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オレ達東方家は
このまま前へ進む
これが「正しい道」だ


#095 終わりなき厄災 その①





●2ヶ月ぶりの「ジョジョリオン」!今回のトビラ絵は、本編にはまったく登場しない定助のドアップでした。「LOCACACA 6251」による「等価交換」で石化した左眼と左頬が強調されています。
定助は今もずっと、あの研究室で院長を待ち受けているんでしょうか?康穂の大ピンチを教えてあげたいッ!


●院長のスタンド能力で壁が破られ、その奥から姿を現した「新ロカカカ」。鉢の周囲には、住処を破壊されて追い出されたクワガタやカブト虫が群がっています。そこにやって来たのが、家族のみんな。憲助さんに、鳩ねーちゃん・常秀・大弥ちゃんの3兄弟も。全ての秘密がバレてしまうという急激な不安とストレスゆえか、つるぎちゃんの容体も悪化しています。この最悪のタイミングで、ついに揃ってしまった東方家!
すると、トイレから助けを求める悲痛な声が。スマホに取り残され、消滅の危機に瀕する『ペイズリー・パーク』=康穂からのSOSです。慌ててスマホを取り上げる憲助さん。一体何事なのかと、常敏を問い詰めます。しかし、常敏はまるで動じる事なく、淡々と答えるのでした。これは「正しい道」だ、と。つるぎちゃんの「病気」も治せるし、もう間もなく東方家はあらゆる事に打ち勝てるようになる。だから、スマホを水の中に戻せ、と。……顔中・体中、暗い影を纏いながら「正しい道」などと言い放つ姿は、まったくもって皮肉に映りますね。
『ペイズリー・パーク』は、パソコンの電源のそばに運んでもらえるよう懇願。この場では、憲助さんを頼る以外に生き永らえる術が無い。本体の康穂も、ボロボロと肉体が崩壊し、今にも息絶えてしまいそうです。そんな彼女を嘲笑うかのように、院長は彼女の目の前で車のボンネットに腰掛けていました。


●常敏は、父の追及に静かに答え、自分が「新ロカカカ」を育てていた事実を認めます。さすがに、自分が果樹園を燃やしたとまでは言いませんが……、あとほんの数時間で、つるぎちゃんの「病気」を治し、先祖から続く「呪い」を解く事も出来ると断言。もう家族の誰も犠牲にしなくて済むのです。だからこそ、康穂という侵入者を今、外に逃がすワケにはいかない。
康穂を救うか、それとも見殺しにするか。憲助さんの「選択」は、なんと後者!自分と常敏は、以前から意見が違っていた。フルーツパーラーの経営についても、つるぎちゃんの「病気」についても、考え方が違っていた。自分は考え方が古く、新しい時代の価値や利益や技術を認めず、間違っているのかもしれない。「呪い」が解けるというのなら、常敏の方が「正しい道」なのかもしれない。それなら、長男であるお前に従おう。憲助さんはそう語ります。
前回の密葉さん然り、憲助さん然り、この頃の康穂は東方家に裏切られてばっか。たとえ成り行きや利害の一致で手を組む事はあっても、お友達や仲間、同志なんかではない、あくまでドライな関係ですからねぇ。「SBR」のサンドマンもそうでしたけど、少年誌時代ではなかなか描けなかった「裏切り」のドラマやサスペンスが演出しやすくなっていて、青年誌ならではのリアルな人間模様が面白い。


●憲助さんのまさかの「選択」にショックを受け、絶望する康穂。……ところが、憲助さんの言葉は続きます。「新ロカカカ」の鉢に、何か気になる「匂い」の痕跡があると言うのです。常敏ではない誰かが鉢に触れている。「新ロカカカ」に何が起こったのか、それは「正しい」ものなのか、自ら調べると言うのです。盲目的に思考停止せず、自分で見極めようとする姿勢、さすがは家長。「正しい結果」は「正しい過程」の先にこそ在る。「悪しき道」の果てには「悪しき結果」しか無い。きっと、そういう思想なんでしょうな。
『キング・ナッシング』発動ッ!常敏のハンカチに反応して以来ですから、実に6年近くぶりの登場!デザインも能力も大好きなスタンドなので、この不意打ちの再会には大興奮でした。ジグソーパズルのピースが組み合わさり、鉢に付着する「匂い」の形となって再現されていきます。 その形は……、紛れもなく笹目桜二郎!わずか3日前に死に、2日前にニュースや新聞で話題になっていた事も仇となって、みんながその顔に心当たりがありました。彼とマコリンの死に、常敏とつるぎちゃんが関わっている!?みんな、信じられないといったリアクション。常敏は忌々しげな表情を浮かべ、つるぎちゃんはますます症状が悪化。
なるほど、こういう形で桜二郎との接触が効いてきたか~。これでヤツの死にも、明確な意味が付与されましたね。憲助さんが『キング・ナッシング』を使うだけで、全てが自然に繋がった感覚。荒木先生、巧いなぁ~。


●3日前に桜二郎が出て行った窓を開けてみると、そこには満身創痍で倒れ込む康穂の姿。いたいけな女の子の痛々しい姿。そんなのを見せられて、「正しい」と思えるヤツがいるでしょうか?常敏の進む道は、「王道」でも「正道」でもなく、「覇道」であり「邪道」。邪魔者を誰彼構わず皆殺しにし、踏み台にして突き進む道。憲助さんもそう直感したのか、さらに常敏を問い質します。
常敏の方に振り向くと、彼は涙を流しながら憲助さんの首筋にゆっくりと触れてきました。その背後には『スピード・キング』。常敏の「すまない……」「オレを許してくれ」という謝罪の言葉の直後、憲助さんの体内には「熱」が溜まり、右手首が爆発するかのように吹き飛んでしまったのです。そして、そのまま意識を失い、倒れてしまいました。あまりの出来事に衝撃を受け、動けなくなる家族のみんな。常敏は、自分の犯した行動への罪悪感か、父の体を抱きながら号泣。憲助さん、死亡……!?
自分の進む道が「正しい道」などではない事は、きっと常敏自身も分かっているんでしょう。「正しい」と心から信じているのなら、桜二郎達を殺した事実だって堂々と告げられるはず。桜二郎達が「悪」だから始末した、と言えば良い。でも、父の前ではそれが出来なかった。「罪」の意識も「悪」の自覚もあるからこそ、それらを無理矢理押し殺してきたからこそ、バレたくなかった・触れられたくなかったのです。「毎日が夏休み」のはずなのに、これでは、溜まりに溜まった宿題を見て見ぬフリして夏休み最終日まで遊び惚けてるようなもの。そんなんじゃあ、何も楽しくないじゃんよ。


●パニックに陥る家族達に、常敏は『スピード・キング』で威圧しつつ宣言しました。

「覚悟を……」 「決めろ…!!」  「さもなくば…………」 「口を閉じろ」
「オレ達東方家は」 「このまま前へ進む」  「これが「正しい道」だ」

涙は枯れ、その表情は影を一層濃くしています。オレに従うか、死ぬか、どちらか選べ。つまりはそういう事。とうとう力で捻じ伏せるやり方になってしまいましたね。もはや完全に引き返せないところへ来てしまった常敏。家族だけを守るために、家族までも傷付ける。「誤った道」を進んだ末に、矛盾の袋小路に迷い込んでしまった。哀しいというか、やるせないというか……、つくづく業の深い男です。そして、これを受け、東方家全員が当事者となってしまいました。どの道を進むか、自分で選ぶ時が来たのです。3兄弟にはここで常敏に逆らってほしいなぁ。花都さんもぼちぼち再登場したりしないかな?
常敏はクローゼットから黒いシーツを取り出すと、父の遺体(?)をそれに包みます。うおお……ッ!これで83話での描写にかなり近付きましたね!もっとも、あののほほんとした空気になるためには、『カリフォルニア・キング・ベッド』ちゃんでこの時の記憶をみんなから抜き取るか、『ペーパー・ムーン』で憲助さんの無事をみんなに錯覚させるかしなきゃいけないでしょう。あるいは、むしろ憲助さんの負傷・死亡こそが、つるぎちゃんの見せた大袈裟な「幻覚」で、実際の憲助さんは辛うじて五体満足で生きている……のかも。事実、83話では、憲助さんの遺体(?)の右手あたりから「折りガエル」が現れる描写もありましたからね。
それに、今や紙と岩の中間みたいなビジュアルになっちゃったつるぎちゃんですが、「新ロカカカ」収穫直前には症状がすっかり治まっている事になってます。密かに、密葉さんあたりが「壁の目」で身代わりになってくれたとか?だとすると、あの時のつるぎちゃんは憲助さんの遺体を隠そうとしていたんじゃなく、逆に「新ロカカカ」で助けようとしていた可能性もありますね。で、花都さんが憲助さんの負傷を「交換」してくれて、それがキッカケで2人が和解するとかね。


●憲助さんが倒れて落とした、『ペイズリー・パーク』入りのスマホ。常敏がそれを回収しようとするも、いつの間にか位置が変わっているじゃありませんか。どういうワケか、コンセントのすぐそばにまで移動している。どうやら、家族の混乱に乗じて、『ペイズリー・パーク』は脱出に成功した模様。
そして、これは恐らく、常秀のおかげなんだろうなと思います。常秀の表情だとか、明らかに動いている脚だとかが描かれていますからね。きっと、こっそり蹴飛ばしてスマホを移動させてくれたんでしょう。……とすれば、常秀は兄に逆らい、立ち向かうのかもしれません。好きな女の子の命の危機なんだし、せめてこんな時くらい男を見せてくれッ!(笑)
なんとか康穂の元へと戻って来られた『ペイズリー・パーク』。しかし、未だ肉体は崩壊したまんまです。修復しないのかな?もしかしたら、定助はバイク便で「LOCACACA 6251」を東方家に送ったのかもしれないので、それを受け取って飲めば治療可能ですね。無論、肉体のどこかが代わりに石化する事にはなるものの、定助と康穂が同じ立場・境遇に立つってのも、けっこう燃える展開。期待しちゃいます。ただ、今は電話で助けを呼ぼうとしている様子。定助か、礼さんか、透龍くんなのか?彼女のそばに駆け付けてくれるのは誰!?


●一連の出来事を目の当たりにし、密葉さんが確信します。……これは「厄災」。病院から帰った時からずっと続いていた攻撃。自分だけではなく、家族も周囲の人達も巻き込んで。敵は院長。院長の姿を見ようとすると、「厄災」がぶつかって来る。
院長のスタンド能力、想像以上に大規模で厄介すぎる能力かも。単に「何か」を「激突」させるだけではなく、ずっと発動し続け、ターゲットの「運命」そのものを悪い方向に捻じ曲げてしまう。その上、徐々に周囲にまで悪影響が及んでいく。運命を蝕む「毒」、運命を歪ませる「重力」。まさしく、相手に「呪い」を掛ける能力です。そんな「厄災」を招く力なのであれば、かなり壮大で、「ジョジョリオン」という作品のテーマやストーリーの根幹に関わってきそうですよね。このまま「厄災」がどんどんデカくなっていって、杜王町にだけ天変地異が起こったらヤバい。ツジツマが合わないとされる描写なんかも、実は「厄災」によって時空や歴史が歪められていたから……だったりして。
当の院長はと言うと、相変わらず康穂の目の前に佇んでいるだけ。「新ロカカカ」がそばにあるって状況なのに動かないのは、やっぱりあれは実体ではないという事なんでしょうか?もし、ここに都合良くタイミング良く透龍くんが助けに来てくれたりしたら、彼こそが院長の実体って疑いが強くなりますな。


★今月は47ページ!う~ん、面白いですねぇ~。激しいバトルもいいけど、キャラ達の会話劇も大好きなんですよ。同じ家に住む家族であっても、想いや立場、都合はそれぞれ。今後もその辺が滲み出る内容にしていってほしいです。来月にはコミックス23巻も発売されますが、今回までの収録を切に希望!でないと、また160ページ程度の薄いコミックスになっちゃうし。
作者コメントは「この3月は道路で遊ぶ人をよく見かけました。サッカーとかキャッチボールとかスケボーとか。僕は好き。」との事。新型コロナウイルスで大変な時期ではありますが、いつもと変わらぬノリの荒木先生にホッとしました。自分自身ももちろん、荒木先生も、みなさんも、十分に気を付けて元気に過ごしましょう!
さて、次号は「ジョジョリオン」が表紙だそうですよ。23巻のカバーと連作の絵になるんだろうなぁ。どんな絵なのか、今から待ち遠しいッ!





< 今月の1コマ >


出典:ウルトラジャンプ 4月号(2020年)
338ページ


今月は、自分が進む道の「正しさ」を宣言する常敏のコマ。愛する家族を、意見は違えど尊敬しているであろう父を、この手で殺めてしまった。その哀しみも、悔しさも、怒りも、無念も、罪悪感も……、全ての感情を心の奥深くに押し殺して、ただただ「進む」という覚悟のみが残った面構えです。こんなにも強い表情なのに、すごく儚げで脆くも見える。「正しい道」と言いながら、本当は自分の「間違い」に気付いてもいる。彼の中の矛盾が、絶妙すぎるほどに表れています。
何より、これほど素晴らしい表情を描いておいて、全部は見せないという点が最高じゃないですか。左眼と頭部は見えず、全体像は想像するほか無い。でも、いや、だからこそ……、確かに常敏の孤独と苦しみが伝わってきて、なんだか泣けてくるんです。両頬の傷もまるで涙のようで。私のハートにビンビンに響いた、文句無しの1コマでありました!




(2020年3月19日)




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