文明』 『法律』 『金』! 『食糧』 『民衆の心』!!
このわたしがッ! 最初のナプキンを 手にしたぞッ!


#53 現象と女神





●トビラ絵は「遺体」化したルーシー。気を失い続けている本編とは違い、瞳には確かな意志が宿り、しっかりと立ち上がっています。
それにしても、なんて姿でしょうか。瑞々しい肌はすっかり乾き切り、滑らかな関節はまるで人形のようにぎこちなく、サラサラヘアーもやたら鋭角的なカクカクヘアーとなってしまってます。考えようによっちゃ14歳の処女のまま出産するよりは、まだなんぼかマシなのかもしれないけど。こんな人外の姿から、元のプリティーガールに戻れるのはいつの日か?かわいそうなルーシーです。


●では、本編に。ルーシーを中心に全てが引き寄せられる現象。「遺体」が発現した新しい能力。しかし、この現象について、大統領は認識を改めます。ワイングラスとコップが重なり合ってくっ付いている部分に手を伸ばすと……、なんとそこを境に大統領の手が裂けていくではありませんか!これは「空間のスキ間」。ルーシーを中心に空間が歪み、スキ間の面が生じていたのです。そして、大統領だけが「空間のスキ間」に入り込め、自由に動く事が出来る。この現象は「遺体」ではなく、大統領の能力だったのです!「遺体」が能力を引き出してくれている。『D4C』のさらなる段階!……いや、「遺体」が大統領のための能力を発動しているという方がより正確なのかな?コップの水が割れたのもこの能力だったのか。
こいつは驚きの展開。『D4C』(のため)の能力なのだとすれば、恐らく「空間のスキ間」に挟まれる事でも「隣りの世界」へ移動できるんでしょう。この期に及んでのパワ−アップ!いよいよ大統領もラスボスっぽくなってきましたよ。3〜6部までのラスボス達は「時間」の能力だったけど、大統領はトコトン「空間」に特化していますね。
大統領が窓から眺める景色がどんどん寄って来る描写も、奇妙で不思議な光景です。遥か遠くの山々と麓の町、そして農作業をしている人々。それらがグングン近付いて来る。この辺は映像で見ても面白そうですね。


●爆走する機関車の運転室へと、ジャイロとジョニィが迫ります。ジャイロはすでにヴァルキリーを降り、機関車に飛び乗っていました。これはレース的には明らかな反則。もしバレたら即失格でしょうが、バレなきゃ反則じゃないのです。謎の機関士に接近し、すかさずジャイロが攻撃に飛び込む!……ところが、そこにあったのは1枚の鏡。その鏡からは、男の肉体の一部だけが出ていて、操縦ハンドルを必死に押さえていたのです。よく見れば、彼の右足は切断されている模様。あまりに異様すぎる光景!
ジャイロは彼に「何者だ!立て!」と怒鳴るものの、ジョニィはその正体に気付いていました。これは大統領の仕業。この機関士のおっさんは、ただの被害者。国旗から「隣りの世界」に上半身だけ引きずり込まれたディエゴのように。おっさんも鏡から「隣りの世界」へ送り込まれ、顔と両手両脚は「基本の世界」に残っているという状態にさせられていたのです。何故、そんな中途半端な状態にしたのか?これぞ大統領の恐ろしさ!大統領は「隣り」のおっさんの両手両脚を切断し、それを「基本」のおっさんの体にロープで縛り付けていました。こんな状態では、「基本の世界」に戻っても両手両脚が吹っ飛び、「隣りの世界」に入っても即死・消滅。かと言って、鏡を割るのも恐らく危険。どう転んでも絶望的です。彼はヘタに動く事も出来ず、黙って操縦ハンドルを握り続ける以外にない。そして、全てが終わってからの口封じも自動的。完璧なるトラップですよ。
これにはさすがのジャイロも唖然・ボー然。つーか、ジャイロにとっては初めて目の当たりにする「隣りの世界」。もう1人の自分がいる、もう1つの世界。その存在に、改めてオッタマゲています。でも、ちょいと腑に落ちないのが、鏡なのに「隣りの世界」が映っている点。おっさんの全身像も確認できるし、「隣り」でブッ倒れてるおっさんも見えてます。『マン・イン・ザ・ミラー』じゃあるまいし。まあ、「隣りの世界」との扉になっている間は、ガラス窓のように向こうの様子も覗き込めるのかな。あと、崩壊・消滅の条件がハッキリしませんね。何故、ディエゴとの初戦だけは、互いに認識し合っただけで崩壊が始まってしまったのか?ある程度は大統領が調整できるため?「遺体」を持って入ったディエゴは、世界にとって危険な存在と見なされたため?「隣りの世界」、ジャイロにとっても我々にとっても謎だらけです。
運も悪く給料も安い哀れなおっさんですが、ジャイロ達が大統領に勝つ事を祈ってあげましょう。口調はそっけなく冷たいものの、本当なら止めたいはずの機関車を走らせ続けようとしてる辺り、やっぱり基本はお人好しなジャイロなのでした。頑張れ、おっさん。


●視点は大統領へ。窓を見ると、そこにはジョニィの姿ッ!ついに追い付いた!「漆黒の殺意」を燃やして指を構えるジョニィ、ルーシーを抱き寄せる大統領。2人の鋭い視線が交差するッ!うおうッ!このシーン、めっちゃ燃える!主役とラスボスの対峙です!
ジョニィは躊躇いなく爪弾を発射します。盾にされた上に、迷わず撃ち抜かれるルーシー。何てヤツらだ……。しかし、爪弾は「弾痕」となって、大統領を追尾!ビックリして逃げ出す大統領、たまらず大股開きです。ところが……、どジャアァァ〜〜んと「弾痕」を新聞紙で挟んじゃいました。まるで手品のように消え去る「弾痕」。ところがところが、「弾痕」はすでに大統領の両手に移動していたのです!「穴」は「穴」。「穴」とは物質に開いた空間でしかありません。物質なら「隣りの世界」に送り込めても、「穴」そのものには効果がないのです!大統領、ピンチ!
追い詰められた大統領が取った行動。それは、「弾痕」が回転する両手を「空間のスキ間」に突っ込む事!すると、窓の外で農作業中の人達の頭がブチ抜かれたではないですか。そう、爪弾の「弾痕」が彼らへと移動したのです。その時、大統領は全てを悟りました。「遺体」に選ばれたルーシーこそ「女神」。「陽」のあたる所には必ず「陰」があり、幸福のある所には必ず反対側に不幸な者がいる。神の視点で見るならば、この世の「幸福」「不幸」はプラスマイナス「ゼロ」「安定した平和」とは、平等なる者同士の固い「握手」よりも、絶対的優位に立つ者が治める事で成り立つのがこの「人の世」の現実。全てが引き寄せられるこの現象……、集まって来ているのは「地面」だけではなかったのです。大統領にとっての「吉良」なるものまでも集まって来ていたのです!あ、「きら」じゃないよ。「きちりょう」ね。
つまり、この新たな能力は一種のフィルター。発動中は、大統領にとっての「害悪」なるものを退け、「吉良」なるものを引き付ける。H・Pがこの能力であっさり倒されたのも、「害悪」であったからなんです。そして、引き寄せられた「吉良」は「空間のスキ間」に集められる。そのスキ間に「害悪」は存在できず、遥か向こうへと吹っ飛ばされるのです。「弾痕」もそうやって遠くの農民達に飛ばされ、大統領は無傷でいられたという事。「空間のスキ間」に自由に入れるのは大統領だけ。即ち、良い事は最優先でGETして、悪い事はどっかの誰かにプレゼント。これぞ「遺体」を揃えた者だけの特権!これぞ円卓の「最初のナプキン」


●ジャイロももちろん、大統領に害なす者。この能力の餌食になるのも当然と言えましょう。前回、謎の魚に噛まれた傷そのものが引っ張られ、移動していきます。そして、H・Pと同様にブチンッ!と首の血管が切れ、血を吹き出し、倒れてしまいました。まさか最終決戦を迎えようという大事な時に、こんな事でジャイロが戦線離脱してしまうなんて!ただ、逆にH・Pもジャイロもまとめて助かる道が示されそうな気もしてきます。
「空間のスキ間」を通って、ジョニィの目の前に現れる大統領。今こそ全てを終わらせる時ッ!もはやジョニィだけが頼りです。いよいよ次号からジョニィVS大統領の幕開け!期待や興奮をするなって言う方が無理ってもんですね。でも、機関車から降りての戦いとなると、ジョニィの「騎兵の回転」はどう生み出されるのやら?馬で激走しながらの方がスピード感もあるし、自然と「回転」を生み出せそうな雰囲気がするんですけど。まあ、大統領としてもルーシーから離れたくはないでしょうから、「スキ間」を使ってヒット&アウェイを繰り返す腹積もりなのかも?


★今月は49ページ!いやはや、今回は大盛り上がりでした。一気にストーリーが加速してきましたね。戦いもせずジャイロがブッ倒れちゃったのは残念すぎるけど、やっぱりジョニィがいないと始まりませんよ。
とうとう大統領もナプキンを手にし、ただでさえ死んでも死なないのに、ますます無敵になっちゃって。でも、これだけで終わりとは思えない。「遺体」の真のパワーはこれから発揮されるのでは?このまま行けば、どんどん世界が集まっていき、やがては2分化されそう。「吉良の世界」「害悪の世界」とに、ハッキリ分かれる事になると思います。「吉良の世界」で大統領は、まさしく神に等しい存在に。しかし最終的には、ありとあらゆる「害悪」に襲われて死んだりして。
あと、古代魚なのではと物議をかもした例の川魚。あれに噛まれたのは、ここでジャイロを離脱させるためだけ?ディエゴとか古生代とか、そんなのまったく関係なく終了しそうな予感がたっぷり。いろんな事が気になって、一刻も早く来月号が読みたいです。
作者コメントは「CDの『紙ジャケット』ってのを集めるの趣味にしてるけど、売り切れスゴい多い。」との事。CD、全然買わなくなっちゃったなあ。



(追記)
●先に述べた通り、「遺体」の真のパワー目的はまだまだこんなもんじゃないと思っとります。この世界の「吉」がどんどん集まり、「凶」だけが取り残されていく。今は大統領しか入り込めない「スキ間」に過ぎぬ「吉良」ですが、徐々に広がりを増し、やがて大統領の「吉」となる者をも取り込んでいくでしょう。それが究極に達すれば、自ずと世界は2分化される。「天国」とも呼べる「吉良の世界」と、「地獄」とも呼べる「害悪の世界」。プラマイゼロの「幸福」と「不幸」が完全に分かれてしまった世界です。「吉良の世界」の中で、運命の流れに味方され、この世の「幸福」を独占する。そして、第2のイエス・キリストとして尊敬され、神の如き存在となる。それこそが大統領の目指したものなのかもしれません。
……が、果たして本当にそんな事をイエス様は望んでいるのか?答えはNOです。「遺体」の真の目的は、むしろまったくの逆なんです。この世を「天国」と「地獄」に分けたのも、自らがあえて「地獄」に落ち、あらゆる「害」を一身に背負うためだったのです。全人類の「原罪」を背負って、十字架に磔にされたイエス・キリストのように……。全ての「不幸」や「罪」を、大統領が背負わせられる事となるでしょう。それでこそ第2のイエス・キリストです。それら「害悪」が完全に清められるまで、大統領は何度も何度もひどい目に遭わされ、何度も何度も死に続けます。しかし、全ての「害悪」の中には「隣りの世界」の分までも含まれていたのです。「隣りの世界」が無限に存在するならば、大統領もまた無限に死に続ける。第2のイエス・キリストであり、第2のディアボロでもありますね。
大統領が「害悪」を背負ってくれたため、大統領以外の全てが神の祝福を受ける事に。人間世界の悲惨は大いに救われ、世の中がハッピーな方向へと導かれていくのです。いろんな偶然が重なって、ジャイロやH・P、スティール夫妻も助かり、もしかしたらディエゴも復活を果たしちゃったりもするかも?いやいや、それどころかまさかイケメンまでも……!?そして、SBRレースは最終ステージに突入!ジャイロは惜しくも優勝を逃してしまうものの、これまた不思議な運命の流れによって、マルコの無罪が証明されたりするんです。世界の運命は「選ばれた奇跡」の中へ。
――そういうハッピー・エンドも想像してみました。まあ、現実はそんなに甘くはないでしょうが、予想の1つとして。




(2009年11月18日)
(2009年11月19日:追記)




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