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第4部 東方 仗助

「ダイヤモンドは砕けない」





「週刊少年ジャンプ」1992年20号〜1995年51号まで連載されました。
ジョセフの隠し子:東方仗助が主人公となる第4部。世紀末1999年の日本、地方都市・杜王町での物語。3部での大人気ゆえ、「ジョジョ」を完結させる事が編集部から許されなかったために始まっただけあって、主人公の存在や名前からしていきなり強引です。4部だけサブタイトルが付けられなかった事からも、ほとんどストーリーを考えていないまま見切り発車したであろう事が窺えます。
そんな4部ですが、世間での評価は恐らく賛否両論。世界を股にかけての旅ではなく、たった1つの町の中で物語が進んでいく。DIOやカーズのようなストレートで強力な悪役もおらず、人の心をネチネチと攻めて来るタイプの地味な敵ばかり。罠を張り巡らせ、じっくりと待ち構えています。今までの「ジョジョ」と同じものを求めていると面食らい、消化不良な感じがして不満を覚えてしまうのでしょう。4部で脱落したファンも多かったと聞き及んでいます。
しかし、それこそが4部ならではの個性であり魅力。強さやスケールの単純なインフレに対する、荒木先生の回答なのです。日常の中に潜む恐怖、平和の中に蠢く狂気……、そういう根元的な「怖さ」・生理的な「気持ち悪さ」が心の弱い部分を鷲掴みにしてきます。トニオさんや辻彩のエピソード、仗助と露伴先生のチンチロ勝負など、善と悪のバトル以外のお遊びも盛りだくさん。荒木先生が描きたい事を自由に楽しんで描いているのが伝わってきました。バラエティー・コメディーサイコ・サスペンス、その両方を堪能する事が出来ます。
4部は荒木先生にとっても思い入れが深く、特別な部であるようです。仗助と吉良は先生お気に入りのキャラですし、「杜王町を永遠の世界に閉じ込めておきたかった」とまで言わしめている程。サイド・ストーリーや続編が一番作りやすいでしょうし、いつかまた新しい杜王町の話を描いてほしいものですね。ジャンプのウソ予告にあった「ぶどうヶ丘高校の七不思議」とか「謎の骨董品屋」とか「双子の転校生」とかも、あれこれ想像を掻き立てられて楽しかったなあ。



<ストーリー>
割と直線的で一本道な構成の1〜3部と比べると、4部は網の目状の複雑な構成になっています。と言うか、「こち亀」や「サザエさん」のようなものを目指していたらしく、各エピソードが独立して点在する形式が取られています。そのため、物語の芯が無くてダラダラしてると思う人と、短編集っぽく気楽に読めて良いと感じる人に分かれるのかもしれません。
謎の『弓と矢』から生み出された悪のスタンド使いから「町を守る」という根本の目的は一貫していますが、倒すべき敵にしても「アンジェロ→形兆→音石→吉良」と変わっていきます。ラスボスがハッキリしないから、物語の展開も終着点も不明瞭。確かにフラフラとした印象を受けるのも止むを得ません。しかし、これもまた「現時点のエピソードだけに集中してほしい」との、荒木先生の考えによるものだったみたいです。あらかじめ定められたストーリーをキャラに演じさせるために描かれたのではなく、町を作り、キャラを描いていったら、それが何となくストーリーになっていったってのが4部と言えるでしょう。
行き当たりばったりもいいトコな4部ですが、それでもしっかりまとまり、無駄な話も無く、決めるべき所で決めているのはさすがです。以前のエピソードが後々生きてくる所がゾクゾクしましたね。吉良が『シンデレラ』の能力で逃げ切ったり、早人が猫草で吉良を殺そうとしたり、空気弾を爆弾として利用するために猫草を育てていた事が分かったり……。こーゆー点が線になっていく感覚がたまりません。

舞台が「町」であるため、必然的に「家」や「家族」の描写も増えます。ごくごく平凡で幸せそうな広瀬家、DIOと浅からぬ因縁にあった悲しき虹村家、殺人鬼の存在で絆が深まった皮肉な川尻家。ディティールにこだわった岸辺邸に、裕福に見えるけど不気味な吉良邸、極めつけが鉄塔を改造しちゃった鋼田一邸!
そんな中で特に印象強いのが、仗助とジョセフの奇妙な父子関係でした。生まれて初めて出会ってギクシャクする不自然な2人が、透明の赤ちゃんを通じてちょっと打ち解け、最後には「父親」「誇り高き息子」と互いに認め合えるようになれたのが嬉しかったです。寂しい別れも結局ギャグになってしまう辺り、なんともこの2人らしい微笑ましいオチ。この物語における「家族」と言えば、やっぱりジョースター家ですよね。
億泰の親父さんや透明の赤ちゃんなど、重大な布石と思いきや何でもなかったってのが多いのも特徴です。もっと話を膨らませられただろうに、ちょっともったいない気はします。でも、そんな未消化っぽい部分も含めての、奇妙な杜王町。あれはあれで良いのでしょう。物語の中で全てが解決するワケではなく、仗助達の日常はこれからもずっと続いていくのです。4部は、読めば読むほど味が出る。


<キャラクター>
個性派揃いの2部連中をも凌ぐ、海千山千のキワモノ共が大集結しております。私個人の意見としては、4部が最もキャラ立ちしている部だと思いますね。他の部だと、性格を問わず「旅をして戦う」という行動が大前提になっており、主に「どうして戦うのか?」「どのように戦うのか?」といった動機や反応の部分で個性が深まっていました。しかし町を舞台とした4部の場合、皆が皆、正義のために戦うワケではなく、それぞれが好き勝手に自分のペースで生活・人生を送っています。つまり、行動そのものでキャラクターが表現されているのです。
愛こそ全ての由花子さん、料理で人を喜ばせる事だけが生き甲斐のトニオさん、マンガに命を書ける露伴先生、カネにうるさい重ちー、ジャンケン大好きの大柳少年、自称・宇宙人の未起隆、スケコマシ兼ナルシストな暴走族・裕也、鉄塔で暮らす鋼田一……などなど。これだけバラエティーに富んだキャラで溢れる部は他にないでしょう。基本的に4部でのバトルは、あくまで結果であって目的ではないのです。まず彼らの異常な行動ありきで、それが徐々にエスカレートし、やがてバトルに発展してしまうケースが多いですし。
町が舞台だから、一度倒されても、後のエピソードで再登場する事もよくあります。それゆえに印象に残りやすいっていうのもあるんでしょうね。使い捨てられるキャラが少ないのがイイです。

私が特に好きなのは、吉良吉影。手フェチの変態殺人鬼であるにも関わらず、目立たずに平穏な人生を目指しているという、4部のラスボス的存在。4部キャラ全体に言える事ですが、生活臭に満ちていてリアリティーがあるんですよね。恐怖しながらも、どこかで理解や共感もしてしまっている……。吉良はその最たるものです。死して幽霊となっても尚、平穏な生活を求め続ける姿には尊敬の念すら抱きます。
康一くん早人も、その見事な活躍で魅せてくれました。弱々しく頼りなかった少年が力強く成長していくってのは少年漫画の王道。康一くんはスタンドの成長という形で、早人は能力を持たぬ一般人なのに無敵の『バイツァ・ダスト』を破るという形で、我々読者の魂を熱くしてくれました。ごく普通の少年だったこの2人は「杜王町の住人」の象徴的役割も持っていて、彼らを通して見た4部だからこそ身近に感じられるし、「自分達の町と家族を守る」という目的にも感情移入しやすくなっているのでしょう。
2部から連続出演のジョセフは、もはやすっかり老いぼれてしまっています。年齢が年齢だけに仕方ないとは言え、ガッカリした人もいた事でしょう。しかし、ジョースター家の法則を清々しいまでに無視した破天荒な生き様は健在です。かつてはヒーローを演じた男ですが、そんな事はお構いなし。時間の流れと共に堂々と「老い」を迎えてくれた彼こそ、紛れもなき人間の人間らしい姿だと思いました。ヒーローであり続けた承太郎とは対極の位置にいると言えます。
そして、主人公の仗助。強烈な個性こそありませんが、その親しみやすさが彼の持ち味。別に運命の女性的ヒロインもいないし、際立って知力や体力が優れているワケでもないし、誰とでも仲良くなれるワケでもない。マンガの主人公としての完璧さではなく、人としての普通のいびつさが仗助にはあります。彼は常に誰かと共に行動し戦っていますが(単独だったのは億泰戦くらい?)、その名の通り、「他のキャラを護り、助ける」という役割を担っていたのかもしれません。仗助が絡む事により、そのキャラの個性もより一層引き立つのです。


<バトル>
スタンドというシステムを、ようやく荒木先生自身も理解し、使いこなせるようになってきた印象を受けます。それぞれのスタンドに「能力」(技やギミックじゃなく)が存在し、異なる能力同士のぶつかり合いという部分が強調されてきていますね。『バッド・カンパニー』や『ハーヴェスト』のような群体タイプ、『シアーハートアタック』のような自動操縦タイプ、『エコーズ』のような成長する特殊なタイプなど、スタンドのバリエーションの幅も一気に広がりました。おかげで、単純な殴り合いではない異色バトルが目白押し。ゆすり・たかり撃退やネズミ追跡劇、ジャンケン勝負に恋愛成就の試練……等々。日常の延長線上で起こる不思議な事件って感じが面白いです。
とりわけ好きなバトルは、コラムの方でも少し触れていますが、『シアーハートアタック』戦『ハイウェイ・スター』戦。前者は『エコーズ』成長に吉良の登場・逃亡という、緊迫感に満ちた怒涛の急展開にハラハラさせられました。康一くんが吉良にやられる回は幾度となく読み返したものです。後者はバイクに乗りながらの、命懸けの鬼ごっこ。そのスピード感溢れる大胆な絵・コマ割・構図にシビれましたね。「直す」という非暴力的な能力のみで、あんなに次々と危機を乗り越えていく仗助にも驚かされます。能力バトルの真髄を見せ付けられました。
バトルではありませんが、トニオさんのエピソードもいいですねえ。人気も高いみたいですし、ちょっと一息って感じで楽しめるのが好き。1巻の次に39巻を買った私ですけど、33巻と39巻とでかなり迷いました。

『バイツァ・ダスト』から最終決戦、そしてエピローグまでの流れも最高です。バラバラだった4部の全てがそこに収束したかのような雰囲気が漂っております。露伴先生→早人→仗助→億泰→康一くん→承太郎→救急隊員→鈴美さん→アーノルドと、次から次に正義の心のバトン・リレーが行われていきました。
これにはホント、皆で町を守ったんだという静かな感動に包まれます。仗助が吉良のトドメを刺せず、「承太郎がいいトコ持って行きやがった」と納得できなかった頃もありましたが、今ではあれが最良の形だったと思えます。吉良は杜王町を愛するあらゆる者の意志から、ひいては杜王町そのものの意志から追放されたと言って良いのでしょう。
全員集合の鈴美さん成仏シーン、切ない余韻の残るエンディングにラスト2ページの見開き杜王町……。守護聖霊から町の住人みんなへと託された、平和な町……。これを見ては、ただただ涙を滲ませつつ、1999年の杜王町に想いを馳せるばかりです。




(2004年4月19日)
(2007年1月31日:少し改訂)




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